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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第14ステージ】ポガチャル激走も、ガンナが待望の今季初勝利。リベンジを成功させる。「ポガチャルに感謝してる。彼こそが僕のモチベーションを掻き立ててくれた」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか静かにスタートの時を待つフィリッポ・ガンナ
平坦なタイムトライアルステージの終わりに、マリア・ローザが、ちょっとした刺激をもたらした。ただし、1週間前の登坂TTとは違い、この日のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)にすべてを奪い去ることなど不可能だった。結末は大方の予想通り。世界最高の独走スペシャリスト、フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)が勝ちを収めた。待望のシーズン初勝利に、「トップガンナ」の瞳に涙が光った。
「今日はとても苦しんだし、結果が出るまで2時間も待たされた。おかげで最後には様々な感情に襲われた。だってここはイタリアだし、僕は長いこと勝てなかったし。すごく強烈な瞬間だった」(ガンナ)
2週間の激戦を生き抜いてきた152選手のうち、56番に走り出したガンナは、それまでのタイムをことごとく塗り替えた。当然のように。楽々と。小さなうねりと起伏が続いた前半の終わりの、7.8km地点の第1計測では、3番出走者が1時間近くも守り続けてきたタイムをさらりと上回った。
そこからのコースは直線が増え、いわゆる「ピュア」スペシャリストたちが本領発揮。元欧州TTチャンピオンにして、過去ガンナとともに世界選ミックスリレーで2つのメダルを持ち帰ったエドアルド・アッフィニ(ヴィスマ・リースアバイク)、1年前のU23世界TT王者ロレンツォ・ミレージ(モビスター)、2022年秋に世界TTチャンピオンの座を射止めたトビアス・フォス(イネオス・グレナディアーズ)が、次々と記録を更新していく。しかし、やはり、同種目で2枚のアルカンシェルを誇るガンナが、猛スピードですべてを凌駕するのだ。ちなみに第1中間までの平均時速が48km超だったのに対して、第1から第2までのコース中盤で、ガンナの平均時速は53.959kmへと上昇した。
母国のグランツールで通算ステージ7勝目を挙げたフィリッポ・ガンナ
フィニッシュまでのラスト8km、さらに速度は増した。きれいめな石畳がところどころ顔を出す道を、ガンナはなんと平均時速58.143kmで駆け抜けた!2022年の秋に56.792kmのアワーレコードを樹立した独走王は、もちろんフィニッシュラインでもトップタイムを叩き出す。記録は35分02秒63。コース全体の平均時速は53.419kmだった。
これほどの快走ながら、フィニッシュ後、本人はそれほど満足していないようだった。しかも出走時間は14時35分で、最終走者ポガチャルがコースに飛び出したのが16時43分だから……本人の言葉通り、ほぼ2時間にわたって、現役イタリアTTチャンピオンはホットシートで不安な時を過ごさねばならなかった。
約1週間前の第7ステージでも、やはりガンナは1時間45分ホットシートで待たされた。挙句の果てに17秒差で首位から蹴落とされた。第2計測地点までは間違いなく首位をキープしていたのに、最後の上りで、ポガチャルに叶わなかった。今回は逆に、出走台から弾けるように飛び出していったピンクジャージに、第1計測地点でいきなりタイムを塗り替えられた。ガンナの記録を、ポガチャルが4秒上回ったのだ!
