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辛勝もツールへ弾みの「ログリッチ劇場」 “最終日男”ヨルゲンソンは不運続くヴィスマの救世主になるか【Cycle*2024 クリテリウム・デュ・ドーフィネ:レビュー】
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介総合表彰 優勝ログリッチ、2位ヨルゲンソン、3位ジー
「ツール・ド・フランスの前哨戦」というには贅沢で、本番さながらの激戦に期待が膨らんだ今年のクリテリウム・デュ・ドーフィネ。大会後半に待ち受けたアルプスの山岳ステージを2連勝したプリモシュ・ログリッチ(ボーラ・ハンスグローエ)が、4月のレースで負った怪我からの復調を示す個人総合優勝。ひとまずは、ツールに向けて明るい材料を得ることができた。
「ツールについては考えず、このレースをしっかり走ることだけに集中していた。勝てて本当にうれしい、信じられないよ。そう簡単に勝てるレースではないから、この瞬間を心から味わいたいね」(ログリッチ)
“ひとまず”と書いたのには、当然ワケがある。
第7ステージまでは順調に、着実に戦いを進めていたが、最終・第8ステージで苦しんだのだ。第6ステージを勝って得たマイヨ・ジョーヌは、彼の力をもってすれば最後まで守り切れるはずだった。しかし、自分より10歳前後歳の離れたヤングライダーたちの捨て身の攻撃に、思いがけず顔をゆがめた。
とりわけ、マッテオ・ヨルゲンソン(ヴィスマ・リースアバイク)の猛追はこの大会の歴史をも変えようかという走りだった。第8ステージのスタート時点での両者間の総合タイム差は1分2秒。それが、この日の最終登坂プラトー・デ・グリエール(距離9.4km、平均勾配7.1%)だけでひっくり返るのでは、と思わせるほどにヨルゲンソンの勢いがログリッチを圧倒していたのだ。
結果的に、ステージ2位で終えたヨルゲンソンから48秒差でまとめたログリッチがマイヨ・ジョーヌをキープ。終わってみれば総合タイム差は8秒。「かろうじて逃げ切った」という表現がふさわしい格好となった。
「いやぁ、ギリギリだったね。僕にとって十分な総合タイム差だったことは確かなんだ。余裕をもって走るつもりが、イメージと違うレースになってしまった。アルプスを3日間走ってきての疲れが出てしまったのかもしれないね。ただ、いずれにしても1分以上あったリードが最後まで有利に働いたよ」(ログリッチ)
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【ハイライト】クリテリウム・デュ・ドーフィネ 第8ステージ|Cycle*2024
マイヨ・ジョーヌで走るログリッチ
ツール本番に向けて、この走りを「まだベストコンディションではないだろうから」と見るべきか、脆さを露呈したと捉えるべきか…それは3週間後に分かる。第5ステージで発生したクラッシュ(後述)の影響が、少なからずあったかもしれない点も考慮しておきたい。
「ツール? 誰もが同じ可能性を持っていると思っている。個人総合優勝を果たせるかもしれないし、2位かもしれないし、3位かもしれない。チーム一丸となって戦うだけだよ。まずはドーフィネの疲れを癒して、リラックスした状態でツールに向かいたいね」(ログリッチ)
パリ〜ニースに続いて最終ステージでの猛攻を見せたヨルゲンソン。あのときのように大逆転での個人総合優勝とはならなかったが、1週間をハイアベレージで走り抜き、最後の最後にライバルを脅かすあたりはもはや“最終日男”。
「プリモシュが苦しそうにしているのが見えたので、これは行くしかないと。正直僕も脚にきていたのだけれど、後ろは振り返らず、チームカーからの情報だけを頼りに走り続けた。自分らしく、最後まで全力を尽くせて満足しているよ」(ヨルゲンソン)
こうなると、チームで最も状態の良いヨルゲンソンに、不運が続くヴィスマ・リースアバイクの救世主としての期待が膨らむ。絶対エースのヨナス・ヴィンゲゴーがツールまでに戻ってこられるかはいまだ不透明。怪我からの回復が伝えられているとはいえ、彼と並ぶ立場の選手は配備しておきたい。その一番手と見られていたセップ・クスがこのレースでアピールできず、第8ステージの出走を取りやめ。第5ステージの大規模クラッシュでは、ステフェン・クライスヴァイクとディラン・ファンバーレが戦線を離脱した。
グランツールをすべて制した昨年とは真逆のチーム状態を脱却するキーマンに、ヨルゲンソンはなれるだろうか。移籍加入1年目からチームの牽引役となった24歳のアメリカンオールラウンダーに、大きな任務が課されようとしている。
序盤は区間優勝者がマイヨ・ジョーヌを獲得していた
改めて今大会を振り返ると、日替わりでヒーローが生まれると同時に、マイヨ・ジョーヌの持ち主も日々替わっていたことが挙げられる。
実質唯一の平坦カテゴリーだった第1ステージは、マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)が勝利。リーダーの座は1日で降りたが、その後はアシストとしても貢献。自身のスプリントだけでなく、総合成績も見据えるチームの一員としてツールでもフル回転する。
「ステージ1勝できたので個人的には満点。チームとしてはもう少し細かいところを詰めていく必要があるけど、まだ時間があるから心配はしていない。ツールの目標? マイヨ・ジョーヌを着ることだね。昨年はパリ~ニースで、今年はドーフィネで着用できたので、次はツールだと思っているんだ」(ピーダスン)
