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【Cycle*2023 UCI世界選手権大会 女子エリート ロードレース:プレビュー】フォレリングとコペッキーがツールの好調そのままにアルカンシエル挑戦! ニエウィアドマ、リッパート、ダイガートもそろい大激戦は必至
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介アルカンシエルでツール・ド・フランス ファムを走るアネミエク・ファンフルーテン
自転車競技界初の試みである“スーパー世界選手権”こと、UCI自転車世界選手権は大詰め。日々熱戦が続いてきたロード競技も、会期最終日の8月13日に女子エリートロードレースが行われ、コンペティションのフィナーレを飾る。ウィメンズプロトンの近年の流れを示す、ハイクオリティの戦いとなるだろう。
レースは主会場・グラスゴーの北西にあるローモンド湖畔を出発。風光明媚な高原の湖を見ながら出発するプロトンは、2.4kmのニュートラル区間を経てリアルスタート。おおよそ25kmほど進んだところからは男子エリートと共通のルートに乗り、登坂距離5.8km・平均勾配10%のクロウ・ロードを上る。この頂上が33.1km地点で、そこから60km地点まではワンウェイルートを走行。
そして迎えるは、1周14.3kmのグラスゴー市街地サーキット。連続するコーナーは44との説もあれば、46、48、50……との声も。加えて、周回後半にはモンローズ・ストリートの上りが待ち受ける。登坂距離は200mと短いものの、平均勾配は7%。部分的に15%近い急勾配にもなるとの見方もあり、レースの流れを左右する区間になる。最後の周回ではフィニッシュ前約1.5kmから上り、その頂点から最終局面へ一気に駆け下りる。このサーキットを6周回。全行程154.1km・獲得標高は2229mを数える。
8月6日に行われた男子エリートロードレースでは、市街地サーキットでプロトンが崩壊。周を経るごとに……いや、コーナーを通過するたびに集団が崩れていき、結果的には落車をきっかけに発生した中切れから4選手の優勝争いへ。最後の22kmはマチュー・ファンデルプール(オランダ)が独走した。それに先だって行われたジュニアでも男女とも優勝者が独走を決めており、女子エリートにおいても優勝争いまでにかなり絞り込まれると見られている。
ハンドリングやコーナーリングのテクニックを要するコースだけに、常に集団前方でレースを進めることが必須になる。男子エリートでは周回に入ってから大勢が決まったが、それを見たうえで臨む女子エリートは選手・チームとも十二分に対策を練っていることだろう。早めの仕掛けなど、男子とは違った策が見られたとしても不思議ではない。もっとも、レース当日の天気予報は雨。分刻みで空模様が変わるグラスゴーだが、ロードコンディションがウェットになれば、より一層戦いは難易度を極める。
コースマップ&プロフィール
そんなテクニカルコースを攻略するのは誰だろうか。チャンスは多くの選手にあり、まさにオープンな状態だ。
そうした中でも、やはりオランダの充実度は際立っている。昨年を含む過去2回世界の頂点に立っているアネミエク・ファンフルーテンは、王座返上とともにアシストへ回ることを明言。今季限りでの引退を表明しており、最後の世界選手権は世代交代の場になる。
後継者には、ファンフルーテン直々にデミ・フォレリングを指名。当然このレースではエースを務める。ツール・ド・フランス ファムでの個人総合優勝が記憶に新しいが、春にはアルデンヌクラシックでハットトリックを達成。いま最も強いウィメンズライダーであることは間違いない。あとは、どう勝利へと向かっていくか。コースは「オランダ選手権に似ている」といい、苦手意識はない様子。前回はレース直前の新型コロナウイルス感染で、ホテルのベッドでレースを観戦。その悔しさを晴らす舞台は整っている。
