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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第6ステージ】ペラヨ・サンチェスがストラーデ・ビアンケでの攻防を制しステージ初優勝。チャンスを掴んだ強い思い「最後に最強か最速の選手になろうと心がけた」
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸第107回ジロ・デ・イタリアは5月9日、ヴィアレッジョからラポラーノ・テルメまでの180kmで第6ステージが行われ、モビスターのペラヨ・サンチェス(スペイン)がスーダル・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ(フランス)、ジェイコ・アルウラーのルーク・プラップ(オーストラリア)を制して初優勝した。
マリア・ローザのポガチャルが未舗装区間に突入
第2ステージで独走勝利して総合1位に立ったUAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャル(スロベニア)は他の有力選手とともに29秒遅れの大集団でゴールし、首位のマリア・ローザを守った。
第6ステージのスタート地は前日のゴールであるルッカから海沿いに移動した港町ヴィアレッジョ。序盤は平坦なルートで、ピサの斜塔で知られるピサの近くを通過する。6月末にはツール・ド・フランス2024開幕地となるフィレンツェもこの日のルートに近い。80.4km地点をピークとする第4級の山岳ポイントがヴォルテッラ。ここを過ぎるといよいよ、春のメジャーレース、ストラーデ・ビアンケの舞台となるシエナエリアに入る。
これぞ白い道、ストラーデ・ビアンケ
このステージの見どころは砂利道で道路が白く見えることから名づけられたストラーデ・ビアンケでの攻防だ。残り50kmから3つのグラベルセクター(未舗装の区間)が待ち構えるのである。このうち2つはストラーデ・ビアンケのコースにも採用されるもので、第6ステージの未舗装路の合計は約12kmにもなる。
ヴィドリッタから突入する最初のグラベルセクターは3月のストラーデ・ビアンケには使われないゾーンにも足を踏み入れ、セクター距離はストラーデ・ビアンケの2.1kmから4.4kmと2倍になる。舗装路を数百m走った後に第2グラベルセクターへ。バニャイアで砂利道に突入し、平均勾配4.9%・最大勾配15%に達する未舗装の上りをクリアするとグロッティで2回目の山岳ポイント(4級)がある。
残り18km地点のピエヴィナから始まる第3グラベルセクターは、ストラーデ・ビアンケを2度制したポガチャルにとっても未知の未舗装路。ここからゴールまでの尾根道は短いアップダウンがあり、最後は急な上り坂があってフィナーレとなる。
翌日に40.6kmという長めの個人タイムトライアルが控えているこの日は、総合成績の上位進出よりもステージ勝利に意欲的な選手たちにとっては狙い目だ。多くの選手がアタックに意欲的で、決定的な逃げが形成されるまで約100kmかかった。その時点で集団はかなり脚を使っていて、これ以上の疲労を好まない選手らの気配を利用して7選手がようやく抜け出すことに成功した。
アルペシン・ドゥクーニンクのカーデン・グローブス(オーストラリア)、デカトロン・AG2Rラモンディアルのアンドレア・ヴェンドラーメ(イタリア)、チューダープロサイクリングチームのマッテオ・トレンティン(イタリア)、VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネのフィリッポ・フィオレッリ(イタリア)、そしてサンチェス、アラフィリップ、プラップだ。
先行するアラフィリップとサンチェス。追いすがるプラップ
この中で前日までの総合成績で最も上位につけているのが、2分33秒遅れの総合21位のプラップだった。逃げた選手らとメイン集団との差は130km地点(残り50km地点)で2分53秒差。オーストラリアのナショナルチャンピオンであるプラップがマリア・ローザのバーチャルリーダーとなった。
「僕たちにとっては、グラベルや丘陵地帯であまりエネルギーを費やしたくなかったので、逃げが離れていけば都合がよかった。ルーク・プラップがマリア・ローザを奪ったとしても、それはそれでよかった」とその時の心境をポガチャルがゴール後に語っている。
前半の100kmでも攻撃的に走っていた7選手だが、逃げが決まった後でもメイン集団との差を保つためにスピードを緩めることができなかった。グラベルセクションになるとメイン集団がプッシュを続け、その差が徐々に縮まっていく。
