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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第21ステージ】ヨナス・ヴィンゲゴーが大会2連覇! 大いなる自信に裏打ちされた総合タイム差7分29秒。そして、次のチャレンジについても・・・
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ポディウムで肩を組む総合上位3選手
1年前、シャンゼリゼのポディウムで「もっと、もっとツール・ド・フランスで勝ちたい」と偽らざる思いを口にした。強くなってツールに戻ってくることを世界に向けて約束し、みずからにプレッシャーをかけた。年間150日は家族と離れて過ごしているという、いまの生活は本心としては辛い。だけど、自分の心身に向き合ってトレーニングを重ねていくことで、揺るぎない自信が満ちていくのも感じてきた。「再びツール・ド・フランスで勝てる」その信念が正しいことを、戻ってきたシャンゼリゼで証明したのだった。
スペイン・バスク自治州のビルバオで始まったツール・ド・フランス2023。5つの山脈を越え、ときに熱波に襲われながらも、切り離されずに走り抜いた150人の勇者たちが、パリ・シャンゼリゼに帰還を果たした。前日行った第20ステージで個人総合争いは決着しており、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)がマイヨ・ジョーヌを防衛。大会2連覇を達成し、エトワール凱旋門を望むポディウムの頂上に再び立った。
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「とても誇らしいよ。デンマークからたくさんの人がシャンゼリゼに来てくれたんだ。もう最高だね! 感謝を伝えるべきはチームと家族だけじゃないね。デンマークの人々みんなに“ありがとう”と言いたい。みんなが僕をサポートしてくれたんだ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
3週間の最後は、パリに向かっての勇者の行進。翌年に迫るパリ五輪では自転車競技のトラック・マウンテンバイク・BMXの会場で、ロードレースの通過地にもなるサンカンタン・アン・イヴリーヌを出発する。申し訳程度のパレード区間を経て、形だけのリアルスタート後もゆっくり、まったり行くのかと思いきや、ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・スーダル)がスタートアタック。
さすがに本気で逃げを打とうとしたわけではなく、ちょっとしたパフォーマンスのつもりだったよう。終盤ステージでの逃げなどが好印象で、今大会の「スーパー敢闘賞」を授与されることがスタート前に決まっていた。アグレッシブな走りに徹したその姿を、最後にもう一度誇示したつもりだったのだろう。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第21ステージ|Cycle*2023
パレード中は、チームごとや国ごとに選手たちが並んでの記念撮影があちこちで。チャンピオンチームのユンボ・ヴィスマは、7人だけでなく途中で離脱したワウト・ファンアールトのナンバー「6」も掲げた。思えば、昨年も離脱した2選手のナンバーをチームメートが手にしながら撮影に臨んでいた。前回までは「2020年大会の敗北からのリベンジロード」だった彼らだけど、今回は「マイヨ・ジョーヌ防衛」と戦うテーマが変わった。それでも、チーム一丸で戦い抜いたことばかりは変わらない。みんなで到達した高みである。
42.8km地点に設けられた4級山岳では、今大会の山岳賞を決めているジュリオ・チッコーネ(リドル・トレック)のために、チームメートのマッズ・ピーダスンとマティアス・スケルモースが祝福の1位通過を演出。もちろん、それを邪魔する選手などひとりもいない。
思い思いにパリに向かって走ってきた至福の時間は、フィニッシュまで65kmを切ったあたりから少しずつ「モード転換」。ここはやはりユンボ・ヴィスマが統率を担って、少しずつ“レースの幕開け”に備えていく。ルーヴル美術館のピラミッド前を通り、コンコルド広場を抜けるといよいよシャンゼリゼ通り。6.8kmの周回コースを8周回。1回目のコントロールライン通過をもって戦いのゴングが鳴った。
