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【ジロ・デ・イタリア2024 レースレポート:第1ステージ】「ポガチャルのような強豪を倒せて最高の気分」。三つ巴スプリントを制したナルバエス勝利で、ジロが鮮やかに開幕!
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかヴェナリア・レアーレでグランデ・パルテンツァ
初日からタデイ・ポガチャルは惜しみなく戦いに火をつけた。そんなチャンピオンに上りでただ一人最後まで食らいつき、ついにはスプリントで振り払ったジョナタン・ナルバエスが、2024年ジロ・デ・イタリア最初のマリア・ローザを身にまとった。クレイジーな3週間が始まった。
「ポガチャルのような強豪を倒せたなんて、最高の気分だ。上りに関しては彼こそが世界最強で、後輪にとどまり続けるのは至難の業だった。でも最後には自分のカードを切り、僕はやり遂げた」(ナルバエス)
初夏の光の中で、ばら色のグランツールが走り出した。旗が振り下ろされた瞬間から、動きの多いレースが繰り広げられるだろうことは、誰もが分かっていた。開催委員会は開幕ステージにあえて起伏の多いコースを準備した。10kmに満たない攻防を経て逃げ出した6選手の背後では、絶対的総合大本命を抱えるUAEチームエミレーツが、率先して集団牽引に乗り出した。長らく1分半程度のリードしか与えず、最大でも3分差までしか許さぬほどの、徹底した制御だった。
幸いにも逃げグループは、順調にコース上のポイントを収集していく。3週間で最初の山岳ポイントはフィリッポ・フィオレッリが競り勝ち、続く最初の中間スプリントは、同じフィオレッリが抜け駆けで1位通過。
この1つ目の中間スプリントでは、中間スプリントランキング用ポイントは上位5人に、マリア・チクラミーノ用ポイントは上位8人に配分される。また2つ目の中間スプリントでは中間スプリントランキング用ポイントは上位5人に、ボーナスタイムが上位3人に与えられ、さらには今回約20年ぶりに復活した「インテルジロ」ではボーナスタイムが上位3人に、インテルジロ用ポイント兼マリア・チクラミーノ用ポイントが上位8人につく。
ややこしくはあるけれど、逃げにも、スプリンターにも、総合勢にもうまみのあるシステムであることには違いない。残念ながら初日勝利は望みようもなかったスプリンターたちも、1つ目の中間ではチーム総出の尽力でカーデン・グローブスが7位2ptをもぎ取り、インテルジロでは5位4ptのジョナサン・ミランを筆頭に複数が己の俊足を競った。
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【ハイライト】ジロ・デ・イタリア 第1ステージ|Cycle*2024
つまりスプリンターチームの一時的加速で、タイム差が急速に埋まることもあった。ただコース中盤の3級山岳スペルガに差し掛かる頃、逃げのリードは再び2分半に広がっていた。これがリリアン・カルメジャーヌを勇気づけた。「どうせ短いステージだ。全力で行こうじゃないか」……と。
そもそも予定してはいなかったのに、反応が遅れたチームメイトの代わりに前を追ったら、そのまま逃げが決まってしまったという。きっと2級マッダレーナの前に捕らえられてしまうのだから、山岳ポイントなんかいらない、と最初の4級山岳でも動かなかった。スペルガでようやくカルメジャーヌは腹をくくる。一時は先行を許したアマヌエル・ゲブレイグザビエルに、下りで合流すると、その後も勢力的に逃げ距離を伸ばしていった。
インテルジロは争わずして先頭通過した。この日最後の山岳、2級マッダレーナ登坂途中には、独走体制に切り替えた。背後から猛スピードでプロトンが迫ってくるのを感じながら、カルメジャーヌは必死に山頂まで凌いだ。本格的な区間争いが勃発し、飛び出してきた一団にラスト10kmで捕らえられた後も、しばらく粘り続けた。
先頭グループのカルメジャーヌが山岳賞でトップになった
