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サイクル ロードレース コラム 2022年9月9日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第18ステージ】山頂フィニッシュで赤いジャージのエヴェネプールが勝利「人生の中で新たに成し遂げたこと」

サイクルロードレースレポート by 滝沢 佳奈子
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難関ステージを制したエヴェネプール

難関ステージを制したエヴェネプール

逃げ切り勝利が濃厚な山岳ステージ。前日にステージ優勝争いと総合争いが別の戦いとなったように、今大会3番目の長さとなる192kmに加え、獲得標高3,550mというコースプロフィールの第18ステージでは多くの人がそう予想しただろう。

逃げも追走も集団も、目まぐるしいほど展開に次ぐ展開。それでも、“リーダーは自分だ”と見せつけんばかりにまばゆく光り輝いたのは、マイヨ・ロホを纏うレムコ・エヴェネプールだった。赤いジャージは山頂フィニッシュを一番に駆け抜けた。

ラスト300mまで単独で逃げていたロベルト・ヘーシンクも、エヴェネプールとともに総合争いをしながらステージを狙いに行ったエンリク・マスも、残り200mのダンシングでの加速には耐え切れなかった。正真正銘、力と力のぶつかり合いで得た勝利。

「これは本当に、僕の人生の中で新たに成し遂げたことだと思う。レッドジャージでグランツールの山の頂上を制するのは素晴らしいことだ。今までで一番完璧な1日だった」(レムコ・エヴェネプール)

今大会2回目のステージ表彰と、13回目のマイヨ・ロホ表彰で、もちろん不慣れな仕草など一つもない。神童と呼ばれたのはたった3~4年前。22歳のベルギー人にまだ、天井は見えない。

前日に続き、1級山岳フィニッシュの第18ステージは、ブエルタ初登場となるトルヒーリョをスタートしてひたすら北上。ステージ前半はアップダウンを繰り返す。そして、メインディッシュとなる中盤からは、2級、1級、1級と合計3つの山岳が立て続けに選手たちを待ち構える。

レース前、エヴェネプールは、「一番きつい登りは残り90km(の2級山岳)くらいで、最後の登りはもっと長いけど、それほど急ではない。だから、今回も逃げ切りのための大きな戦いになると思うし、最終的には小さな集団でゴールできることを期待しているよ」と話しており、ステージは総合に関係ない逃げ切り勝利を予想していたようだった。

この日、グルパマ・エフデジのブルーノ・アルミライルが気管支炎のため、アスタナカザクスタン チームのサムエーレ・バティステッラは発熱(Covid-19は陰性とのこと)によりDNS。合計136人の選手がスタートした。

リアルスタートを切ると、残りわずかなステージ勝利を目論んだ選手たちが多くアタック合戦を繰り広げる。しかし、スタートから30分も経たない頃、大きな落車が発生。スプリントジャージを着たマッズ・ピーダスンや山岳ジャージを着用するジェイ・ヴァイン、総合4位につけるカルロス・ロドリゲスなど、多くの選手が巻き込まれてしまう。

ピーダスンに怪我はなかったが、ロドリゲスはジャージの左半身が大きく破け、痛々しい擦過傷が残った。中でも、今大会躍進を見せている一人であったヴァインへの被害が最も大きかった。山岳賞ジャージを着用していたヴァインだったが、左手首付近を深く傷つけ、固定されたまま救急車に乗せられ、レースを降りることを余儀なくされた。

リチャル・カラパス

リチャル・カラパス

リアルスタートから1時間を過ぎた頃、出走人数のおよそ3分の1、40人を超える大人数の逃げグループが形成される。その中に総合に絡む選手はおらず、これまで山岳フィニッシュで2勝を挙げているリチャル・カラパスやティボー・ピノらが含まれていた。

また、前日にエースのプリモシュ・ログリッチを失ったユンボ・ヴィスマからも残されたステージ優勝に向けて、ロベルト・ヘーシンク、サム・オーメン、マイク・テウニッセンの3名が逃げグループへと送り込まれた。

前半のアップダウンを越えてレースも中盤に入り、「絶望」を意味するラ・デセスペラの2級山岳を皮切りに本格的な山岳が始まると、集団で動きがあった。前日に総合トップのグループに対して9秒のタイム差を稼いだ総合6位のジョアン・アルメイダとブランドン・マクナルティのUAEチームエミレーツの二人が飛び出したのだ。この動きについてアルメイダはこう話している。

「アスタナにプレッシャーをかけるために、遠くからトライしたかったんだ。僕は調子が良かったし、遠くから攻めることができた。チームも完璧な仕事をしてくれたしね」(ジョアン・アルメイダ)

しばらくしてマクナルティがこぼれ、アルメイダは一時一人旅となったが、今度は逃げに乗っていた同郷のイヴォ・オリヴェイラが降りてきて、再びの二人旅。集団ではアルメイダから1分18秒のアドバンテージを持つ総合5位のミゲルアンヘル・ロペス擁するアスタナカザクスタンチームが牽引し始めた。

