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サイクル ロードレース コラム 2022年9月10日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第19ステージ】トレック・セガフレードが引き寄せたスプリントの機会。ピーダスンの3勝目

サイクルロードレースレポート by 滝沢 佳奈子
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今大会区間3勝目のマッズ・ピーダスン

今大会区間3勝目のマッズ・ピーダスン

幾重にも思惑が交錯する前日のステージに比べたならば、すこぶるシンプルなレースとなった第19ステージ。コース中、上りが二つあり、下ってから平坦フィニッシュというレイアウトでは、総合勢が無理にタイム差を奪いに行くような攻撃に転じることはなかった。

また、残り少ないステージ勝利のチャンスに向けて、逃げに動くメンバーもそう多くはなかった。それは、2位以下に倍以上のポイント差をつけてグリーンジャージを着るスプリンター、マッズ・ピーダスンを擁するトレック・セガフレードにとって、願ってもない展開だった。

「レースをコントロールし、集団を少なくすることを望んでいるが、難しいことは分かっている。総合チームが何をしたいのか、ハードな上りをどうしたいのかにもよるけど、上りを乗り切って、最終的には集団スプリントにできると確信しているよ。もしかしたら、誰かが難しくするかもしれない。でも僕らにとっては、それをコントロールすることが本当に重要で、簡単なことでもない。小さな逃げにすることが大切なんだ」(マッズ・ピーダスン)

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さらに2回登る2級山岳に関しては、「10kmほどで勾配が5.5%くらい。おそらくそれが僕にとっての限界だけど、可能性はあると思う」とピーダスンはレース前に話していた。

そして見事にトレック・セガフレードは集団をコントロールし切った。危険回避のために総合チームに先頭を譲ることはあっても、このステージのほとんどの距離でトレックが先頭を引いた。それは最終盤のラスト1kmでも。

多くの選手が力を残し、先頭を争うような慌ただしいフィナーレとはいかず、唯一の奇襲にだって冷静に対処したチームメイトの後ろから、ラスト100mほどでグリーンの元世界王者が発射すると、一目散でゴールラインを駆け抜けた。

「集団をコントロールするのは大変だったけど、チームは素晴らしい。みんな熱心で、一生懸命働いてくれた。(ブランドン・)マクナルティを含む逃げの3人が行ったとき、簡単には抜け出せなかった。僕たちはできるだけ早く彼らに近づくために懸命に働いた。チームのみんなの働きは本当に見事だったよ。今日は本当にみんなに感謝している。間違いなく彼らのための勝利だと言える。彼らがいなければ、僕がスプリントをするチャンスはなかったからね」(ピーダスン)

トレド県で最も人口の多い都市であるタラベラ・デ・ラ・レイナは、過去のブエルタで6回スタート地点に、5回フィニッシュ地点に設定されている。

第19ステージはタラベラ・デ・ラ・レイナをスタートし、山岳を含む全長63kmの周回コースを2周してから周回コースを外れ、少しの平坦を経て、タホ川の近くにフィニッシュするレイアウト。タラベラ・デ・ラ・レイナでのフィニッシュは歴史的にはダニエーレ・ベンナーティやマルセル・キッテルなどスプリンターがステージを勝ち取ってきた場所であったが、周回コースに含まれるのは、2級山岳のプエルト・デル・ピエラゴ。登坂距離は9.3kmで平均勾配5.6%の上り下りを2回繰り返すためにこのステージは中級山岳というカテゴリーに分類され、決してスプリンターたちのためのステージとは言い切れないところがあった。

エリザベス女王へ捧げられた黙祷

エリザベス女王へ捧げられた黙祷

スタート前には、イギリス籍のイネオス・グレナディアーズとイギリス人選手たちが先頭に並び、8日に逝去されたエリザベス女王への黙祷が捧げられた。

スタートして、約10km地点でヨナタン・カイセド、ブランドン・マクナルティ、アンデル・オカミカの3名の逃げグループができ、集団とのタイム差を徐々に広げる。

「どちらかというと逃げが成功する可能性が高い日だと言いたい。気合いを入れてステージ優勝争いのチャンスをうかがっていきたいね」とレース前にコメントしたローソン・クラドックはそのチャンスをつかむため、単騎で先頭を追った。あっという間に集団と先頭の逃げとのタイム差は4分ほどまで広がった。

集団からはさらにクリス・ハーパー、ミケル・ビスカラが飛び出したが、しばらくするとトレック・セガフレードがコントロールし始めた集団へと吸収された。

1回目の登りを何事もなく通過し、2回目の登りに入る前にはクラドックも吸収。さらに、集団と逃げ3名とのタイム差は1分30秒ほどにまで縮まった。

2回目の山頂まで残り8kmほどのところでは、バーレーン・ヴィクトリアスのミケル・ランダ、ジーノ・メーダーが先頭でペースを上げ始めた。すると、すぐに逃げと集団とのタイム差はなくなり、唯一の逃げグループも吸収された。

