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【Cycle*2023 ラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ:レビュー】ユイの壁に賭けた情熱実る! デミ・フォレリングがアルデンヌクラシック2連勝、史上2人目のハットトリックへ前進
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ表彰台 優勝デミ・フォレリング、2位リアヌ・リッパート、3位ガイア・レアリーニ
2023年シーズンを迎えるにあたり、最初の目標レースをラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌに定めた。走れば走るほど勝ちたくなる、不思議な魅力に夢中になること数年。だけど、思いが高まれば高まるほど、勝利が遠ざかるような錯覚にも陥った。最高順位は2020年と2022年の3位。果たしてベストコンディションで臨めていたか、本当に自分に合ったコースなのか……。考えるたびに、このレースの難しさを実感した。
今年で26回目を迎えたラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ。象徴であるミュール・ド・ユイ(ユイの壁)に幾多のウィメンズトップライダーが挑み、一番登頂を目指してきた。そして今年は、デミ・フォレリング(チーム SDワークス)が悲願の初優勝。ユイの壁を愛し、誰よりも情熱を傾けてきたと自負する彼女が、5度目の挑戦で実を結ばせた。
「いつかきっと勝てると思っていましたが……本当に勝ってみるとまったく信じられません。今回もうまくいかないのではないかと弱気にもなりましたが、チームメートが私なら可能であると信じさせてくれました。これはチームの強さと団結力の勝利です」(デミ・フォレリング)
127.3kmに設定されたレースは、ときおり逃げ狙いの動きがみられながらも、大きな局面の変化はなく進行。3度上るミュール・ド・ユイの1回目では、頂上付近でクラッシュが発生。育休からの復帰戦となったリジー(エリザベス)・ダイグナン(トレック・セガフレード)や、前回優勝のマルタ・カヴァッリ(FDJ・スエズ・フチュロスコープ)らが後方に取り残されたが、早い段階で集団へと戻っている。
先頭メンバーのシャッフルがありつつも、集団はトレック・セガフレードやチーム SDワークスのコントロールによって淡々と進行。2回目のミュール・ド・ユイ手前でまたもクラッシュが起き、再びダイグナンやカヴァッリが後退。昨年はアムステルゴールドレースとのアルデンヌ2冠でトップライダーの仲間入りを果たしたカヴァッリだったが、今回は優勝戦線には加われず。最終的に5分以上遅れての79位に終わっている。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】ラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ|Cycle*2023
レース前半、トレック・セガフレードがコントロールするメイン集団
有力視された選手たちの一部が置いてきぼりを食っている間に、メイン集団に次なる展開が訪れる。逃げグループを捕まえて到達した2回目のユイの上り。仕掛けたのは現役の世界女王にして、今季が最終シーズンとなるアネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム・ウィメン)。直前までスペイン・カナリア諸島で高地トレーニングを積んだマイヨ・アルカンシエルは、ダンシングで加速するとそのままトップで頂上を通過。後続を引き離して新たな逃げグループを形成した。
「今回はいつもと違う方法で走ってみようと思っていました。このレースはいつも、最後のミュール・ド・ユイまで待機するゲームになってしまいます。そんなレースの進め方が好きになれませんでした。あまりに退屈です」(アネミエク・ファンフルーテン)
ファンフルーテンのアクションに乗じたメンバーも精鋭ばかり。アシュリー・モールマン(AGインシュランス・スーダルクイックステップチーム)、エリーザ・ロンゴボルギーニ(トレック・セガフレード)、カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム レーシング)。4人とも、過去にこのレースの表彰台経験者。勝てば初優勝という共通項まで存在した。
逃げ切りがあるのではないか……そんな期待を抱かせるほどに脚のあるメンバーがそろったが、ファンフルーテンには誤算が生じていた。
「アシュリー(モールマン)が先頭交代にほとんど加わっていませんでした。それに、チーム SDワークスの選手が誰も乗らなかったことも私には痛手でした。もし、これらの条件が整っていれば、違ったレースになっていたのではないかと思います」(ファンフルーテン)
