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サイクル ロードレース コラム 2022年9月5日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第15ステージ】2週目のラストを告げる最難関でテイメン・アレンスマンが歓喜!マイヨ・ロホ堅守のエヴェネプール「僕らにとっては良い1日だった」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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喜びを爆発させてフィニッシュするテイメン・アレンスマン

喜びを爆発させてフィニッシュするテイメン・アレンスマン

各々の立場やプライドを懸けたバトルが、長い山道のいたるところで繰り広げられた。標高2500mを超える山の上で、テイメン・アレンスマンがプロ人生初のラインレース勝利をもぎ取り、「これほど高い山でフィニッシュしたのは人生初めて」というレムコ・エヴェネプールは、最小限のタイム損失で総合首位の座を守り切った。10日連続でマイヨ・ロホ表彰台に臨み、1分34秒の余裕を持って大会3週目へと向かう。

「いまだに信じがたい。どういうことなのか理解しなきゃならない。これはブエルタのクイーンステージで、シエラネバダで、しかも山頂フィニッシュだ。誰もがこのステージについての話題で持ちきりだった。本当に信じられない」(アレンスアマン)

152.6kmという短距離ステージながら、累計3990mもの標高を駆け上がり、最後は標高2512mの地へーー。予想通りに、スタート直後から、激しいアタック合戦が巻き起こった。エヴェネプールが今大会初めてタイムを失った翌日だからこそ、ライバルチームたちの思惑も入り乱れた。

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中でも52秒縮めたプリモシュ・ログリッチ擁するユンボ・ヴィスマが、ローハン・デニスを真っ先に前線へと送り出した。個人タイムトライアル世界選2勝の強脚に引っ張られるように、次々と強豪が逃げ出していく。最終的に29人の大集団が出来上がった。70kmもドンパチが続いた前日ほどには長引かず、幸いにも、スタートから25kmほどでプロトンは落ち着きを取り戻した。

23チーム中20チームが前線に揃った。総合個人トップ10を擁する全チームが最低でも1人ずつ送り出し、なによりユンボ・ヴィスマ、UAEチームエミレーツ、アスタナカザクスタンはそれぞれ2人ずつ。エヴェネプールを保護すべきクイックステップ・アルファヴィニルさえ、2人が滑り込んだ。

逃げ出したのは、「前待ち」要員だけではない。例えば大会1週目に山頂フィニッシュを2つ制し、8日目から山岳ジャージをまとってきたジェイ・ヴァインは、自身4度目の逃げへ打って出た。1つ目の山岳(3級)は軽々と、2つ目(1級)は、途中40kmほどに渡って独走を続けていたローソン・クラドックをぎりぎり山頂間際でとらえて、いずれも先頭通過を果たした。

「ポイント集めに励んだ後、少し苦しんだ。ローソンに追いつくために、かなりのタイム差を埋めなきゃならなかったからね。最終峠は、上りの間中、ずっと自分に言い聞かせ続けた。『あと1km、あと1kmだけ後輪にしがみつけ……』って」(ヴァイン)

普段からピレネーの小国アンドラで練習しているせいか、「標高には慣れている」とは言うものの、プロ2年目のヴァインにとっては、やはり「いまだかつてたどり着いたことのない標高」への到達だった。後方から追いついてきた総合エースたちに必死にしがみつき、最終的には区間4位で1日を締めくくった。

無事に3つの山岳すべてでポイントを収集したヴァインは、この日だけで3+10+6=19ptを積み重ねた。トータルでは59pt、山岳賞2位との差は29pt。大会3週目だけでいまだ最高80ptの収集が可能だから、青玉ヴァインはきっと新たな逃げを打つに違いない。

ポイント賞首位マッズ・ピーダスンもまた、逃げの一員だった。開幕以降、ポイント収集可能な14日間のうち9日間で得点を積み重ねてきた驚異的な安定感に、しかも山頂フィニッシュ区間で2日連続3回目の逃げを打つ勇敢さで、この日も独走クラドックの背後できっちり中間ポイント2位通過を果たした。こうして大会1週目の(初日TTTを除く)8日間で147ptを、2週目の6日間では137ptをかき集めたピーダスンは、通算ポイントを284ptに伸ばした。2位との差はなんと173pt!

