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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第13ステージ】3年抱えた苦い思いを払拭するアタック!ミハウ・クフィアトコフスキがグラン・コロンビエ一番登頂。ヴィンゲゴーとポガチャルのマイヨ・ジョーヌ争いは9秒差に
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介仲間と抱き合って勝利を喜ぶミハウ・クフィアトコフスキ
3年前のツール・ド・フランス第15ステージ。当時の総合エース、エガン・ベルナルが力なくライバルたちから遅れていく姿に身も心も打ちひしがれた。せめてもと、彼に寄り添いフィニッシュしたが、「一緒にここでツールから引き上げても良い」とさえ思った。そんな苦い思い出のあるグラン・コロンビエを再び上る。できる限りポジティブに、チャレンジ精神を忘れずに。
ツール第2週は後半へ。本格山岳3連戦の入口となる第13ステージは、グラン・コロンビエ山岳決戦。レース前半に形成された最大19人の逃げグループがそのままステージ優勝争いへと転化し、この秀峰で独走に持ち込んだミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)がステージ優勝。ツール通算2勝目を挙げた。
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「今日はキャリアで一番と言えるくらいに脚の状態が良かった。大げさじゃなくて本当だよ。だけど、グラン・コロンビエで勝てたなんて信じられない。走っている間は人生で最も過酷な上りに思えたからね。今日の勝利は僕自身が一番びっくりしているよ!」(ミハウ・クフィアトコフスキ)
フランスの7月14日は革命記念日。例年ツールでは疑う余地のないコースが用意されるが、今年も例に漏れず大きなステージがもたらされた。今大会3番目の山地となるジュラ山脈に入り、グラン・コロンビエの頂上を目指す。レース距離自体は137.8kmと短めだが、平坦区間を長く走り、無印の上りをこなしたら目の前には標高1501mの高峰がそびえる。
この山がツールで採用されるのは5回目。4つある登坂ルートのうち、キュロズ側からアクセスするのは4回目。登坂距離17.4kmで、平均勾配7.1%。断続的に緩急が変化し、中腹前後で最大勾配12%に。少しばかりフラットな区間を走ったら、最後の3.4kmで再び急勾配。10%超の最終局面をこなしてフィニッシュラインに到達する。ちなみに、過去4回の登坂では、トップで頂上に達した選手すべてがその大会の山岳賞を獲得しているというジンクスがある。また、パリ~ニースやクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ、ツール・ド・ランといったプロレースでもたびたび上っていて、頂上フィニッシュに設定された際にステージ優勝した選手はすべて個人総合優勝を果たしている、意味深い山でもある。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第13ステージ|Cycle*2023
国を挙げての祝福の日とあって、レーススタートはいつもよりゆっくり。スタート会場はどこか緩いムードが漂っていて、ところどころで選手とファンが交流する姿が見られたが、レースが始まれば当然ながら激しいものに。スタートアタックからしばらくは逃げが決まらなかったものの、20kmを過ぎて仕掛けたマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)らの飛び出しが容認されて、やがて19人の先頭グループへと膨らんだ。
このグループにはクフィアトコフスキらも入り、35km地点ではメイン集団に対して1分25秒差。集団はタデイ・ポガチャル擁するUAEチームエミレーツがコントロールを担い、しばし同程度のタイム差を維持。レース最初の1時間は52kmをマークするハイペースになった。
おおよそ中間地点に達した段階でタイム差が2分になったのを機に、少しずつその差が拡大傾向に。先頭を行くメンバーは、無印の上りに差し掛かった時点で数人を切り離しながら先を急ぐ。スタートから2時間が経っても平均時速は46kmと依然ハイペース。この間、レース前半から最後尾を走っていたカレブ・ユアン(ロット・デスティニー)がリタイア。今大会注目のスプリンターは、勝利を挙げられないまま大会を去ることになった。
残り20kmを目前にその差は4分。先頭メンバーの逃げ切りが現実味を帯びてきた。いよいよグラン・コロンビエ登坂が始まると、真っ先に動いたのはカンタン・パシェ(グルパマ・エフデジ)。自国を祝うメモリアルな勝利にかけてアタックした。
ただ、決定的なリードを得るまでには至らない。残り12.8km地点で3選手が追いつくと、直後にクフィアトコフスキも合流。そして、カウンターでアタック。フィニッシュまでは11.8kmを残していた。
「クレイジーな戦いの始まりだったね。18人の友人(逃げメンバー)がいたおかげで、平坦区間までは楽に走らせてもらった。その間に集団に対するリードを十分に得ていたので、より上りがやりがいのあるものになったんだ。ただ、勝てるとは思っていなかった。後ろではUAEチームエミレーツが集団のペースを上げていると聞いていたからね」(クフィアトコフスキ)
そう、メイン集団はUAEチームエミレーツがほとんどの時間をコントロールに費やしていた。グラン・コロンビエに入ってからは、フェリックス・グロスチャートナーやラファウ・マイカが好ペースで牽いて集団の人数を絞り込んだ。
確かに貯金を取り崩したクフィアトコフスキだったけど、それでもまだ、逃げ切るには十分なリードを保持していた。それまで一緒に逃げてきた選手たちの追い上げを許さず、一番にグラン・コロンビエ頂上に到達。ステージ優勝だ。
超級グラン・コロンビエを制したのはミハウ・クフィアトコフスキ
「実は、大人数の逃げを行かせるたびに“あぁ、行っちゃった……”と思っていたんだよね。僕も一緒に逃げたいステージがいくつもあったんだ。ただ、チームのオーダーもあるから無茶なことはできない。でも今日は“ゴー”だったんだ。上りに入ってからのファンの声援もすべて聞こえていたよ。あれが力になったね。最後まで気持ちを切らさずに走れた最大の理由はみんなの応援だよ」(クフィアトコフスキ)
