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サイクル ロードレース コラム 2022年9月8日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第17ステージ】残り300mで勝負を決めたウランが全グランツール勝利を達成「希望を失わないようにすること。それが私の人生のモットーだ」

サイクルロードレースレポート by 福光 俊介
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すべてのグランツールで勝利を掴んだウラン

すべてのグランツールで勝利を掴んだウラン

大荒れの1日を経て、プロトンは意識的に静けさを取り戻そうとしているようだった。アタックが頻発した序盤が過ぎると、逃げを試みる選手たちに前線は任せて、リーダーチームは粛々とメイン集団を統率。その甲斐あって、前日みたいにフィニッシュを目前にあちこちでトラブルが発生するような状況は避けられた。

最大13人が先行したレースは、そのまま逃げ切ることを容認された選手たちによるステージ優勝争いに。百戦錬磨のリゴベルト・ウラン(EFエデュケーション・イージーポスト)が勝利をつかんだが、意外にもこれがブエルタでは初優勝。これにより、すべてのグランツールで勝ち星を挙げた選手となった。

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「ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスでは勝利を収めていたので、次はブエルタだと思っていた。長いこと追い求めていた目標だから、ようやくそれが達成されたよ! 勝つことはいつだって僕を幸せにしてくれる」(リゴベルト・ウラン)

この日は嘆息から始まった。前日のステージ、難所でのアタックを成功させ、ライバルからタイムを奪うかに思われたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)がフィニッシュ前でまさかの落車。大荒れとなったステージを象徴した衝撃の出来事は、地面に叩きつけられた本人を心身ともに傷つけた。右半身を中心にいたるところに負った体の傷以上に、心の傷の方が今回ばかりは大きいという。「とてもレースどころではない」との判断で、第17ステージの出走を取りやめ。前人未到のブエルタ4連覇の夢は、これで潰えることになった。

「体の傷はケアすればどうにかなりそうだが、心の傷はどうすることもできない。プリモシュはレースに臨めるメンタルにない。今日を迎えた時点でそれは確定すべき要素だった」(ユンボ・ヴィスマ スポーツディレクター、アディ・エンゲルス)

レースは序盤からアタックの応酬となった。スタートからの25kmが下り基調であることも関係して、速いペースで進行する。それからはアップダウンの連続となるが、なかなか逃げは決まらない。この日の方向性がようやく定まったのは、50km地点に達しようかというタイミング。13人の先行をメイン集団が許可したことにより、レース全体が落ち着き始めた。

フィニッシュに向けてペダルを踏むウラン

フィニッシュに向けてペダルを踏むウラン

リーダーチームのクイックステップ・アルファヴィニルがメイン集団の統率を始めると、先頭グループとのタイム差を意図的に広げた。フィニッシュまでの残り距離が80kmを切って、その差は5分。同じく70kmで約7分。残り30kmまでそのタイム差が維持されたこともあり、前を行く選手たちの中からステージ優勝者が出るのは決定的となる。

フィニッシュまで15kmとなったところで、逃げメンバーで最初の仕掛けが生まれた。ローソン・クラドック(チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコ)が単独で抜け出すと、後ろに対して約20秒のリードでフィニッシュ地モナステリオ・デ・テントゥディアへの上りに突入。

残り5kmで25秒差としたクラドックだったが、フィニッシュまで3.5kmとなったところで追走メンバーがいよいよスピードアップ。クラドックのひとり逃げは残り1kmで終わると、その200m先でクレマン・シャンプッサン(アージェードゥーゼール・シトロエン チーム)がアタック。さらにはヘスス・エラダ(コフィディス)が今大会2勝目をかけたカウンター攻撃。

これで勝負あったかに思われたが、誰よりも勝ち方を知る男が土壇場で状況を変えてみせた。ウランがエラダに追いつくと、残り300mで渾身のアタック。エラダを振り切ると、今度はカンタン・パシェ(グルパマ・エフデジ)の粘りにあったが、先頭は最後まで譲らず。走り切るのが精いっぱいでウイニングセレブレーションどころではなかったが、一番にテントゥディア修道院前のフィニッシュに到達した。

「逃げメンバーの中で僕が最も個人総合成績が良かった。その責任を果たすために全力を尽くさないといけないと思っていたんだ。一緒に逃げてきた選手たちはみんな強かったけど、残り300mでチャンスがめぐってきたと感じた。“今しかない”とね。キャリアの中でも特別な勝利を手にしたよ。成功の秘訣? 常に信じて戦うことじゃないかな。希望を失わないようにね。それが人生のモットーでもあるんだ」(ウラン)

“もうひとつのレース”になったメイン集団では、最後の上りで個人総合6位(ログリッチのリタイアによって順位が繰り上がった)ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)がアタック。上位陣の中で、マイヨ・ロホのレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル)に先着を許された、ただひとりのライダーだった。アシスト陣のお膳立てを受けたエヴェネプールは、最終局面を自分のペースで押すと、追随できたのは個人総合2位のエンリク・マス(モビスター チーム)のみ。結果的に両者は同タイムでフィニッシュした。

無事にステージを完了したマイヨ・ロホは、ログリッチの大会離脱を悲しみつつも、そうした状況が自身により有利に働くことを実感しているようである。

レムコ・エヴェネプール

レムコ・エヴェネプール

「エンリク(マス)の存在が今日のステージを難しくしたことは間違いない。アタックはタフだったし、この先のステージに向けた脚を試しているようだった。彼は勇敢な男だよ。だけど…プリモシュがいたらもっと困難なステージになっていたんじゃないかな。今日のようなレイアウトは彼にぴったりだし、僕からすれば数十秒奪われていても不思議ではないコースだった。そう考えると、エンリクは僕にとって戦いやすい相手なのかもしれない。それは今日、アタックに対処したことで実証できたのではないかな」(レムコ・エヴェネプール)

両者の総合タイム差は2分1秒。グランツールのトップに身を置くのはこれが初めてなのに、その自信はどこから湧いてくるのだろう。頼もしい限りである。残りは4ステージ。マイヨ・ロホを守り切ることができるだろうか。

続く第18ステージからは、初のグランツール制覇に向けた最終関門。2回上る1級山岳アルト・デル・ピオルナルをエヴェネプールがクリアできれば…王座へのロードが一気に拓けてくる。

文:福光 俊介

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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