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【Cycle*2023 クリテリウム・デュ・ドーフィネ:プレビュー】大事故から復帰のベルナルも参戦、真夏のツール・ド・フランスを睨んだ駆け引きはこのクリテリウム・デュ・ドーフィネでゴングが鳴らされる
サイクルロードレースレポート by 山口 和幸6月4日(日)に開幕を迎えるクリテリウム・デュ・ドーフィネ
75回目の開催となるクリテリウム・デュ・ドーフィネが6月4日から11日まで全8ステージで開催される。舞台はフランス東部のオーヴェルニュ・ローヌ・アルプ地域圏で、アルプス山脈もこのエリアにある。コースマップには平坦の文字がなく、8日間にわたって2000m級の山岳を含む勝負どころが凝縮されている。
クリテリウム・デュ・ドーフィネは第二次世界大戦後の混乱が一段落した1947年、アルプスの山麓にあるグルノーブルの地方新聞社ル・ドーフィネリベレによって「クリテリウム・デュ・ドーフィネリベレ」というレース名で始まった。新聞紙の拡販策がレース創設の発端というのはツール・ド・フランスと同じだ。
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フランスのかつての行政区画「ドーフィネ」がレースの中心舞台となる。フランスの行政区画は2016年に大変革されたが、それ以前は高速道路を走っていて、ドーフィネに入ったときには沿道にイルカの標識が必ず立っていた。
日本で言えば「海なし県」で、「アルプス山脈のおひざもとなのになんでイルカ?」と不思議に思ったのは言うまでもない。実は12世紀にこのエリアの統治者が紋章にイルカを採用したのが始まりだ。ドーフィネとは英語でドルフィン、日本でイルカ。新聞社は自由な論調を掲載する地方紙として、ドーフィネにリベレ(自由)を足して新聞名にしたのである。
2022年大会で総合優勝したログリッチ(左)と総合2位のヴィンゲゴー
2010年にはツール・ド・フランスを主催するA.S.O.が大会運営に参画。メディア名を消すために大会名称からリベレを削除した。そしてツール・ド・フランスの姉妹レースとして、ツール・ド・フランスとの関連性を深めていく戦略を取る。リーダージャージも個人総合成績はマイヨ・ジョーヌと同じ黄色に変更。ポイント賞とヤング・ライダー賞も全く同じで、山岳賞のみ青字に白い丸がちりばめられるジャージを使う。
歴史的にはこの青色というのがクリテリウム・デュ・ドーフィネの本来のイメージカラー。紋章のイルカが青色だからだ。A.S.O.が参入する前は黄色い地に青いストライプが入ったものが総合1位のリーダージャージだった。さらに言えば山岳賞ジャージは現在のツール・ド・フランスのものを反転させたデザイン、赤地に白い丸が入ったものだった。
写真:2022クリテリウム・デュ・ドーフィネ
クリテリウム・デュ・ドーフィネは毎年6月中旬に開催されるため、6月末のツール・ド・スイス、そして7月のツール・ド・フランスに向けての前哨戦として有名選手が名を連ねてきた。しかもクリテリウム・デュ・ドーフィネで総合優勝した選手が同じ年のツール・ド・フランスも制してしまうというデータはかなりある。
1955年のルイゾン・ボベ(フランス)、1963年のジャック・アンクティル(フランス)、1971年のエディ・メルクス(ベルギー)、1973年のルイス・オカーニャ(スペイン)、1975年のベルナール・テヴネ(フランス)、1979年と1981年のベルナール・イノー(フランス)、1995年のミゲール・インデュライン(スペイン)、2012年のブラッドリー・ウィギンス(英国)、2013、2015、2016年のクリストファー・フルーム(英国)、2018年のゲラント・トーマス(英国)だ。現在のレースディレクターはこの中のテヴネ。
どうしてそんな特徴があるかといえば、クリテリウム・デュ・ドーフィネで使用されるコースは、ツール・ド・フランスでの勝負どころの1つ、アルプス山脈で行われるということにほかならないからだ。
写真:2022クリテリウム・デュ・ドーフィネ
2023年の8ステージを見てみてもそれがはっきりと分かる。クイーンステージとなる第7ステージは、ツール・ド・フランスが頻繁に訪問するマドレーヌ峠、モラール峠を越え、ゴールは「鉄の十字架」という意味のクロワ・ド・フェール峠へ。実際に鉄の十字架が峠に設置されているので、見逃さないように。
最終日のレースはグルノーブル近郊の高台にあるバスティーユに上る。2000年以来の訪問となるが、1789年にフランス革命の発端となった、民衆によるバスティーユ牢獄襲撃と同じ名前のバトルフィールドであるだけに興味深い。このバスティーユでマイヨ・ジョーヌを獲得した選手が7月1日開幕のツール・ド・フランスでも優勝の最有力となるのではないだろうか。
写真:2022クリテリウム・デュ・ドーフィネ
2022年のクリテリウム・デュ・ドーフィネは、ユンボ・ヴィスマのプリモシュ・ログリッチがアシスト役のヨナス・ヴィンゲゴーの強力なサポートを受けて総合優勝した。大会後のインタビューでログリッチは「僕ら2人のどちらかが次のツール・ド・フランスで勝てるだろう」と断言したことを覚えているだろうか?