「僕らは自分たちのテンポで走っただけだし、僕のチームはいい仕事をしてくれたけど、イネオス・グレナディアーズがグラベルセクターでハードに走ってくれたから、あっという間に差が縮まった」(ポガチャル)
バーチャルリーダーだったプラップがバニャイアの登りで加速すると、アラフィリップとサンチェスがこれに加わり、メイン集団の追撃にあくまでも抵抗する構えになる。すでに160kmにおよぶ走りで疲れ果て、体力も消耗していた3人は持久戦となる。
「本当につらい1日だった。どのチームも逃げるチャンスがあったので第一集団に入りたかった。本当にタフでクレイジーなステージの始まりだったが、こんなチャンスを待っていた」
「グラベルや丘陵路では苦労すると思ったけど、最後に最強か最速の選手になろうと心がけた。他のライダーが疲れるのを待つのみだった」とサンチェス。
3人とメイン集団とのタイム差は残り10kmで1分10秒、残り5kmで34秒と縮まっていく。残り4km16秒、残り3km12秒…。しかし区間勝利を目指した3選手は残り2kmで20秒と挽回し、逃げ切った。最後はゴールスプリント争いになった。
「ジュリアン・アラフィリップが最後の登りでアタックしてきて、彼についていこうとしたんだけど、本当に難しかった。自分が速いのは分かっていたが、相手がアラフィリップだったので、彼と戦うのは少し緊張した。自分にもチャンスがあるという自信も忘れなかった」というサンチェス。
勝負は残り1kmとなった。プラップが最初に先頭に立った後、残り200mでアラフィリップがスプリントを開始し、サンチェスがスピードを上げて外側から逆転。アラフィリップを制してトップフィニッシュした。
サンチェス優勝、うなだれるアラフィリップ
スペイン選手は2019年のペリョ・ビルバオを最後にジロ・デ・イタリアで優勝していなかった。モビスターチームとしても同年にリチャル・カラパスを擁して総合優勝を飾ってから、ジロ・デ・イタリアで実績を残していなかった。もちろんアラフィリップもここ1年勝っていなかったが、均衡を破ったのはサンチェスの方だった。
「2度の世界チャンピオンで、2019年のストラーデ・ビアンケで優勝したアラフィリップを倒すのは簡単ではなかった。ゴールで自分が何をしたのか気づいていない。言葉も失った」(サンチェス)。
アストゥリアス州オビエド出身の24歳。グランツールを走るのが夢だったというサンチェスは、ブルゴスBH時代の2023年にブエルタ・ア・エスパーニャ初出場。ジロ・デ・イタリアはもちろん今回が初めてだ。サンチェスの優勝はまさにサプライズ。スペイン勢として55回目のステージ優勝である。2023年のブエルタ・アストゥリアス第3ステージ、2024年のマヨルカ島トロフェオ・ポレンサに続く3度目のプロ優勝となった。
「今年の初めから計画していたことは、今日のために序盤のステージでエネルギーを節約するということだった。逃げ切りからステージ優勝を狙ったが、なかなか決められなかった。レース中、逃げるのは難しいと思っていたが、最後の最後までエネルギーを温存しようと頑張った。みんなが攻めてくる時は冷静さを保とうとした。プラップとアラフィリップをふるい落とそうとしたが、無理だった。だから、勝つための唯一の方法はスプリント。
ジュリアンは僕のアイドル。彼との対戦は光栄だったけど、彼に勝てたことは一生忘れられない特別なことだ。ジロ・デ・イタリアの最初の週にグランツールでステージ初優勝できたのはクレイジーだよ」(サンチェス)
プラップはグランツールでのステージ初表彰台となったものの、マリア・ローザ獲得は夢に消えた。総合2位のゲラント・トーマス(イギリス)のポジションを守るためイネオス・グレナディアーズが懸命に追いかけたためだ。その結果、ポガチャルが総合1位を守ることになり、ピンクのスキンスーツを着て第7ステージの個人タイムトライアルを走ることになった。
マリア・ローザを守ったポガチャル
「今日はマリア・ローザを失ってもかまわなかった。ピンクのルーク・プラップでよかった。私にとってはいいステージだったし、大好きなストラーデ・ビアンケのルートを再び走るのは楽しかった。観衆はあの日と同じように素晴らしかった。今日は調子がよかったので、明日のタイムトライアルでもいい脚が発揮できることを期待したい。おもしろいパルクールです。ステージ優勝は考えていない。ただバイクでいいフィーリングをつかんで走りたいだけ」とポガチャル。
それでも「私のサイクリングキャリアの中で、タイムトライアルを控えめに走ろうと思ったことはない。昨年の世界選手権以来タイムトライアルを走っていないけど準備はできているし、全力で走りたい」と付け加えた。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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