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【Cycle*2023 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ:プレビュー】大記録かかるポガチャルと2連覇狙うレムコ、両者の間隙縫ってジャイアントキリングも!? 春のクラシックのオーラスは歴史的大一番
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介春のクラシック最終戦、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ
“頂上決戦”との表現では言い足りないくらい、豪華で、贅沢で、きらびやかな、「こんなレースが見たかった!」と心から思える一戦がやってくる。
タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)とレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)、プロトンのいまをときめくヤングライダー2人が、春のクラシック最終戦であるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュにそろう。
レース前から落ち着かないのは、両者が対戦することはもとより、それぞれに大きな記録がかかっているからだ。
今季出場した8大会で6勝、ステージ優勝も含めると12勝を挙げている絶好調のポガチャル。このクラシックシーズンもとどまることを知らず、アムステルゴールドレースとラ・フレーシュ・ワロンヌで連勝。リエージュを勝てば、史上3人目となる“アルデンヌクラシック・ハットトリック”(同一シーズン3連勝)の達成だ。現役当時、「カニバル」(人食い)と称されるほどの強さを誇ったエディ・メルクスも、真のオールラウンダーと言われ続けたベルナール・イノーも、ひとつのシーズンで3つすべてを勝つことはなかった。
もっというと、ツール・ド・フランス個人総合優勝経験者で、アルデンヌのハットトリックを果たした選手は皆無。前人未到の記録へ王手をかけているのだ。
一方のレムコは、この大会の2連覇がかかっている。前回は最後の34kmを独走。このときの勝利を機に、フィニッシュまで20〜30kmを残した段階で単独先頭に立って逃げ切る戦術が勝ちパターンになった。
異次元の走りを続けるポガチャルを止められるのは、世界王者にまで上り詰めたレムコしかいないのではないか。今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、その答え合わせの機会になる。
初開催は1892年。その歴史はツール・ド・フランス(1903年初開催)より古い。「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」との別名を持ち、ワンデーレースの中でもとりわけ歴史と格式を誇る「モニュメント」の1つに数えられる。
レース中盤から後半にかけて上りが集中するコースレイアウト
レース名のとおり、リエージュの街を出発し、隣国ルクセンブルクとの国境地帯に位置するバストーニュで折り返し。再びリエージュに戻ってくるルートが慣例で、両都市を基点として8の字を描くようなルーティングが特徴だ。
今回は全行程を258.1kmに設定し、その間に11カ所の登坂区間を越える。特に、バストーニュで折り返してからのレース中盤から後半にかけて、上りが10カ所と集中。総獲得標高は4500mに迫る。
11の登坂区間。
69.7km地点 コート・ド・ラ・ロシュ・アン・アルデンヌ(登坂距離2.6km、平均勾配6.2%)
120.9km地点 コート・ド・サン・ロッシュ(1km、11.2%)
164.8km地点 コート・ド・モン=ル=ソワ(1.7km、7.9%)
173.1km地点 コート・ド・ワンヌ(3.6km、5.1%)
179.6km地点 コート・ド・ストクー(1km、12.5%)
183.8km地点 コート・ド・オート・レヴェ(2.2km、7.5%)
198.1km地点 コル・ドゥ・ロジエ(4.4km、5.9%)
211.4km地点 コート・ド・デニエ(1.6km、8.1%)
224.2km地点 コート・ド・ラ・ルドゥート(1.6km、9.4%)
234.8km地点 コート・デ・フォルジュ(1.3km、7.8%)
244.8km地点 コート・ド・ラ・ロシュ・オー・フォコン(1.3km、11%、最大勾配13.2%)
他のアルデンヌ2戦と比較すると、上りひとつひとつの距離が長く、急勾配も多い。自然とサバイバル化していき、登坂区間を過ぎるたびに集団は人数が絞り込まれていく。フィニッシュまで50kmを切るとプロトンは活性化。
