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【Cycle*2024 アルウラー・ツアー:レビュー】サイモン・イェーツ個人総合優勝でジェイコ・アルウラーはビッグミッション達成 JCL TEAM UKYO・岡篤志はモストアクティブライダー受賞で大会史に名を残す!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介2024年アルウラー・ツアー4賞表彰台
昨年までの「サウジ・ツアー」から、開催地の名を冠した「アルウラー・ツアー」と名を変えた5日間の戦い。サウジアラビアで最もドラマティックで美しいとされ、それは宝石にもたとえられるという輝きは今回、サイモン・イェーツに降り注いだ。
サイモンにとっても、彼が所属するジェイコ・アルウラーにとっても、この大会での勝利はシーズン序盤のビッグミッションだった。なぜなら、チームのタイトルスポンサー「アルウラー」はまさに今大会のベースシティであり、彼らにとっては勝利を義務付けられていたからだ。
前回はディラン・フルーネウェーヘンがステージ勝利を収め、一定の成果を上げていたが、今大会は最終日を迎えても勝てずにいた。フルーネウェーヘンの前には次々とライバルが立ちはだかり、第2ステージ終盤の登坂区間でアクションを見せたイェーツも後手に回り、イメージ通りにプロトンを統率できなかった。
「正直、ナーバスになっていた。上りで他の選手を引き離せず、ベストコンディションではないことは自覚していた。シーズン序盤の脚慣らしにしてはちょっとハードすぎたね。ただ、落ち着いて勝負どころを見極めるべきであることは分かっていたんだ。僕たちの重要なパートナーであるアルウラーのためにここへ来ていたわけだからね。最終的に勝つことができて安心したよ」(サイモン・イェーツ)
今回は全5ステージ中、開幕からの4ステージはスプリンターが主役だった。オープニングウィンを飾ったのは、22歳のカスペル・ファンウーデン(dsmフェルメニッヒ・ポストNL)。プロ3シーズン目を迎えた新鋭が混沌のスプリント戦線に名乗りを上げたのだった。
第2ステージは、砂漠地帯特有の風を使った攻撃戦の様相を呈したものの、勝負はフィニッシュ前の上り区間からのアクションに。ピエール・ラトゥール(トタルエネルジー)がフィニッシュ前1.7kmでアタックし逃げ切りかと思わせたが、上りを耐えたスプリンター陣が猛追。残り100mを切ってラトゥールをかわしたソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックスモビリティ)が前回に続くステージ優勝で、同時にリーダージャージにも袖を通した。
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【ハイライト】アルウラー・ツアー 第5ステージ|Cycle*2024
ティム・メルリールが区間2勝
続く第3ステージこそ、風が選手たちの行く手を阻んだ。分断と合流を繰り返していたプロトンだったが、フィニッシュ前30kmで分断が発生し、後ろではレースリーダーのヴァーレンショルトがバイクトラブル。これで上位戦線からの脱落を余儀なくされた。約30人にまで減った先頭グループでは、たびたびモビスターがアタックを試みるが、エーススプリンターを残した複数チームがそれらをチェック。前に残ったメンバーによるスプリントとなり、戦い方を知るティム・メルリール(スーダル・クイックステップ)が快勝。チームメートを減らし、最終局面はほぼ単騎状態になりながらも、ファンウーデンらをマークして最後の数百メートルに賭けていた。
第4ステージもメルリールが勝った。残り10kmを切ってからのクラッシュでフアン・モラノ(UAEチームエミレーツ)ら一部スプリンターが後方へと下がったなか、前日にリーダージャージを取り戻していたファンウーデン、ブライアン・コカール(コフィディス)、そしてメルリールがバチバチのポジション争い。dsmフェルメニッヒ・ポストNLが主導権を確保しファンウーデンでのスプリントに備えるが、メルリールがフィニッシュ前300mで早めのスパート。上り基調の最終局面で加速しきれないライバルをよそに一気に駆け上がる。最後はコカールが迫って、並んでのフィニッシュとなったが、タイヤ1本分の差でメルリールに軍配。2日連続の歓喜と同時に、リーダージャージ奪取に成功した。
