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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第19ステージ】逃げを貫き、下りで仕掛けたヴェンドラーメが独走勝利。ピンク集団は静かな1日。Gの落車にも「みんなが互いに敬意を払った」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか独走を実らせ勝利を掴んだヴェンドラーメ
「ジロ開幕時からこのステージに狙いをつけていたし、とにかく重要だったのは、逃げに乗ること。だから僕は最初の逃げに飛び乗ったし、とうとう最後まで逃げ切った。完璧だった」(ヴェンドラーメ)
本格派クライマーでもピュアスプリンターでもない選手にとっては、おそらく2024年ジロ最後のチャンスだった。スタート直後にあっさり10選手が前方に躍り出た後も、だからこそ多くのチームが、粘り強く加速を続けた。こうして延々30kmにもわたるギリギリの追走劇の果てに、最初の逃げは集団内へと引きずり降ろされる。
回収とほぼ同時に、新たな一団が飛び出した。小さな急坂を利用して、猛烈に仕掛けたのはジュリアン・アラフィリップ (スーダル・クイックステップ)。この第12ステージ勝者の動きに呼応するように、初日覇者ジョナタン・ナルバエス(イネオス・グレナディアーズ)に、第6ステージ勝者ペラヨ・サンチェス(モビスター)らも続いた。すでに最初の逃げに潜り込んでいたヴァンドラーメも、改めて流れに乗った。
「未舗装路のステージ(第6ステージ)以降、気管支炎に悩まされてきた。でも諦めず戦い続けた。だってこの区間を、ずっとずっと狙ってきたんだから。まずは逃げに乗ることが目標だった。一旦それを成し遂げた後は、とにかく上手く立ち回ることだけを考えた。できる限りエネルギーを温存し続けた」(ヴェンドラーメ)
レース序盤の攻防戦
新たに出来た6人の逃げも、やはり簡単には先に行かせてはもらえない。どうしても諦められない複数チームが、後方で壮大なドンパチを繰り広げたせいだった。それでも新たに4選手が先頭へと合流し、しばらく先で第17ステージ覇者ゲオルグ・シュタインハウザー(EFエデュケーション・イージーポスト)がチームメイト2人+6人を引き連れ強烈なブリッジを仕掛けると、スタートから65km、アタック合戦はようやく一区切りついた。
計19人が逃げ出していった背後では、UAEチームエミレーツがプロトンに蓋を閉め、大幅にスピードを緩めた。初日マリア・ローザにして、逃げの中では総合最上位のナルバエスでさえ、ポガチャルとの差は1時間以上もある。総合首位どころか、総合トップ20を脅かす心配すらない。後はひたすらゆっくりと制御を続けた。タイム差は急速に広がり、フィニッシュまで残り50kmを切る頃には、すでに10分にまで拡大していた。それどころか、まだまだ差は開き続けるのだ。
すっかり落ち着いたメイン集団とは対象的に、前方には、静かな時間などちっとも訪れなかった。なにしろアラフィリップが、あちこちでせわしなく加速を切った。そもそもEF3人を含む追走組9人を素直に受け入れようとせず、合流間近に激しく抵抗を続けたし、残り56km、2級峠に上り始めると同時に集団を小さく振り絞りにかかった。
残り40km地点の急カーブを通過するシュタインハウザー(左)とヴェンドラーメ(右)
元世界王者の鋭いアタックに、すかさず反応できたのは、シュタインハウザー、ナルバエス、そしてサンチェスのみ。この今ジロ区間勝者4人組に、なんとかクインテン・ヘルマンス(アルペシン・ドゥクーニンク)も食らいついた。ヴェンドラーメも下りで合流した。さらには20km近い追走を実らせて、残り38.5km、3級峠の序盤で5選手がようやく追いついてきた……と思ったら、またまたアラフィリップが加速してしまうのだけれど!
