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【Cycle*2023 イル・ロンバルディア:レビュー】タデイ・ポガチャルが史上3人目“落ち葉のクラシック”3連覇! キャリア最終レースのティボー・ピノは笑顔でプロトンに別れ
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介イル・ロンバルディア 表彰台 優勝ポガチャル、2位バジオーリ、3位ログリッチ
偉大な2人に並んだ。2年前と同様にパッソ・ディ・ガンダでみずから動いて、頂上からの下りで勝機を引き寄せた。あのときより、ダウンヒルテクニックが向上していることもみずからを味方し、そして鼓舞した。フィニッシュへは独走。やっぱり、この男の勝ち方は絵になる。
シーズン最終盤を彩るイル・ロンバルディア。ワンデーレース最高峰「モニュメント」の1つに位置づけられる格式高きレースは、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)が独走勝利。一昨年、昨年に続く大会制覇は、上りで数回のアタックののちに下りでライバルとの差を広げる、前回までとは異なるスタイル。フィニッシュまでの約30kmをひとりで駆け抜けて、アルフレッド・ビンダ、ファウスト・コッピと並ぶ史上3人目のロンバルディア3連覇を達成した。
「またひとつ、夢がかなったよ! 3回目の出場ですべて勝利。うち2回はベルガモのフィニッシュへ一番に到達。自分でもすごいことをしたと思うよ。本当に、本当にアメージングだ!」(ポガチャル)
このレースの時期だというだけで、なんだかエモーショナルな感覚に陥る。長いシーズンがわれわれ観る者に別れを告げようとしている。ライダーたちはシーズンエンドとは思えないほどに、ロンバルディアのタイトルを賭けて激闘を繰り広げる。それもまた、ファンの心にしみる。
今回はポガチャルのほか、直前にボーラ・ハンスグローエへの来季移籍を発表したプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)、同じく直前にチーム合併の方針が撤回されたことで残留が決定的になったレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が参戦。シーズンの最後に来てレースに集中できる状況が整った彼らが3強として、優勝争いの中心に立つことはスタート前から明白だった。
しかし、早々にレムコが躓いた。リアルスタートから20kmほど進んだところでクラッシュに巻き込まれてしまったのだ。左半身を打ち付け、ところどころ傷を負いながらもプロトンへと戻っていく。ときおりメディカルカーに対応を要求する場面もあったが、走りは継続する。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube
【ハイライト】イル・ロンバルディア|Cycle*2023
マルチェルージに追いついたベン・ヒーリー
かたや、レースそのものを構築したのはユンボ・ヴィスマだった。現在の強さの礎となったログリッチに花を持たせようと、アシスト陣が早くから仕事に勤しむ。16人が先頭グループを形成するが、全行程238kmの長丁場だ。ある程度のリードを彼らに許しつつも、タイム差を計算に入れながらユンボ・ヴィスマはペーシングを図る。
そんな流れが変わり始めたのは、フィニッシュ前90kmから上り始めた、この日4つ目の登坂区間パッソ・デッラ・クロチェッタ(登坂距離11.0km、平均勾配6.2%、最大勾配11%)だった。先頭グループから少しずつ選手がこぼれ始め、メイン集団からはベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)が勢いよく飛び出す。これにオスカー・オンレー(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)が続いて、前から降ってきた選手たちを次々とパスしていく。3強を擁するチームもバチバチしていて、UAEチームエミレーツ勢が少し動くとユンボ・ヴィスマ、スーダル・クイックステップもすかさずチェック。早くも駆け引きが始まった。
クロチェッタと続くザンブラ・アルタ(9.5km、3.5%、10%)で前線は大幅にシャッフルして、やがて先頭はヒーリーと逃げ残りのマルティン・マルチェルージ(グリーンプロジェクト・バルディアーニCSF・ファイザネ)に。1分後ろを走るメイン集団では、リチャル・カラパス(EFエデュケーション・イージーポスト)や前回3位のミケル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)ら数人が絡む落車が発生。それでもお構いなしに、集団は勝負どころであるパッソ・ディ・ガンダ(9.2km、7.3%、15%)へと急いだ。
フィニッシュ前40kmから始まったパッソ・ディ・ガンダの上りで、ヒーリーが単独先頭に立つ。ただ、すぐ後ろにはメイン集団が迫っている。主導権を握るのはUAEチームエミレーツ。一気にペースを上げて集団の崩壊を試みると、アダム・イェーツの牽きでその状況は決定的に。ポガチャルはもとよりログリッチら各チームのエースクラスが対応する中、苦しみ始めたのはレムコ。序盤の落車が影響していることは誰の目にも明らか。アダムの動きをチェックしていたジュリアン・アラフィリップがレムコの状況に気付き、前から下りてきた。