最大6分半のリードを奪った逃げ集団内では、もちろん、多くの選手がステージ優勝を欲していた。しばらく先行していたクラドックとヴァインに、残り27km、改めて強豪たちが前に集結した。総合優勝争いから早い段階で脱落した今ジロ総合覇者ジャイ・ヒンドレーに、3度のグランツール総合表彰台経験を誇るリゴベルト・ウラン、昨ブエルタ新人賞ジーノ・メーダー、すでに今大会両手を上げているリチャル・カラパスやマルク・ソレル、ルイス・メインチェス等々……。

全長22.3kmの最終登坂に取り掛かる直前には、第5ステージ覇者ソレルが早がけで飛び出した。フィニッシュまで10kmに迫るころ、逃げの友たちにはすでに1分近いリードを押し付けていた。

しかし、ここから、9分14秒遅れの総合11位アレンスマンが単独でソレルを追いかけ始める。いまだ3分18秒遅れだった第9ステージは、せっかく逃げ出したのに、監督からの命令で泣く泣くプロトンへ後退した。幸いにも、この日は、「大きな逃げだったら行っても良い」との許可をもらった。自分の可能性を思う存分試すチャンスだった。

「正直に言うと、ステージ中はあまり調子は良くなかった。ただ、どうやら、他の選手のほうがもっと脚がなかったみたいだね」(アレンスマン)

この春のジロでは、最終週に2回逃げ、区間勝利まであと一歩に迫った。昨ブエルタも、今ジロも、最終日の個人TTで区間トップ3に飛び込んだ。……つまり3週目に好成績を並べてきた22歳のオールラウンダーは、2週目の最終日、ついに自らの強味を理解した。15km近くも孤軍奮闘を続けてきたソレルを、残り7kmでつかまえ、そして数百メートル先で振り払った。

沿道のファンに背中を押されて劇坂を走るアレンスマン

沿道のファンに背中を押されて劇坂を走るアレンスマン

「ソレルは素晴らしい選手だから、倒せるかどうか分からなかった。でも勾配のきつい場所で加速したら、彼は力尽きた。だから『そうか、みんな本当に限界なんだな。でも、僕には、いまだに何かが残っているかもしれない』と考えたんだ」(アレンスマン)

単独先頭になってからは、無線を外し、無心でペダルを踏み続けた。そうそうたる逃げのライバルたちも、後方から迫ってくる総合エースたちも、もはやアレンスマンの背中をとらえられることなどできなかった。海抜ほぼ0mの土地で生まれたオランダ人が、高い山のてっぺんで、初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。ちょうど1ヶ月前のツール・ド・ポローニュの個人タイムトライアルで、プロ初勝利を手にしたばかりだった。

エヴェネプールを支えるクイックステップは、チームメイト2人を含む29人の大きな逃げを見送った後、淡々と集団制御を務めた。しかしタイム差が6分半に開き、アレンスマンがそろそろ暫定総合3位に上がろうかというころ……残り70km、アージェードゥーゼール・シトロエンが集団先頭に競り上がった。総合10位ベン・オコーナーのために、猛烈な牽引を開始した。

続けてユンボ・ヴィスマも、残り50km、突如として先頭で強力なテンポを刻み始めた。2チームの凄まじい攻勢が、最後から2番目の山岳で、メイン集団をまたたく間に小さく削っていく。

ユンボは攻撃の手を決して緩めなかった。それどころか最終峠への突入直前、「前待ち組」を大胆に2人いっぺんに呼び戻すと、5人隊列でさらに加速を畳み掛けた。テクニカルな下りを高速で飛ばし、超級オヤ・デ・ラ・モラの、勾配が20%にも至る登坂口へと勢い良く突っ込んだ!

