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【Cycle*2023 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:レビュー】“呪い”知らずのワンダーボーイ、レムコ・エヴェネプールが驚異の独走で2連覇 ポガチャルは落車で左手首を手術
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ表彰台 優勝エヴェネプール、2位ピドコック(右)、3位ブイトラゴ(左)
「アルカンシエルの呪い」などと以前はよく言ったものだが、いつしかそんなフレーズを口にすることもなくなった。根拠のない都市伝説など忘れてしまうほどに、胸のすくようなアタックと美しき独走がマイヨ・アルカンシエルとマッチする。われわれは再び、ベルギーが生んだワンダーボーイの強さを目の当たりにした。
2023年の春のクラシックは、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで締めくくられた。最後を飾った大一番は、クラシックシーズンをこの一本に絞っていたレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)が逃げ切り勝利。フィニッシュまでの30kmをひとり旅し、昨年とまったく同じ勝ち方を演じてみせた。
「本当に幸せだよ。マイヨ・アルカンシエルを着てモニュメントを勝てたことが信じられない。フィニッシュラインを通過する瞬間の素晴らしい気分と言ったらないね!」(レムコ・エヴェネプール)
レース前の話題は、レムコとタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)の今季初対戦でもちきりだった。かたや、昨年のこの大会を機に独走に次ぐ独走でタイトルをほしいままにする現役の世界王者。かたや、過去2回ツール・ド・フランスを制し今年はクラシック戦線で大暴れ、史上3人目のアルデンヌクラシック・ハットトリックがかかっている。そんな両者が今年初めて同じレースでぶつかるのだ。互いを意識する発言も聞かれ、日を追うごとに期待度は高まっていった。
258.1kmを走った先に、答えがある。どんな結末であろうと、ロードレース史に残るレースになることはスタート前から明白だった。
リアルスタートしてすぐに11人の逃げが容認されると、タイム差は最大4分15秒まで開いた。南から吹く風の影響で、レース前半は全体的にスローペース。11ある登坂区間のうち、10カ所がバストーニュでの折り返し後に待っている。ドラマはそこに集約されている……はずだった。
衝撃的な事態は、ちょうど折り返しに差し掛かる84.5km地点で発生した。タデイ・ポガチャルが落車……集団前方、右サイドに位置していたポガチャルが、ミッケルフレーリク・ホノレ(EFエデュケーション・イージーポスト)とともに地面に叩きつけられてしまった。予期せぬ事態に、UAEチームエミレーツはアシスト6人全員がストップ。絶対エースが立ち上がるのを待つが、マルク・ヒルシら3選手はチームカーから「急いで集団へ戻れ」の指示。それはつまり、ポガチャルがレースに戻れないであろうことを意味していた。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ|Cycle*2023
逃げの11人、最大タイム差は4分15秒
その通り、ポガチャルとホノレはバイクに再乗車できず、リタイアが決定。この瞬間、ポガチャルのアルデンヌ3連勝の可能性が完全に消滅した。
それでもレースは続く。メイン集団のコントロールをになったのはスーダル・クイックステップ。ポガチャルの落車に関係なく、はじめから集団を統率するプランだったというベルギーの雄は、若きスーパーエースにすべてを託すことで意思統一が図られていた。
後半に入ると、逃げグループとメイン集団ともに登坂区間をクリアするたびに人数が絞り込まれていく。4つ目の上りコート・ド・ワンヌ(登坂距離3.6km、平均勾配5.1%)でのヤン・トラトニク(ユンボ・ヴィスマ)のアタックをきっかけに、レースペースは上昇。集団から数十秒の差で先行したトラトニクは、20kmほど進んだところで逃げメンバーに合流。そのまま先頭固定で牽引を続けると、ここまで逃げてきた選手たちはたちまち付いていけなくなってしまった。
ただ、メイン集団に慌てるムードはまったくない。スーダル・クイックステップはフィニッシュまで60km以上を残していながら、前・世界王者のジュリアン・アラフィリップを牽引役に動員。怪我からの復帰戦となった今回はアシストに徹して、コル・ドゥ・ロジエ(4.4km、5.9%)での絞り込みに一役買った。
徐々に強まる雨とともに、レース全体が激しさを増していく。逃げはトラトニクとシモーネ・ヴェラスコ(アスタナ・カザクスタン チーム)の2人になり、メイン集団はスーダル・クイックステップだけでなくイネオス・グレナディアーズやバーレーン・ヴィクトリアスなど、強力エースを擁するチームが続々と前線に顔を見せ始める。
そうして迎えた重要区間コート・ド・ラ・ルドゥート(1.6km、9.4%)で、局面は大きく動いた。