落車してダメージを負ったエヴェネプールを守るチームメートたち
「膝と臀部、背中がすごく痛かった。走っているうちに傷口も開いてしまって、落車の影響がもろに走りに影響した。残念だけどこれが現実だよ」(エヴェネプール)
ヒーリーをキャッチして、前線に残ったのは11人。マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)のアタックをきっかけに、精鋭グループが一瞬分断。ポガチャルとログリッチはその後ろに残って、様子を見合っている。マークが緩んだタイミングでポガチャルがブリッジを試みて前へ戻ると、ログリッチもテンポで追って合流。そして、パッソ・ディ・ガンダの頂上が見えてきたところでポガチャルが満を持して飛び出した。
すぐにアレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)が対応し、少しおいてログリッチやアンドレア・バジオーリ(スーダル・クイックステップ)らが追いつく。6人のパックで頂上を通過したが、下りが始まったところでまたもポガチャルが動いた。
「下りが始まった時にみんなが様子を見合っていて、前に出ていた僕との差が少し空いたんだ。だったら行ってしまおうと。2年前も同じ下りを走ったけど、そのときより巧くなっている自信はあったし、実際にその通りだった。あの区間が決め手になったね」(ポガチャル)
ライバルとの差は15秒、20秒……と広がっていく。リードを稼ぐポガチャルの援軍は、やはりアダム。上りでの遅れを下っている間に取り戻して、ライバルたちの追撃の芽を摘み取る役目にシフトした。抑えが奏功して、ダウンヒル区間を終える頃にはタイム差32秒。続く平坦区間でポガチャルに両脚が攣るアクシデントが発生したものの、素早く補給を摂って回復。最後の丘であるコッレ・アペルトを上る頃には1分のリードを得ていて、大観衆が左右を埋め尽くす上りはウイニングライドならぬ“ウイニング・クライミング”になった。
「すべての上りを終えて、最後の2kmはとても楽しい時間だった。3連覇を達成したけど、今日は特に夢のようなシナリオで、脚が痛かったけどそれ以上に喜びが勝った。われながらやり遂げたことが誇らしいよ」(ポガチャル)
イル・ロンバルディア3連覇のタデイ・ポガチャル
ロンド・ファン・フラーンデレンに続く、2023年2つ目のモニュメント制覇。最終的に16勝を挙げた一方で、怪我やツール・ド・フランスでの大ブレーキもあって浮沈の大きなシーズンだった。だけど、終わりよければすべてよし。安堵とともにシーズンを終えることができる。
「シーズン中の失敗に対する復讐とまでは考えていなかったけど、やっぱり勝って終わることができれば安心する。これで今年は終わりだよ。手首の骨折もあって不思議な感覚だったけど、年間を通してみればおおむね良いシーズンだったと思う。少しリラックスしたら、新しいことにトライしてみて来季につなげられたらと考えているよ」(ポガチャル)
結果的に、ポガチャルと2位争いの選手とは52秒差。6人が表彰台をかけてスプリントして、2日前にグラン・ピエモンテを勝っていたバジオーリが殊勲の準優勝。ログリッチが3位に続いてユンボ・ヴィスマの一員としての最後のレースを終えた。
「ポガチャルの次だからね。僕にとってはパーフェクトなレースだったよ。これでチームを去ることになるけど(2024年はリドル・トレックで走る)、4年間の感謝を結果で示すことができてうれしい」(アンドレア・バジオーリ)
また、上りで遅れたレムコは9位。傷みを癒して、10月15日のクロノ・デ・ナシオン(個人タイムトライアルで競うフランスのシーズン最終戦)でシーズンを締める。
キャリア最終戦のティボー・ピノ
そして、このレースがキャリア最終戦だったティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)は、ポガチャルから8分52秒差の37位でフィニッシュへ。コッレ・アペルトにはおなじみの「ティボー・ピノ応援団」が駆けつけ、最後のひと踏ん張りを後押し。彼らが熱狂しすぎたせいでピノたちのグループが思いがけず足止めを食いかけるハプニングもあったけど、優勝争いをしていたわけではないから“ご愛嬌”ということで……。
「今日は勝負に挑める脚ではなかったね。でも、僕の最後にふさわしいレースだった。こんなに美しく、壮大なレースが存在していることが誇らしいよ。僕はここで2018年に勝っているんだ。あの日のことも、今日のことも忘れないだろうね。素晴らしい思い出だ」(ピノ)
2023年のUCIワールドツアーは、10月12日から17日に開催されるグリー・ツアー・オブ・グワンシーで閉幕。われわれにとっては、10月13日から15日にレースやイベントが展開されるジャパンカップサイクルロードレースが大きな楽しみに。華やかに、明るく、シーズンを終わらせようではないか。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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