先頭の逃げグループでは、2級山岳をカラパスがトップ通過。「当初はKOMを争うつもりはなかったんだ。ポイント差も大きかったし、争う意味がなかった」とカラパスは語ったが、ヴァインがリタイヤした時点で、カラパスが山岳賞トップの座に立った。

次の山岳へ向かう区間で集団から数名が飛び出す動きも見えたが、全て吸収され、大きな逃げグループのまま、1回目の1級山岳、アルト・デル・ピオルナルへと突入した。すると、上り始めて数km地点でヒュー・カーシーが一人飛び出し、ヘーシンク、セルヒオ・イギータ、エリー・ジェベール、そしてピノがチェイス。ピノとイギータが先に先頭へと合流し、後方からはカラパスが単独で先頭を追うと、追走のジェベールとヘーシンクに合流。3名の先頭と3名の追走グループができあがる。

一方、最初のアルト・デル・ピオルナルに入る頃、後方のUAE二人組は、オリヴェイラが力を使い果たし、アルメイダは一人となった。後方のメインプロトンとの差は50秒ほど。しかし、またしても逃げに乗っていたもう一人のチームメイト、マルク・ソレルがアルメイダの元に降りてきた。

1回目の1級山岳を登り終える少し手前で3名の追走が先頭の3名に合流し、6名の先頭グループとなった。そして追走グループに入っていたカラパスがしっかりと山岳ポイントを先頭通過した。

同じ場所で、さらに後方のメイン集団でも動きが出始めた。ロペスが集団から一人抜け出し、集団をチームメイトがコントロール。大所帯の逃げグループから遅れたヴィンチェンツォ・ニバリが山岳ポイント手前でしきりに後ろを確認していた様子を見る限り、ロペスと合流して二人で下りで抜け出すことを考えたかもしれない。しかし、それは現実には起こらず、ニバリは集団に合流し、牽引の仕事を担うこととなった。先頭から4つ目のグループとなるメインのマイヨ・ロホグループは、山頂付近ですでに10名前後まで人数が絞られていた。

レースは残り30kmほど。アルメイダとソレルの二人は、抜け出した6名の先頭から2番目のグループとなる追走集団へと追いついた。先頭からのタイム差は2分43秒。メイン集団と追走集団とのタイム差は40秒ほどだった。

先頭6人は協調状態が続き、アルメイダが含まれる追走集団ではソレルが牽引。その後ろのメイン集団ではアスタナのニバリが牽引という構図が続く。先頭が残り20kmを切る頃、先頭とアルメイダグループとは1分51秒差、先頭とメイン集団とは2分14秒差となった。

いよいよ最後の1級山岳、東側から登ったアルト・デル・ピオルナルを今度は西側から登る平均勾配5.6%の13.4kmだ。

メイン集団ではニバリが仕事を終え、モビスターが先頭を引き、追走集団ではソレルが仕事を終え、アルメイダが自らタイム差を広げようと先頭を引く姿があった。

ここからはそれぞれの集団で動きがさらに活発化していく。

登り始めたところで6人の先頭グループからジェベールが一人抜け出した。先頭残り9kmを過ぎたところでは、追走からヘーシンクがジェベールに追いつき抜き去ろうとするが、ジェベールはしがみつき、先頭は2人に。

集団では残り9.7km地点で、総合2位のマスがアタック。エヴェネプールが落ち着いた様子でマスの後輪を捕らえる。抜け出した2人は再びメイン集団に戻り、集団にいるメンバーそれぞれがアタックの機会を伺う。しかし、残り8.5kmのところでエヴェネプールが自らアタックを仕掛けた。前にいたテイメン・アレンスマンなどのグループに追いつくどころか一人で抜き去り、さらに一気にアルメイダグループにすら追いついた。マスはなんとかエヴェネプールにしがみついたが、総合3位のフアン・アユソやロペス、ロドリゲスらは20秒ほど後方に置いていかれた。集団での総合勢のやり合いが続く間に先頭とマイヨ・ロホグループとのタイム差は40秒ほどまで縮まっていた。

先頭では残り6.4km地点で、ヘーシンクが再びアタック。これにはジェベールはつくことはできず。ヘーシンクは一人残りの登り区間を突き進む。

遅れたアユソやロドリゲス、ロペスらのグループがエヴェネプールのいるグループに追いつき、16人の集団になると、ロペスのアタックに乗じる形でマスが再びのアタック。エヴェネプールはやはりすぐにマスの後ろにつくが、集団は二人から少し溝を空けられる。

「最後の登り坂が本当にきつくて、UAEのアルメイダたちが序盤にアタックしてきたり……レースは本当にハードだったけど、僕らは常に冷静でいられた。常に冷静でいること、それが僕の学んだことだから」(エヴェネプール)

こう話すエヴェネプールはほとんどケイデンスを変えるのみでシッティングでマスのアタックに反応していたように見える。その後、集団がまた追いつき、数名がアタックしたがそれもすぐに吸収された。残り3kmのバナーを過ぎた後、再びのマイヨ・ロホ自らのアタック。マスはダンシングで追いかけた。