「ガンナのタイムをチェックしてみると、第2中間からフィニッシュまで、凄まじいペースを出している。だから僕は逆を行ったんだ。最初のパートをハードに攻めた。道は上下左右にうねり、より僕向きだったからね」(ポガチャル)
ガンナにとって幸いなことに、悩ましい時間は長くは続かなかった。第2計測地点で、早くも両者の関係は入れ替わった。逆に10秒のリードがついた。フィニッシュ地からほんの15kmほどのモンテキアーリの自転車競技場でともに研鑽し、東京五輪団体追抜で一緒に金メダルを勝ち取ったジョナサン・ミラン (リドル・トレック)が、最後は側に寄り添ってくれたのも心強かった。
「終盤は僕にとってそれほど適した道ではなかったし、2度目のタイム計測でガンナに勝てないことは理解したから、ひたすらペースを保ち続けるよう努力した。自分で自分をダメにしてしまわぬよう気をつけた」(ポガチャル)
ゴール後、愛犬の祝福を受ける
そしてポガチャルが、自分よりも29秒遅れでフィニッシュラインを越えた瞬間、ただ静かに、しかし力強く、ガンナは拳を握りしめた。
「外側からは簡単そうに見えたかもしれない。『タイムトライアルなら、やはりガンナの勝利』って。ホント、そんなに単純に行けば良いんだけど……。前回のTT以来、できる限りエネルギーを温存してきたんだ。あらゆるエネルギーを……ポジティブなものであれネガティブなものであれ、今日のペダルに込めるために。だから今日のステージは32kmしかなかったけど、僕の頭の中では、もっとはるかに長かった。まるでミラノ〜サンレモのようだった」(ガンナ)
苦しんだのは、長らく勝てなかったせいでもあった。昨秋のブエルタ第10ステージ以来となる、実に8ヶ月ぶりの勝ち星。なにより2019年シーズン初日にプロ初勝利を飾ってからというもの、どんなに遅くともシーズン16日目までには勝利をつかんできたのに、この日は開幕から41日目。ジロ前にも2度のTTを戦ったが、いずれもフラットながら、6位と2位に泣いてきた。
「ポガチャルには感謝してる。だって彼こそが、毎日、毎日、今日のステージこそ勝ちたいというモチベーションを掻き立ててくれたのだから」(ガンナ)
チーム総合トップに返り咲く走りを見せたイネオス・グレナディアーズ
ガンナは母国のグランツールで通算ステージ7勝目(うちTT6勝)を挙げ、所属イネオス・グレナディアーズは初日に続く今大会2勝目を手に入れた。またテイメン・アレンスマンが区間3位、ゲラント・トーマス4位、フォス8位、マグナス・シェフィールド12位と大量のイネオス勢が上位に名前を連ね、8日目以降失っていたチーム総合トップの座も見事に取り戻した。
この好走でトーマスも総合2位に返り咲いた。ガンナから1分14秒遅れ、つまりポガチャルから45秒遅れで1日を終え、たしかにマリア・ローザまでの差はさらに3分41秒へと拡大した。しかしダニエル・マルティネス(ボーラ・ハンスグローエ)に対する総合16秒の遅れは、15秒のリードに変わった。
総合3位に後退したとはいえ、コロンビアTT王者は、むしろ被害を最小限に留めたと言える。凄まじい攻めの走りを見せた総合4位ベン・オコーナーと(デカトロン・AG2Rラモンディアル)5位アントニオ・ティベーリ(バーレーン・ヴィクトリアス)からも、それぞれ20秒と26秒を失ったが、マルティネスがいまだ総合表彰台の座を39秒差で堅守している。2021年ツールでの総合4位「以上」の場所を追い求めるオコーナーは、前日より表彰台までの距離をほんの4秒縮めたに過ぎず、「白いジャージよりも表彰台を狙う」と初日から宣言してきた22歳ティベーリも、総合3位に対していまだ1分21秒の遅れを背負っている。
TTでリードをさらに広げたダディ・ポガチャル
また第13ステージ終了時点では、総合6位から11位までが1分以内に並ぶという接戦状態だったが、TTが順位をシャッフルすると同時に、互いの距離を押し広げた。……そうは言っても、相変わらず、混戦模様なのかもしれない。なにしろポガチャルが「僕と2位の差よりも、2位から10位までの差のほうが小さいのでは?」と言い放ったほど。実際は総合2位から7位までが、首位ポガチャルと2位トーマスの3分41秒差にほぼ等しい。
「良いリードを奪えた。最高にハッピーだ。もちろん今後に向けて快適な差をつけられたし、自信にもなる。ただジロの戦いはまだ終わってはいない。むしろ本当のジロは、今日スタートしたんだ。この先の山で何が起こるかなんて分からない。幸運を祈りつつ、全力を尽くし続けるしかないんだ」(ポガチャル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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