ブエルタとツールではすでに勝ちをを手にし、今ジロには区間優勝を取るためにやってきたカルメジャーヌは、最終的には1分40秒遅れの45位で第1ステージを終えた。表彰式では山岳ジャージを受け取り、インテルジロ賞とフーガ賞(120km)でも首位に立った。
「足の調子が良かったから、すごく楽しめた。この美しい青のジャージは、僕にとってはファンタスティックなジロの始まりを意味するものであり、この先への期待を抱かせてくれる。今後もいい走りを見せたいし、3大大会全ステージ制覇の夢だって、叶えられるかもしれない」(カルメジャーヌ)
逃げの後方で、UAEチームエミレーツは休みなく仕事を続けた。「グランツールは長いから、1週目でチームメイトを燃え尽きさせたくはない」と、開幕前のポガチャルは語っていたにも関わらず。
序盤のコントロールはヴェガールスターケ・ラエンゲンが単身で務めた。スペルガ登坂に備え、ライバルチームがいよいよ隊列を組み始めると、UAEはさらに大人数で前にせり出した。スペルガからの曲がりくねった下りは、ポガチャルを含む6人で最前列を固めてやり過ごし、無等級ながら驚くほど激勾配のサン・ヴィートの1回目の登坂は、4人体制で高速を強いた。集団は長く細く伸びた。ラスト30km、1回目のフィニッシュライン通過時には、早くもプロトンは粉々になっていた。
2級マッダレーナに入ると、すでに上がりきっていたテンポを、UAEはもう一段階上げた。TT巧者ミッケル・ビョーグが力を振り絞ると、「上れる」スプリンターたちはもはや耐えられなくなった。昨ジロで6位に食い込み、今大会は新人賞候補の筆頭に挙げられる24歳テイメン・アレンスマンさえ、後方へと力なく脱落していった。先頭牽引役がフェリックス・グロスシャートナーに交代すると、今度はロマン・バルデが遅れる番だった。先のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで、ポガチャルに次ぐ2位に入ったフレンチクライマーは、運悪く「バッドデー」にはまってしまった。
ポガチャルは虎視眈々と狙う
UAEも予定通りに作業を遂行できたわけではない。グロスシャートナーの次に控えていたはずのルイ・オリヴェイラは、仕事に取り掛かる前に姿を消し、フィニッシュまで25kmを残して、早くも最終補佐役ラファウ・マイカに作業の順番が回ってきてしまった。自ずとテンポは少し抑え気味となった。常に集団前線に控えていたポガチャルも、集団の真ん中に一旦下がった。
マッダレーナからの下りで、ボーラ・ハンスグローエが数人でするりと先頭に上がった。「もしかしたらポガチャルは、初日のマリア・ローザ獲りを諦めたのかもしれない」と、マキシミリアン・シャフマンは考えたという。残り16km、そのままスピードを上げると、すでに30人ほどに小さくなっていたメイン集団から大胆に飛び出した。
ミッケルフレーリク・ホノレが後に続き、ニコラ・コンチもすぐに合流した。アレックス・ボーダン、アレッサンドロ・デマルキ、ダミアーノ・カルーゾ、ジュリオ・ペリツァーリも追いついてきた。いまだ逃げていたカルメジャーヌを回収し、8人の先頭集団を作り上げた。山の麓の第2中間ポイントでは、2021年ジロ総合2位カルーゾは、首位通過でボーナスタイム3秒収集も忘れなかった(その結果、フィオレッリを退け、中間ポイント賞で総合首位に立った)。
マイカの引くポガチャル集団に、最大30秒差を押し付けた先頭グループだったが、決して協力体制は良くなかった。コンチ曰く「誰もがマリア・ローザの可能性を意識していた」せいだった。そのコンチは残り6km、ライバルを置きざりにし、独走を選んだ。2度目のサン・ヴィートには、先頭で飛び込んだ。
その平均勾配9.8%の激坂で、ポガチャルはついに動いた。残り4.4km。しかもモニュメント6勝を誇る現役屈指のパンチャーは、幾度となく強烈に畳み掛けた。
「最後の上りでは、麓から頂まで、とにかく加速し続けなきゃならなかった。だって前方のグループとのタイム差が大きすぎたから。全てを試み、全力を尽くした」(ポガチャル)
