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【Cycle*2022 パリ~トゥール:レビュー】集団スプリントを制したアルノー・デマールが2連覇「今日は僕のためのレースだった」 現役最終レースのフィリップ・ジルベールは27位で満足の幕引き
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介アルノー・デマールが秋雨スプリントを制して連覇達成
ここ数年とは違った終盤の展開に内心驚いていた。こうなれば、スプリントという最大の武器を生かさない手はない。チームメートが残り2kmまで逃げていたから、集団内で脚を残せたこともプラスになった。最後は約40人での直線勝負。仲間のお膳立てに応えて、きっちりと一番にフィニッシュへと駆け抜けた。
近年は数人のパックが優勝争いを演じてきたパリ~トゥールだが、今回は久々に集団スプリントで決着。前回は3選手での争いを制していたアルノー・デマール(グルパマ・エフデジ)が、今度は“本来の”勝ちパターンでタイトルをゲット。2008・2009年のフィリップ・ジルベール以来となる2連覇を達成した。
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「今シーズンのスーパーエンディングになったよ! 僕が求めていたのはまさにこれなんだ。夏以降、2位フィニッシュが7回あったんだけど、それよりはるかに1つの勝利の方がうれしいね。大満足だよ」(アルノー・デマール)
パリ~トゥールといえば、未舗装区間が勝負を分けるポイントとして挙がる。今回はその区間が前回より10km延び、一層レースをタフなものとなることが予想されていた。実際に、随所で活発な動きがみられることとなる。
また、クラッシュの多いレースにもなった。スタートして早々にブノワ・コスヌフロワ(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)とフェルナンド・ガビリア(UAEチームエミレーツ)が、中盤にはこれが現役最後のレースだったニキ・テルプストラ(トタルエナジーズ)も他選手と絡んだ。後半に入っても後を絶たず、残り70kmを切ったところでは10人以上が巻き込まれる大規模なものまで発生。優勝候補のひとりだったヤスパー・フィリプセン(アルペシン・ドゥクーニンク)も、落車に関与しそのままバイクを降りている。
いかにしてトラブルを回避できるかが上位進出のカギとなった今回。レースが活性化したのは、フィニッシュまで60km近く残しているタイミングでのこと。序盤から逃げていた5人が射程圏に入ってきたことを受けて、メイン集団から次々と追走のアクションが起こる。そこには、スプリンターのサム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)の姿もあった。
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【ハイライト】パリ~トゥール|Cycle*2022
前線がシャッフルを繰り返す中、メイン集団で粛々とまとめにかかっていたのがグルパマ・エフデジだった。オリヴィエ・ルガックを追走グループに送り込みながら、デマールでスプリントに持ち込むことを見越して、常に前が見える位置で集団を整えていく。
先頭では、未舗装区間で消耗していく選手たちを切り離したヨナス・アブラハムセン(ウノエックス・プロサイクリング チーム)が残り13kmから独走を開始。それから6kmほど進んだところで、追走メンバーで生き残ったキム・ハイドゥク(イネオス・グレナディアーズ)、アレックス・キルシュ(トレック・セガフレード)、ルガックの3人がアブラハムセンに合流。逃げ切りのわずかな可能性にかけて先を急ぐ。
ただ、この頃にはメイン集団もスプリンターを残したチームが主導権を争い自然とペースが上がる。グルパマ・エフデジのほか、コフィディス、チーム アルケア・サムシックも隊列を組んで前方へ。こうなってくると、逃げている選手たちを捕まえるのは時間の問題だ。残り2kmを切ったところでキルシュとルガックが集団へと戻り、あとの2人も残り1kmを示すフラムルージュを前に吸収された。
表彰台の頂上に立つデマール
勝負はスプリントにゆだねられた。これまで、数々の名勝負が生まれたフィニッシュ前の長い直線は今回、約40人の集団がひとかたまりで猛進。ここでグルパマ・エフデジはシュテファン・キュングがスピードアップ。集団を伸ばすと、最後を託されたのはデマール。横からはエドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)やベネットが上がってくるが、そこは“パリ~トゥール・メートル”のデマール。ライバルの加速に動じることなく、自らのスプリントラインを保って先頭は譲らない。鮮やかに、大会2連覇を決めてみせた。
「この展開は予想していなかった。幸い、チームメートのほとんどがメイン集団でレースを進めることができ、オリヴィエ・ルガックは前のグループに乗ってくれた。そのおかげで僕は脚を残しながら走ることができたし、チームとしても素晴らしいレースを完成させられた」(デマール)
大きなグループでフィニッシュへ到達するのは、90人以上が一斉になだれ込んだ2016年大会以来のこと。集団スプリントは“本職”とはいえ、デマールとしても想定外のフィニッシュだったことを認める。
「確かに今日は僕のためのレースだったね。だけど、今回のようなフィナーレは今後あまりないんじゃないかな」(デマール)
デマールに迫った2位のトゥーンスは、この後ジャパンカップ サイクルロードレースで来日を予定している。3年前にはクリテリウムを勝ったスプリンター兼ワンデースペシャリストは、この大会で絶好調をアピールした。
「この数週間で調子が一気に上がってきた。今日は役目はスプリントで、その仕事を果たすことができた。レース中はメカトラもあって消耗した部分もあったけど、これだけのスプリントができたから満足しているよ。次はジャパンカップ。チーム一丸となって勝利をつかみたいね」(トゥーンス)
過去2回優勝し、思い入れの強いパリ~トゥールを現役最終レースに選んだフィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)は27位。メイン集団で最後まで走り切った。
レース後に取材を受けるフィリップ・ジルベール
「いやぁ、終わったね! ホッとしているよ。目の前でクラッシュが起きて危険な場面もあったけど、僕個人としては何事もなく走り終えられたことがとてもうれしい。スプリント? 実はトライしていたんだよ(笑) ただ今日は多くのスプリンターが残っていたから、僕ではどうすることもできなかった。とにかく、無事にレースを終えられて幸せだよ」(フィリップ・ジルベール)
2011年にはアルデンヌクラシック全制覇を果たし、2012年には世界王者、2017年にツール・デ・フランドル、2019年にパリ~ルーベ…ここでは書き切れないほどの、燦然と輝く数々のタイトル。ロードレース史にその名を残し、レース現場から別れを告げる。今後については、グラベル挑戦やチーム監督就任などが噂されたが、そのいずれもジルベール自ら否定。当面は静かに過ごしながら、これから何をすべきか考えていきたいという。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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