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【Cycle*2023 ストラーデ・ビアンケ ドンネ:レビュー】フォレリング、コペッキーのチーム SDワークス勢がワン・ツー! 最後はチームメート同士でのスプリント・・・そこに秘められた訳とは
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介ストラーデ・ビアンケ ドンネ 優勝者デミ・フォレリング( SDワークス)
全行程136km。イタリア・トスカーナの丘陵地帯をかけ、8カ所……占めて31.4kmになる“白い道”いわゆるグラベルセクションを走った末に、チームメート同士でのスプリント勝負。
われわれ観る者にとどまらず、選手・関係者、レースに携わるすべての人の予想をはるかに上回る出来事が、3月4日に開催されたストラーデ・ビアンケ ドンネで起きた。
フィニッシュ地点であるシエナ・カンポ広場に現れた2人の選手に世界の目が注がれた。プロトン最強と評価の高いチーム SDワークスの主力ライダー、デミ・フォレリングとロッタ・コペッキー。広場へつながる道を駆け下り、フィニッシュラインめがけてハンドルを投げた両者。どちらが先着したか判明するまで時間を要したことはもとより、同じチームの仲間同士で優勝を争うなど、現代のロードレースでは考えられない事態である。
彼女たちがフィニッシュラインを通過して15分。2023年のストラーデ・ビアンケ ドンネは、フォレリングの優勝と決まった。
「最後の最後までエキサイティングなレースでしたね。ロッテも私も、限界までチャレンジし、それを超えることができました。しばらくはどちらが勝ったか分からず、複雑な気分でしたが、勝ったことが分かってからはとてもうれしい気持ちです」(デミ・フォレリング)
両選手が最後まで競った理由……レース後しばらくして、チーム SDワークスのマネージャー、ダニー・スタム氏が口を開いた。
「ストラーデ・ビアンケにおいて、どちらが先に最終コーナーをクリアするかなど、予測がつかないですし、指示のしようもありませんでした。彼女たちには十分な実績がありますし、自分たちで考えて走れるだけの力があります。エースとアシストをどちらにすべきか明確にした方が良かったのでは、という意見も理解できます。しかし、私たちにはその点をオープンにできるだけの余力がありました」
思いがけない展開になる伏線は、レース序盤からあった。
J SPORTS サイクルロードレース【公式】
【ハイライト】ストラーデ・ビアンケ ドンネ|Cycle*2023
イタリア・トスカーナの丘陵地帯
逃げが決まらない。結果的にワン・ツーを飾るチーム SDワークスを筆頭に、複数のチームが代わる代わるプロトンをコントロールし、前をうかがおうとする選手に仕掛ける余地さえ与えない。レース半ばに4選手が少しばかりリードを許されたが、それも15kmと行かないうちに集団へと引き戻されている。
その流れが変わったのが、フィニッシュまで50kmを切った直後。カーリーン・スウィンケルス(チーム ユンボ・ヴィスマ)が単独でアタック。プロトン活性化の呼び水となり、優勝候補たちも自らの脚でスピードアップを図る。さらに、クリステン・フォークナー(チーム ジェイコ・アルウラー)が単独で集団から抜け出すことに成功。先行していたスウィンケルスに追いつき、2人逃げの態勢に。集団のペースが緩んだこともあり、あっという間にタイム差は1分30秒まで広がった。
「セクター5に入る前にクラッシュに巻き込まれてしまい、集団復帰に時間がかかってしまいました。そこで脚を使った分、今日できることは限られると思っていました。あのアタックは、チームメートを楽にさせるためのものでした」(クリステン・フォークナー)
左脚を血に染めながらも、フォークナーはできうる限りのペースで攻める。100km地点を過ぎて迎えた急坂区間サン・ピエロでスウィンケルスを引き離すと、そこからはひとり旅。タイムトライアルを得意とするだけあって、独走に持ち込めば自らに流れを引き寄せられることは分かっていた。
その頃、後ろでは一時的に9人の追走グループが組まれるが、フォークナーを追うには強力なものにはならず。残り20kmを切ってやってきたセクター7で集団がまとまると、上り勾配15%の急坂区間でマイヨ・アルカンシエルのアネミエク・ファンフルーテン(モビスター チーム)がスピードアップ。これで集団が再び割れると、カウンターアタックでフォレリングが飛び出した。
単独で前を追うフォレリングのペースメイクを、突然現れた馬が引き受ける……なんて驚きのシーンがありながらも、ようやくフォークナーとのタイム差が本格的に縮まり始める。第2追走のグループにはチームメートのコペッキーも控え、チーム SDワークスが徐々に優位な状況を構築。そして最後のグラベル、最大勾配18%のセクター8で満を持してコペッキーがアタック。20秒ほど前を走っていたフォレリングに合流し、チームTTさながらにフォークナーへの追撃ムードを高めていった。
チームメート同士でのスプリント勝負
「予定していたポイントでデミがアタックし、私がセクター8でブリッジを試みることになっていました。事前にイメージしていた通りの動きができました」(ロッタ・コペッキー)
完璧に実行されたチームオーダー。あとは前を行くフォークナーに追いつくだけ。
「フォークナーのペースが落ちているとの情報が無線で入ってきました。デミと2人になってから、チームカーからの情報はその1つだけでした」(コペッキー)
逃げ切りにかけて急ぐフォークナーと、追う2人との差は、1km進むごとに2~3秒単位で縮まっていった。残り1kmのフラムルージュ通過時で5秒差。
そして、カンポ広場に向かう500mの急坂区間で2人がついにフォークナーをとらえた。
「“やられた!”って感じでした。勝てるレースだったと思います。でも、もう脚が動きませんでした。両脚がけいれんし、どうすることもできなかったのです。彼女たちに追い抜かれてからは、表彰台に上がることを目標に切り替えました」(フォークナー)
チーム戦術がうまくハマり、最終局面でライバルの最後ひとりをパスしたフォレリングとコペッキー。フィニッシュまでの数百メートルは、自分たちで考えて動く……前述したスタム氏の言葉へとつながっていく。
残り300mでコペッキーが前に出て、最終コーナーを通過した直後にフォレリングが並びかけてスプリントへ。フィニッシュラインを通過した直後に、フォレリングが感情あまってコペッキーに暴言を吐いたという情報もあるが、真偽は定かではない。そんなことよりも、チームとしての勝利を両選手ともに強調する。
「勝てて最高の気分です。何より、とても素晴らしいレースをできたことを誇りに思います。ロッタとその思いを共有でき、一層結束力が高まったと感じています」(フォレリング)
「最後の1kmまで力を合わせて走ってきた者同士ですから、どちらが一番にフィニッシュするかをすり合わせるべきではないと私は考えます。デミにも私にも、平等にチャンスがあるレースでした。最終的にチーム SDワークスの誰かが勝てば良いのです。個人的には、デミがこの大会の優勝者リストに名を加えられたことをうれしく思っています」(コペッキー)
歓喜するチーム SDワークス勢の後ろでは、殊勲のフォークナーが満足そうにフィニッシュラインを通過し、最後まで信じて追い続けていた精鋭たちもカンポ広場に到達。今季が現役最終シーズンとすることを公表し、今大会3回目の優勝を目指していたファンフルーテンは5位。「今年最初の大きな目標だったのですが、勝つにはすべてが足りていませんでした。どのレースも、より厳しく、より美しくなっていることを実感しています」と笑顔で、潔く敗北を認めた。同時に、4月2日のロンド・ファン・フラーンデレンでのリベンジを宣言。スペイン・テネリフェ島での高地トレーニングへと向かった。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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