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【Cycle*2023 グラン・ピエモンテ:レビュー】アンドレア・バジオーリが4選手による争いを制し初優勝 大注目のワウトは丘陵地帯でのハイペースについていけず
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介グラン・ピエモンテ表彰台 優勝バジオーリ、2位ヒルシ、3位アランブル
年によってコースが様変わりしながらも、伝統と格式はきっちりと保っているグラン・ピエモンテ。107回大会の今回は、コース後半に丘越えが集中する設定で、パンチャーや上れるスプリンターに有利と見られていた。レースは序盤からハイペースで展開し、予想通りに丘陵部で局面が大きく変化。そこで抜け出した4人がそのまま逃げ切り、最後はアンドレア・バジオーリ(スーダル・クイックステップ)が接戦を制した。
「自信をもってレースに臨むことができていたんだ。ベストを尽くせば良い結果が得られるだろうと思っていた。イタリアでのワンデーレースはこれが初勝利。最高の気分だよ!」(バジオーリ)
15のUCIワールドチームが集結し、全22チームで争われたレース。いつものごとくイル・ロンバルディアの前哨戦的な意味合いが強かったが、なかにはワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)のように、3日後に控えるUCIグラベル世界選手権を見据える選手も最終調整の場にこのレースを選んでいる。
リアルスタート直後からハイペースでレースが進み、レース半ばまで続いた平坦区間では3人が少しばかりのリードで先行を続ける。
流れが変わったのは丘陵地帯に入る90km地点を目前にしたタイミング。前の3人を追ってメイン集団から次々とアタックがかかると、この日最大の14人が先頭グループを形成。多くのチームがメンバーを送り込み、集団はワウト擁するユンボ・ヴィスマが主に牽引役を引き受ける。
一時は2分30秒ほどまで開いた先頭グループとメイン集団との差だが、この程度であればまだ集団有利。上りをこなしながら少しずつギャップを減らしていく。
この日3つ目の丘、アルペッテで先頭グループが崩れると、その後方でも大きな変化が生まれた。登坂距離4.9km・平均勾配9%、最大で17%を数える一番の難所で、ワウトが後退。ポジションを上げられないまま、この段階で実質終戦となってしまった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】YouTube
【ハイライト】グラン・ピエモンテ|Cycle*2023
ファンアールトのためのユンボ・ヴィスマ隊列
「今日は僕の日ではなかったね。勝ちたいと思っていて、チームも僕を中心にプランを考えてくれていた。チームメートも助けてくれたけど、それに応えられなかった」(ファンアールト)
アルペッテの頂上では、アロルド・テハダ(アスタナ・カザクスタン チーム)、ヨナタン・カイセド(EFエデュケーション・イージーポスト)、ルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)、デヴィデ・フォルモロ(UAEチームエミレーツ)が逃げ残ってリードを続ける。メイン集団は一時12人まで絞られたが、下りで多くが復帰し30人ほどまで人数を戻す。
脚のあるメンバーだけが残ったメイン集団は、最後の上り・プラスコルサーノを前に先頭4人をキャッチ。ついにレースを振り出しに戻すと、間髪入れずにこの秋好調のマルク・ヒルシ(UAEチームエミレーツ)が飛び出した。
「逃げにフォルモロが入ってくれて、僕は集団待機が可能になった。他チームの消耗を誘って、最後の上りで僕が仕掛けることもプラン通り。完璧なレース展開だった」(ヒルシ)
ヒルシの動きに合わせたのがバジオーリ。2人が先頭に立った時点で、フィニッシュまでは17km。プラスコルサーノの頂上到達に前後してアレクサンデル・アランブル(モビスター チーム)とギヨーム・マルタン(コフィディス)が先頭合流を果たすと、4人の逃げは一気に加速。下りではイネオス・グレナディアーズやアスタナ・カザクスタン チームが主に追いかけて、タイム差が10秒を切るところまで迫ったが、その後の平坦区間で4人がペースを構築すると、差は拡大していった。
やがて逃げ切りは確実なものに。残り500mでマルタンが一番にアタックを試みるも、これは決まらず。アランブルが先頭に立って最終コーナーを抜けると、いよいよ優勝を賭けたスプリント。4選手の争いは、最後バジオーリとヒルシのスプリント力にゆだねられる形になって、わずかな差でバジオーリに軍配が上がった。
小集団スプリント勝負はバジオーリに軍配
「一緒に逃げてきた3人の動きを予測できたことが勝因だね。最終コーナーを抜けたらすぐにアランブルがスプリントをすると思ったし、ヒルシにもスピードがあることは分かっていた。僕も持っている力をすべて出してスプリントをしたよ」(バジオーリ)
“ウルフパック”スーダル・クイックステップは、これで今季55勝目。これだけ勝利を重ねながらも、チームの先行きは不透明だ。ユンボ・ヴィスマとの合併話が熱を帯びる一方だが、選手たちはただただ目の前のレースに集中する。バジオーリ個人は来季からリドル・トレックへの移籍が決まっており、4年間過ごしてきた現チームでの最後の日々に感慨を抱いている。
「このレースが終わったら、残すところあと一戦。勝ってチームに感謝を伝えたいと思っていたんだ。本当に感動的だよ。僕はチームメートやスタッフが今後もうまくやってくれると信じている。今日の勝利は彼らに捧げるよ」(バジオーリ)
バジオーリ、ヒルシ、アランブルと表彰台を占めたはるか後方では、ワウトがチームメートらと完走を目指して終盤区間を走行。最終的にバジオーリから3分37秒差の52位でレースを終えた。ターゲットに据えるグラベル世界選手権への最終調整としてはいささか物足りない感じもするが、本人は心配ないと言い切る。
「初めて走るレースだったから、どう攻略すべきかイメージできていなかったことが反省点だね。グラベル世界選手権へは何の不安もないよ。今日のレースとはまったく要素が異なるし、イメージもできている。今は楽しみでいっぱいさ」(ファンアールト)
深まる2023年シーズン。10月7日にはイル・ロンバルディア、同15日にはジャパンカップサイクルロードレースと、観る者にとっても大事な、大事なレースが控えている。終わりゆくシーズンに思いを馳せつつ、残るレースへ心を通わせていきたい。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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