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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第13ステージ】分断からの復活。そして区間3勝目。ミランが改めて最速の証明を果たす。「一人ひとりが自分の役割を全うした。チームのみんなを誇りに思う」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか2024年ジロで最も平らなステージの幕開け
チームのために勝ちたかった。自らを分断からすくい上げ、完璧な列車を走らせてくれたチームメイトたちの献身に応えたかった。さんざん引きずり回されたけれど、幸いにも、最速の脚はすり減ってはいなかった。ジョナサン・ミラン (リドル・トレック)が圧巻の大集団スプリント勝利。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)と並ぶ今大会最多の区間3勝目を手にし、昨大会から通して30枚目のマリア・チクラミーノを身にまとった。
「いつものようにチームが見事な仕事をしてくれた。一人ひとりが自分の役割を全うし、牽引し、チームの目標向かって鼓舞し続ける様子は感動的でもあった。誰もが信じ続け、最後に結果をつかんだ。チームのみんなを誇りに思う」(ミラン)
2024年ジロで最も平らなラインステージは、平和に幕を開けた。スタートフラッグが振り下ろされると同時に、アンドレア・ピエトロボン(ポルティ・コメタ)が勢い良く飛び出した。マヌエーレ・トロッツィ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)とアレッサンドロ・トネッリ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)もすかさず後を追った。あっさり逃げは出来上がった。
アンドレア・ピエトロボンらが飛び出し逃げる
決して逃げ向きではないものの、フーガにはお誂え向き。どこか矛盾したようなステージで、3人はひたすらご褒美の収集に集中した。すでに今大会4度目の逃げとなるピエトロボンは、こうして中間ポイント賞首位を取り戻した。一方でインテルジロは無理には取りに行かずに、同僚フィリッポ・フィオレッリ(VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ)の首位の座を守りたいトロッツィとトネッリに先を譲った。招待チーム同士しっかり協力しあったおかげで、逃げ距離は122kmに達した。「ローマの表彰台が目標」と公言するフーガ賞首位ピエトロボンは、通算逃げ距離を454kmへとのばしている。
本当はもう少しだけ、逃げを続けたかったはずだ。スプリンターチームが淡々と制御するメイン集団とは、常に1分半から2分ほどの差を保っていた。ところが、わずか10km先で、3人はプロトンに飲み込まれてしまうことになる。
仕掛けたのはイネオス・グレナディアーズ。行く手に横風と、たくさんの曲がり角が控えていることは、誰もが分かっていた。しばらく前からすでに、集団は緊迫感に満ち満ちていた。そして右直角コーナーを抜け出した瞬間、総合3位ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)擁する英国軍が、一気に集団最前列へと駆け上がった!
「その他大勢になるよりは、仕掛け人になろうと考えた。わずかに風が吹いていたし、開けたセクションがいくつかあったから、何が起こるのか試してみようと思ったんだ」(トーマス)
またたく間に集団は真っ二つに割れた。すぐには状況が把握できない中で、イネオスは幾度となく畳み掛けた。元タイムトライアル世界王者の2人、フィリッポ・ガンナとトビアス・フォスが中心となり、かつては北クラシック巧者だった「G」を囲み、斜め隊列をせわしなく回した。
ただ「主なGCライダーたちはみんな前にいた」とトーマスが振り返ったように、マリア・ローザ姿のポガチャルは、何ごともなく前方にとどまっていた。実は総合トップ10県内の選手も何人か後方に吹き飛ばされてはいたのだが、いわゆる総合表彰台候補は、1人として罠にはまらなかった。
「強いチームがついているおかげで、こういった状況のコントロールは以前よりかなり楽になった。4年前の僕だったら、ストレスを感じて、エネルギーを浪費していたかもしれない。でも、今の僕にはチームメイトがついている」(ポガチャル)
ジョナサン・ミランを含むリドル・トレックは後方集団に取り残されてしまう
むしろ分断の犠牲となったのは、今大会最強スプリンターのほうだった。しかもミランを含むリドル・トレックは、ほぼ丸ごと後方集団へと取り残されてしまった!
