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サイクル ロードレース コラム 2022年9月11日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第20ステージ】カラパスがステージ3勝目。エヴェネプールが迎えた「最も美しい日」

サイクルロードレースレポート by 滝沢 佳奈子
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ポディウムで涙を浮かべたエヴェネプール

ポディウムで涙を浮かべたエヴェネプール

レムコ・エヴェネプールの人生で最も重要な日は、人生で最も美しい日へと変貌を遂げた。グランツールに初挑戦した去年から本人の元に届いた批判も悪評も自らの脚で、ペダルで、何もかもをかき消した。最後の山岳コースでステージ勝利を狙うことはしなかった。全ての攻撃に対応し、ただただ個人総合優勝への残りの階段を一歩ずつ、着実に登った。

「可能な限り最高の状態でここに来るために、懸命に働いてきた。自分の力とチームを信じて、ライバルたちをコントロールし、ついていくだけだった。最終的にレースはスーパーハードだったけど、全てが思い通りにスムーズに進んだよ」(レムコ・エヴェネプール)

総合勢のメイン集団でフィニッシュラインを切ったエヴェネプールは、バイクを降りると緊張の糸が一気に切れたかのように感極まり、肩を震わせるほどに涙した。

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3週間最後の日曜日、選手たちはマドリードでのパレードを経て、最終勝者を決める。エヴェネプールはブエルタ・ア・エスパーニャ史上、歴代4番目に若い個人総合優勝者となるだろう。

そしてこの日もう一人の主役、リチャル・カラパスは、脚を使うべきタイミングを逃さなかった。ダンシングでスピードに乗せると、タイムトライアル巧者だって追い付かなかった。エクアドルのクライマーは山岳賞ジャージを決定づけるだけに飽き足らず、これまでの2勝を越えるような3度目のステージ勝利を材料に、自分がどのような選手なのかという、存在そのものを証明して見せた。

ブエルタ最後の山岳決戦となる第20ステージは、グアダラマ山脈に入り、ブエルタ初登場のモラルサルサルから、今回でブエルタ6回目のフィニッシュ地点となるプエルト・デ・ナバセラダまでの181km。1級山岳が3つ、2級山岳が2つ含まれた、獲得標高3480mを越える超山岳コースが舞台となった。

14ステージもの間、マイヨ・ロホを着続けたエヴェネプールは、総合順位を決定づける第20ステージ出走前、こう語った。

「戦いの準備はできていると感じている。もちろん、常に緊張はしているよ。他のステージと同じようなステージだけど、本当に最後のステージなので特別感があって、普段より少しテンションが上がっているかな。でも、脚は同じはずだから、自分もチームもベストを尽くしたい。人生で一番大切な日なので、いろいろな感情を体で感じている。グランツールでの勝利まであと1日というところで、前日よりも夢と確信が持てるようになった」(レムコ・エヴェネプール)

いきなり1級山岳へ臨むコースプロフィールともあり、スタートから逃げ切り勝利のため、山岳賞のため、さらには総合勢の前待ちのための要員が入り乱れてアタック合戦を繰り広げた。リアルスタートを切ってから10kmほどでロバート・スタナードやクレマン・シャンプッサンなど7名の選手たちが抜け出すと、集団は横いっぱいに広がり、ペースダウン。クイックステップ・アルファヴィニル チームは彼らを逃そうとし、タイム差を広げ始めた。

先頭と集団のタイム差が3分前後まで開いた頃、モビスターチームが集団を牽引し始めた。しかしまだ逃げに加わって山岳ポイントを上乗せしたいカラパスらを中心として、集団は活性化し続けている。スピードを上げた状態でまず最初の1級山岳、プエルト・デ・ナバセラダへと突入した。10.3km、平均勾配6.8%の上りだ。

集団のスピードが上がったことにより、7名の逃げグループとのタイム差も1分30秒ほどにまで縮まる。集団はリーダーチームのクイックステップ・アルファヴィニル チームがコントロールを始めたが、まだまだアタックは止まない。

実績を持つ実力者たちを含むあらゆるメンバーが顔を覗かせる中、この最初の山岳で最初のピンチを迎えたのは、イネオス・グレナディアーズの若手、カルロス・ロドリゲスだった。第18ステージの落車の影響で前日に総合順位を一つ落とし、5位となったロドリゲスだったが、スタート前に、「今日は昨日よりもクラッシュを感じていると思うけど、自転車に乗り始めれば、痛みも腫れも消えてうまくいくはず」と話していた。しかし、ペースの上がった集団についていくことができず、ドロップしてしまう。アシスト陣が下がり、タイム差を最小限に抑えようとロドリゲスをサポートする。

