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サイクル ロードレース コラム 2022年9月4日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第14ステージ】カラパスが今大会2勝目の歓喜!レムコとのタイム差を縮めた王者ログリッチ「このチームの一員であることを嬉しく思う」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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今大会2勝目を掴んだカラパス

今大会2勝目を掴んだカラパス

グランツール総合争いの酸いも甘いも知る者たちが、2週目の終わりに、レースを動かした。元ジロ覇者リチャル・カラパスはぎりぎり8秒差で逃げ切り、ブエルタ3連覇中のプリモシュ・ログリッチは、今大会初めて、マイヨ・ロホのレムコ・エヴェネプールを苦境に追い込んだ。

「ブエルタで区間2勝できるなんて、本当に最高だ。大きな快挙だよ。僕にとっても、チームにとっても、そして僕の将来にとっても素晴らしいこと」(カラパス)

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今のタイム差をキープしたまま、この週末を抜け出したい。スタート前のエヴェネプールは、こんな目標を掲げていた。14日間も走り続けたのは人生でたったの2回目……という22歳は、同時に、ある種の不安も抱いていたようだ。それは「標高」だった。「今日の山道は勾配が厳しい上に、しかも標高自体も1800m超と高い」と大いに警戒していた。

ステージはすさまじい打ち合いで幕を開けた。時速50km近い高速の追いかけっこは、延々1時間半近くも続いた。

走行距離が70kmを過ぎた頃、カラパスがついに突破口をこじ開けた。アレクセイ・ルツェンコが後に続いた。ルイスレオン・サンチェス、クレマン・シャンプッサン、ブルーノ・アルミライルもすぐに追いかけた。さらにはフィリッポ・コンカにマッズ・ピーダスン、ケニー・エリッソンドが加わると、メイン集団はようやく走行を緩めた。慌ててラウル・ガルシアとマルコ・ブレンナーもブリッジを仕掛け、とうとう10人の先頭集団が出来上がった。

背後では、いつも通り、クイックステップ・アルファヴィニルが集団最前列で淡々と牽引作業に打ち込んだ。おかげでグランツール区間勝利経験者が6人という、実力者揃いの逃げグループは、最大4分半のリードを許された。

誰もが勢力的に先頭交代を引き受けたことも、最終的な逃げ切りにつながった。中でも前日スプリントを制したピーダスンが、今大会ここまで献身的に働いてくれたエリッソンドのために、持てる力を惜しみなく尽くした。もちろん残り33km地点に差し挟まれた中間スプリントでは、マイヨ・ベルデ用ポイントを新たに20pt積み上げることも忘れなかった。

調和の取れた時間は、長くは続かなかった。ステージ前半いつも以上に激しくやりあった選手たちは、残り22.5kmで2級山岳ロス・ヴィリャレスに突入すると、再び戦いの渦へと飛び込んでいった。

前線で真っ先に仕掛けたのはサンチェスだった。上りで2度の加速を切った。1度目はルツェンコやシャンプッサンが、先頭に立って穴を埋めに走った。山頂間際の2度目で、38歳ベテランは、ライバルたちからほんの少し距離を開いた。残された選手たちは追いかける代わりに、互いに顔を見合わせ、2日前に山頂フィニッシュを制した絶好調カラパスの後輪を奪い合った。

追走の責任を押し付けられたカラパスは、上りではなく、むしろ短い下りを利用して、単独で楽々とサンチェスをとらえた。残り8.4kmで1級山岳パンデラに上り始めると、シャンプッサンとコンカだけは粘り強く追いついてきたが……無理に振り払おうとはしなかった。ただひたすら、2kmに渡って12.5%の激勾配が続く、最難関ゾーンを待ち続けた。そして残り3.5km、難勾配を利用して、3人まとめて突き放した。

独走に持ち込んだ段階で、もはや逃げの仲間たちは、カラパスにとってステージ争いのライバルではなかったはずだ。むしろ危険は、ほんの30秒後に迫っていた。

なにしろ直前の2級峠で、ユンボ・ヴィスマが、ウルフパックから主導権をむしり取っていた。まずはロベルト・ヘーシンクが強烈なテンポを刻んだ。過去3度のブエルタ総合優勝にすべて立ち会ってきた36歳ベテランは、メイン集団を急速に小さく絞り込み、なによりレムコ親衛隊を一気に4人から2人にまで減らすことに成功した。

2分40秒遅れで最終パンデラ峠へと入ると、今後はクリス・ハーパーが仕事をする番だった。ログリッチの側でグランツールを走るのは初めて……という元ツアー・オブ・ジャパン総合覇者は、前を引き始めたイネオスやモビスターをあえて押しのけて、勾配が厳しくなる部分まで夢中で先頭を引き続けた。

マイヨ・ロホのレムコ・エヴェネプールをを苦境に追い込んだログリッチ

マイヨ・ロホのレムコ・エヴェネプールをを苦境に追い込んだログリッチ

「うん、チームメートたちは、素晴らしい仕事をしてくれた。本当に力強く牽引してくれたし、僕はこのチームの一員であることを嬉しく思う」(ログリッチ)

エヴェネプールもいまだ補佐役を1人残していた。22歳の若きエースを支える、同い年のイラン・ファンウィルデルだ。ジュニア時代のレムコ無双の立役者であり、今年から再びチームメートとなったクライマーは、残り4km前後で最前列に出ると、なんとか自陣に主導権を取り戻そうと試みた。