「僕が少しストップを余儀なくされ、ちょうど集団の後ろにいたときに、前方で分断の動きが起こってしまった。すぐに何が起こったのかを理解したんだ。できるだけ早く第2集団の前方へと駆け上がり、追走にとりかかった」(ミラン)
トーマス曰く「風向きが悪かった」、ポガチャルの言葉を借りると「向かい風」。そのせいか、たしかに、それほど大きなタイム差は生まれなかった。せいぜいが15秒程度。第1集団は常に手の届きそうな場所にいた。しかしカーデン・グローブス率いるアルペシン・ドゥクーニンクが、ライバルを完全に蹴落とそうと集団牽引を始めてしまったものだから、手に汗握る時間はすぐには終わらなかった。
大会も半ばを過ぎ、大部分のスプリンターはとっくに賞レースを放棄している。この日の第1中間スプリントで、いまだミランと張り合ったのは、インテルジロ首位フィオレッリとポイント賞2位グローブスだけだった。続くインテルジロに至っては、もはやミランさえ動かずに、グローブスとフィオレッリだけで小さな小さなスプリント。もちろん、この時点では、いまだポイント賞1位と2位の差は60ポイントも残っていた。ただ、もしも、ミランがこのまま後方集団に沈み……対するクローブスが区間優勝していたら、差は一気に10ポイントに縮まっていたはずなのだ。
だからこそグローブスはチーム総動員で先頭を引いたし、リドル・トレックは必死に先頭交代を続けた。大胆にもミランが単独でブリッジを試みたことさえあった。細かいカーブの多い道で、すぐ目の前にある集団のしっぽを、なかなかつかむことができない。秒単位の追いかけっこは、約20kmにもわたり繰り広げられた。残り43km、ようやくリドルの努力は報われた。
集団が改めてひとつになってからは、予定通りに、大集団スプリントへと突き進んだ。残り30kmで2選手が飛び出したが、フィニッシュ手前9kmで静かに回収された。残り20km地点では落車が発生するも、集団の勢いは落ちなかった。ラスト5kmからは道が蛇のようにうねり、トラブルを避けるためあらゆる総合チームが前方で場所取りを繰り広げ、救済措置がは発動するラスト3kmに入ると、スプリンターチームに席を譲った。
トップスピードでゴールに向かう集団スプリント
そしてすぐさま、リドル・トレックが、主導権を競り落とした。ミランを乗せた4人のアシスト列車が猛スピードで最前列へ走り出すと、右へ、左へ、繰り返し訪れるゆるやかなコーナーをトップでこなしていく。残り500m、この日最後のコーナーもまた、当然のように先頭で抜け出した。
「僕ら本当によくフィニッシュを組み立てた。最終コーナーはシモーネ(コンソンニ)と一緒に入らなきゃならないことは分かっていたし、シモーネは残り400mからリードアウトを始めなきゃならなかった」(ミラン)
まさに計画通りに、残り400m、コンソンニは先頭で発射台作業に取り掛かる。その直後に、フェルナンド・ガビリア(モビスター)が奇襲を仕掛けるも、あくまでミランは冷静に立ち回った。むしろライバルを発射台代わりに使うと、自らの最適な位置、ラスト200mでトップスピードへと切り替えた。横風分断による影響など微塵も感じさせなかった。その速さと、その巨大なる存在感とで、すべてを圧倒した。
27歳にして生まれて初めてのグランツールを戦うスタニスワフ・アニオコウスキ(コフィディス)が、生まれて初めての区間2位に滑り込み、フィル・バウハウス(バーレーン・ヴィクトリアス )が3位に続いた。さんざんポイント収集に励み、分断時にはチーム総出で働いたグローブスは、肝心の最終ストレートでは後方に沈んだ。16位で1日を締めくくり……フィニッシュでは1点もポイントを得られなかった。
ジョナサン・ミラン、マリア・チクラミーノ姿で掲げた「3」勝目
昨大会は区間1勝でマリア・チクラミーノを持ち帰ったミランは、今年はすでに3勝目を上げ、いまやポイント賞争いでも2位グローブス以下に110ポイントもの大差をつける。もはや今ジロに敵なしの俊足にとって、残す勝機は2回。ただし次のスプリントは、3週目の木曜日までお預け。日曜日からは、いよいよ本格的な山越えが始まる。ドロミテの険しい峰々を、昨大会同様、チーム一丸となって乗り越えねばならない。
その前に、第14ステージの、個人タイムトライアルが待っている。2週目初日の大逃げで総合ひと桁台後半に少し動きがあったこと、キアン・アイデブルックス(ヴィスマ・リースアバイク)が新人ジャージ姿のまま体調不良で大会を去ったこと以外は、完全に停滞していた総合争いがいよいよ動き出す。クライマーたちには少々難解なフラットTTが、タイム差を大きくかき回すはずだ。
「明日のステージが楽しみだ。気分は落ちついているし、前回のTTを制したおかげで自信もある。前回のコースに比べたら僕向きではないけど、どうなるかな。またいい走りがしたいし、ともかく、バイクの上で好感覚をつかめるよう願ってる」(ポガチャル)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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