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【Cycle*2023 パリ~トゥール:レビュー】ビッグサプライズ! イスラエル・プレミアテックのトレーニー、ライリー・シーハンがアメリカンライダー初制覇!
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介パリ〜トゥール 表彰台 優勝ライリー、2位アスキー、3位ヨハンネセン
これぞアメリカンドリーム! ぶどう畑の細道を砂塵を巻き上げながら進んだレースは、誰も何も想像することができなかった。その向こうにあったシナリオの結末は、ひとりとして描くことはできていなかったのではないだろうか。
第117回目を迎えた伝統のシーズン終盤戦、パリ~トゥールは逃げ切った5人の勝負になり、23歳のアメリカンライダー、ライリー・シーハンがモノに。トレーニー(研修生)としてイスラエル・プレミアテックに合流していた、世界的には無名のライダーが大・大・大金星。同時に、アメリカ人としては初めてパリ~トゥールの覇者になる記念すべきレースになった。
「フランスでレースに臨むのは久々で、それだけでとてもうれしかった。優勝できると思っていたかって? これっぽっちも思わなかったよ! でも、チームは良いメンバーをそろえてスタートラインについていた。10月にしては暖かく、チャレンジし甲斐のあるレースになると考えていたんだ」(シーハン)
214kmの全行程中、フィニッシュまでの70kmで「シュマン」と呼ばれるぶどう畑のグラベル区間が断続的に登場するコース。その距離合計10kmで、シュマンの間には短めの丘越えがいくつも待ち受ける。平地系のレースとして名高いが、必ずしもスプリンターが主役に就けるわけではない。大逃げが決まったこともあったし、小集団での勝負になることも少なくない。
前半部分で集団から飛び出した5人が長くレースを先導したが、とりわけ元気だったのがルイス・アスキー(グルパマ・エフデジ)だった。一時は4分まで広がった逃げとメイン集団との差は、中間地点を通過後に着実に縮まっていた。ただ、アスキーはコースが激しくなっていく中をひたすら突き進んで、一緒に逃げてきたメンバーを振り払う。フィニッシュまで約40kmを残しているところで、独走態勢に入った。
「調子が良すぎるくらいだった。それでもひとりになるのは早すぎたかもしれない。“あぁ、これからが大変だ……”と思ったね。でも、調子の良さが僕にとっては大きな励みだったんだ」(アスキー)
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube
【ハイライト】パリ〜トゥール|Cycle*2023
快晴のパリ〜トゥール
メイン集団ではグラベルセクションに入るたびにアタックがかかっては、集団全体がそれを許さない……といった構図が続く。そうした中で、優勝候補に挙がっていたアルノー・ドゥリー(ロット・デスティニー)はバイクトラブルで後退、欧州王者ジャージを着るクリストフ・ラポルト(ユンボ・ヴィスマ)もバイク交換で一時的に後ろへ下がった。
流れが変わったのはフィニッシュまで22kmのタイミング。メイン集団から数秒先行していたラスムス・ティレル(ウノエックス・プロサイクリング チーム)が引き戻されたところで、オリヴィエ・ルガック(グルパマ・エフデジ)がアタック。それをシーハンがすかさずチェック。トビアス・ヨハンネセン(ウノエックス・プロサイクリング チーム)、ヨリス・デルボーヴ(サン ミッシェル・マヴィック・オーベル93)もついてきた。
4人の勢いは集団を上回り、少しずつではあるもののタイム差を広げていく。この段階で集団は17人。ラポルトら強力ライダーが控えてはいるものの、組織だって追えるチームが少ない。前を行く選手たちが有利になりつつある。
残り11kmで4人は先頭を走っていたアスキーに合流。グルパマ・エフデジ勢が2人と数的優位となり、ルガックが牽引役に回ってアスキーは最終局面に備えて脚を休める。シーハン、ヨハンネセン、デルボーヴも逃げ切りにかけて先頭交代に応じる。
