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サイクル ロードレース コラム 2024年3月26日

【Cycle*2024 ボルタ・ア・カタルーニャ:レビュー】タデイ・ポガチャル驚異の強さ! ステージ4勝と64年ぶりの大記録に「今が一番バイクとの時間を楽しめているかもしれない!」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ボルタ・ア・カタルーニャ

ボルタ・ア・カタルーニャ総合表彰台、優勝ポガチャル、2位ランダ、3位ベルナル

2024年最大の目標に据える“ダブル・ツール”を完全に視界にとらえた。シーズン序盤の脚試しにしては次元が違いすぎる。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の戦いぶりは、他の選手たちからしても「放っておくしかない」ほどに際立つ強さだった。

全7ステージで争われたボルタ・ア・カタルーニャは、ポガチャルが初出場にして初制覇。ステージ4勝を挙げたばかりか、個人総合2位とのタイム差3分41秒は、1960年大会での3分51秒差に次ぐ64年ぶりの快記録となった。

「価値のある1週間だった。シーズン序盤から良い走りができて大満足だよ。もちろんかなりの自信になる。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスに向けて順調であることは確かだ」(タデイ・ポガチャル)

第1ステージから、強い意志を示していた。最後の1.1kmを逃げたニック・シュルツ(イスラエル・プレミアテック)が勝ったそのすぐ後ろで猛然と追い込み、ステージ2位。どんなコースレイアウトでも勝つことに貪欲な姿勢を見せる。

そうして迎えた第2ステージで、観る者を驚かせることになる。「ちょっとした遊びだった」と振り返った、スタートから24km地点でのドメン・ノヴァクとのアタックは活劇ののろし。いったん集団に戻って、いざ超級山岳ヴァルテル2000へと踏み込むと、頂上まで6.5kmを残したところで“よーいドン”。2000mに達する標高と冷雨が選手たちのスタミナを削ぐ中、今大会の主人公は笑顔で上り切ってみせた。

「寒さは気にならなかったし、標高が上がっても苦しむことはなかったよ。調子が良かったので、フィニッシュまで踏み続けるだけだった」(ポガチャル)

他のチームだって、ポガチャルの、UAEの走りをただ見送って済まそうなんて思っていなかった。超級山岳ポルト・アイネに上った第3ステージでは、スーダル・クイックステップが上りのペーシングで人数を絞り込み、エースのミケル・ランダのアタックをお膳立てした。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTubeチャンネル

【ハイライト】ボルタ・ア・カタルーニャ 第7ステージ|Cycle*2024

ボルタ・ア・カタルーニャ

超級山頂フィニッシュを笑顔で飾るポガチャル

しかし、今回のポガチャルにはすべてを自分のものにしてしまう強さがあった。ランダの動きをチェックするや、カウンターアタックで独走態勢に持ち込んだ。ランダにして「さすがについていくのは難しかった」と言わせた走りは、前日より長い7.3kmを独走。2日続けて山頂を征服した。

レースを完全に支配したポガチャルは、スプリンターが活躍した2ステージをはさんで、第6ステージでギアを入れ直す。この日はヴィスマ・リースアバイクやモビスターが集団を牽引し、複数の山越えで人数を絞り込む。この流れを静観し、着々と距離をこなしていたレースリーダーが腰を上げたのは、フィニッシュまで29.2km。最後から2つ目の上りを進んでいる間の出来事だった。

「僕たち(UAEチームエミレーツ)が集団をコントロールすることに満足していない選手やチームがいたみたいなんだ。予定では最後の上りまでペースを作ることだった。ただ、意識的にスピードを上げるチームがいくつかあったので、自然と集団の人数が絞られていった。だったら自分ひとりで行ってしまおうと考えを切り替えたんだ」(ポガチャル)

かくして、獲得標高4000m超の「エピックステージ」での29.2km独走劇が完成。1ステージを残して、何事もなければ大会制覇は決まったようなものだった。何事もなければ……。

何事もなく終わるわけがなかった。どこまでも勝ちたい男である。ボルタ・ア・カタルーニャのハイライトにもなるモンジュイックの周回をゆく大会最終日。23人で飛び込んだフィニッシュの先頭には、またしてもポガチャルが立っていた。

「本当のことを言えば、マルク・ソレルでも、ジョアン・アルメイダでもよかったんだ。最後の数キロでアルメイダが飛び出したときは、彼が逃げ切ることもイメージしていたし、それがかなわなければ僕がスプリントをしようと思っていた」(ポガチャル)

最終局面を前にアルメイダが飛び出し、それを他の選手たちが追走。その後ろで脚を温存させたポガチャルは、集団に吸収されたアルメイダに代わって加速する。指で4勝を示してのウイニングセレブレーションは、ステージ優勝・個人総合優勝・ポイント賞・山岳賞を同時に確定させた“4賞”を意味するものともなった。

