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サイクル ロードレース コラム 2023年4月20日

【Cycle*2023 ラ・フレーシュ・ワロンヌ:レビュー】タデイ・ポガチャルが“アルデンヌ・ハットトリック”に王手! ユイの壁初征服も勝利に飽き足らず「今日勝ってもまだまだ終わりではない」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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ラ・フレーシュ・ワロンヌ

ラ・フレーシュ・ワロンヌ表彰台 優勝タデイ・ポガチャル、2位マティアス・スケルモース、3位ミケル・ランダ

3度上るミュール・ド・ユイ(ユイの壁)。その3回目は、頂上にフィニッシュラインが敷かれる、勝負のクライミングだ。残り200m、このタイミングを待っていたとばかりにスパートしたタデイ・ポガチャルUAEチームエミレーツ)は、レース名が意味する「ワロンを貫く矢」のごとくラ・フレーシュ・ワロンヌのタイトルを射止めてみせた。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

UAEチームエミレーツはレース全体をコントロール

アルデンヌクラシックの第2ステージ、ラ・フレーシュ・ワロンヌはセオリー通り最後のミュール・ド・ユイで決着。最大勾配26%区間からの激坂アタックの末、ポガチャルがユイの壁初征服。“壁”との表現がぴったりのタフな上りでもライバルを圧倒した。

「チームとして完璧なレースができた。早くみんなに感謝を伝えに行きたいよ。彼らの働きが僕にとってのモチベーションだったから、どうしても勝ちたかったんだ」(タデイ・ポガチャル)

その言葉通り、ポガチャルを勝たせるためにUAEチームエミレーツのアシスト陣が序盤から重責を担った。8人の逃げを容認したところで、集団コントロールを引き受ける。スタートから60km過ぎに4分近くまでリードを与えたが、それ以降は少しずつタイム差を縮小。約90kmのワンウェイルートを終え、ミュール・ド・ユイを基点とする周回コースに入る頃には2分前後の差でレース全体をコントロールした。

ときおり、強風を利用しようと数チームが集団前方に上がってきたが、それも長くは続かない。やはりUAEチームエミレーツが統率を任された。

「他チームからの協力らしい協力といえば、イネオス・グレナディアーズが少し加わってくれたくらい。あとは僕たちがレースの流れを調整するしかなかった。消耗は避けられないけど、僕たちの思い通りに展開できると割り切って走っていたよ。みんな僕をマークしていたから、誰かに煩わされることなくレースを進めようと思っていたんだ」(ポガチャル)

ポガチャルはレース中のほとんどの時間をアシストに守られながら走ることができた。残り21kmで発生した集団前方でのクラッシュを間一髪でかわしたが、ピンチといえばその程度。レース前のプランに基づき、粛々とシナリオは完成へと向かっていった。

J SPORTS サイクルロードレース【公式】

【ハイライト】ラ・フレーシュ・ワロンヌ|Cycle*2023

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

序盤から逃げたセーアン・クラーウアナスンとゲオルク・ツィマーマン

せめても戦った証拠だけは残そうと、逃げメンバーも粘った。序盤からの8人のうち、セーアン・クラーウアナスンアルペシン・ドゥクーニンク)とゲオルク・ツィマーマン(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が終盤まで生き残り、2回目のミュール・ド・ユイで飛び出したサムエーレ・バティステッラアスタナ・カザクスタン チーム)とルイス・フェルヴァーケ(スーダル・クイックステップ)が残り31kmで合流。クラーウアナスンは逃げグループのハイペースを作り出し、フェルバーケはユイの最終登坂入口までレースをリードした。

しかし、懸命に逃げる選手たちをよそに、メイン集団はミュール・ド・ユイの最終登坂に向けて着々と準備を整えていた。1つ前の登坂区間であるコート・ド・シュラーブを終えると、UAEチームエミレーツに加えてトレック・セガフレードやアルペシン・ドゥクーニンク(牽引役は逃げ終えたクラーウアナスンだった!)、イスラエル・プレミアテックなどが前線へ。自然と集団のペースが上がり、ひとり先を急いでいたフェルバーケとの差は縮まるばかり。

そして迎えた最後のユイの壁。残り1kmを示すフラムルージュ通過と同時にフェルバーケは集団に飲み込まれ、代わってマグナス・シェフィールド(イネオス・グレナディアーズ)が先頭へ。これに合わせてポガチャル、マイケル・ウッズ(イスラエル・プレミアテック)、トーマス・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)らが前に上がってくる。最大勾配26%に達するクロード・クリケリオンコーナーを通過すると、ウッズが先頭へ。さらに、残り300mでロマン・バルデチームDSM)がアタック。

そして、フィニッシュまで200m。それまでライバルの付き位置をキープし続けていたポガチャルが、周囲の動きを確認したのちに鎧袖一触の猛スパート。一瞬にして数メートルのリードを得て、最後100mの緩斜面は余裕のウイニングライド。戦前から優勝に一番近いと目されていたが、それを実証する完勝劇を演じてみせた。

ラ・フレーシュ・ワロンヌ

最大勾配26%のミュール・ド・ユイ

「最後の上りにすべてを賭けていたのだけど、とてつもなく大変だったよ。ユイの壁は小さなミスが命取りになるからね。昨年それを痛感したんだ。トップ10にすら入れなかったんだからね(12位)。その経験によって、上りまでは絶対に脚を残しておく必要があると学んだんだ」(ポガチャル)

確かに、ユイの壁を3回上らないといけないし、その他の登坂区間も簡単なものではない。集団内での位置取りも激しいし、ペースの上げ下げもある。いかに消耗せず最後の激坂に挑むかが大事なことではあるが、レースの大部分を自チームがコントロールし、最後をきっちり決めたその走り。「僕たちの思い通りに展開できると割り切って走っていた」との言葉もあったが、何があろうと勝ち切るところに彼の強さを改めて実感させられる。そして貪欲である。

「今日勝ったとはいえ、まだまだ終わりではないよ。170人を超えるプロトンで一番になることはいつだって最高の気分さ。どのレースにもストーリーがあって、そのトップに立てることが幸せなんだ」(ポガチャル)

となると、次なる焦点はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも勝てるかどうかになってくる。アムステルゴールドレースとラ・フレーシュ・ワロンヌに勝ったので、リエージュで優勝すると“アルデンヌクラシック・ハットトリック”の達成となる。長いロードレースの歴史にあって、それは2004年のダヴィデ・レベリンと2011年のフィリップ・ジルベールしか果たしていない。超人的な領域への挑戦だ。

「もちろん勝てれば最高だけど、リエージュはこれまでとは異なる厳しいレースになることは間違いない。チーム状態は良いから、できるだけのことはやってみるよ」(ポガチャル)

心身ともに充実度を増すポガチャルを止められる選手はいるのだろうか。4月23日、258.1kmによる長丁場の戦いでそれは明らかになる。どんな結末になろうと、それがロードレース史に残る一戦であることだけは間違いない。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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