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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第19ステージ】マテイ・モホリッチがステージ優勝の“公約”達成!ステージ2連勝狙ったアスグリーンを僅差で下す。ヴィンゲゴーら総合勢はセーフティー
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介涙を流すモホリッチ
昨年のツール・ド・フランスは苦い思い出だ。何もできずに終わった3週間。エプスタイン・バール・ウイルス感染の影響で力を発揮できなかったのだ。そこから、ツールのステージ優勝を目標に1年計画を立てた。途中で躓くこともあったが、ツールのメンバー入りでチャンスは得られた。あとは結果を残すのみ……タイムリミットが迫る。
ツールは残り3ステージ。前日からアルプスを離れて、最終決戦地ヴォージュ山脈へと移動している。連日の平坦ステージが用意されたが、前のステージと同様に逃げがリードを守って先着。最後はマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)が、前日の勝者であるカスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ)との競り合いに勝利。「ステージ優勝が最大目標」と公言して臨んでいた今大会で、有言実行のステージ優勝だ。
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「ここまでのことを思うと、感動で胸がいっぱい。プロのライダーであることは大変で残酷なことばかりなんだ。準備の段階からたくさん苦しんで、みずからの人生や家族を犠牲にしてしまっている。ツールのステージ優勝は1年前から目標にしていたから、達成できて最高にうれしいよ」(マテイ・モホリッチ)
第19ステージは、フランスきっての木工産業の街であるモワラン・アン・モンターニュを出発して、「コンテチーズの世界的首都」を宣言するポリニーに達する172.8km。行程はすべてジュラ県内に収め、同県の産業プロジェクト「メイド・イン・ジュラ」20周年を祝う。前日同様に平坦カテゴリーで、細かな高低の変化こそあれど主催者に言わせれば「スプリントトレインを妨げるものにはならない」。セオリーでいけば大集団スプリントとなるところなのだが、結果的にはそうはならなかった。
前のステージで逃げ切りを演出したヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)がこの日も動いて、プロトンの活性化を呼び込む。以降、レース序盤は出入りの連続。マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)とアレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・カザクスタン チーム)のビッグネーム2人が飛び出すと、プロトン全体のペースが上がってメイン集団が2つに割れた。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第19ステージ|Cycle*2023
ピーダスンとルツェンコが集団に引き戻されると、今度はジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)とシュテファン・キュング(グルパマ・エフデジ)が飛び出す。勝利に飢えた大物たちが残り少ない機会をモノにしようと躍起になっている。結局、その後に仕掛けたニルス・ポリッツ(ボーラ・ハンスグローエ)がきっかけになって、9人の先頭グループが組まれた。
逃げに選手を送り込めなかったチームが、その後もメイン集団を引っ張りながら前を行く選手たちを追いかける。それが関係し、タイム差は1分前後で推移した。97.7km地点に設置された中間スプリントポイント通過後には、29人もの大きな追走グループが形成されて、早いうちに先頭メンバーに合流。この日最大となる37人がレースを先導した。
フィニッシュまで55kmとなったタイミングで、大規模な先頭グループからカンペナールツとサイモン・クラーク(イスラエル・プレミアテック)が抜け出した。この頃、逃げに乗り遅れたアンテルマルシェ・サーカス・ワンティがメイン集団の牽きをやめたことで、急激にペースダウン。実質、前線の選手たちが逃げ切ることを容認する構えとなった。
先頭の2人だが、3級山岳への上り基調でクラークが脚を攣ってしまった。これでカンペナールツがひとりになると、ほどなくしてモホリッチ、アスグリーン、ベン・オコーナー(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)の3人が追いつき、そのままカンペナールツをパス。後ろでは、ポイント賞のマイヨ・ヴェールを着るヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)らを含んだ9人の追走グループが形成されるが、完全にペースに乗った前の3人はタイム差を広げていく。
残り10kmを切って20秒だったその差は、残り5kmで30秒、残り1kmで33秒。先頭3人の中からステージ優勝者が出るのは濃厚だ。アスグリーンを前に、モホリッチ、オコーナーの並びで最終局面を迎えると、残り400mでオコーナーが早めの仕掛け。これは決まらず、残り200mからアスグリーンが連勝をかけてスプリント。モホリッチが反応し、最後の100mでアスグリーンに並ぶ。両者横並びのままフィニッシュラインを通過した。
目視では分からないほどの僅差は、写真判定によってモホリッチの勝利で確定。ステージ優勝が決まった瞬間に人目をはばからず涙する。
「チームスタッフが毎朝6時に起きて、夜遅くまで僕たちのために働いてくれているというのに、結果で応えられない。そんなことばかりで、走り続けている意味があるのかとさえ思うことだってあったんだ。そのたびに、みんな苦しみながら走っているのだから、僕だってやってみようと思い直していた」(モホリッチ)