コル・ド・ラ・ロッジュの頂上にフィニッシュした第2ステージは、濃霧を切り裂いてマグナス・コルト(ウノエックスモビリティ)が勝利。今季からノルウェー籍のチームで走る北欧の雄は「チームが変わったってやることは一緒だよ」との言葉通り、この大会では上りスプリントや逃げで魅せた。
デレク・ジーが初勝利
ボーラ・ハンスグローエやイネオス・グレナディアーズが終盤の主導権を握った第3ステージでは、両チームの間隙を縫ってデレク・ジー(イスラエル・プレミアテック)がアタック。ロマン・グレゴワール(グルパマ・エフデジ)だけが反応でき、2人でリードを広げるともう一段ギアを上げたジーがトップでコート・デ・ゼスターブルの頂上へ。これまであと一歩のところで勝利を逃し続けていた“セカンドコレクター”が、フィアンセの見守る前で会心のステージ優勝。
ジーはここで得たマイヨ・ジョーヌこそ翌日に手放したものの、最後まで総合戦線に踏みとどまり、個人総合3位の殊勲。アルプス3連戦でも再三のアタックで見せ場を作り、総合エースとしての資質を披露した。デビューが決まっているツールへ、首脳陣も大きな期待を寄せている。
「彼はゲラント・トーマスのようなタイプだよね。長身で、上りに強く、TTも得意。それでいて平坦の走りも巧いから、ステージレースからクラシックレースまで万能に走れる。ドーフィネからツールまでの期間が、彼のキャリアを決定づけることになるかもしれない。良い感覚を維持して、本能のままに走ってほしい」(イスラエル・プレミアテック DS:ダリル・インピー氏)
個人TTを走るエヴェネプール
今大会のポイントとされた第4ステージ、34.4km個人タイムトライアルはレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が復活勝利。4月のイツリア・バスクカントリーで鎖骨と肩甲骨を骨折し、3週間バイクから離れながら、わずか1カ月のトレーニングでコンディションを戻してきた。怪我によってTTポジションの崩れが気がかりだったといい、その調整の意味合いもあった今回だったが、最高の結果で不安は解消。ベストコンディションではなかったこともあり個人総合では7位だったが、ツール本番に向けては心配していないという。
「体調は85%といったところ。それでもステージ1勝できて、山岳でも良いところまではライバルについていけた。この後は少し休んで、ツールに向けて調整するよ」(エヴェネプール)
大会前は初日に続くスプリントチャンスと目されていた第5ステージは、残り20km地点で発生した大規模クラッシュによってレース途中で中止。この日は断続的に雨が降り、ところどころで落車が発生していた。そんな流れの中で起きた大クラッシュに30人ほどが巻き込まれ、前述の通りクライスヴァイクとファンバーレがその場でリタイア。個人総合争いに加わっていたフアン・アユソ(UAEチームエミレーツ)は翌日に出走を取りやめ、ログリッチやレムコも軽いながらも傷を負った。しばしの中断後、レース随行の医療スタッフが不足したことにより中止が決定。プロトンはニュートラル走行でフィニッシュ地に到達している。
アクシデントを乗り越え、アルプスに入ったプロトン。第6ステージでは、ジャイ・ヒンドレーとアレクサンドル・ウラソフのアシストを受けたログリッチがついに勝利。懸命に食らいついたジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)を残り300mで振り切り、単独でフィニッシュへ。レースリーダーだったレムコが42秒遅れたため、マイヨ・ジョーヌはログリッチに渡った。ちなみに、後に激戦となるヨルゲンソンとの総合タイム差は、この時点では58秒だった。
ログリッチは第7ステージでも強かった。この日の最終登坂・超級山岳サモエンヌ1600(登坂距離10km・平均勾配9.3%)を迎えた時点で4分以上あった逃げとの差は、前日に続くヒンドレーとウラソフの牽引で一気に縮まる。メイン集団の人数は急激に減り、残り7kmではレムコも遅れた。ただひとり逃げ続けたマルク・ソレル(UAEチームエミレーツ)を残り2.1kmで捕らえると、ウラソフの牽きに耐えられたのは8選手だけ。最後は上りスプリントの様相となって、ログリッチが2連勝。ヨルゲンソンが同タイムで続いた。
尻上がりに調子を上げたヨルゲンソン
そして、第8ステージは前記の通り。強力なアシストに支えられながら持ち味を発揮したログリッチと、尻上がりに調子を上げたヨルゲンソン。この2人が紛れもなく、今大会の主役であった。
ツールに向けて、好感触を得た選手も、かたや不安を残した選手も、残すは3週間。ドーフィネで得た手ごたえと課題を短期間で調整し、本番を迎える。この大会と入れ替わるようにして、もうひとつの前哨戦であるツール・ド・スイスも始まり、注目すべきトピックが新たに飛び込んでくることだろう。
主役候補の選手たちの動向や、各チームのメンバー編成がいかなるものとなるか。われわれにとっては、ツールへ思いを馳せる至福の時期を迎えている。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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