そういえば、プロトンを去る選手たちをシャンゼリゼで送り出す“儀式”が今回はなかった。最後のツールになると公言しているのは、ペーター・サガン(トタルエネルジー)、トニー・ガロパン(リドル・トレック)、ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)、ドリース・デヴェナインス(スーダル・クイックステップ)の4人。感傷に浸っている間などないとばかりに、他の選手たちがアタックを始めてしまった。
なかなか逃げが決まらない中、均衡を破ったのはなんとタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)だった。個人総合2位とヤングライダー賞のマイヨ・ブランをほぼ手中に収めた状況で、もうワンアクション起こそうと飛び出したのだ。
ヴィンゲゴーのマイヨ・ジョーヌが固いとはいえ、さすがにポガチャルを放っておくわけにはいかず、ネイサン・ファンホーイドンクが対処。2人は少しの間、集団に対して10秒ほど先行した。
メイン集団も慌ただしい。3周目に追走を図った8選手がポガチャルたちに追いついたが、次の周回ではマイヨ・ブランもろとも集団へと戻されている。この直後にはサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)のアタックに、ネルソン・オリヴェイラ(モビスター チーム)とフレデリック・フリソン(ロット・デスティニー)が追随。集団に対して20秒ほどの差をつけて周回数を減らしていった。
とはいえ、やはりシャンゼリゼといえばスプリントである。チーム単位での主導権争いが本格化すると、自然とスピードが上昇。逃げる3人は残り10kmまでに捕まえて、勝負は今年もスプリントにゆだねられる。
迎えた最終周回。凱旋門を過ぎて下り基調の直線に入ると、時速70kmに届こうかというハイスピードでポジション争い。混沌とした中から、マイヨ・ヴェールのヤスペル・フィリプセン擁するアルペシン・ドゥクーニンクが残り1kmで先頭に立った。コンコルド広場を抜けて、最後は800mのストレート。フィニッシュ前450mからは、満を持してマチュー・ファンデルプールのリードアウトが始まった。
あとはフィリプセンをしかるべきタイミングで発射するのみ。最高の形を作り出したかに思えたアルペシン・ドゥクーニンクだったが、残り200mでディラン・フルーネウェーヘン(チーム ジェイコ・アルウラー)が先に仕掛けた。それをピーダスンが追い、フィリプセンは狭いスプリントラインを突いて上がっていくしかなくなった。
そんな3人の反対サイドから、ヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ)が猛然と駆け上がってきた。そのまま4選手横並びでのフィニッシュ。一瞬誰が勝ったか分からなかったが、写真判定ではくっきり。メーウスがフィリプセンにタイヤ1本分の差で先着した。
「世界スプリント選手権」と称されるほどに、スプリンターが夢見るシャンゼリゼフィニッシュを制した25歳。年代別のベルギー王者に就いたことがあり、2021年のプロ入り以降は小さなレースで勝ち星を積み重ねてきた。経験・実績ともはるかに上を行くサム・ベネットをしのいで今ツールのメンバー入りをしたことで、自国ベルギーのジャーナリストやメディアを中心に大会前から彼を推す声が高まっていた。
「大会前半は苦しんだのだけど、ここにきて状況が改善される兆しがあったんだ。実際に結果を出せて本当にうれしいよ。スプリントに向けてはマルコ・ハラーが最高のポジションまで運んでくれたんだ。ツールだけじゃなく、UCIワールドツアーでも初勝利だよ。それがシャンゼリゼだなんてね!」(ヨルディ・メーウス)
ヨルディ・メーウスがシャンゼリゼを制す
ほんのわずかに届かなかったフィリプセンも、メーウスの走りを称える。
「ヨルディ(メーウス)とは普段から仲良しなんだ。彼が勝って僕もうれしいよ。彼からは“世界最高のスプリンターおめでとう”と言ってもらえた。ともに喜ばしい1日になったね。激しいスプリントだったけど、彼はうまく加速したと思うよ」(ヤスペル・フィリプセン)