エヴェネプール、オコーナー、ログリッチ

エヴェネプール、オコーナー、ログリッチ

プロトンはまたたく間にバラバラになった。ユンボの最終アシスト、クリス・ハーパーの背後には、ただ総合首位エヴェネプールと総合2位ログリッチ、総合10位オコーナーだけが留まれた。それでも総合6位ミゲルアンヘル・ロペスと3位エンリク・マスはすぐに居場所を取り戻し、出遅れた総合4位カルロス・ロドリゲスは、総合9位テイオ・ゲイガンハートの尽力でなんとか追いついた。一方でUAEのトップ2、総合5位フアン・アユソと7位ジョアン・アルメイダは、後方へと吹き飛ばされた。

ところが残り19kmでハーパーが仕事を終えると、ログリッチは早くも1人になる。一方で再び脱落したロドリゲスのもとには、逃げから前区間覇者リチャル・カラパスが降りてきて、追走に力を貸したし、UAE2人組は途中で合流し、助け合いながら前を急いだ。ネルソン・オリヴェイラは、ほんのわずかながらもマスに並走した。なによりエヴェネプールの側に、残り15km、やはり逃げからルイス・フェルヴァーケが駆けつけた。その後5km以上にも渡って、残された力をエースに惜しみなく捧げた。

「僕はかなりうまくやれたと思うよ。ユンボはすごく良いレースをしたけど、僕のチームだって同じだ」(エヴェネプール)

フェルヴァーケが淡々と牽引する6人隊列から、真っ先に攻撃に転じたのはロペスだった。5年前に同じ山を制したコロンビア人は、残り11kmでアタックをかけた。しかも飛び出した先には、チームメートのダビ・デラクルスが待ち構えていた。ブエルタでは過去3度も総合7位に食い込んだ実力者が、チームエースを全力で引っ張り上げた。

直後にはマスも加速を切ると、しばらく先でアスタナ2人組にまんまと合流する。5km近い奮闘の果てにデラクルスが仕事を終えると、以降、昨季のチームメートは時に睨み合い、時に協力し合いながら、一緒にフィニッシュを目指すことになる。

マスとロペスが遠ざかり、直後にフェルヴァーケが仕事を終えた後、エヴェネプールはひたすら自らのテンポを刻んだ。「登坂口では調子が上がらなかった」というログリッチが、とうとう攻撃に転じ、オコーナーも後に続いた時後も、冷静に、自分の走りを貫いた。いずれにせよ、ログラが飛び出していった時点で、もはやフィニッシュまでは2km弱しか残っていなかった。パニックに陥る必要など皆無だったのだ。酸素の薄い世界で、冷静で強靭な精神力を保ち続けた。

アレンスマンの歓喜から1分23秒後、マスが区間2位で山頂に飛び込んだ。スプリントで引き離されたロペスは2秒遅れてライン越えた。「本当は区間勝利狙っていた」ログリッチは、オコーナーと共に1分44秒後(マスから21秒後)でフィニッシュ。最後に追い上げたアユソが続き、そしてマスから36秒後(+ボーナスタイム6秒)、ログラからたったの15秒後に、エヴェネプールは無事に超級を走り終えた。

「落車の影響で脚の動きが少し悪かったけれど、でも、日に日に良くなっている。明日が休息日なのが嬉しいし、なにより、実のところほとんどタイムを失わなかったことに満足してる。うん、僕らにとっては良い1日だった」(エヴェネプール)

この2日間でエヴェネプールが失ったタイムは、2位ログリッチに対して1分07秒、3位マスに対しては1分02秒。それでもいまだ前者には1分34秒の、後者には2分01秒のリードを保っている。また総合4位と5位の座は入れ替わり、19歳アユソが4分49秒差に、21歳ロドリゲスが5分16秒差につける。ロペスは順位は変わらず総合6位のまま。またアレンスマンは11位から8位へと一気に浮上し、人生初のグランツール総合トップ10入りを果たした。オコーナーも9位へと1つ順位を上げた。

「落車のせいで2週目を乗り越えるのは簡単ではなかったけれど、3週目は、また別のストーリーが待っている。山はもはやそれほど厳しくはないからね」(エヴェネプール)

144人にまで小さくなったプロトンは、スペイン南部で休暇を楽しみ、3週目に向けて英気を養う。2022年ブエルタ・ア・エスパーニャも、残すは6日。マドリードへの凱旋前に、もちろん、いまだ山岳バトルも4ステージ残っている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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