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【Cycle*2023 ツール・ド・フランス ファム:プレビュー】“ラストダンス”アネミエク・ファンフルーテンは2年連続「トリプルツール」なるか!? 今季のウィメンズグランツール最終戦はスター勢揃いの夢の競演
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ツール・ド・フランス ファム
サスペンス要素満載のツール・ド・フランスの熱気は、そのままウィメンズシーンに移される。「女性版ツール・ド・フランス」ツール・ド・フランス ファムが7月23日から30日までの会期で開催。同23日は男子ツールがパリ・シャンゼリゼで大団円を迎えており、われわれは休むことなくレースが堪能できる。
「女性版ツール・ド・フランス」と前記したが、もはや「ツール・ド・フランス ファム」としてその存在価値は十二分に確立されていると言える。大会そのものの歴史は浅いが、いまに至るまでは主催者、関係者のみならず、選手たちの尽力も大きなものであった。
さかのぼること10年前。いまもウィメンズプロトンのキャプテンを務めるマリアンヌ・フォス(ユンボ・ヴィスマ)ら数人が、ツール・ド・フランスを主催するA.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)に女性版ツールの開催を嘆願。これが世界中で大きく報道され、さらには10万人を超える署名を集めることに成功。A.S.O.は2014年にツール関連イベントとしてウィメンズレース「ラ・コルス・バイ・ル・ツール・ド・フランス」を立ち上げた。
初年度は男子ツールの最終ステージに先立って、シャンゼリゼ通りで開催。初代女王にはフォスが輝いた。以降、数年間は男子ツールと併催する形で実施。そこには、男子ツールとの「ステージ共有」や「両レースの連動性によるメディア配信の効率性」といった、A.S.O.のねらいがあった。
しかし、ウィメンズプロトンからは「男子レースの影に隠れてしまっている」「運営努力に欠けている」といった批判が相次いだ。男子ツールと同様に平坦・丘陵・山岳・タイムトライアルといった複数の要素で構成されるステージレース化を求める声も増えたが、当時のA.S.O.は物流上、財政上の理由から男女同時期のステージレース化は困難と判断。持続可能なイベントを目指し、あらゆる工夫が必要だとの見解を示した。
ツール・ド・フランス ファム 2022年の4賞ジャージ
2021年まではワンデーイベントとして開催されることの多かった同大会だったが、翌2022年に「ツール・ド・フランス ファム」としてステージレース化を実現。ラ・コルスを発展的に解消させ、8日間の会期で争われるウィメンズプロトンのトップレースに仕立て上げた。
以来、ラ・ブエルタ フェメニーナ(2023年より5月開催)、ジロ・デ・イタリア ドンネ(6月から7月にかけて開催)、ツール・ド・フランス ファムの3レースが、男子同様に「グランツール」として扱われる格好になった。
現行のレース形態になり、それまでよりはるかに総合力が問われ、各選手の個性・脚質が生かされるように。そして今年も、走る側にも、観る側にも魅力たっぷりの8ステージが用意されている。
8日間の総距離は956km。広大なフランス国土の南側が舞台になる。
第1ステージ 7月23日 クレルモン・フェラン~クレルモン・フェラン 124km 平坦
第2ステージ 7月24日 クレルモン・フェラン~モーリアック 152km 丘陵
第3ステージ 7月25日 コロンジュ・ラ・ルージュ~モンティニャック=ラスコー 147.5km 平坦
第4ステージ 7月26日 カオール~ロデズ 177.5km 丘陵
第5ステージ 7月27日 オネ=ル=シャト~アルビ 126.5km 平坦
第6ステージ 7月28日 アルビ~ブラニャック 122.5km 平坦
第7ステージ 7月29日 ラヌムザン~トゥールマレー・バニェール=ド=ビゴール 90km 平坦
第8ステージ 7月30日 ポー~ポー 22.6km個人タイムトライアル
全体像としては、最初の6ステージが中央山塊を東西に行き来し、第7ステージではピレネー山脈へ、最終の第8ステージで個人タイムトライアル締め、といった具合。
今大会最初のマイヨ・ジョーヌ着用者は、スプリンターとなりそうだ。第1ステージは、男子ツール第11ステージのスタート地になったクレルモン・フェランを発着。ポイントになりそうなのが、フィニッシュ前9.3kmで頂上に達する3級山岳。ここをクリアして最終盤に向かっていく必要がある。
ツール・ド・フランス ファム ルートプレゼンテーション
第2ステージから本格的に中央山塊へと飛び込んでいく。この日は2級から4級まで6つのカテゴリー山岳がひしめき、最後まで休まらないレイアウト。大会アンバサダーのマリオン・ルッスさん(ジュリアン・アラフィリップのパートナー)に言わせれば、「総合系ライダーが動き出す可能性は十分」とのこと。続く第3ステージは平坦にカテゴライズされるが、「丘陵地帯らしく起伏は激しい」とルッスさん。前半から中盤にかけての5カ所の登坂区間をスプリンターはうまく対処したい。
第4ステージは最後の40kmに無印含む4つの上りが連続。最終登坂からフィニッシュまでの約9kmは激しい駆け引きになることも。第5ステージは平坦に分類されているものの、逃げ向きのステージとの評も。スプリント狙いのチームにとってはコントロールが非常に重要。
全体的にフラットな印象の第6ステージは、1.1kmと長めの最終ストレートがスプリント自慢の脚を試す。各チームのリードアウトも激しさを増すはずだ。あわせて、風の強い区間を走る終盤の走りも重要に。