ポガチャルの決死の加速に、反応できた者は多くなかった。かつて世界選2連覇を果たしたジュリアン・アラフィリップは、3度目の加速まではなんとかしがみついたが、それ以上は無理だった。ただナルバエスだけが、ぴたりと後輪に張り付いた。ポガチャルが何度踏み込んでも、決して引き下がらなかった。
「いまだに脚が痛むよ!本当に厳しかった」(ナルバエス)
熱狂的なファンが詰めかけた小さな激坂の終わりに、ポガチャルは希望通り先頭グループを回収し、独走態勢に持ち込んでいたコンチを前から引きずり下ろした。ただナルバエスは最後まで千切れなかった。さらには「結果的に前に出ていて良かった」と打ち明けるシャッフマンも、得意の下りで食らいついた。追走集団に総合エースのゲラント・トーマスやスプリント巧者フィリッポ・ガンナが控えるナルバエスも、同じくダニエル・マルティネスを理由とするシャッフマンも、当然のようにポガチャルとの先頭交代には加わらなかった。総合大本命として、ツール総合2勝の王者として、ポガチャルも他人の助けなど期待しなかった。ひたすら先頭で、前を目指した。
抜け出した3人でのスプリント勝負はナルバエスに軍配
勝負は三つ巴スプリントに持ち込まれた。「3人での勝負は久しぶり」とポガチャルが振り返ったように、今季6勝(+総合1勝)のうち5つが独走によるもので、1つは中集団スプリント。平地で、じっくりと、3人での駆け引きを繰り広げたのは、2023年春のE3サクソ・クラシック以来かもしれない。あのときはスプリントにおいては明らかに格上の2人……ワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルプールの前に敗れたが、今回は誰が勝ってもおかしくない状況だったはずだ。最後尾につけていたシャッフマンの加速を合図に、ポガチャルも全力疾走に切り替えた。
「スプリントを始めたのが、あまりに遠すぎた。少し神経質になっていたのかもしれない」(ポガチャル)
2人の間でタイミングを図っていたナルバエスは、最後に腰を上げた。2024年初戦ダウンアンダー・クラシックで、衝撃的な逃げ切りスプリント勝利をもぎ取ったように、イタリアでも極めて冷静に首位の座を射止めた。
「ポガチャルのスプリントは少し長すぎたのではないかと思う。あれほどハードなステージの終わりに、200mは遠すぎた。僕はより短めにスプリントに転じた。そして終わりには、僕が勝ちを手に入れた」(ナルバエス)
27歳ナルバエスにとっては、2020年大会第12ステージに次ぐジロ区間2勝目。4年前は25kmの独走の果ての栄光だった。もちろん今大会初のマリア・ローザもついてきた。エクアドル人としてはリチャル・カラパスに次ぐ2人目の快挙であり、所属イネオス・グレナディアーズには、2021年大会のフィリッポ・ガンナ以来3年ぶりの初日リーダージャージをもたらした。区間10位にトーマス、11位にガンナが滑り込み、イネオスはチーム総合でも首位に立った。
マリア・ローザに身を包んだナルバエス
「調子はすごく良かった。1ヶ月前のチームとの話し合いで、今ステージの最終盤が僕向きであることは分かっていたし、だからこそ僕がステージを取りに行く予定になっていた。この日のために練習に励んできた。スペシャルな勝利だ」(ナルバエス)
2位にはシャッフマンが入り、ポガチャルは3位で終えた。過去3年間はツール・ド・フランス初日にさらりとマイヨ・ブランを着ていたが、「大人」になった今年は、久しぶりに初日を手ぶらで終えた。総合ライバルたち……たとえばトーマスに14秒差、バルデに1分01秒差をつけたことだけで、満足するしかなかった。
代わりに3人を単独で追いかけたボーダンが、新人賞ジャージを肩に羽織った。人生初グランツールだった昨ジロは、当時UCIの独自ルールで使用が許可されていなかった薬物を使用したとして、全成績剥奪処分を受けた(ドーピングではないとされ、出場停止処分は下されなかった)。だから、この日の区間4位こそが、ボーダンにとっては初めてのグランツール公式記録となる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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