その後方ではロホグループから置いていかれた総合4位のロドリゲスをカラパスが引く。カラパスは先頭から近いところにはいたが、「(ステージ優勝が)もう無理だということがわかったし、チームから、カルロス(ロドリゲス)が20秒も遅れていたから止まって助けるように言われた。僕はできる限り彼を助けようとしたんだ」と負傷したロドリゲスの総合を守る方向に切り替えていた。

ヘーシンクが先頭のまま残り1kmを通過。20秒差で追う二番手はもうマイヨ・ロホグループとなっていた。そしてそこから残り1km手前でマスが再三再四のアタック。エヴェネプールはそれすら封じ込めた。しかしそのアタックによってマスとエヴェネプールが完全に集団から抜け出す。

残り500m、ステージ勝利に向けて先頭をひた走るヘーシンクのすぐ後ろにはもう総合トップ2の姿が見えていた。残り300mでヘーシンクは二人に追いつかれる。そしてラスト200mでエヴェネプールが一気に腰を上げ、スプリント。まるで飛んでいくような加速にヘーシンクもマスもその背中にすがるが、間を空けられるのみ。

ステージ優勝ももぎ取ったエヴェネプールは、全てを封じ込める王者たらん走りを披露した上、マスに対して2秒というタイム差すら押しつけた。スタート前は逃げ切りを予想していたエヴェネプールだったが、最終盤にはステージ優勝にも狙いを定めていた。

強烈なスプリントを放つエヴェネプール

強烈なスプリントを放つエヴェネプール

「ラスト1kmでヘーシンクから15秒か20秒の差があったが、最終的には300m地点で追いつき、200m地点で勝負に出たんだ。なぜなら、かなりフラットだということを知っていたし、冬の間に大きく力を使った後のスプリントを練習していたから。その甲斐があったかな。最終的にクラース(・ロデウィック、クイックステップのスポーツディレクター)がエンリク(マス)と一緒に抜け出したと言ったから、その瞬間に『ステージ優勝も狙うんだ』と自分に言い聞かせたんだ。エンリクは本当にフェアプレーな男だよ。最終的に僕たちは協力してステージ優勝を目指した」(エヴェネプール)

最後の登りで最もアタックを繰り出したマスはステージ2位。

「僕にとっては非常にポジティブな一日だった。正直なところ、僕の特性に合った登りではなかったんだ。優勝はできなかったけど、チームやサポートが良かったから、ただただ全てを出し切るだけで良かった。チームのみんなにありがとうと言いたい。マドリードへの道で何が起こるかはまだ分からない。僕たちはできることは絶対に全てやってみるつもりだ」(エンリク・マス)

総合2位につけていたログリッチが前日から大会を去り、大幅な作戦変更を強いられたはずのユンボ・ヴィスマだが、この日はほとんどのメンバーが逃げへとトライした。最もステージ勝利まで近かったヘーシンクはステージ3位と、あとわずか届かなかった。

「最後の100mまでは素晴らしいレースだった。序盤は本当にタフな一日で、脚を回復させるのに時間がかかり、最後の登りでは集団の中に入って登り切ることができたので満足しているかな。昨日はプリモシュが転倒してスタートできなかったので、大変な一日だった。みんな彼と一緒に総合優勝するためにここに来たからね。でも僕は24時間かけてリセットした。本当に良かったよ。もし1回でも勝てたなら、もう少し嬉しかったかもしれないけどね」(ロベルト・ヘーシンク)

傷だらけでフィニッシュしたカルロス・ロドリゲス

傷だらけでフィニッシュしたカルロス・ロドリゲス

タイムを失い、総合順位を一つ下げたロドリゲスは、「戦い続けるよ、まだ終わらない」と自信のSNSで残した。一方で総合3位の座を守ったアユソは、「ミゲルアンヘル(ロペス)は本当に僕を試してきたんだ。プレッシャーもあっただろうけど、彼の後ろにつけて、一緒にタイムロスせずに済んだからよかったよ」と満足しつつ、落車に巻き込まれたロドリゲスについて、「あのような激しいクラッシュのあと、タイムを失いつつも、僕らと近くで走り続けることができたのは、本当に素晴らしいことだと思う」とも話した。

次の第19ステージは、そこまで勾配が高くない山岳を含む周回コース。総合優勝にまた一歩近づいたエヴェネプールだが気を緩めることはない。

「ブエルタはまだ終わってない。これから本当に難しいステージが待っているしね。ライバルたちは間違いなく僕を攻撃してくるだろう。でも、今は脚の調子がとても良いので、コントロールしやすいかもしれない。この3日間は僕にとっても、チームにとっても、とても良いことだ」(エヴェネプール)

自転車競技が国技であるベルギーの選手がグランツールを総合優勝するとなれば、1978年、ヨハン・デミュインクのジロ・デ・イタリア以来となる。

マドリードまであと3日だ。

文:滝沢佳奈子

滝沢 佳奈子

滝沢 佳奈子

2014年に自転車にハマり、初めてのレース観戦は単身ロードバイクを持って行ったツール・ド・フランス。その経験から自転車雑誌サイクルスポーツの編集者となる。現在は国内を中心にロードレースやトラック競技などの取材を行う。

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