直後のツール・ド・フランスではタデイ・ポガチャルの3連覇を阻止するために、ログリッチがエースナンバーを、ヴィンゲゴーが末尾のナンバーをつけて参戦することになるのだが、最終的には若いヴィンゲゴーが山岳で強さを見せつけて初優勝をさらった。チームメートのワウト・ファンアールトもクリテリウム・デュ・ドーフィネで好調を見せつけ、ツール・ド・フランスへの準備が整っていることを証明した。
2023シーズン、ユンボ・ヴィスマはヴィンゲゴーをツール・ド・フランスでのエース、ログリッチはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャで勝利をねらうという作戦に。まずはログリッチが見事にジロ・デ・イタリアで初優勝。ブエルタ・ア・エスパーニャに備えてツール・ド・フランスはパスする予定だ。
ジロ・デ・イタリアで疲弊した出場選手もいったんは実戦を離れる。選手層の厚いユンボ・ヴィスマは、このクリテリウム・デュ・ドーフィネではヴィンゲゴーと別部隊を起用して参戦してくる。クリストフ・ラポルト、ティシュ・ベノート、ステフェン・クライスヴァイクが出番となり、チームメイトとの連携を確認していく。
UAEチームエミレーツのタデイ・ポガチャルはシーズン前半の骨折と回復手術を経て、7月1日のツール・ド・フランスに向けて乗り込み始めたばかりで、今大会は欠場する見込み。チームはアダム・イェーツ、ラファウ・マイカらを参戦させ、ライバルたちの調子を探る。
イネオス・グレナディアーズではエガン・ベルナルが大事故から復帰し、いよいよ本格的に参戦。ツール・ド・フランスで3年ぶりの総合優勝が狙えるほどに回復しているのか、チーム首脳陣のみならず世界中のファンが注目している。
写真:2022クリテリウム・デュ・ドーフィネ
ボーラ・ハンスグローエのエースはジャイ・ヒンドレー。5月のジロ・デ・イタリアでは大会連覇を狙わず、新たなターゲットを設定してこのクリテリウム・デュ・ドーフィネに出場する。
スーダル・クイックステップのジュリアン・アラフィリップ、モビスター チームのエンリク・マスも大会になくてはならない注目選手。真夏のツール・ド・フランスを睨んだ駆け引きはこのクリテリウム・デュ・ドーフィネでゴングが鳴らされる。
文:山口和幸
山口 和幸
ツール・ド・フランス取材歴25年のスポーツジャーナリスト。自転車をはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、Number、Tarzan、YAHOO!ニュースなどで執筆。日本国内で行われる自転車の国際大会では広報を歴任。著書に『シマノ~世界を制した自転車パーツ~堺の町工場が世界標準となるまで』(光文社)。2013年6月18日に講談社現代新書『ツール・ド・フランス』を上梓。青山学院大学文学部フランス文学科卒。
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