ここでも区間勝者4人組が脚の違いを見せ、揃って先へと飛び立った。ただヴァンドラーメは黙々とマイペースを貫き、ヘルマンスも決して諦めなかった。少し前までお腹が痛くてトイレ休憩を余儀なくされたというルーク・プラップ(ジェイコ・アルウラー)も……すっかり軽くなった身体で、最前線へと戻ってきた。数々の離合集散を経て、3級峠の山頂直前、逃げは7人になった。
ヴェンドラーメは雨の降る下り坂でアタック
この時のアラフィリップがすんなり再合流を許したのは、雨のせいかもしれない。大急ぎでライバルを振り払うより、下り前に雨具を着込むほうを選んだ。そして、濡れた下りを、用心深く下っている最中だった。残り28km、ヴェンドラーメに加速を仕掛けられてしまう。
「ちょっと奇妙な感じで先に行かれてしまった。彼は全力のダウンヒルに転じた。ところが逃げの仲間たちは、ヴェンドラーメを追いかけることよりも、僕の監視に忙しいようだった」(アラフィリップ)
もちろんアラフィリップはすぐに後を追いかけた。ただ次々と合流してきたライバルたちは、協力する様子を見せなかったし、むしろ雨具を脱いだり補給を取るのに忙しかった。残り15km、最終2級峠の登坂口に差し掛かり、しびれを切らしたアラフィリップが加速を促した頃には、すでにヴェンドラーメのリードは1分に広がっていた。
「そのうち誰かが追いついてくるだろうと考えていたんだけどね。とにかく僕は一定のハイペースを保ち続けることに集中したし、チームカーが僕を励まし続けてくれてた」(ヴェンドラーメ)
ラスト12kmの加速を最後に、「脚が悲鳴を上げた」というアラフィリップはとうとう力尽きた。代わってシュタインハウザーが先頭に立つも、「チームメイトを逃げに乗せるのが使命で、自分が逃げるつもりはなかった」という22歳も、2日前と同じような激走は見せられなかった。何度突き放されようが何度でも這い上がってきたサンチェスが、残り7km、いよいよ単独で追走に乗り出すが……「最終盤の道を知り尽くしていた」ヴェンドラーメとの距離を縮めることなどもはや不可能だった。
ヴェンドラーメ人生2度目のジロ区間勝利
3年前に手にした初めてのジロ区間勝利は、一騎打ちスプリントの果てだった。2度目のこの日は、悠々と勝利を満喫することができた。両手を何度だって天に突き上げた。メイン集団がたどり着く前に、フィアンセを力いっぱい抱きしめる時間さえあった。所属チームのデカトロン・AG2Rラモンディアルにとっては、10日目ヴァランタン・パレパントルに続く区間2勝目であり、つまり創設33年目にして初めてひとつのジロで2つ勝ったことになる。同時に10年ぶりとなる今大会チーム総合首位の座にも、また一日、近づいた。
明日の山岳ステージを前に総合順位の変動はなかった
区間2位には54秒遅れでサンチェスが入った。アラフィリップは2分32秒遅れの9位でステージを終えるも、「全力を尽くしきった感覚がある。良い1日だった。後悔はない」と晴れやかな顔を見せた。ちなみに中間ポイント賞で首位に浮上し、残り2日、同ポイントで並ぶアンドレア・ピエトロボン(ポルティ・コメタ)との対決の行方も気になるところ。
そして15分56秒遅れで、マリア・ローザ集団がゆっくりとフィニッシュに帰ってきた。それでも1日の終わりには、小さな加速合戦がいくつか見られた。ただラスト6km、濡れた路面で総合3位ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)が地面に滑り落ちると、集団はすぐにスピードを落とした。おかげで翌日38歳の誕生日を迎える大ベテランは問題なく集団復帰を果たし、あとはただUAEのアシスト2人が、静かにテンポを刻み続けるだけだった。総合上位20位までが、全員同タイムだった。
「今回のジロは全体を通して、集団内にリスペクトの意識が浸透している。今日も同じだ。トーマスが落車した時、誰一人として馬鹿げた真似はしなかった。トーマスにとっては災難だったけれど、自転車界にとっては良い出来事だったと言える」(ポガチャル)
ポガチャルは18回目のマリア・ローザ表彰式に臨み、ついにジロ初優勝に王手をかけた。7分42秒という大きなリードを手に、翌第20ステージ、今大会最後の山岳決戦へと挑む。
「スタートからチーム一丸となりコントロールしていく。でも明日は普通の山岳ステージと言うよりは、巨大な山が2つ聳えているだけだから……なにが起こるか予想もつかないんだけど。とにかく明日がクライマーにとっては最後のチャンスだから、僕らチームとして、できる限りのことをするつもり」(ポガチャル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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