この状況に、さすがのメイン集団も焦り始めた。残り5kmで19秒だったタイム差は、2kmほど進んだところで20秒以上に広がる。残り1kmを示すフラムルージュを通過する段階で15秒差まで戻したが、時すでに遅し。優勝者は先頭の5人から出ることが決定的になった。
先頭グループによる小集団スプリント
最終コーナーを抜けると最後の500m。ルガックがスピードを上げて最後のお膳立て。残り300mで早駆けに出たのはデルボーヴ。その後ろに潜んだシーハンが冷静に立ち回ると、フィニッシュまでの200mを先頭で駆け抜けた。並びかけたアスキーやヨハンネセンに競り勝ち、パリ~トゥールのタイトルをつかんだ。
「すべてのグラベルセクションで集団の前方を走った。みずからの意思で、積極的にレースを進めないといけないことは分かっていたからね。アタックしたのもグラベルに入る直前だった。集団のペースが緩んだから、仕掛けるには良いタイミングじゃないかと思ったんだ。ただ、優勝につながる動きになるだなんて思っていなかったけど」(シーハン)
もともとはヨーロッパでプロになることを目指し、フランスのクラブチームで走っていた。アメリカのナショナルチームに選考されたこともあったけど、プロ契約はつかめなかった。それもあって、今年からアメリカで始まった「ナショナルサイクリングリーグ」(NCL)に走りの場を移していた。自国のレースでも今回と同様に、数人での逃げからスプリントで勝つことがしばしば。つまりは、この勝利は得意パターンに持ち込んだものだったのだ。
「この時期はアメリカでのレースが少ないので、チャンスをもらってヨーロッパに戻ってきた。実は、チーム(イスラエル・プレミアテック)からオファーがなかったらどうしようかと思っていたんだ。自宅にいてもレースがないからどう過ごそうかとね。この勝利で僕個人やアメリカ人ライダーの評価が上がると良いね。若い選手たちにはヨーロッパでチャレンジしてほしいし、きっと通用するはずだよ」(シーハン)
とりあえずは今年と同様に、自国のデンバー・ディスラプターズで2024年シーズンも送ることが決まっているというシーハンだけど、あまりに大きな勝利に関係者が黙ってはいないだろう。彼を取り巻く環境が劇的に変化するきっかけになる可能性は高い。ひとまずは参戦が決まっている、ジャパンカップでその走りをチェックしておこう。
歓喜のシーハンに続き、2位には1日を通して逃げ続けたアスキーが、3位には成長著しいヨハンネセンが入った。それぞれ22歳と24歳。終わってみれば、将来を嘱望される選手たちが表彰台を締める結果となった。
トニー・ガロパンのラストレース
ヤングパワーがポディウムを輝かせた一方で、長くプロトンに位置してきたグレッグ・ファンアーヴェルマートとミヒャエル・シェアー(ともにアージェードゥーゼール・シトロエン チーム)、トニー・ガロパン(リドル・トレック)がキャリア最終レースを終えた。それぞれ58位、120位、64位で、優勝争いには絡めなかったけど、笑顔でレースシーンからの幕を引いた。
「2011年に勝ったこのレースでキャリアを終えられることの喜びといったらないよ。本当に美しい、それに尽きるよ」(ファンアーヴェルマート)
「グレッグとは13年間チームメートで、何でも言い合える最高の友人だ。最後のレースも一緒だなんて、僕は幸せ者だよ。彼とのたくさんの思い出にもうひとつ、大事なものを追加できるね」(シェアー)
「これ以上ないレースだった。最後の最後まで戦うことができたと言い切れるよ。特に今日の応援には興奮させられた。一生忘れることのない、素晴らしい1日だよ」(ガロパン)
活躍した選手たちが喜びを爆発させる傍らには、去りゆく者の姿。世代の入れ替わりは、シーズン末のレースであるパリ~トゥールならではの光景である。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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