先頭逃げグループでは、スタナードが最初の1級山岳を1位通過。山岳ポイントで合計31ポイントを獲得したスタナード、カラパスまで19点差に迫る。

遅れて1級山岳を通過した総合勢を含むメイン集団からは、アレハンドロ・バルベルデやヴィンツェンツォ・ニバリ、ルイス・メインチェスらが頂点付近で抜け出した。モビスターチームのグレゴール・ミュールベルガーもバルベルデとともに追走グループに加わった。モビスターとしては、エヴェネプールから2分7秒差の2位につけているエンリク・マスの総合首位奪還に向けた最後のチャンスへと臨んでいた。

カラパスと話すバルベルデ

カラパスと話すバルベルデ

「僕らにとっては大きなブエルタだ。アレハンドロ(バルベルデ)にとってはキャリア最後のブエルタで、エンリク(マス)は総合優勝をかけて戦っている。今日は全てを出し切ってエヴェネプールを仕留めるために苦しむつもりだけど、非常に難しいだろう。もちろん、2位も重要だが、我々は勝つためにここにいるのだから、今日は勝負する。優勝を狙うには十分な強さを感じている。2位も素晴らしいけれども、優勝はもっと素晴らしい」(グレゴール・ミュールベルガー)

次々と追走が飛び出す中で、上り区間でも何度もアタックを繰り出したマルク・ソレルだったが、たった一人で下りを利用して先頭へと追いついた。その後方、最初の1級山岳の下りでバルベルデらの追走グループは人数を増やし、20名ほどの集団となって、ソレルが加わったばかりの40秒ほど先行した先頭を追う。

大人数の逃げを行かせた集団はようやく緩み、タイム差がまた広がり始めた。残り120kmを残す平坦区間で、先頭から追走グループまでは30秒前後、先頭からメイン集団までは5分開いた。

先頭では、残り110km地点でソレルとスタナードが抜け出す。先頭を走ったその他の選手たちは後ろに続くバルベルデたちの追走集団へと吸収された。

次に二つ目の山岳、2級のプエルト・デ・カネンシアに入ると、集団ではボーラ・ハンスグローエが牽引し、逃げとの差を徐々に縮めていった。これは、追走集団の中にジャイ・ヒンドレーの総合10位の座を脅かす総合11位のルイス・メインチェスが入っており、ヒンドレーとのタイム差が1分50秒とあまりなかったためだった。

バルベルデらの追走集団からはティボー・ピノが抜け出す。ピノの元にジーノ・メーダーとミュールベルガーが合流。3名で前を追う。先頭はスタナードとソレルのまま、スタナードが2級山岳をトップ通過。5ポイントを追加し、36ポイントとなったスタナードに対して、追走集団内で埋もれたカラパスはポイントを取れず。残る山岳は3つとなった。

三つ目の2級山岳のカネンシアに向かう途中、先頭の2人に追走3名が追いつき、先頭は5名となったが、2級山岳の上りに入ると、追走集団と先頭のタイム差はわずかに。頂点まで3.6kmのところで追走集団からカラパスがアタック。バルベルデと、セルヒオ・イギータがその後輪につき、3名で一気に先頭集団へと追いついた。その後1kmのうちに、残りの追走集団も先頭に合流し、24名の先頭集団が形成された。

ローハン・デニス、カラパス、セバスティアン・レイシェンバックの順で2級山岳を通過する頃、逃げと集団とのタイム差は3分40秒ほどとなった。カラパスは山岳ポイントを3ポイント加算した。

2級山岳を下ったらすぐに4つ目の山岳、1級ラ・モルクエラ、平均勾配6.9%の9.4kmが待ち受ける。この上りは、2015年のブエルタでやはり第20ステージ、マイヨ・ロホを着ていたトム・デュムランからファビオ・アルが総合首位の座を奪った場所でもある。

先頭グループではシモン・グリエルミのアタックをきっかけに活性化。結果的にメインチェス、イギータ、カラパスの3人が抜け出して、ギャップを作り出した。

最後から2番目となる1級山岳に入ったメイン集団ではモビスターチームのコントロールが始まっていた。レッドジャージのエヴェネプールは、モビスターチームの最後尾を走る総合2位のエンリク・マスの後輪を集中した表情でとらえる。カルロス・ベローナの容赦ない引きによって集団は人数をどんどん減らし、エヴェネプールは残っていた最後のアシストも失った。それでも集中し切った様子で対応を続ける。

