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サイクル ロードレース コラム 2023年9月18日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2023 レースレポート:第21ステージ】ユンボ・ヴィスマが同一年グランツール全制覇!偉大なるチャンピオンと共に表彰台の頂点に君臨したセップ・クス「とてつもなく誇らしいし、大いなる名誉に感じる」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ヴィンゲゴーとログリッチに挟まれて表彰台の頂上に立つセップ・クス

ヴィンゲゴーとログリッチに挟まれて表彰台の頂上に立つセップ・クス

手に汗握るサスペンスと、最高の大団円。最後の1mまで興奮に満ちていた2023年ブエルタ・ア・エスパーニャが、初秋のマドリードで幕を閉じた。深紅のジャージをまとったセップ・クスが、生まれて初めてグランツール表彰台の頂点に立ち、3つのカラーに包まれたユンボ・ヴィスマが、3人の偉大なるチャンピオンと共に、自転車界の歴史の1ページを刻んだ。

「この場にいることが信じられない。いつもなら、僕は別の場所から、表彰台の上の2人を眺めている。そんな彼らと共に、ここブエルタで表彰台の上に立てたことがとてつもなく誇らしいし、大いなる名誉に感じる」(クス)

2023年に開催された3つのグランツールの、トータル約9900kmの旅も、ついに最後の101.5kmを迎えた。大雨のバルセロナから走り出したスペイン一周の、3週間にわたる熾烈な総合争いは、すでに24時間前に決着がついていた。マドリード郊外のサルスエラ競馬場から走り出した148人のプロトンは、のんびりとしたパレードランへ走り出した。

ブエルタの終わりは、時に、長いキャリアの終わりも意味した。前日一緒にグルペットでフィニッシュラインを越えた39歳ルイスレオン・サンチェスと37歳ホセ・エラダ、さらには40歳のダニエル・ナバーロは、母国スペインで、人生最後のグランツールステージを満喫した。37歳のミカエル・シュレルにとっては、この日こそが正真正銘プロ人生最後のレースだった。

記念撮影は、何度も、繰り返し、行われた。ピンク・黄・赤のラインがあしらわれたスペシャルジャージを身にまとって、総合2位ヨナス・ヴィンゲゴーや総合3位プリモシュ・ログリッチ、さらにはユンボ・ヴィスマの仲間たちが、赤いバイクにまたがるクスを取り囲んだ。同一年に同一チームがジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャのすべてを制覇したのは、1935年のブエルタ誕生で現行の3大ツール制が始まって以来、初めての快挙だった。

無料動画

【ハイライト】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第21ステージ|Cycle*2023

誰もがゆっくりとマドリードの市街地を目指した。それでも目抜き通りに引かれた全長5.8kmの最終周回コースが近付くにつれて、徐々にスピードは上がっていく。総合王者を擁するユンボ・ヴィスマが、いつしか隊列を組み上げた。

こんな伝統的な風景は、しかし、突然打ち切られた。だって……真剣勝負は、まだ終わってはいなかったのだ!1回目のフィニッシュラインくらい静かに8人全員で先頭で通過したかったユンボの願いも、最後の機会にマドリードの周回を先頭で楽しみたかったLLサンチェスの想いも、ギラギラするような野心に吹っ飛ばされた。

早々とユンボから制御権をもぎ取ったのは、アルペシン・ドゥクーニンクだ。2回目のフィニッシュライン通過時に与えられる中間ポイントを収集するために、大会にいまだ残る6人全員が、力づくで隊列を走らせた。なにしろ4色のリーダージャージの中で……グリーンジャージだけが、いまだ最終的な持ち主を確定していなかった。4日目からポイント賞首位の座を守り続けてきたカーデン・グローブスと、2位レムコ・エヴェネプールとの差は、たったの19ポイントしかなかった。

カーデン・グローブス

カーデン・グローブス

「今日は、本当にステージが欲しかったし、グリーンジャージを守りたかった。レムコがジャージを脅かす存在であり……しかも、彼は、なにかをトライしてくるに違いないと確信していたんだ」(グローブス)

実のところ、この時点では、エヴェネプールはプロトンの最後尾でおとなしく過ごしていた。中間スプリントに混ざる様子など、ちっとも見せなかった。それでもアルペシンは毅然と前へ突き進み、着実にグローブスの先頭通過を成功させた。ポイント差は39に押し広げた。フィニッシュラインでは50ポイントが与えられるから、数字の上では、いまだ確定したわけではなかった。

アルペシン隊列の猛攻が終わった瞬間に、入れ替わるように、今度はボーラ・ハンスグローエが猛攻に転じた。「ちょっとしたカオスを創り出したかったんだ」というニコ・デンツとレナード・ケムナの2人のタンデムに、ルイ・コスタも素早く飛び乗った。この日の朝、母国ポルトガルのリスボンが、来年のブエルタ開幕地に指名されたばかりだった。

続けてさらなる爆弾が投下された。7月の終わりに、タデイ・ポガチャルがシャンゼリゼを引っ掻き回したように、9月のマドリードの街角を、エヴェネプールが、とてつもない混乱に陥れた。いきなり集団の最前列に躍り出ると、猛烈な加速を切ったのだ!