登り区間もわずかで、特に集団からアタックの動きもない。唯一、山頂まで1.5kmほどでは、テイオ・ゲーガンハートに引かれて前日から山岳賞ジャージに着替えたばかりのリチャル・カラパスが集団先頭に上がってくる。集団先頭は総合2位につけるエンリク・マスの安全確保のためにモビスターチームが引いた。山岳ポイント間際でカラパスがモビスターの前に出ると、2回目の2級山岳を先頭で通過。5ポイント追加した。これによりカラパスは合計50ポイント、2位はエンリク・マスの26ポイント、3位はテイメン・アレンスマンの23ポイントと続く。なお、残りのステージであと40点が残されている。

下りに向けて緊張感が高まるシーンもあったが、結局、UAEチームエミレーツ、モビスターチーム、リーダーのレムコ・エヴェネプールを擁するクイックスッテップ・アルファヴィニルチームが先頭を固めて安全に下り切ると、トレック・セガフレードに再び先頭を明け渡した。

残り30kmを切り、バーレーン・ヴィクトリアスとトレック・セガフレードが先頭で引き始める。その後ろにはモビスターがチーム全員で陣取った。集団の後方にはしっかりとピーダスンが残っており、最後の補給をして、しきりに体に水をかける様子が見える。気温は31.5度まで上がっていた。一塊の集団先頭では、ケニー・エリッソンドが先頭固定でピーダスンのために引き続ける。町中に入ってもその様子は変わらず。

ラスト9kmを過ぎた頃、先頭を引き続けているエリッソンドのもとにピーダスンや他アシストたちが集まってきた。残り距離が少なるごとにスプリントしたいチームも総合チームも前に押し寄せるように上がってくる。ラスト2km、先頭はイネオス・グレナディアーズ。その後ろについたのはバーレーン・ヴィクトリアス。しかし、残り1kmを切ると再びトレックが先頭に出た。ピーダスンは3番手につける。

このまま集団スプリントかと思われたラスト800mほど、グルパマ・FDJのマイルズ・スコットソンが一人早駆け。「スプリントで勝つことはないだろうから、もしチャンスがあれば行くつもりだった。完璧ではなかったけれど。でも、挑戦しなければ成功はないからね」(マイルズ・スコットソン)

ただ後ろからはピーダスン最後のアシスト、アントニオ・ティベーリが冷静に追った。後ろを走るピーダスンに焦りはなかった。

「マイルス・スコットソンがアタックしてきたとき、僕の前にはまだアントニオがいた。彼は痩せているように見えるが、パワフルな男だ。彼がいれば、スプリントでマイルスをパスできる距離だと確信していたんだ」(ピーダスン)

ちょうどティベーリがスコットソンの後輪を捕らえるあたりでピーダスンがスプリントを開始。後ろからはフレッド・ライトが並びにかかるが、ピーダスンがライトを並ばせることはなかった。ピーダスンは今大会3回目の勝利に両拳を突き上げた。

「3勝は僕らが目指していたものよりもはるかに多い。もちろんとても素晴らしいことだ。明日は無事に1日を終えて、マドリードでどうなるかを見るだけだ。でも、何があったとしてもこのスペインでの3週間はハッピーでいられると思うよ」(ピーダスン)

ウルフパックの今シーズン41回目の勝利となった翌日、エヴェネプールは総合勢からの徹底攻撃に怯えることなく笑顔でフィニッシュラインを切った。

ポディウムで手を振るエヴェネプール

ポディウムで手を振るエヴェネプール

「完璧なレースだった。トレックが一日中コントロールしてくれたのは良かった。マッズ(・ピーダスン)と一緒に逃げをコントロールすることを約束したので、その仕事は果たせたんじゃないかな。その後、逃げ集団をコントロールし、ステージを狙うのは彼ら次第だった。マッズは本当に素晴らしいものを見せてくれるよね。かなりきつい登り坂だったので、トレックには本当におめでとうと言いたい。(最後の数kmは)クラッシュやパンク、バイクのトラブルに備えながらラスト3kmに入るようにしたよ。今日のステージで最も恐れていたのは、転倒やアンラッキーな出来事。だから他のライダーと一緒に前に出ようとしたんだ。そして最後の1.3kmは直線だったので、少しペースを落として後輪についていくだけだった。明日は(総合争いの)最終日なので、安全第一で」(レムコ・エヴェネプール)

翌日は総合順位を決定付ける山岳最終決戦。今回のステージでは攻撃に転じず、安全策を取った総合勢だったが、それぞれの回復ぶりやいかに。そしてエヴェネプールは3週間で最も厳しくなるであろう1日にどう手を打つだろうか。

マドリードまであと2日。

文:滝沢佳奈子

滝沢 佳奈子

滝沢 佳奈子

2014年に自転車にハマり、初めてのレース観戦は単身ロードバイクを持って行ったツール・ド・フランス。その経験から自転車雑誌サイクルスポーツの編集者となる。現在は国内を中心にロードレースやトラック競技などの取材を行う。

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