ボルタ・ア・カタルーニャ

7区間中4度区間優勝を果たしたポガチャル

今大会前から、調子の良さは実感していた。ストラーデ・ビアンケで驚異の81km独走を決め、ミラノ~サンレモでは3位ながらも好レースを演出。山岳での走りを試す意味合いもあったカタルーニャで、その自信は確信へと変わった。そして何より、クライマー向けのステージレースで、自身と異なる脚質の選手たちとの混走を避けられたこともリスクをかわすうえでは好条件だった。

「1週間を通して上りが多く、僕にピッタリのルートばかりだった。もちろん僕だけじゃないよ。チームみんなが順調だと分かったことがとてもうれしいね」(ポガチャル)

先のティレーノ~アドリアティコでは、最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴー(ヴィスマ・リースアバイク)が圧勝。そしてカタルーニャではポガチャルが……。ここ数年、あれだけのバトルを繰り広げてきた2人である。互いの走りを意識しないわけがないだろう。場外戦は始まっている。

それに、ポガチャルには今日のプロトンではだれも成し遂げたことのない、壮大なミッションが控えている。そう、ジロとツールの2冠“ダブル・ツール”である。前述の通り、本人も手ごたえは十分だ。この大会を終えた脚で、スペイン南東部・シエラネバダ山脈での高地トレーニングに入る。期間は3週間で、そこからリエージュ~バストーニュ~リエージュ、そしてジロへと向かう。オフシーズンは高地キャンプを行っておらず、それでいてこの走りなのだから、シエラネバダで鍛えた後はどんな進化を遂げているだろうか。

「今が一番バイクとの時間を楽しめているかもしれないね。今が一番強いかって? そうは思わないよ。まだまだ強くなれると思っているし、この後のシエラネバダでもしっかりトレーニングするよ。だから、リエージュで僕の走りがどうなるか楽しみにしていてほしい」(ポガチャル)

かたや、残り2枠の総合表彰台争いはランダが先着。最近あちこちで聞かれるようになった「人間の中ではトップ」をランダも口にしたのだった。第2ステージで2位になると、翌日はポガチャルのカウンターを誘発する形になったものの、自身のテンポは崩さず連続の2位。第6ステージも3位とまとめて、個人総合2位を確実なものにした。

ボルタ・ア・カタルーニャ

総合2位のランダはポイント賞ジャージを繰り下げで着用していた(左から2番目)

「2月にポルトガルで走ったけど、気持ち的にはカタルーニャがシーズン初戦の感覚だったんだ。だから個人総合2位はうれしいし、大満足。ここまでの走りができると思っていなかったよ」(ミケル・ランダ)

次戦予定のイツリア・バスクカントリーでは、いよいよレムコ・エヴェネプールのシフトに加わる。「今年一番の大仕事」というレムコのツール制覇へ向け、連携を深める機会になる。

そして個人総合3位には、エガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)が入った。大事故から2年、復権のときが近づいてきた。今大会は前半こそ我慢のレースだったが、第6ステージでランダと競って2位。総合表彰台圏内までジャンプアップした。

1月下旬から数レース走り、3月にはパリ~ニースにも出場。今大会にあたっては特段、調整はしていなかったという。

「正直驚いている。表彰台のことを意識して臨んだつもりはなかったし、調子が上がっている実感もさほどなかったからね。それでも、ついにここまで来れたね。いつかは戻ってこれると思っていたんだけど、実現したらやっぱりうれしいよ。ポガチャルは強かったかって? そもそも今回はついていかなかった。今後のレースでついていけると良いね」(エガン・ベルナル)

5年前、鮮やかにツールを勝った男である。ポガチャルやヴィンゲゴーを本気で追随するようになったときこそ、ベルナルの完全復活を意味する。

ときに“クライマーズ・ツアー”化するボルタ・ア・カタルーニャだけど、今大会は3ステージでクライマー以外の選手が勝利。第1ステージのシュルツは集団の間隙を縫って飛び出しに成功。2日連続の本格山岳ステージを耐えたスプリンターたちによる第4ステージの優勝争いは、マライン・ファンデンベルフ(EFエデュケーション・イージーポスト)が制した。続く第5ステージも激戦となって、昨年のU23世界王者アクセル・ローランス(アルペシン・ドゥクーニンク)がUCIワールドツアー初勝利。ファンデンベルフやブライアン・コカール(コフィディス)、オールイス・アウラール(カハルラル・セグロスRGA)らに先着する、大きな1勝を挙げた。

春のクラシックシーズンが本格化し、各地から好レースのニュースが飛び込んでくる。ステージレース戦線は引き続きスペインが舞台で、4月1日から6日までの日程でイツリア・バスクカントリーが開催される。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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