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【ツール・ド・フランス2024 ルートプレゼンテーション】ツール史上初がたくさん詰め込まれたイタリア・フィレンツェ〜ニースまでスーパーハードな3週間
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかルートプレゼンテーションに登場したヨナス・ヴィンゲゴー
「2024年の第111回ツールとは、『1+1+1』と読み解くべき大会である!」
10月25日、パリの国際会議場パレ・デ・コングレで開催された2024年ツール・ド・フランスのルートプレゼンテーションにて、大会開催委員長クリスティアン・プリュドムはこう力強く断言した。
そう、イタリアがグランデパール(開幕)を迎え入れるのは記念すべき史上1回目であり、イタリア半島の小国サン・マリノを通過するのも史上1回目。さらにはフランスの首都パリにて、100年ぶり3度目の夏季五輪が開幕される関係で……パリ以外の都市でツール・ド・フランスが幕を閉じるのだって堂々史上1回目!
1903年の創設以来、長い歴史と伝統を積み重ねてきた世界最大の自転車レースは、こうして2024年の夏もまた、真新しい物語を綴る。
2024ツール・ド・フランス全体図
■イタリアのチャンピオンたちに捧ぐ
1924年大会でオッタヴィオ・ボッテッキアが、イタリア人として史上初めてツール総合覇者として君臨してから100年目。ばら色のレースの国の偉人たちに、黄色いジャージを擁するプロトンは、たっぷりとオマージュを捧げる。
第1ステージ
6月29日(土)、初日フィレンツェのグランデパールでは、まずは第2次世界大戦を挟んで2度の総合制覇を成し遂げたジーノ・バルタリの名を冠した広場を通過する。さらにはプリュドム氏が曰く「ツール初日としては史上最難関」、累積獲得標高3600mの難コースの果てに、ちょうど20年前にマルコ・パンターニが夭逝した地リミニへとたどり着く。
現時点では史上最後のジロ&ツール同一年制覇「ダブルツール」を成し遂げたパンターニの故郷、チェゼナティコから第2ステージはスタート。開幕地フィレンツェと共に、イタリアでの史上初グランデパール開催に名を冠するエミリア・ロマーニャ州が戦いの舞台。2020年ロード世界選手権@イモラで勝負坂となったガッリステルナを通過し、秋のセミクラシック、ジロ・デッレミリアでおなじみサン・ルカ寺院の激坂を2回上って下りる、ずばりパンチャー向きのコースだ。
第3ステージ
イタリアで過ごす3日目は、今大会最長229kmステージであり、今大会全部で8回予定されているスプリントステージの1回目でもある。またジロ・デ・イタリアの最高標高地点「チーマ・コッピ」でおなじみ、ファウスト・コッピに想いを馳せる機会でもあり、この日はコッピが天に召されたトルトーナを通過する。
そして翌日、この「カンピオニッシモ」が1949年ジロで伝説的な192kmの独走を成功させたピネロロの町から、今大会初の難関山岳ステージへ。当時のコッピが単独先頭で上り、1952年ツールでも山頂フィニッシュを制したセストリエールを越えると、ツールは一行は3日半過ごしてきたイタリアに別れを告げる。
■「史上1回目」がいっぱい
「開幕後これほど早く標高2000mを超えるのは、ツール史上初」と、またしてもプリュドム氏は「1回目」を強調する。なにしろろ第4ステージで大会の母国フランスへ帰還を果たしたその足で、プロトンは標高2642mのガリビエ峠に立ち向かうのだ!
ちなみに2024年大会に組み込まれた難関峠(2級、1級、超級)は全部で27個。史上最多と謳われた2023年大会より3つ少ないが、「標高2000m超の道が通算25km」で、これは昨大会の約2倍近い数字となるそう。
アルプスでのマイヨ・ジョーヌ争いは、1ステージ限りで一旦終了。山を早々と抜けだすと、その後4日間かけてワインの美味しい土地を巡りつつ、平地を突っ走る。
そのうち3日間(第5、6、8ステージ)は大集団スプリントフィニッシュが期待される。中でも大会8日目には、今から80年前に自由フランス軍を率い、ナチスの占領からパリを解放した……シャルル・ドゴール元大統領が眠るコロンベ・レ・ドゥゼグリーズで、史上1回目のツールステージフィニッシュを争う。
平地の合間には、今大会1回目の個人タイムトライアルも挟み込まれた。ブルゴーニュワインの産地の、特に「ルート・デ・グラン・クリュ」を駆け抜ける全長25kmの個人TT。中盤に全長1.5km・平均勾配6.5%の上りが登場するものの、大会委員長の予想によれば「総合優勝候補たちの間に大きなタイム差は生まれないだろう」。
2024年のツール・ド・フランス ファムの4賞ジャージ
むしろシャンパンの産地で行われる、第9ステージ・トロワ〜トロワ区間が、マイヨ・ジョーヌ本命を大きくふるいにかけるはずだ。ぶどう畑を縫うように描かれたコースには、土の道、いわゆる「白い道」が全部で14か所・通算32km点在する!