この4人の動きをマーレン・ローセル(チーム SDワークス)がほぼひとりで摘み取り、残り30kmを目前にレースをふりだしに戻す。直後にアマンダ・スプラット(トレック・セガフレード)がアタックし、それを3人が追いかけたが、メイン集団はこれを見送りつつもしっかりと射程圏内にとどめる。フィニッシュまで10kmを残して、チーム SDワークスやモビスター チームが集団のスピードを上げると、労せず追走3人を捕まえた。
大集団で突入した1回目のミュール・ド・ユイ。集団後方では接近するあまり脚を止めてしまう選手も
それまでチーム戦の様相だったプロトンが一変したのは、3回目のコート・ド・シュラーブだった。ミュール・ド・ユイの前では最後となる登坂区間で、フォレリングがみずから先頭に。グイグイと上りで牽引すると、最前線に残ったのは11人。優勝を狙えるだけの力を有する選手しかばかりだというのに、お構いなしとばかりにフォレリングは牽き続ける。ユイを前に少しばかり牽制気味になり、後方から8人が追いついてきたが、それが最終局面に大きな影響を及ぼすことはなかった。
ついにやってきた最後のミュール・ド・ユイ。最大勾配26%、その名の通り“壁”に向かって、再びフォレリングが前に出た。残り1kmを示すフラムルージュを過ぎると同時にプッシュ開始。
「スポーツディレクターのアンナ・ファンデルブレッヘン(2015年から7連覇した実績を持つ)からは、コート・ド・シュラーブでアタックするよう指示されていました。フィニッシュまで持つか自信はなかったのですが、実際にシュラーブでペースを上げて、最後のミュール・ド・ユイに到達しても脚が残っていました。さすがに後ろとの差が広がっていたことには気づきませんでしたが……」(フォレリング)
最も勾配が厳しくなるクロード・クリケリオンコーナーでマビ・ガルシア(リブレーシング・テックファインド)とリアヌ・リッパート(モビスター チーム・ウィメン)が追いついてきたが、フォレリングは残り200mでもう一段階ギアチェンジ。シッティングでグイグイと上って、ダンシングをしたのは最後の100mだけ。3回目のミュール・ド・ユイでは誰にも前を譲ることなく、頂上のフィニッシュラインへ一番に飛び込んだ。
「ようやく、ミュール・ド・ユイの攻略法を見つけました。上りの途中で後ろを振り返ったら、差が広がっていました。“このまま行けるはずがない”と思ってスプリントにも備えていたのですが、結果的にその必要はありませんでしたね」(フォレリング)
キャニオン・スラム レーシング、チーム SDワークスなどが集団のペースアップを図る
他のレース以上に勝つことにこだわってきたラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌだが、いざ本番が近づくとプレッシャーに押しつぶされそうになっていたという。レーススタートが午前8時台といつもより早く、同6時に起床したものの慣れないタイムスケジュールに朝食がなかなか受け付けなかった。ともすれば焦ってしまいそうなものだけど、そこは百戦錬磨のフォレリング。このレースに調子のピークを合わせられた自覚があったし、吐き気を催しつつもなかば無理やり朝食を済ませたことでレース中に空っぽになるのを避けられた。
「今日うまくいかなかったら自信を失っていたかもしれません。みずからをコントロールできたあたりも勝因と言えるでしょうね」(フォレリング)
アムステルゴールドレースとラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌを連勝。こうなってくると、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムにも勝ってアルデンヌクラシック・ハットトリック達成に期待が膨らむ。男子と同様のアルデンヌスケジュールが定まった2017年に、現在チームを指揮するファンデルブレッヘンがそれを成し遂げている。フォレリングが成功すれば、ウィメンズシーンでは史上2人目の快挙である。
「こうなったら、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムで仕事を完了させないといけませんね。もう気持ちはリエージュに向いていますよ。どんな形で3連勝するか見ていてください!」(フォレリング)
完全にその気だ。4月23日、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ ファムで歴史が動くかもしれない。われわれは、その瞬間の見届け人になる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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