早くからトップライダーとしての地位を築き、2014年には世界王者にもなった。ワンデーレースからステージレースまで幅広く対応し、アシストとしてもエースライダーからの信頼が厚い。今大会も、カルロス・ロドリゲスやトーマス・ピドコックといった若き総合リーダーを勇気づける精神的支柱としてここまで走っている。
そんな33歳の“チームキャプテン”にも苦い経験がある。今回同様にグラン・コロンビエを上った2020年大会の第15ステージ。それまでマイヨ・ジョーヌ争いに加わっていたベルナルが大ブレーキに陥り、個人総合順位を10ランク落とす事態に見舞われた。悔しさと悲しみに満ちたヤングリーダーを頂上へ連れて行ったのが、クフィアトコフスキだった。
「あの日のことは忘れていないし、今日も思い出した。良いイメージなんてひとつもなかったよ。でも今回はやり切ったと言える。上っている間は後ろのことは気にせず、自分自身に集中していた。だからこそ勝てて本当にうれしい」(クフィアトコフスキ)
クフィアトコフスキの歓喜の後ろでも、大きな局面を迎えていた。マイヨ・ジョーヌ争いである。
逃げ組からファンヒルスが2位を確保したのち、すぐに個人総合上位陣が頂上までやってきた。UAEチームエミレーツは最終牽引に今大会序盤のヒーローであるアダム・イェーツを配し、速いペースで組み立てる。精鋭メンバーだけに絞られた中から、残り450mでついにポガチャルが動いた。「猪突猛進」とのフレーズがピッタリくる強烈なアタックに、対応できたのはマイヨ・ジョーヌのヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)だけ。しかし、そのヴィンゲゴーもつき切れず、少しずつギャップが生まれる。
そうしてライバルを振り切ったポガチャルがステージ3位のフィニッシュ。4秒のボーナスタイムを獲得すると同時に、ヴィンゲゴーに対して4秒差をつけた。この日だけで総合タイムを8秒取り戻したことになる。
ヴィンゲゴーとのギャップと縮めたタデイ・ポガチャル
「マイヨ・ジョーヌ争いにおいて今日のところは勝ちだね! チームメートがレースを作ってくれて、僕に大きな自信とモチベーションを与えてくれたんだ」(タデイ・ポガチャル)
ポガチャルは今回の登坂を43分51秒で走破。時速にすると23.5kmで、ステージ優勝した3年前に記録したストラバKOMの記録45分37秒を2分近く更新している。もっとも、最後の500mは36.4kmまでスピードが上がっており、10%超の急坂では驚異的な走りを見せている。
このステージを終えて、ヴィンゲゴーがマイヨ・ジョーヌを守ったものの、両者の差は9秒に。ほぼ条件は同じになったと言えるだろう。
「全然がっかりなんかしていないよ。チームとして、逃げの選手をそのままステージ優勝させるつもりだったから、レース内容としては予定通りさ。個人的にもマイヨ・ジョーヌを守れたからね。不安? 全然ないよ。いまのコンディションに満足しているしね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
ここで改めて、覇権争いは「よーい、ドン!」といったところか。おおむねふりだしに戻った両者の争いは、アルプスでより一層色濃いものになっていく。次の第14ステージは、5つの山々を駆ける獲得標高4200mの1日。今度は下った先にフィニッシュラインが敷かれるので、上りだけじゃなくダウンヒルテクニックも求められることとなる。
●ステージ優勝 ミハウ・クフィアトコフスキ(イネオス・グレナディアーズ)コメント
「この勝利は僕のキャリアにおいてもかなり上位にランクされると思う。想像していなかった勝ち方だからね。正直言って、逃げている間に自分が走っている意味を考えたりもしたんだ。
このツールの目標はステージ優勝だった。2回チャレンジする機会があったんだけど、逃げメンバーが少なく、思ったようにはいかなかった。だから今日も逃げ切れる確信はずっと持てずにいたんだ。あるタイミングでマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)が4分差になったと言っていて、“もしかしたら”と思った。勝てる手ごたえはなかったけど、これは上り次第だなと。アタックした瞬間は、その先で苦しむ覚悟はできていた。
僕は比較的ポジティブな人間だと思う。すぐに明日のことを考えるんだ。だから、これまでのキャリア選択についても一切の後悔はない。いまのチームでアシストの立場にいることについても満足している。僕はカルロス・ロドリゲスやトーマス・ピドコックを助け、ときにアドバイスだってするよ。彼らが個人総合で上位に入ることが最大の目標だ」
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「今日の結果に対してまったくイラ立っていないよ。チームとしては逃げグループを最後まで行かせて良いと思っていて、実際にそのようなレースになった。それに目標はマイヨ・ジョーヌをキープすることだったんだ。それができたから満足しているよ。
今日のような急坂は僕向きじゃないね。だから、タデイとのタイム差をできるだけ少なくすることを重視した。確かに今日の彼は強かったよ。でもマイヨ・ジョーヌはまだ僕のものだからね。
じゃあどんなコースが合っているのかって? レース距離が長く、登坂区間の多いステージだね。それがこの先待っているので、とても楽しみなんだ」
●マイヨ・ブラン タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)コメント
「今日の走りはうれしいね。もちろんステージ優勝できれば良かったんだけど、ミハウ・クフィアトコフスキはとても強かった。それより個人の結果だよね。チームとしてレースをコントロールしてくれたことは、僕に自信とモチベーションを与えてくれた。ヨナス(ヴィンゲゴー)との勝負にも勝ったと言えるね」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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