2018年からパリ〜トゥールをスプリンターズクラシックからグラベルライドへと作り替え、2022年の第1回ツール・ド・フランス・ファムでも、同じくトロワ周辺の未舗装路を使用した開催委員会は、ついに男子ツールにも小砂利の道をねじ込んだ。たしかに単体の未舗装路自体はれまでも組み込まれてきたが、「白い道巡り」はまぎれもなくツール史上1回目。
大会2連覇中のヨナス・ヴィンゲゴーにとっても「レース中にグラベルコースを走るのは初体験」であり、1回目の休息日の前日に仕掛けられた罠を、「得るものよりも失うもののほうが多い日になりうる」と大いに警戒する。
■未舗装、風、山、標高
個人タイムトライアル2区間、平坦8区間、丘陵4区間、山岳7区間で構成された21日間のバトルでは、風もまた、総合優勝候補たちを脅かす。
1回目の休息日明けのフィニッシュ地サンタモン・モンロンと言えば、誰もが2013年大会で風の大分断を思い出すし、2回目の休息日明けには、2009年や2016年に風が吹き荒れたモンペリエ一帯を横断する。ちなみに2009年と2013年の風ステージはいずれもマーク・カヴェンディッシュがさらい取ったから、単独史上最多となるツール区間35勝目に望みがかかる。
ただ、そのカヴ当人が「あまりにハードすぎて、ショックを受けている」と告白し、昨大会のヤスペル・フィリプセンが「完走へのモチベーションを保つのが難しい大会」と語ったように……大会2週目の3回(第10・12・13ステージ)と3週目初日の第16ステージを終えると、早々にスプリンターたちの活躍の機会は閉ざされる。
一方で山の戦いは徐々にクレシェンドしていく。第11ステージで中央山塊の起伏を乗り越えたら、2週目の終わりには、ピレネーの山頂フィニッシュ2連戦へと挑みかかる。
マーク・カヴェンディッシュ「あまりにハードすぎて、ショックを受けている」
土曜日の第14ステージは、おなじみ2000m超級トゥルマレをよじ登った先で、サン・ラリー・スラン・プラ・ダデに10年ぶりに帰還。なにより現世界王者マチュー・ファンデルプールの祖父「国民的ププ」レイモン・プリドールが、ちょうど50年前に、人生最後のツール区間勝利をもぎ取った忘れえぬ山だ。
続く革命記念日キャトーズ・ジュイエ(7月14日)の日曜日は、プリュドム氏の言葉を借りれば「今ツールで最も大切な1日」。198kmのコース上には5つの難峠が詰め込まれ、累積獲得標高は今大会最高4850mにも至る。現仏代表監督トマ・ヴォクレールが、渾身の努力でマイヨ・ジョーヌを守ったプラトー・ド・ベイユの山頂にて、もちろんフランス人たちの奮闘が待たれる。
■スーパーハードな3週目の、最終3日間
そしてクライマックスの3週目へ。前述通り、休息日明けにスプリンターが最後の全力疾走を終えたら、残す5日間は、ひたすら雄大なアルプスの山々と対峙する。
大会16日目には、クリテリウム・デュ・ドーフィネで2度テストを済ませたシューペルデヴォリュの山道が、いよいよ史上初めてツールステージを迎え入れる。その翌日には1975年、ツール史上初めてシャンゼリゼで戴冠を受けたベルナール・テヴネが、マイヨ・ジョーヌを着用して走った1日目……のスタート地だったバルスロネットが、今年は執拗なアップダウンコースの終点となる。
「今大会以上にスーパーハードな3週目」と、2024年大会で3連覇を目指すヴィンゲゴーは断言する。だったらラスト3日間は、間違いなく、ウルトラハードだ。
第19ステージは、わずか145kmの短距離コースながら、累積標高差4600mにも達する。行く手に立ちはだかるのは3つの巨大峠。いずれも標高は2000mを越え、ステージの真ん中では、ボネット山頂の標高2802mの高みまで上り詰める。
この夏95歳で天寿を全うした「トレドの鷲」フェデリコ・バアモンテスが、先頭で2度走り抜けたボネット峠が、16年ぶりにツールに帰ってくる。ニースでの大会閉幕が決まった時に、アルプ・マリティム県(県庁所在地はニース)に聳え立つこの高山を、開催委員長は「すぐに組み込もうと考えた」という。舗装された自動車道路としては、フレンチアルプス最高標高地点を誇り、当然、ツール史上でもこのボネット山頂こそが最高峰。高山を得意とするヴィンゲゴーも、「レース本番でこれほど高い標高を走ったことがない」と打ち明ける。
第20ステージ
イゾラ2000のスキーリゾートで勝負を決した翌日、大会最終日前日の第20ステージでは、今大会最後にして4度目の山頂フィニッシュを争う。