しかし、その直後だった。逃げのカラパスが単独で抜け出すよりも早く、ログリッチが前へと飛び出した。

「僕にとってはベストデーではなかった。それは間違いない。少し苦しんだし、脚は好調ではなかった。ログリッチが前へ行った時、僕は加速することができなかった」(エヴェネプール)

標高はすでに1500mを超えていた。これまで4度の難関山頂フィニッシュでは、ただただ圧倒的な強さを見せつけたエヴェネプールが、今大会初めて直接的ライバルの先行を許した。ディフェンディングチャンピオンとの距離は、じりじりと開いていく。しかも、マイヨ・ロホの追走スピードが一向に上がらないことを悟ると、背後にじっと張り付いていたライバルたち……総合3位エンリク・マス、4位カルロス・ロドリゲス、5位フアン・アユソ、7位ミゲルアンヘル・ロペス、8位ジョアン・アルメイダも、次々と前方へと飛び立っていった。

「上りのラスト3kmは本当に勾配がきつかったし、強風のせいで、誰かの後輪につくことも不可能だった。それでも僕は冷静であり続けた。とにかく闘い続けた」(エヴェネプール)

残り3kmで、ログリッチに対するエヴェネプールの遅れは、すでに約30秒に開いていた。逃げるカラパスとログリッチとの差もまた、もはや約30秒しか残っていなかった。2019年ジロと2020年ブエルタで揃って総合表彰台に上りーージロはカラパスが、ブエルタはログラが制したーー、昨夏は東京でそれぞれ金色の栄光に輝いたーーロードはカラパスが、個人TTはログラがーー、そんな2人の王者による、プライドと栄光をかけた熾烈なチェイス。

この直後にマスとロペスが追いついては来たけれど、ただ後輪に張り付いているだけの2人など一切気にせず、ログリッチは毅然とペダルを回し続けた。残り2kmではレムコとの差をさらに45秒へと広げた。マスはその後に脱落していったが、ラスト1kmでは、カラパスをわずか10秒差にまで追い詰めた。

「この山のことはよく知っていたんだ。だから自分のペースで走るよう心がけた。決して希望は失わなかった。だって、本当に厳しい上りだということを、分かっていたから」(カラパス)

つまりそこから急な下り坂に入ることも、上手く対処すべき急カーブが待ち受けていることも、カラパスは完璧に理解していた。もちろん下りの勢いを利用して、最終15%の激勾配をハイスピードで駆け上がった。標高2900mを超える地で生まれ育ったエクアドル人が、歓喜のガッツポーズを天に突き上げたわずか8秒後、ロペスとログリッチがフィニッシュラインに飛び込んできた。

やはり標高2800m台の高地出身ロペスがボーナスタイムを6秒収集し、ログリッチは4秒を手に入れた。またアルメイダは27秒後(ログリッチから19秒後)に、ロドリゲスとマスは36秒後にレースを締めくくった。

マイヨ・ロホの到着は、もう少しだけ待たねばならなかった。途中で不運にもパンクに見舞われ、ニュートラルサービスの代車でのレース続行を余儀なくされたアユソだけは、最終的にエヴェネプールと一緒にフィニッシュ。ログリッチが走り終えてから、すでに48秒がたっていた。

それでも残り2kmで早くも45秒遅れていたことを考えれば、レムコはむしろ被害を最小限に食い止めた。ライバルたちに置き去りにされた直後こそ、苦しそうな表情で喘いでいたが、徐々に、いつものペダリングを取り戻していった。

「パニックになる理由なんてない。もしも今日が僕の『バッドデー』ならば、この程度で留められたことに満足してもいい。心配しているとも言えない。だって、ここまでの日々で、他のライバルたちはすでに多くのタイムを失っているし、グランツールの総合争いというのはそういうものだから」(エヴェネプール)

ログリッチにタイム差を縮められたレムコ・エヴェネプール

ログリッチにタイム差を縮められたレムコ・エヴェネプール

第6ステージだけでログリッチに1分22秒差を押し付け、第9ステージでさらに52秒を奪い去り、10日目の個人タイムトライアルでは48秒リードしたエヴェネプールは、この第14ステージでは逆にログリッチから48秒+4秒=52秒を詰められた。総合タイム差は2分41秒から1分49秒へと縮まった。また総合3位マスは3分03秒差から2分43秒差へ、4位ロドリゲスは4分06秒差から3分46秒差へと近づいた。

上位陣でアユソだけは順位もタイム差も変わらなかったが(5位4分53秒差)、ロペスはまた1つ順位を上げ(6位6分02秒差)、アルメイダも7位に返り咲いた(6分49秒差)。2日前の大逃げで総合6位に浮上したウィルコ・ケルデルマンは、6分56秒差の総合8位に再び後退している。

「できる限り体力を回復させて、明日は生き残りたい。落車のせいで少し筋肉を痛めたけど、明日か、休息日の後には、それも良くなるだろう。でも落車を言い訳にはしたくない。ただ今日は僕にベストの脚がなかっただけ。自信はいまだ変わらない。休息日前日の山岳ステージに、再び自分のベストを尽くす準備は出来ている」(エヴェネプール)

その「休養日前日の山岳ステージ」こそが、2022年ブエルタのクイーンステージだ。今大会唯一の超級山頂フィニッシュは、標高2512mの地で争われる。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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