スピードマンたちの競演が続いたが、最終日だけは色合いが異なった。最大勾配18.8%のハラット・ウワイリドを上り、その後フィニッシュまでの約8kmを急ぐレイアウトを攻略できたのは、やはり総合系ライダーだった。
上りで一番に仕掛けたのはウィリアムジュニア・ルセルフ(スーダル・クイックステップ)。これを合図に、サイモンが登坂ペースを上げる。本来はここで独走に持ち込みたかったというが、フィン・フィッシャーブラックとラファウ・マイカのUAEチームエミレーツ勢がしぶとく食らいつく。3人はルセルフに追いついて、そのまま頂上へ。フィニッシュまでは平坦とあり、上りで引き離せないとなるとフィニッシュ前での勝負に集中するほかなかった。
区間&総合優勝のサイモン・イェーツ
4人の態勢は変わらず。後ろから数人が迫ってきていたものの、追いつかれる心配はない。あとは、誰が一番にフィニッシュするか。同時に、今大会の覇者が決まる。真っ先に加速したのはサイモン。ルセルフ、フィッシャーブラックも引かない。それでも、勝ち切ったのはやはりサイモンだった。
「ステージ優勝できてうれしかったと同時に、誰にリーダージャージが渡るのかの確信が持てなかった。複雑な時間だったよ。総合も獲ったと分かった瞬間は最高の気分だったよ。やり遂げた実感に満たされたね」(イェーツ)
チームを指揮したスポーツダイレクターのトリスタン・ホフマン氏も、劇的勝利に興奮を抑えられない。
「ひとりひとりが何位だったかというのは関係がなかった。とにかく個人総合優勝だけだったんだ。サイモンなら大丈夫だと思う反面、予想以上に他選手の調子も良さそうだった。結果的に、最後の1センチまでエキサイティングな戦いになったね!」
最終的に、サイモンが第5回大会の覇者となり、個人総合2位にはこれが実質のプロデビュー戦だった21歳のルセルフが殊勲の入賞。フィッシャーブラックも3位で続き、この先プロトンの中心に立つであろう選手たちの躍動も光った。
「素晴らしいデビュー戦になったよ。総合表彰台は僕にとって勝利に値する。上りでのアタックがうまくいって、良いタイミングでサイモンたちが追いついてきたりと幸運もあったけど、自信にするには十分な結果だ」(ウィリアムジュニア・ルセルフ)
日本から唯一参戦のJCL TEAM UKYOは、岡篤志・山本大喜・小石祐馬と、日替わりで逃げにジョインし、レース全体の流れを構築した。特に複数のステージで先導役となった岡は、コース途中に設けられるポイントを積み重ね、「モストアクティブライダー」を受賞。この大会の4賞(個人総合・ポイント・モストアクティブ・ヤングライダー)のひとつに位置付けられる、大きな勲章を手にした。
アルウラーの街並みを見渡せるハラット・ウワイリド展望台にて
ジャージがかかっていた最終・第5ステージではみずからが逃げに乗れず、代わりに動いた小石とスプリンターのマッテオ・マルチェッリが他選手の動きをチェック。チーム全体でこの賞を守り抜いた。
「彼らがいなかったらすべてを失っていました。とにかくジャージを守り切れてホッとしています。これを日本に持ち帰れることが本当にうれしい」(岡篤志)
また、トーマス・ペゼンティが個人総合23位で終え、同25位までに付与されるUCIポイントを獲得。大会前の目標に挙げていたステージ優勝には届かなかったものの、「日本から世界へ」を合言葉にまた一歩前進を果たした。
シーズン序盤恒例の中東シリーズはもう少し続く。この地での活躍が長いシーズンにもつながっていくことは、すでに実証済みである。今季を占ううえで重要な“アラビアン・ロード”から、まだまだ目が離せない。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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