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【Cycle*2023 ラ・フレーシュ・ワロンヌ フェミニーヌ:プレビュー】激坂バトル・ロワイヤル! 前回激闘のカヴァッリにファンフルーテン、育休からの復帰のダイグナンと群雄割拠
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介激坂ユイの壁
ウィメンズライダーたちが男子同様のレーススケジュールと待遇を求めて数年が経つが、ラ・フレーシュ・ワロンヌはそれ以前からウィメンズバージョンを採用し、聖地・ユイの壁にチャレンジする機会を設けてきた。今年で26回目。過去には“女王の中の女王”ことマリアンヌ・フォス(現ユンボ・ヴィスマ)が3連勝し、2015年からはアンナ・ファンデルブレッヘン(現チーム SDワークス・スポーツディレクター)が前人未到の7連覇を達成している。
今年もまた、ドラマが待っている。127.3kmの行程自体は昨今のウィメンズレースの中にあって特段長いわけではないが、このレースに限ってはコースの長短はあまり関係ない。まぁ、関係ないと言い切ってしまうと語弊があるけれど、そう思わせるくらいに勝負どころが限定されているのだ。
ミュール・ド・ユイ。このポイントに尽きる。
ベルギー南部のフランス語圏・ワロン地域に属するユイの街を出発すると、まずは時計回りにおおよそ50kmの大周回を走行。それが終わると、いよいよミュール・ド・ユイを基点とする小周回へと入る。これを3周回。つまりはミュール・ド・ユイを3回上るというわけ。なお、1回目のユイ登坂がコース全体で最初の上り区間にカテゴライズされる。
この小周回が約37km。途中、コート・デルッフ(登坂距離2.1km、平均勾配5%)、コート・ド・シュラーヴ(1.3km、8.1%)を上るが、これらはあくまで前座。最終周回にかけてはチーム単位での脚の削り合いが見られるだろうが、この2カ所で決定打が生まれることは可能性として低い。
勝負は3回目のミュール・ド・ユイに集約される。主催者によれば、登坂距離1.3kmで平均勾配は9.6%。実際のところはフィニッシュ前1kmのフラムルージュ通過からが“本番”で、中腹で19%に達する。その中央部に位置する「クロード・クリケリオンコーナー」に至っては、局所的ではあるが26%とも29%とも言われる。このコーナーへの到達を合図に、頂上に敷かれるフィニッシュラインめがけての激坂アタックが始まる。距離にすると約400m。
まずは時計回りにおおよそ50kmの大周回を走行
最終盤のプロトンはチーム単位でのポジション争いとなり、エースを好位置へ配備しようとアシスト陣が躍起に。そして、“ユイの壁(ミュール・ド・ユイの直訳)”での大一番。
前回はマルタ・カヴァッリ(FDJ・スエズ・フチュロスコープ)とアネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム)の一騎打ちとなり、カヴァッリが勝利。両者ともに今年のスタートラインにも並ぶ。連覇がかかるカヴァッリは、今季はここまでいまひとつの印象。相性の良いこのレースに調子を合わせられるか。ファンフルーテンは4月上旬にスペイン・カナリア諸島でトレーニングキャンプを行って今大会に乗り込む。4月16日に行われたアムステルゴールドレースでは11位。今年が現役最終シーズンだが、そろそろエンジンがかかりそうだ。前回7位のリアヌ・リッパートとのコンビプレーも見もの。
そのアムステルゴールドレースを勝ったのが、デミ・フォレリング(チーム SDワークス)。アルデンヌクラシックにめっぽう強く、プロトン最強チームのエースとしてこのレースに臨む。チーム SDワークスは今季絶好調のロッタ・コペッキーがトラック種目でのパリ五輪出場枠獲得を目指すため、一時的にロード戦線を離脱。走力・経験値とも群を抜くフォレリングで勝負することはほぼ間違いない。最終アシストには、マーレン・ローセルが控える。
ちなみに意外や意外、百戦錬磨のファンフルーテン、フォレリングにしてもいまだフレーシュのタイトルには手が届いていない。今回で大願成就となるか。
前回はフォレリングと双頭体制を組んでいたアシュリー・モールマン(AGアンシュランス・スーダル・クイックステップ)、前回5位のマビ・ガルシア(リブレーシング・エクストラ)は、それぞれ新たな環境でエースを務める。2年前の2位、カタジナ・ニエウィアドマ(キャニオン・スラム レーシング)は、前回上位進出を逃したリベンジに燃える。
ユイの壁が立ちはだかる
ヒューマンパワードヘルスは、本記執筆段階で與那嶺恵理が暫定出走リスト入り。2017年からこの大会への連続出場が続いており、コース特性を熟知している。今季は開幕からビッグレースを転戦し続けており、チームの主力としての地位を固めている。
そしてそして……大会前最大のトピックは、リジー(エリザベス)・ダイグナン(トレック・セガフレード)の戦列復帰だ。2シーズン前のパリ〜ルーベで驚異的な独走逃げ切りを果たし、その後第2子を妊娠・出産。2022年シーズンを休み、今年レースに戻ることを表明していた。当初は5月頃の復帰を予定していたが、前倒しに。それも、このビッグレースをチョイスした。
トレック・セガフレードは、名実ともにチームリーダーのエリーザ・ロンゴボルギーニ、アムステルゴールドレースで3位に入るなど今季ブレイクの兆しを見せる21歳シリン・ファンアンローイもメンバー入り。スターライダー3人の共闘は、他チームからすると脅威に映るはずだ。
これだけのメンバーがユイの壁に立ち向かう。そこには、駆け引きも削り合いも存在しない。ただただ力勝負。誰が一番に頂上へ到達するか、その様はまさに“バトル・ロワイヤル”である。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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