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サイクル ロードレース コラム 2024年5月23日

【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第17ステージ】シュタインハウザーがマリア・ローザの追撃を振り切りプロ初優勝!自分に言い聞かせた”勝利”の可能性

サイクルロードレースレポート by 山口 和幸
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マリア・ローザの猛追を必死のアタックで逃げ切ったシュタインハウザー

第107回ジロ・デ・イタリアは5月22日、セルヴァ・ディ・ヴァル・ガルデナをスタートし、フォルケンスタイン・イングレーデン近郊のパッソ・ブロコンにフィニッシュする第17ステージ(距離159km)が行われ、EFエデュケーション・イージーポストのゲオルグ・シュタインハウザー(ドイツ)が逃げ切ってプロ初勝利を挙げた。

大会2日目からマリア・ローザを着用し続けるUAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)は1分24秒遅れの単独2位でゴール。総合2位ダニエル・マルティネス(コロンビア、ボーラ・ハンスグローエ)との差を7分18秒から7分42秒に広げた。

この日も気温の低い1日となり、ウインドブレーカーなどを着込んだ選手たちがスタート地点に集結した。ドロミテ山塊の針のような岩肌と残雪がいたるところに見られる山岳コースに挑む。その難易度は最高ランクの星5つ。最終日前日の第20ステージとともに総合成績の逆転劇を演出するかのような舞台設定だが、圧巻の走りを見せつけるポガチャルの存在により、ドラマチックな展開がなかなか期待できないのは致し方ない。

ドロミテ山塊

スタートしてすぐ、8.9km地点にある2級山岳のパッソ・セッラ(標高2244m)は今大会の最高峰として特別賞がかかるチマ・コッピだ。登坂距離8.9km、平均勾配7.4%、最大勾配11%の峠がチマ・コッピになったのには訳がある。もともとの最高峰は、第16ステージで通過する予定だったステルヴィオ峠(標高2757m)だった。ところが雪崩の危険があるとして急きょカット。代わりに最高峰となった第16ステージのウンブライルパス(標高2489m)も悪天候で大会当日にコースから外されたため、パッソ・セッラがチマ・コッピとなったのである。

そのためレースは特別賞と山岳ポイントを獲得するためにスタート直後から10選手が抜け出した。スーダル・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ(フランス)、モビスターのナイロ・キンタナ(コロンビア)、VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネのジュリオ・ペリツァーリ(イタリア)、リドル・トレックのアマヌエル・ゲブレイグザビエル(エリトリア)らで、この中にシュタインハウザーも加わっていた。

「最初からアタックした。一度は捕まってしまったけど、もう一度やってみることにした。うまくいった。路面は濡れていて滑りやすかった」とシュタインハウザー。勝利への意志はここ数日ほど強くはなかったと、この時の心境をフィニッシュ後に正直に答えるのだったが、結局のところポガチャルに捕えられるのではないかという不安もあった。

山岳スプリントを争ったペリツァーリ(写真左から4番目)とキンタナ(同3番目)

逃げる選手らは67.6km地点を頂点とする1級山岳パッソ・ロッレへ。距離19.8kmで勾配値が4.8%という緩慢な上りと27kmの下り坂をこなし、100.4km地点に短い3級山岳パッソ・ゴッベラに突入。メイン集団は、前日にモビスターチームが見せた追走を、この日はdsmフィルメニッヒ・ポストNLがやり始めた。

dsmフィルメニッヒ・ポストNLにしてみればポガチャルを勝たせようと全力を尽くしているわけではなく、チームエースのロマン・バルデ(フランス)でステージ勝利しようという作戦だ。前日のモビスターチームのような失敗はしたくない。逃げた選手を潰すことはできたものの、チームとしての実績を残せず、ポガチャルの5勝目をアシストした形に終わったからである。

