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【ツール・ド・フランス2023 レースレポート:第8ステージ】マッズ・ピーダスンが“本職”のスプリントで念願のステージ優勝 「ラストダンス」カヴェンディッシュが落車でまさかのリタイア
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)
主催者の見立てではスプリントフィニッシュと言いながら、カテゴライズされているのは丘陵コース。つまりは、「上れるスプリンター向け」と目された第8ステージ。その通り、勝負はスプリントになり、一定の登坂力を有する選手たちによる争いになった。勝ったのはマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)。ツール通算2勝目は、“本職”であるスプリントで獲った。
「昨年勝ったのが第13ステージだったから、それより早く1勝を挙げられて良かったよ。それもスプリントでね。前回の勝利は逃げだったからね。ツールで勝つこと自体美しいけど、今日は特にうれしいね」(マッズ・ピーダスン)
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今大会2度目にして最後となる200km超えのステージ。近年のロードレースのトレンドに沿う「長くなりすぎない」ステージづくりによって、今大会の200km超……いわゆる長距離ステージは2つに絞られている。よりによって……というべきか、そんな日に「これぞフランスの夏」と言えるような暑さが選手や関係者を襲う。
スタート地リブルヌは、2年前に第19ステージのフィニッシュ、第20ステージのスタートの街になっていて、マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)とワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)がそれぞれ勝利を挙げた。新型コロナによる厳戒態勢が続いていた中でのレースで、この街を過ぎればパリへ向かうとあって、どこか緊張感が増していたものだ。
スタート後は北東に針路をとり、後半にかけてアップダウンが集中。特にフィニッシュ前15kmから連続して上下する4級山岳2カ所は平均勾配が約5%。そして、最後の1kmは4%の上り勾配。上れるスプリンター向けとは言うが、最終局面にどれだけの人数が集団に残っているかで勝負の方向性は変わってくる。
リアルスタートして早々から激しい出入り。追い風も関係してか、時速50kmを超えるハイスピードで突き進む。20km地点を過ぎてティム・デクレルク(スーダル・クイックステップ)がアタックを決め、アントニー・テュルジス(トタルエナジーズ)とアントニー・ドゥラプラス(チーム アルケア・サムシック)が追随。この3人がひとまとまりになって、この日の逃げが決まった。
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第8ステージ|Cycle*2023
3選手は快調に飛ばして、集団に対して5分近いリードを得る。79km地点に設置された中間スプリントポイントはドゥラプラスが1位で通過し、少しおいてやってきたメイン集団ではヤスペル・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)が先着。全体では4番手で、13ポイントを獲得。マイヨ・ヴェール争いをより優位にしている。
この直後にマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)が動いて、スプリンター陣数人が続いたが、さすがに集団も黙ってはいない。ユンボ・ヴィスマが中心に立って彼らを集団へと引き戻している。
衝撃のシーンは残り61kmで起きた。前日のステージ2位に入り、ベテラン健在をアピールしたばかりだったマーク・カヴェンディッシュ(アスタナ・カザクスタン チーム)が集団内で落車。右の鎖骨を押さえ、しばらくその場から動けなかった。何とか立ち上がったものの、バイクに戻ることはできずリタイア。ツール最多勝利記録の期待も膨らみ、今季限りでのキャリア終了で最後のツールだったが、悲しく、悔しい“終演”に。
そのときの状況をチームメートのジャンニ・モスコンが説明する。
「僕たちはプロトンの最後尾にいたんだ。そうしたら、目の前でクラッシュが起きた。ちょうどスピードが上がったタイミングで、マークも僕も踏み込もうとしたんだ。そうしたら、前の方で誰かがラインを変えて、そのはずみで数人が絡んでしまった。マークは彼らに乗っかるようにして落車してしまったんだ」(ジャンニ・モスコン)
すぐに病院へ搬送され、右鎖骨の骨折と診断されている。この結末には、大会ディレクターのクリスティアン・プリュドム氏もコメントを出さずにはいられなかった。
「(ツール最多勝利記録の)35勝目を彼は目指していました。昨日は2位で、より一層可能性が高まっていたのです。今日その夢が終わってしまいます。彼も、私も悲しくてなりません。彼はツール史上最高のスプリンターで間違いありません。尊敬に値する人物です」(ツール大会ディレクター:クリスティアン・プリュドム氏)
レジェンドが思わぬ形でプロトンから去ろうとも、レースは続く。先頭3人とメイン集団との差が縮まっていく中で、カスパー・アスグリーン(スーダル・クイックステップ)が前を目指して動きを見せたが、効果的なものとはならず。残り40kmを切ったあたりからはタイム差が1分になり、流れは完全に集団へ。テュルジスが最後のひとりになっても先頭で粘り続けたが、残り8.2kmで集団が飲み込んだ。
「僕としては勝つなら逃げしか選択肢がないんだ。ただ、逃げる目的はそれだけではなくて、暑さの中で積極的に走ることでタフなコンディションへの対処法をチームにフィードバックできるメリットもあるんだ。個人的には良い仕事ができたと思っているよ」(アントニー・テュルジス)
カウンターによるアタックもすべて集団が摘み取って、リーダーチームのユンボ・ヴィスマを中心に最終盤を急ぐ。そんな中、集団内でまたもクラッシュが発生。今度は、個人総合4位でスタートしていたサイモン・イェーツ(チーム ジェイコ・アルウラー)が巻き込まれた。バイクを交換して再出発したが、結果的に47秒の遅れを喫することになる。また、同じく巻き込まれたステフ・クラス(トタルエナジーズ)はリタイアに終わっている。