「特に何も計画はしていなかった。でも、前方で逃げ出した選手の名前を聞いた時に、合流するには最高のメンバーだと考えた。しかも僕に続いてイネオスの選手たちが飛び出してきたから、これは全力で行くべきだと悟った」(エヴェネプール)

決してライバルの監視を怠らなかったグローブスは、間髪入れずに、後輪に飛び乗った。フィリッポ・ガンナとイネオスの2人のチームメートも後に続いた。いつしか前方に合流し、逃げ集団は6人になった。現役タイムトライアル世界王者エヴェネプールに、元TT王者であり現アワーレコード保持者のガンナ、元ジュニア世界TTチャンプのケムナという、プロトン屈指のルーラーが一堂に会した。コスタとグローブスを含めた5人が、今大会でステージを制した絶好調の実力者だった。もちろんデンツだって、今年のジロで、区間2勝を叩きだしている。

これほどまでの実力者集団を、絶対に逃すわけには行かなかった。メイン集団に残された複数のスプリンターチームが、入れ代わり立ち代わり、必死に前を追いかけた。しかし2つの直角カーブと3つのUターンで構成されたTの字型の周回コースでは、思うように追走スピードが上がらない。後方に留まったイネオスやアルペシンのチームメイトたも、上手に追走の邪魔をした。

遠慮がちに後方に留まっていたグローブスも、いつしか真剣に前を引き始めた。6人の誰もが逃げ切りを信じた。残り3km、リードはもはや8秒しか残っていなかった。それでもエヴェネプールは、改めてペダルを力強く踏み込んだ。

「最終ステージを本当に楽しんだ。勝つことは難しいことは分かっていたけれど、最後まで全力を尽くした。このブエルタを最高のやり方で終えたかったんだ」(エヴェネプール)

ラスト1kmのアーチを潜り抜けた直後に、6人は、ほんの少し顔を見合わせてしまった。残り500mでは、とうとう尻尾をプロトンに捕まえられた。それでも、最後にもう一度だけ、エヴェネプールが猛烈にフィニッシュラインへと突進して……。

「たとえスプリントにもつれ込んでも、僕には追加の力を絞り出せると分かっていた。それにレムコの最終数百メートルの加速が、発射台代わりになった。僕にとっては大きなアドバンテージだった」(グローブス)

あまりに忙しない勝利だったせいか、両手を挙げることさえ出来なかった。それでもグローブスは、誰よりも速い脚と強い意志とで、今大会3度目のステージ優勝を手に入れた。同時に、必死に追い求めてきた「キング・オブ・スプリンター」ジャージも、しっかりとつかみ取った。オーストラリア人として初のブエルタポイント賞であり、アルペシン・ドゥクーニンクにとっては、ツールのヤスペル・フィリップセンに続くグランツール2大会連続のグリーンジャージだった。

グランツール最終日の平坦ステージとしては、おそらく2015年ジロ以来となる衝撃的な逃げ切り勝利を演出したエヴェネプールは、自身のステージ順位こそ8位に沈んだ。それでも表彰式には、2回登場した。第13ステージで大失速を喫した翌日からの8日間で、なんと6回の逃げを企てーーうち5回で逃げ切り、うち2回で区間勝利ーー、山岳賞とスーパー敢闘賞に輝いた。

そして、とびっきりスリリングだった最終ステージの終わりに、ユンボ・ヴィスマの8人が揃ってフィニッシュラインを越えた。全員仲良く区間勝者から26秒遅れだったけれど、もはや、栄光はなにひとつとして揺るがなかった。クス、ヴィンゲゴー、ログリッチで総合トップ3を独占したのはもちろん、7月のツールに続き、ユンボはチーム総合首位の座も射止めた。

2023年のグランツール主役3人が、夕闇に包まれたシベレス広場を華やかに飾った。ヴィンゲゴーとログリッチという2人のスーパーチャンピオンを両脇に従え、スーパーアシストのセップ・クスが、今や正式な第78代ブエルタ・ア・エスパーニャ総合王者となった。

記念撮影をするユンボ・ヴィスマの選手達

記念撮影をするユンボ・ヴィスマの選手達

「クレイジーな3週間だった。チームのみんなのサポートがなしでは、こんなこと僕は成し遂げられなかった。彼らはとてつもなく強い選手である以上に、本当に素敵な人々であり、この3週間、彼らと素晴らしい時を過ごすことができた」(クス)

スペイン人のパートナーと共に、アンドラで暮らすクライマーはまた、流暢なスペイン語でファンに感謝を述べることも忘れなかった。いつも笑みを絶やさず、謙虚で、真面目な、そんなクスらしい素敵なスピーチだった。

「みなさんからたくさんの愛とサポートをもらいました。あらゆる山で、小さな街角のいたるところで、僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきました。数々の乗り越えるべき状況に直面した時、これが僕を大いに助けてくれました。本当に感謝しています」

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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