マイヨ・ジョーヌ争いは、最後の2日間が大きな意味を持つ。今大会の“クイーンステージ”第7ステージは、ツールではおなじみの1級山岳アスパン峠(登坂距離12km、平均勾配6.5%)、超級山岳トゥルマレ(17.1km、7.5%)を登坂。コース途中から男子ツール第6ステージと同じルートに乗り、アスパン峠での絞り込みから、真打ちトゥルマレ登頂へ。男子ツールではトゥルマレ以降もレースが続いたが、こちらは標高2115mの頂上にフィニッシュラインが敷かれる。この山々を征服することはつまり、マイヨ・ジョーヌに近づくことを意味する。
とはいえ、すべてが決したわけではない。最終・第8ステージに控える個人タイムトライアルを走ってみないと分からない。中盤に7%の登坂があって、フィニッシュ前最後の600mも5%近い上り。全体的には平坦なルートだが、ところどころ現れる変化にどう対応するか。TT巧者にステージ優勝のチャンスはあるけど、大注目はやはりマイヨ・ジョーヌの行方。前日のトゥルマレ登坂で十二分な差を得ていれば“ウイニングライド”になるし、複数人が僅差であれば“最終決戦”の場となる。勝者が確定するその瞬間まで、目を離すことはできない。
ツール・ド・フランス ファム
レースのルールも確認しておこう。個人TTステージをのぞく7ステージでフィニッシュ上位3選手にボーナスタイムを付与。1位10秒、2位6秒、3位4秒。また、第2・第4・第5ステージのコース途中にはボーナスポイントが用意され、通過順に1位6秒、2位4秒、3位2秒。
中間スプリントポイントは各ステージ1カ所ずつで、1位から15位までの通過順にポイントを付与。フィニッシュでのポイント配分は、コースレイアウトに応じた設定になっている。山岳ポイントも超級から4級までカテゴリー別に配点が変動し、超級トゥルマレであれば一番に到達した選手に15点が付与される。毎ステージ敢闘賞ライダーが選出され、ステージごとに制限時間も設定される。
今大会最大の注目は、アネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム)の2年連続「トリプルツール」達成なるか。昨年はジロ、ツール、ブエルタ、そして世界選手権を制する「クアドラプル」を達成。今季も5月にブエルタで勝ち、先ごろのジロでも圧勝。本調子であれば、今回も総合力はナンバーワン。急峻な山岳での驚異的な登坂力と、安定感のあるタイムトライアルの走り、そしてリアヌ・リッパートら強力なアシスト陣の存在が彼女の強さを引き立てる。今季限りでのキャリア終了を予定しており、ツールを勝って最高の花道としたい。
しかし、追う選手たちもファンフルーテンとの差は着実に縮めている。デミ・フォレリング(チーム SDワークス)はブエルタでファンフルーテンと激闘。春のクラシックでは無類の強さを誇り、グランツール制覇も手の届くところまできている。コンビネーション精度が高まるマーレン・ローセルとの共闘も心強い。
この2人に並ぶのがエリーザ・ロンゴボルギーニ(リドル・トレック)。ジロではファンフルーテンと好勝負を演じていながら、落車負傷でリタイア。ツールへの出場には支障がないようで、きっちり調子を戻してきていることだろう。
ツール・ド・フランス ファム
上記3人以外にも力のある選手が多数。昨年の個人総合トップ10がすべて今大会に乗り込むだけに、マイヨ・ジョーヌ争いで誰が抜け出しても不思議ではない。前回の個人総合3位カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム レーシング)、ジロ個人総合2位のジュリエット・ラブー(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)も確実に上位に食い込んでくるはずだ。
大会初日からハイレベルな戦いとなるであろうスプリント。こちらは前回大活躍のロレーナ・ウィーベス(チーム SDワークス)と今季ブレイクのシャーロッテ・コール(チーム ディーエスエム・フィルメニッヒ)が直接対決。
両者は昨年までチームメートで、ウィーベスのスプリントをコールがアシストする関係にあった。ウィーベスが現チームへ移籍し、コールはエーススプリンターに昇格。今年の対戦成績は、コールが3勝、ウィーベスが2勝(ともにスプリントに絡んだケースに限定)。コールはブエルタで、ウィーベスはジロでそれぞれ勝ち星を挙げている。今大会最初のマイヨ・ジョーヌはふたりのどちらかになる可能性が高い。
フォスもまだまだ健在。ブエルタでは貫録のポイント賞を獲得。ジロでもステージ上位入りを繰り返しており、ツールもしっかり合わせてくるだろう。昨年はステージ2勝を挙げてマイヨ・ヴェールを獲得。中間スプリントとフィニッシュで効果的にポイントを稼げば、ポイント賞2連覇も大いにありうる。
5月のライド・ロンドンクラシックで落車負傷し戦列を離れていたエリーザ・バルサモ(リドル・トレック)は、ツールが復帰戦。2年前に世界選手権を制したスピードを生かす機会がやってくるか。
そして日本勢で唯一、與那嶺恵理(ヒューマンパワードヘルス)がスタートラインにつく。6月下旬の全日本選手権を制し、日本チャンピオンジャージでツールを駆ける。歴史的な瞬間を目に焼き付けよう。
レースの華、4賞ジャージは男子と同様に、個人総合時間賞「マイヨ・ジョーヌ」、ポイント賞「マイヨ・ヴェール」、山岳賞「マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ」(水玉)、ヤングライダー賞「マイヨ・ブラン」。このほか、チーム総合時間賞、総合敢闘賞の表彰が大会最終日のポディウムで催される。
今大会の賞金総額は25万ユーロ(約3900万円)で、個人総合優勝者には5万ユーロ(約780万円)が贈られる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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