最後の35kmは2年前までのルートを採用。コート・ド・ラ・ルドゥートは、各チームのサブエースクラスが多くアタックする箇所で、それをきっかけに前線には精鋭しか残らない状態に。再びコースに組み込まれたコート・デ・フォルジュでも脚を使い、いよいよ最大の勝負どころコート・ド・ラ・ロシュ・オー・フォコンへ。この頂上で、フィニッシュまでは13.3km。直後に少し上ったら、今度は長いダウンヒル。これがかなりのスピードまで上がることから、ロシュ・オー・フォコンの頂上で独走に持ち込んでいる選手が現れているのか、または小集団になっているのかで、最終局面の展開は大きく変わる。
新緑の眩しい風景も楽しめる
レース距離やコース特性から、ワンデーレースを得意とする選手だけでなく、グランツールレーサーやクライマーも力を発揮しやすい。その要素もまた、ポガチャルとレムコの走りを際立たせるものになる。
今季のポガチャルは勝負どころでのアタックが冴えに冴えている。ロンド・ファン・フラーンデレンやアムステルのように、独走に持ち込めば他の追随を許さない。それでいて、リエージュでは2年前に5人によるスプリントを制する(時速68kmをマークしていた!)など、フィニッシュ前でのスピードにも長ける。それに、UAEチームエミレーツのアシスト陣には登坂力・スピードそれぞれを持ち味とするメンバーがそろう。フレーシュと同様に、彼らが主にレースを統率していくことだろう。
レムコも今年は独走だけでないところを示している。3月に走ったボルタ・ア・カタルーニャでは、個人総合優勝を争ったプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ、今大会は欠場)と毎ステージのようにスプリント。そのときの好戦が自信になっているようで、「スプリントになってもポガチャルと十分に勝負できる」と宣言。両者が早い段階で仕掛けるようだと、マッチアップという究極の展開になることも……。
連覇を狙いつつ、5月上旬からのジロ・デ・イタリアに向けた最終テストに位置づけてもいる。直前までスペイン・カナリア諸島で高地トレーニングに励み、その成果が見られるはずだ。この春不発のスーダル・クイックステップだが、ジュリアン・アラフィリップもけがから復帰するとあり、ベストなメンバーでレムコを盛り立てていく。
“トップ2”の間隙を縫って、大方の予想をひっくり返す選手が出てくるか。
フレーシュで2位に入りインパクトを残したマティアス・スケルモース(トレック・セガフレード)も23歳のヤングライダー。長い上りへの適性や独走を得意としていて、トップ2との共通項が多い。経験豊富なジュリオ・チッコーネとバウケ・モレマも控えており、チーム力でも勝負できる。
起伏のある大地、総獲得標高は4500mに迫る
アルデンヌに入ってクラッシュを繰り返しているニールソン・パウレス(EFエデュケーション・イージーポスト)は、トラブルさえなければ上位戦線に入ってきそうだ。このレースでの自己最高は昨年の8位。チームメートにはアムステル2位のベン・ヒーリーや好調のエステバン・チャベスも控え、戦いのバリエーションは豊富。
トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)は、不発に終わったフレーシュからの修正が求められる。うまく終盤勝負ができれば勝機は高まる。近年ワンデーレースにも注力するエンリク・マス(モビスター チーム)、この大会の表彰台経験者であるロマン・バルデ(チームDSM)も脚質的にはコースに合っている。
前回2位のクインテン・ヘルマンスは今年、アルペシン・ドゥクーニンクのエースとしてスタートラインへ。2018年には2位に入っているマイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)も、フレーシュの走りを見る限りは好調だ。アムステル(7位)、フレーシュ(8位)と連続トップ10入りした23歳のマキシム・ファンヒルス(ロット・デスティニー)は、ここへきて評価が急上昇している選手。何か大仕事をやってのける可能性を秘めている。
そして、われらが新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)の6年ぶり6度目の出場が決定。季節性の咳喘息で少しばかり戦線を離れたが、ここに調子を合わせてきた。チームには、フレーシュ3位のミケル・ランダやテクニカルなコースに強いマテイ・モホリッチらがそろう。彼らを押し上げる新城の働きは見逃せない。
何が起こっても不思議ではない、歴史的大一番。われわれは、世界が注目する戦いの目撃者になる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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