スプリントに向けた争いのはるか後ろでは、チャンピオンチームのメンツが再集結。パリ市内が小雨に見舞われた関係で、特別措置として最終周回に入る段階でのコントロールライン通過タイムが有効記録になった。それを受けて、マイヨ・ジョーヌ一行は集団から下がって、最後の1周はウイニングライド。7人が横並びになって、ゆっくりと最終目的地へと進んでいく。
「胸がいっぱいだった。チームの支えがなかったらツール・ド・フランスを勝つことはできないからね。一緒に喜んでくれる仲間とフィニッシュラインを通過したかったんだ。それがかなって本当にうれしいよ」(ヴィンゲゴー)
笑顔で、それでいて高らかに、ヨナス・ヴィンゲゴーはツール・ド・フランス2連覇を決めた。
戦いを終え、改めて強さについて問われると「昨年とは自信が違う」と真っ先に述べた。ツール初制覇時は、その年の春に小さな怪我や体調不良があり、100%のトレーニングが積めたわけではなかったという。だが今年は抜けがなく、プラン通りに日々を送ることができた。
それでも、向上心は失わない。
4賞ジャージを獲得した選手たち
「僕はまだ発展途上だからね。年々レベルアップしていることは自分でも分かっているんだ。少しずつだけどね。来年はもっと良くなっているはずだよ」(ヴィンゲゴー)
マイヨ・ジョーヌ初戴冠時は「すぐにでもゆっくりしたい」と話していた王者だけど、その座を守ったいま、新たな挑戦のときであることを自認している。
「ブエルタ・ア・エスパーニャに出るよ。本当は昨年の11月には決まっていたんだけどね。やっと発表できるよ。ツールの余韻に少しだけひたらせてもらって、1週間後からはブエルタに向けて集中していくよ」(ヴィンゲゴー)
三たびわれわれが目にしたヴィンゲゴーとポガチャルの歴史的好勝負。両者が「これから長くライバル関係にあるはず」と口をそろえて久しいが、その通りに今年も彼らがドラマの中心に存在していた。26歳のヴィンゲゴーと24歳のポガチャル。両者が描くストーリーは今後、どう展開していくだろう。この3週間で見たものは、長編物語のごく一部に過ぎない。
●ステージ優勝 ヨルディ・メーウス(ボーラ・ハンスグローエ)コメント
「勝てるとは思っていなかった。可能性がゼロではなかったのだろうけど、実行するのは正直現実的とは思えなかったんだ。ピーダスンとフルーネウェーヘンを追い抜いたのは分かったのだけど、フィリプセンには並ばれたと感じていた。普段しないような動き(ハンドル投げ)をしたけど、最後の決め手は腕の長さだったかもしれないね。勝ったと分かるまで、フィニッシュしてから1分以上が経っていたよ。
フィリプセンとはジュニアの頃からの友人なんだ。トレーニングも一緒にする。今日勝つのは彼かなと思っていたけど、実際は僕だったね。
勝因? 集団での位置取りだろうね。あと、石畳のような路面の方が僕には向いていると思う。その意味ではシャンゼリゼの路面は僕にぴったりだった。もちろんキャリア最高の勝利だよ。ツールに僕を選んでくれたチームに結果で恩返しできて本当にうれしい」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「今年の目標が達成されたよ。ツール・ド・フランスは世界最大の自転車レースで間違いない。そこでチームとして勝利できたことは誇りだ。みんなが力を合わせた結果なんだ。
家族のサポートがなかったらここまでは来られなかった。僕の一番大事なものは家族だ。一緒にいられる時間が最高の幸せなんだ。家族とチームメートから温かさを感じながら、この濃密な3週間を過ごしてきた。だからこそ、一緒にこの勝利をお祝いしたいんだ」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「2位でも満足だよ。この3週間で起きた出来事を思うと、この順位で終えられることは幸運でしかない。クレイジーな日々だったけど、総合表彰台に上がり、マイヨ・ブランに袖を通すことができた。それだけで今は十分だよ。
マイヨ・ブラン? 今年で終わりだね。お別れだよ。もう若くはないってことだね(笑)」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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