まず逃げていた2人をキャッチすると、その勢いのままイラン・ファンウィルデル(スーダル・クイックステップ)が集団を崩しにかかる。レムコが絶大な信頼を寄せるヤングクライマーの牽引によって、最前線に残ったのは10人程度。そして頂上手前、残り33.5kmでついにレムコが動いた。
コート・ド・ラ・ルドゥートで抜け出したレムコ・エヴェネプール、追うトーマス・ピドコック
まるで昨年のレースを焼き直したかのような、コート・ド・ラ・ルドゥートでのアタック。違いといえば、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)が猛追し、その後ろにもジュリオ・チッコーネとマティアス・スケルモースのトレック・セガフレード勢が追随していること。雨に濡れた下りをセーフティーに行ったレムコに対し、追う側のピドコックは攻めの一択。これでどうにか追いついたピドコックだったが、消耗は避けられなかった。
「ラ・ルドゥートに集中していた。上りで多少差をつけられても、下りで追いつけると分かっていたからね。実際にその通りになったけど脚を使わざるを得ず、このままだと次の上りで限界に来てしまうと悟ったんだ。レムコに離されてしまってからは、いったん頭をクリアにして2位を目指そうと切り替えたよ」(トーマス・ピドコック)
レムコとピドコックの状勢が明確になるまでに、そう時間はかからなかった。残り30km、緩やかな上りでレムコが労せずピドコックを引き離すと、いよいよ2連覇へ向けたウイニングライドの幕開けだ。
「ラ・ルドゥートで振り返った時に、僕から見える位置に5人程度しかいなかった。これならどこかでアタックすれば逃げ切れると確信したんだ。最後まで自分らしいレースをすると決めていたし、下りだけ必要以上に怖がらないように心掛けて走ったよ」(エヴェネプール)
2年ぶりにコースに戻ってきたコート・デ・フォルジュ(1.3km、7.8%)も、本来なら決定打が生まれる場所であるコート・ド・ラ・ロシュ・オー・フォコン(1.3km、11%、最大勾配13.2%)も、今回ばかりは勝利へ突き進むレムコの走りを後押しする区間でしかなかった。2つの上りを終える頃には、1分30秒までタイム差は拡大。2位狙いのムードが高まるばかりのメイン集団では、ベン・ヒーリー(EFエデュケーション・イージーポスト)とサンティアゴ・ブイトラゴ(バーレーン・ヴィクトリアス)が飛び出し、ピドコックが後に合流。かつてのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュであれば優勝争いで起こっていた攻防が、表彰台残り2枠のためのアクションにとどまってしまうほど、レムコの強さは極まっていた。
雨が降る時間帯もあったが沿道には熱狂的な観客が詰めかけていた
「チームとともに特別なことを成し遂げたかったから」と選んだ上下純白のアルカンシエル姿は、雨に濡れながらでもひときわ輝いた。残り2kmで背後を走るチームカーと喜びを共有し、最後の1kmは沿道のファンを鼓舞。フィニッシュを前に雨が上がった空に虹を架けるかのごとく、高く拳を掲げて2連覇の瞬間を迎えた。
「出場した2回とも優勝だなんて自分でも驚いているよ。アルカンシエルを着てこのレースに勝つことは特別だ。優勝シーンの写真を額に入れて飾りたいくらいだよ」(エヴェネプール)
今季はジロ・デ・イタリアを最大目標に据えると宣言し、1月のシーズンイン以降はステージレース3戦に出走をとどめていた。春のクラシックはリエージュに集中。それもあくまで「ジロ前の最終テスト」の意味合いが濃く、レース3日前に高地でのトレーニングを切り上げたばかりだった。
「ジロに向けて大きな自信になったよ。高地トレーニングが成功していることは分かっていたけど、それを今日のレースで確信できた。この大きな勝利を祝うとともに、しっかり回復して次の目標に向かっていきたいね」(エヴェネプール)
そして何より、お家芸のクラシックで不発が続いていたスーダル・クイックステップを救う大勝利にもなった。思えば、昨年もチームは同様のピンチに陥っていた。そんなとき、チームマネージャーのパトリック・ルフェヴェルの発言が話題になるのがお約束だが、今年もレムコが苦境を打破し、ご機嫌は直っていることだろう。
これだけの強さを見せつけながら、まだコンディションがピークに達していないのであれば……。ジロの走りは、観る者の想像のはるか上を行くものとなるに違いない。もしリエージュとジロの連勝となれば、2007年のダニーロ・ディルーカ以来の記録でもある。
そんなレムコの、スーダル・クイックステップの歓喜から1分6秒後、ピドコックが2位争いに先着。3位にはブイトラゴが続き、前半区間のレース構築を担った新城幸也の働きに報いた。
この春、天国と地獄を味わったポガチャルは、リタイア後に病院へ直行。左手首の舟状骨と月状骨の骨折が認められた。舟状骨は緊急手術となり、しばらくは回復とリハビリの日々となる見通し。全治や今後のスケジュールについては明かされておらず、復権を目指すツール・ド・フランスへの影響の有無はゆくゆく分かることになりそうだ。
ドラマに満ちた春のクラシックが終わり、シーンはグランツールへ。われわれも3週間の長旅へ心の準備をしつつ、もう少しだけクラシックの余韻に浸っていたいところである。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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