それをよそに、ハイスピードで突き進む集団。残り5kmからはアルペシン・ドゥクーニンクが前線へ。リドル・トレックは、個人総合争いから遅れたマティアス・スケルモースを牽引役に動員し、主導権争いを激化させる。残り1kmを示すフラムルージュでは、リドル・トレックが先頭を確保し、上り基調のスプリントへ向かった。
最後のコーナーを抜けて、前に出てきたのはユンボ・ヴィスマ。クリストフ・ラポルトの牽きでワウト・ファンアールトが上がってくる。絶好のポジションに立ったように見えたが、左右からアルペシン・ドゥクーニンクのトレインやピーダスンが上がってきて、進路をふさがれてしまう。
「クリストフ(ラポルト)の右側から抜けていく予定だった。僕のスペースを作るために左に寄せようとしたクリストフが動きを封じられてしまったんだ。僕も前に出られず、ブレーキするしかなくなった。もう一度踏み直したけど間に合わなかったよ」(マチュー・ファンデルプール)
今大会初勝利を掴んだマッズ・ピーダスン(リドル・トレック)
代わってスプリントを一番に開始したのがピーダスン。すぐにフィリプセンも反応したが、最後まで追い切れなかった。ピーダスンが今大会初勝利、ツール通算2勝目となる勝利をスプリントで挙げた。
「今日は逃げの日なのか、スプリントデーなのか想像がつかずにいた。それでも、僕を含めてスプリンターみんな、チャンスを失いたくないと思っていたんじゃないかな。チームメートは完ぺきなリードアウトをしてくれた。おかげで、ロングスプリントになっても対応できる脚を残すことができたんだ」(ピーダスン)
2019年にはロード世界王者になり、昨年ツール初勝利。今年のジロ・デ・イタリアでも1勝し、全グランツール勝利者となった。春のクラシックでも優勝争いをにぎわせていて、パンチャー系のスプリンターとしてはプロトンで1、2を争う存在だ。
「大差か小差かは問題じゃないよ。ツール・ド・フランスで勝てるかどうかなんだ。またひとつ、素晴らしい経験ができたよ」(ピーダスン)
そして、思わぬ形でレースを去ったカヴェンディッシュへの思いも隠そうとはしなかった。
「マークと一緒に走れるだけでどんなにうれしいことか。彼とは良い関係を築けていて、いつも会うのが楽しみだったんだ。実は彼とはジャージの交換をしようと約束していてね……忘れないでいてくれると良いのだけれど。どこかのレースで会えると良いな」(ピーダスン)
個人総合成績は、遅れたサイモンが2ランクダウン。トップ3は変わっておらず、ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)が引き続きマイヨ・ジョーヌを着用。タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)とジャイ・ヒンドレー(ボーラ・ハンスグローエ)が2位と3位で続いている。
「ひとまず今日のステージを終えられて良かったよ。明日はターニングポイントになるかもしれない。ピュイ・ド・ドームはクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの前に試走したんだけど、急坂がとても印象的だった。大事な1日になることは確実だね」(ヨナス・ヴィンゲゴー)
第1週の終わりに、マイヨ・ジョーヌ争いの趨勢がはっきりとすることだろう。運命は、35年ぶりにツールが上る超級山岳ピュイ・ド・ドームに顕在する。
●ステージ優勝 マッズ・ピーダスン(リドル・トレック)コメント
「最初から最後まで冷静に走ることができた。逃げの日なのかスプリントデーなのかの想像がつかなかったので、スタート直後にアタックしてみたけど集団が追ってきた。“あぁ、今日はスプリントの日なんだ”と悟ったね。
ピュアスプリンターと直接対決しても勝てないことは分かっている。でも、今日のようにパワーが必要なら僕にもチャンスがめぐってくる。ヤスペルとの差はそこにあったんじゃないかな。マティアス(スケルモース)の牽引は本当に素晴らしかった。チームメートみんなが僕のロングスプリントを信じてくれたことに心から感謝しているよ。
マークは僕たちのレジェンドで、クラッシュで大会を去らないといけないという事実は受け入れがたい。彼がツール35勝目を挙げる瞬間をこの目に焼き付けたかったから……。」
レース前にグータッチするポガチャルとヴィンゲゴー
●マイヨ・ジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「チームとしてステージ優勝ができれば最高の1日になったんだけどね。マッズ(ピーダスン)はとても強かったね。ひとまず今日のステージを終えられて良かったよ。
ピュイ・ド・ドームの上りはクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの前に試走して、急坂がとても印象的だった。ツールを決定づけるステージになるだろうけど、その後のステージも気を抜くことはできない。いずれにせよ、ターニングポイントになりうるステージであることは確かだね」
●ステージ3位 ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)コメント
「失敗だよ。チームとしてはうまくいっていたんだけどね。クリストフ(ラポルト)が上り坂を200m以上にわたって僕を引き上げてくれて、あとはスプリントするだけだった。彼の右側から抜けていく予定だったんだけど、その左側からマチュー(ファンデルプール)とヤスペル(フィリプセン)が上がってきて、クリストフがラインを変えるスペースがなくなってしまったんだ。それによって減速せざるを得なくなって、もう一度踏み込んだけどマッズまでは間に合わなかった。
勝てそうなのにね。開幕からずっとこんな感じ。脚はあるけどうまくいっていない。そんなこともあると思って、日々受け入れていくしかないね。」
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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