オランダはフォレリングを軸としながら、いくつかのプランをもって走る。キーパーソンは、マリアンヌ・フォスだ。ロードでは過去3度世界を制している“女王の中の女王”は、シクロクロスやトラックで培ったパワーやスピードはもとより、ハンドリングスキルと展開を読むことにも長ける。彼女も「フォレリングをサポートする」とコメントしているが、いざという時にはみずから勝負に打って出る。このほか、スプリント要員にロレーナ・ウィーベスを配備し、前回優勝枠を足した最大出走人数「8」を余すことなく生かしていく。
ツール・ド・フランス ファム総合表彰台 優勝デミ・フォレリング、2位ロッタ・コペッキー、3位カタジナ・ニエウィアドマ
フォレリングが最大のライバルに挙げているのが、ロッタ・コペッキー(ベルギー)。普段は一緒のチームで走るが、今回は自転車王国の威信をかけてぶつかり合う。コペッキーもツールで大活躍し、平坦・上りいずれも対応できることを証明。北のクラシックを得意とするだけあり、悪路への対応力はフォレリングを上回る。今大会はトラックで3つのメダルを獲り、うち2つでアルカンシエルを獲得。ツールからの絶好調を維持して乗り込むロードレースに向け、「シーズン当初からこのレースが目標だった」と力を籠める。ベルギーチームの戦力から見てコペッキー一択となることが見込まれ、レースプランが分散しないあたりでオランダとの違いが出てくるだろうか。
先頭は元世界女王のエリーザ・バルサモ
チーム力の高さならイタリアも負けていない。2年前の世界女王エリーザ・バルサモのスプリント力にも頼れるし、昨年3位のシルヴィア・ペルシコも控える。両者とも変化の多いコースに対応できるので、最後まで前線で走り続けた側で勝負していくことになるだろう。
8月10日実施の個人タイムトライアルで銀メダルを獲ったグレース・ブラウン(オーストラリア)は、コース適性に自信を見せるひとり。早めの仕掛けで独走を狙っていくかもしれない。アマンダ・スプラットやブローディー・チャップマンらが逃げでライバル国に先手を打つことも考えられる。
早めの仕掛けとの観点でいけば、ツールの山岳でインパクトを残したカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド)や、第2ステージで勝っているリアヌ・リッパート(ドイツ)も流れを変える力を持つ。オランダやベルギーの主導権争いが色濃くなったときに、局面を打開できるのは2人のような脚を持つ選手だろう。
個人タイムトライアルで女王返り咲きを果たしたクロエ・ダイガート(アメリカ)は、体調次第で出走を決める。ここ数日はトラック競技との過密スケジュールに加え、風邪症状にも悩まされたが、回復具合は果たして。「出場できればおもしろいレースができる」とも語っており、自信はそれなりにあるようだ。
ツールで好走が光ったアシュリー・モールマン(南アフリカ)やエマセシル・ノルスゴー(デンマーク)もアウトサイダーとして押さえておきたい。個人タイムトライアルでは失意のリタイアに終わったマーレン・ローセル(スイス)は、気持ちを切り替えてスタートラインにつけるだろうか。
このレースではアンダー23部門も併催され、23歳未満の最上位選手にもマイヨ・アルカンシエルが贈られる。こちらはカタブランカ・ヴァシュ(ハンガリー)やアンナ・シャクリー(イギリス)、アリー・ウォラストン(ニュージーランド)あたりがトップを争う。
日本からは與那嶺恵理と小林あか里がエントリー。あらゆるレースを経験してきた與那嶺がグラスゴーの難コースにどう立ち向かうか。アンダー23対象の小林は、8月11日にマウンテンバイク・クロスカントリーで29位。今度はロードバイクに乗り換えて世界のトップライダーに挑む。
今レースは現地時間正午(日本時間20時)にスタートが切られ、同15時50分頃(23時50分頃)のフィニッシュが見込まれている。新女王の誕生か、はたまたベテランたちの復権があるのか、マイヨ・アルカンシエルの行方から目が離せない!
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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