ジュニア、アンダー23それぞれのカテゴリーで世界王者になり、プロ入り後も数々のビッグタイトルを獲得。2022年のミラノ~サンレモ優勝時には、ドロッパーシートポストを使ったことが大きな話題になった。昨年のツールで苦杯を喫し、1年かけて借りを返そうと取り組んでいたが、3月のヘント~ウェヴェルヘムでの落車でリズムを失う。クラシックシーズンは不発に終わり、大きな目標へ暗雲が漂った。
アスグリーンとモホリッチのスプリント勝負
「クラシックでは落車を繰り返してしまったので、5月以降は体調の立て直しを図った。6月のツアー・オブ・スロベニアで調子を戻すことができたので、自信をもってツールに入れたよ。2年前にステージ2勝できたのだけれど、当時よりマークが厳しいことは分かっていた。自分の脚だけではどうにもならないから、どうやって有利な状況を作ろうかと考えていたんだ」(モホリッチ)
今回であれば、アスグリーンの存在が大きかった。ウルフパックに貴重な1勝をもたらしたばかりだが、もうワントライするべく、この日もアクションを起こした。モホリッチにして、逃げメンバーで一番強かったのはアスグリーンだと認める。
「カスパー(アアスグリーン)は信じられないほど強かった。彼のアタックに反応できたかが結果の分かれ目だったと思う。すべてを完璧にこなさないと勝てないと、そのときに悟ったね」(モホリッチ)
そのアスグリーンは、レース序盤でクラッシュに巻き込まれた影響でイージーに1日を過ごすつもりだったという。思いがけず乗ってしまった逃げで、連日の優勝争いを演じることになったとか。
「アダム・イェーツと一緒に落車して、UAEチームエミレーツに集団へ引き戻してもらったんだ。今日は集団の中で過ごそうと決めていたのに、中間スプリントを狙う選手たちの後ろを走っていたらそのまま逃げになっていたんだ。気づいたら一番前を走っていたのさ(笑)」(カスパー・アスグリーン)
マークすべき選手と勝負どころを見極める。“有利な状況”を作り出して勝つ、狙い通りの走りを見せたモホリッチ。タイムリミットが迫っていた“1年計画”は、これで完遂だ。
仲間と抱き合って勝利を喜ぶモホリッチ
「今日は自分のためだけじゃなく、ジーノ(6月のツール・ド・スイスで事故死したジーノ・メーダー)やチームのためにベストを尽くしたんだ。一緒に逃げ続けた仲間たちを裏切ったようで心苦しいけど、それがプロスポーツってものだよね。勝てて本当に良かった」(モホリッチ)
さて、マイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)ら個人総合上位陣はというと、逃げを行かせてからセーフティーを選択。ユンボ・ヴィスマのアシスト陣がレースをクローズさせて、モホリッチから13分43秒差でステージを完了した。事実上、最後の勝負となる第20ステージに備えた。
「総合系ライダーの誰もが逃げを行かせたいと思っていたんじゃないかな。エネルギーを節約したかったからね。無事に逃げが行ってくれたから、それからはひたすら温存だよ」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
ちなみに、この第19ステージ。勝ったモホリッチの平均スピードは49.13km。21世紀に入ってからのツールで、3番目に速いステージだった(最も速かったのは2003年大会第18ステージの49.938km)。
●ステージ優勝 マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)コメント
「スプリントに自信はあるが、絶対的な力ではない。なので、カスパーを先に動かして、みずからのタイミングで加速しようと考えた。今日はたまたまうまくいったけど、同じことを何回もしていたのでは失敗ばかりではないかと思うね。
ツールにはベストコンディションで入れたと感じていた。ただ、みんな強いから簡単に勝てるとは考えていなかったよ。特に第3週は厳しいだろうと思っていたんだ。それでも希望を捨てずに走った結果、今日のような喜びを得ることができたんだ。
ジーノのことはチームの全員がいまだに悲しんでいる。彼が亡くなったと聞いたとき、家族よりチームメートと過ごすことの方が長いという事実について本気で考えたよ。それが正しい生き方なのだろうかと自分自身を疑ったね。前に進むために、恐ろしい偶然であったことを受け入れようと努めたんだ。逃げている間は、常にジーノのことを考えて走っていたよ」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「レース序盤からとても速くて、緊張感があった。個人総合上位の選手が逃げに入らないようにだけ注意をしたよ。逃げが行ってからは集団が落ち着いて、われわれにとって良い一日へと変わっていった。明日のステージに向けてエネルギーを蓄えておかないといけないからね。明日? とてもハードなステージになるだろうね。コースは調べているけど、きっと厳しいレースになるよ。明日の調子が良ければ、いまの総合リードを守れるのではないかな。
僕のこと? 家族思いで、少しシャイなところがあるかな。でもひとたびバイクに乗ったら戦士に変わるんだ」
●ステージ2位 カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ)コメント
「悔しいね。でもチャレンジできたことには満足だよ。スタートしてすぐに落車したこともあって、今日の逃げは考えていなかった。でも、中間スプリントを狙う選手たちの後ろを走っていたら、先頭グループに入ってしまっていたんだ(笑)。スタートからフルアクセルでレースを進めていたけど、時間とともに調子が良くなっていった。大人数のグループから抜け出したいと思っていたのだけど、チャンスだと思って動いたときに2人(モホリッチ、オコーナー)がついてきたんだ。一緒にプッシュしようと思ったね。
最後のスプリント? さすがにあれ以上の走りはできなかったと思うよ。全力を尽くしたからね」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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