ニース閉幕はまた、歴代開催委員長の夢である「山と大会フィナーレの接近」をも可能にした。前日よりもさらに短い133kmのコースでは、4つの峠と標高差4400mが襲い掛かる。60年以上ツールに登場していないというブロス峠の九十九折で始まり、この春のパリ〜ニースでタデイ・ポガチャルが制したクイヨル峠で締めくくられる。
第21ステージ
■35年ぶりの「真実のテスト」
クイヨルの山のてっぺんにたどり着いても、いまだマイヨ・ジョーヌ争いが終わったわけではない。例年ならパリへと向けてのんびり凱旋パレードを楽しむツール一行だが、2024年は、最後の一瞬まで気を抜くことは許されない。今大会4つ目の外国モナコと、ニースとを結ぶ最終ステージは、全長34kmの個人タイムトライアルなのだ。
最終日に個人TTが登場するのは実に35年ぶり。ツールにおける個人タイムトライアル導入90周年記念を祝うためであり、1989年大会でグレッグ・レモンが8秒差で総合をひっくり返したように……大会最終日までサスペンスをつなぎとめるため。コースを作成した競技委員長は、「1分半から2分程度の差なら逆転可能」と確信する。
2009年大会初日に別府史之&新城幸也が人生初めてのツールを走り出したのと、まったく同じ地点から、大会最後の「真実のテスト」は始まる。そこから登坂距離8kmを超えるテュルビの上りに立ち向かい、直後には、パリ〜ニースでおなじみのエズ峠の激勾配をもよじ登る。長い下りも冷静にこなさねばならないし、最終盤には地中海岸道路プロムナード・デ・ザングレ(英国人の散歩道)での平坦路とUターンもあり。
運命のフィニッシュラインは、マセナ広場に引かれる。ナポレオン1世が建設を命じたパリのエトワール凱旋門の代わりに、ナポレオン3世が整備に尽くした「街の宝石」が、第111代ツール・ド・フランス総合覇者の戴冠を見届ける。史上1回目……尽くしのこの大会では、マイヨ・ジョーヌをかたどった新たな優勝トロフィーもお目見えする。
なによりコロナ禍の2020年8月末には四方を高い壁で覆われ、無観客状態で寂しくツールの出航を祝ったこのマセナ広場が、2024年7月末には、世界中から詰めかけたたくさんの自転車ファンで覆いつくされることだろう!!!
2024年ツール・ド・フランス ファムのルートも発表された
■男子ツール→五輪→女子ツール
男子ツールがニースで閉幕したわずか5日後、パリに聖火が灯される。開幕の翌日7月27日(土)には男子タイムトライアルが、その1週間後の8月3日(土)には男子ロードレースが執り行われる。
自転車ファンにとっては大忙しの夏となる。なにしろ8月11日(日)にパリ五輪が閉幕した翌日すぐに、オランダのロッテルダムにて、第3回ツール・ド・フランス ファムが始まる。
ちょうど70年前に男子ツールが「史上1回目」の外国スタートを切ったのが、まさにオランダだった。また第1回・2回の女子マイヨ・ジョーヌを輩出したのも、やはり女子自転車界最強のオランダ。この国が女子ツール「史上1回目」の外国スタート地に選ばれたのは、開催委員長マリオン・ルス曰く「極めて自然なチョイス」とのこと。
強風のオランダから、アムステル・ゴールドレースとリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの勝負地を豊富に織り交ぜたベルギーの起伏を経た女子ツール一行は、大会4日目にフランスに入国。最後に目指すは……初めてのアルプス難関山岳コース!
第1回大会では激坂プランシュ・デ・ベルフィーユで、さらに昨大会では伝統峠トゥルマレで勝負を繰り広げてきた女子プロトンは、いよいよ「ツールで最も人気の高い山」ラルプ・デュエズの九十九折へと挑戦する。獲得標高差はなんと3900m。昨大会の最難関ステージより900m多いという。
全長約14kmの山道には、ご存知、計21のヘアピンカーブが存在し、そのカーブの1つ1つには、ツールでこの山を制した選手の名が記されたプレートが設置されている。つまり自転車界でも特別なこの山に、女子チャンピオンにも、自らの快挙を永遠に刻みつけるチャンスがもたらされる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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