この日のdsmフィルメニッヒ・ポストNL勢は何度もペースを上げて、パッソ・ゴッベラの中盤で逃げ集団の一部を捉えた。しかしゲブレイグザビエルとシュタインハウザーが最後まで抵抗を続けた。スタート直後から果敢に走り続けている2選手だが、逃げ切り勝利を目指す意欲が生まれた。

ポガチャルは着実に区間2位につけ総合タイム差を広げた

一方、UAEチームエミレーツは流石にポガチャルの6勝目を狙う気は全くなく、dsmフィルメニッヒ・ポストNLのアシスト陣がエネルギーを使い果たすと、メイン集団のペースは上がらず先頭の2人との差が広がり始めた。

この日のコースはパッソ・ブロコンを異なる方向から2回上る設定だ。1回目は北東からの登坂。全長15.4km・平均勾配5.6%と緩慢だ。シュタインハウザーはゲブレイグザビエルを制して1回目を通過。フィニッシュ地点を通過して下ると、次は南西から上る。1回目のパッソ・ブロコンは2級山岳に指定されたが、2度目は1級山岳(距離11.8km、平均6.6%、最大13%)と難易度が高くなる。

総合3位ゲラント・トーマス(イギリス)を2位に浮上させたいイネオス・グレナディアーズは2回目の上りでメイン集団を牽引し始めたが、設定速度が低すぎてシュタインハウザーを捕まえることができなかった。代わりに総合2位マルティネスが攻撃を仕かけるが、ポガチャルを突き落とすことはできない。ついにはポガチャルがアタックするとそれに付いていくことができない。

あいにくの雨天もピンクの傘で洒落た演出に

前日の逆転シーン再来かもとも思わせたが、シュタインハウザーは「グランツールのステージで勝つためには、できるだけ身軽でいなければならないと思っていたので、グローブなど不要なものを脱いだ。パワーメーターなしで走った」と栄冠を目指して走り、ついに逃げ切った。

パッソ・ブロコンを二度トップで上ったことになったシュタインハウザーがプロ初勝利を収めたのである。2001年生まれの22歳は手足の長いクライマーで、身長189cm、体重65kgの現代っ子。この大会ではポガチャルが3勝目を挙げた第8ステージの難関コースで存在感をアピールし、さらにポガチャル4勝目の第15ステージで3位になっている。

「ポガチャルが集団からアタックしたと聞いたとき、僕は震え上がったよ」と言うが、最後までポガチャルに捕えられずにフィニッシュして、「信じられないことだよ。第8ステージですでに調子がいいことに気づいていたので、もしかしたらステージ優勝できるかもしれないと思っていた。クイーンステージの第15ステージも素晴らしい一日だった。3位で今回のジロ・デ・イタリアは成功したと感じた。そして今日、逃げに乗ったとき、今日は勝てるかもしれないと自分に言い聞かせた」と言う。

シュタインハウザーがプロ初優勝

「今日はとても楽しい旅だった。そのために苦しむのが好きでなければならない。みんなの前を走るだけでも最高の気分だし、フィニッシュまでたどり着けるのは特別なことだ。それでも最後の登りは緊張した。フィニッシュまでプッシュしなければいけないことは分かっていた。ポガチャルがアタックしていると聞いたけど、あと残り2kmだった。これが大きなキャリアの始まりになることを願っている」(シュタインハウザー)

「今日はシュタインハウザーが勝ててうれしかった。彼は素晴らしい走りをした。彼は最初の逃げ集団にいて、追いつかれても再び先行したのだから脱帽だ」とポガチャル。

「明日は平坦なステージだ。フアン・モラノがルイ・オリヴェイラと協力して集団スプリントで運をつかむことを期待したい。その後、逃げがそのまま行くはずのミディアムステージが1つあり、第20ステージのバッサーノ・デル・グラッパはスロベニアからそれほど遠くないから、多くのファンが見にきてくれることを期待している」(ポガチャル)

文:山口和幸

代替画像

山口 和幸

ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。

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