残り40kmを残すところで、ベローナが離れ、後ろからマスがアタック。エヴェネプールは何の問題もないかのようにピタリと後ろにつけた。マスのアタックが止むと、後ろからワンテンポ置いて総合7位のテイメン・アレンスマン、総合3位のフアン・アユソなどが追いついてきた。

少人数に絞られてきたロホグループでは、今度はUAEチームエミレーツがアユソのために引き始める。そこから19歳、アユソがアタックを繰り出すも、エヴェネプールはシッティングのまま落ち着いて捌き、レッドジャージ自ら集団の先頭に立った。

先頭では1級ラ・モルクエラの頂点を取るべくカラパスがダンシングで加速する。特段遮る者もおらず、そのまま先頭通過を果たしたカラパスは、2位のスタナードに27ポイント差をつけ、残り一つの1級山岳ではもう覆らない結果に。ここで実質、山岳賞ジャージを手中に収めたこととなる。それでもカラパスはペダルを緩めなかった。

総合勢がカラパスら3名の先頭から遅れること1分50秒、1級山岳の頂点を通過した。先頭3名からバルベルデら7名の追走集団は20秒ほどだった。先頭では自らの総合順位をトップ10に押し上げるために総合11位のメインチェスが先頭を長く引く一方、総合10位につけるヒンドレーとのタイム差を縮ませないようにするためにチームメイトのイギータは先頭交代を拒否した。

そしていよいよ今ブエルタ最後の上りとなる1級山岳コトス(距離10.3km、平均勾配6.9%、最大勾配10%)に先頭3名が入ると、早速カラパスがアタックしていった。メインチェスは千切れ、イギータのみが追いついた。

メイン集団では、最後の1級山岳を前にした下りで再びアシスト勢が合流。UAEチームエミレーツ、モビスター、アスタナカザクスタンが人数を揃える。先頭に立ったUAEがペースを上げると、追走していたバルベルデらの集団をまずは捕らえた。最後のステージ勝利を狙ったバルベルデだったがマスのためのアシスト役に回った。

バルベルデが集団を牽引する姿を見せた後、総合4位のミゲルアンヘル・ロペスがアタック。総合表彰台を逃すわけにはいかないアユソがそれにはしっかりと対応し、マス、エヴェネプールらも難なく後ろにに続く。チームメイトのアルメイダがアユソに声をかけ、再び先頭を引いた。

ラスト8km、スピードを上げて残りを吸収しきったマイヨ・ロホ集団と先頭の2人とのタイム差はもう15秒前後まで縮まっていた。このまま吸収かと思われたが、最後の1級山岳の頂点まで残り数百mのところでカラパスがさらに加速を切り、頂上へとかっ飛んでいった。イギータはそれにつくことは叶わず、すぐ後ろに迫った集団に吸収された。

1級山岳を終えたラスト5kmのレイアウトはほぼ平坦と若干の上り。単独先頭のカラパスは、上体を揺らしながら渾身の力をペダルに込めた。

残り2km手前で集団からは、シエラ・ネバダのステージで逃げ切り勝利を果たしたアレンスマンが一人飛び出した。カラパスからアレンスマンが15秒、カラパスから集団までは20秒。

今大会3勝目を掴んだカラパス

今大会3勝目を掴んだカラパス

ラスト1km、若干の上り基調をダンシングでぐいぐいと車輪を進めるカラパスが残り距離をがむしゃらに減らしていく。そして、後ろのアレンスマンとは十数秒の差を保ったまま、山岳ジャージを着たカラパスが最後の直線に入った。後ろを確認し、勝利を確信したカラパスは両手を高々と掲げて、今大会3勝目を飾った。

アレンスマンがわずか8秒届かずフィニッシュラインを切り、そのすぐ後にエヴェネプールを含む総合勢がフィニッシュへと入る。長かった20日間の真っ向勝負が終わった。

「この日を目標にしていたし、とても重要な日だと分かっていた。特に総合では様々な要素が絡んでくるから、超ハードなステージであることは分かっていた。自分のやり方で賢く、必要なときに動けるように走ったよ。そして、逃げの選手たちから多くのサポートを受けた。それは僕にとってとても重要なことだった。最終的には、フィナーレでアタックして、ここで勝つことができると確信していた。でも正直なところ、ものすごく感動しているよ。何よりも、このような素晴らしい勝利で、自分がどのようなタイプのライダーであるかを示すことができて、とてもとてもうれしい。KOMを争うことは目標のひとつだったんだ。また、このジャージでステージ優勝できたことは、僕にとって大きな意味を持つ快挙だ。今日もたくさんのエクアドル人たちが沿道で応援してくれていた。彼らがレースを楽しんでくれたことを願うよ」(カラパス)

弱冠19歳のスペイン人ライダー、アユソは初めてのグランツールで総合3位に輝いた。2021年の途中からUAEチームエミレーツに合流したアユソだが、その才能を買われ、今年8月上旬時点で、なんと2028年までの長期契約を結んでいる。第20ステージ、そして今大会についてアユソはこう語った。

「今朝は集中していたが、今は起こったことだけを考えて、ただ楽しみたい。素晴らしいよ。19歳にして初めてのグランツール、学ぶためにこのブエルタに来たんだ。そもそも今年の初めには、ここでレースをするとは思ってもいなかった。そこから表彰台に上がるなんて、信じられないことだ。僕は苦しむことを学んだ。グランツールほど精神的に耐えるという経験は今までになかったし、来年はもっと良いライダーになれると思う。気分は良かったし、ステージでも勝ちたかった。そのために働いてきた。マルク・ソレルは僕のために命をかけてくれたし、ヤン・ポランツもジョアン・アルメイダも素晴らしい仕事をしてくれた。今日は結局、2人の選手が前に行かれてしまって、ステージは3位という結果になってしまったけど..まあいい、表彰台に上ったのだから、今日勝てなかったからといって、後味を悪くすることはないよね!今はこのブエルタを楽しみたい」(アユソ)

アユソやロドリゲスなどスペイン人若手選手の成長も著しく見られた今大会。終盤戦で最も攻撃的に動いたのは同じくスペイン人ライダーのマスだった。第20ステージでは総合トップ10の争いが厳しく、エヴェネプールの順位を揺るがすほどの攻撃には至らなかったが、総合2位の座は揺るぎなかった。2018年、2021年に続いて3回目のブエルタでの総合2位となる。マスは1日をこう振り返る。

「とてもタフな一日だった..とても長かった。僕たちはベストを尽くしたよ。でも正直なところ、今日は悪かった。体力がなかったんだ。でもまあブエルタで2位になったんだ。だからポジティブな経験だと思うんだ。2位になったのは初めてじゃないしね。僕は、家族やチームと過ごした素晴らしい瞬間を振り返らなければならないし、サポートしてくれたみんなに感謝しなければならない」(マス)

メディアに囲まれるエヴェネプール

メディアに囲まれるエヴェネプール

そしてエヴェネプールは24時間後、22歳でついにグランツール総合優勝者の肩書を得る。ステージ勝利数なら山のように稼いできたクイックステップにとっても総合表彰台の頂点は初めての経験だ。昨年から見違えたように体を絞り、元々完成されていたTTの速さに磨きをかけるように上りでも通用するタフさを手に入れたエヴェネプールは、祖国ベルギーにも歓喜をもたらすことになる。

「今朝は本当にストレスが溜まっていたんだ。昨夜はあまり眠れなかった。何が起こるかわからないし、超タフなステージだったから。ブエルタで優勝できたことは本当に嬉しい。今、僕の頭と体の中で何が起こっているのか分からないけど、すごいことだよ。昨年以降言われてきた批評や悪いコメントには、自らのペダルで答えたつもりだ。このブエルタで勝てたことは、自分のキャリアの中で最大の勝利で、本当に素晴らしいことだ。実は、今回は体に問題がなく健康な状態でスタートした最初のグランツールだったんだ。CEOのパトリック(・ルフェーヴル)、僕の祖国であるベルギー、チームメイト、両親、フィアンセのためにグランツールを制した最初の男になれて、本当に幸せだ..このために何日も、何週間も、何ヶ月も家を離れ、犠牲を払ってきた。この結果は全て僕を信じてくれたみんなのおかげでもあるんだ」(エヴェネプール)

さらに1年をこう振り返る。

「素晴らしい1年だった。モニュメント(リエージュ~バストーニュ~リエージュ)を制し、サン・セバスチャンを再び制し、ブエルタで2つのステージと総合を制し、そして冬には結婚するつもりだ..想像すらできないような願ってもない最高の年だと思う」(エヴェネプール)

2022年の3つのグランツールも残すは1ステージ。最終フィニッシュ地点のマドリードまではあとたった96.7kmだ。

スプリンターたちの最後の戦いと新たな勝者の誕生を楽しみたい。

文:滝沢佳奈子

滝沢 佳奈子

滝沢 佳奈子

2014年に自転車にハマり、初めてのレース観戦は単身ロードバイクを持って行ったツール・ド・フランス。その経験から自転車雑誌サイクルスポーツの編集者となる。現在は国内を中心にロードレースやトラック競技などの取材を行う。

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