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サイクル ロードレース コラム 2022年9月3日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第13ステージ】マイヨ・ベルデのマッズ・ピーダスンが念願のブエルタ区間初勝利「僕らはこの先も戦い続けていく」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マッズ・ピーダスン

先頭でフィニッシュするマッズ・ピーダスン

ついにガッツポーズを振り上げた。ステージ勝負もポイント収集も連日のように全力投球で取り組んできたマッズ・ピーダスンが、念願のブエルタ区間初勝利をもぎ取った。ライバル不在のマイヨ・ベルデ争いでも、2位以下をさらに大きく突き放し、人生初のグランツール賞ジャージ獲得へと大きく前進した。レムコ・エヴェネプールは静かな1日を満喫し、マイヨ・ロホ争いは一切動かなかった。

「今日のフィニッシュ地形はまさに僕向きだと分かっていた。チームメートたちはすごく良く働いてくれたし、1日中みんなで集中し続けた。ようやく勝利をつかみとり、仲間たちの仕事に報いることができて本当に嬉しい」(ピーダスン)

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ステージの朝に、総合5位フアン・アユソの新型コロナウイルス陽性が判明した。ただし改めてPCR検査が行われた結果、最終的に出走が許可された。UCI国際自転車競技連合が6月末に改正した新型コロナウイルス関連ルールによると、グランツール出場選手・スタッフがPCR検査で陽性になった場合でも、所属チームドクター、大会Covid-19専門ドクター、UCIメディカル委員会による数値分析により「隔離不必要」との判断を下すことができる。つまりレース続行が可能となる。

UCIは判断材料に関する具体的な基準を公表していないが、スポーツの現場では、現在、Ct値(Threshold Cycle、閾値サイクル)で出場可否が判断されることが多い。Ct値は高ければ高いほどウイルス量が少なく、「他者への感染の可能性が低い」とされる。実は国によっても陽性とされる基準は35から40と一定ではないようだが、北京冬季五輪では35以上の選手が出場を許可された。欧州では多くのスポーツイベントが33超という数値を採用している。アメリカの国内スポーツでは、30以上で問題なく競技を続行できるものもあるそうだ。

こうして大会最年少19歳の冒険は続き、大会4日目以来初めて、DNS(不出走)選手のいないステージが幕を開けた。

スタートと同時にジュリアス・ファンデンベルフ、アンデル・オカミカ、ジョアン・ボウの3人が飛び出した。168.4kmという短いステージだからこそ、スプリンターチームは間髪入れずタイム差制御に取り掛かった。ピーダスン率いるトレック・セガフレードが、真っ先にプロトン先頭でコントロールを始めた。2日前の区間覇者カーデン・グローブス擁するバイクエクスチェンジ・ジャイコと、「この日限りで途中リタイアか」と噂されたブライアン・コカールのコフィディスも、すぐに協力体制に入った。

ゆるいアップダウンが延々と繰り返されるコースで、逃げとは常に2分半〜3分半ほどの距離を保ち続けた。いつしかティム・メルリールのアルペシン・ドゥクーニンクも作業に加わり、ダニー・ファンポッペルのために、ボーラ・ハンスグローエも人員を集団先頭へ送り出した。

それでも最も勢力的に作業を続けたのは、トレックだった。残り14.6kmの中間ポイントでは、かろうじて逃げの3人が先行したものの……トレックが凄まじい勢いで文字通り全員牽引を敢行。スプリンターたちが率いるプロトンは、望み通り、残り10kmで逃げをすべて吸収した。

ただし決して単純な「ピュア」スプリントステージではなかった。山岳ポイントの一切存在しない平地ステージでありながら、ラスト5kmは、延々と上り坂が続いたのだ。

プリモシュ・ログリッチが区間を制し、ピーダスンが2位、エンリク・マスが3位……という複数の脚質が混じり合った第4ステージを思わせる地形でもあった。だからこそユンボ・ヴィスマやモビスターも、最終盤は前方で隊列を戦わせた。なにより延々5%台が続く残り1kmの坂道に突入すると、2019年ツール第1ステージ(ラスト1.2kmが7.5%)をさらいとったマイク・テウニッセンが、総合2位ログラのために猛スピードで最前列へと駆け上がった。

しかしスペイン初日とは違い、この第13ステージのフィナーレは、総合を狙うようなクライマーにとって十分な厳しさがなかった。テウニッセンの勢いに一瞬ひるみつつも、「上れる」スプリンターたちが、すぐに主導権を奪い返しに向かった。ここでコカール曰く、「ちょっとしたデッドタイム」が、集団前線に生まれた。

「そのせいで長く伸びた集団が、再び少し縮まった。後方から追いついてきた選手も多かった。その混乱の中で、僕が一瞬ポジションを見失っている隙に……飛び出されてしまった」(コカール)

残り400mから連続する2つの直角カーブで、パスカル・アッカーマンが先頭に勢い良く駆け上がった。あまりに遠くからの早駆けに、混乱の中、多くのライバルたちが出遅れた。たった1人を除いては。

もちろん、その1人こそが、ピーダスンだった。2年前のブエルタで区間2勝をさらったドイツの俊足の奇襲に、ためらわず反応した。しかもラスト300mのラストストレートへ出るやいなや、ライバルの後輪からも潔く飛び出した。そのまま前方へと単独で力強く突き進んだ。

「僕の最終発射台は、残り800mくらいで脇に逸れたんだ。だから高速テンポでの展開は、僕にとってパーフェクトだった。パスカルが早めに飛び出して、つまり僕も一緒に飛び出さなきゃならなかった。その後はご存知の通り長いストレートで……長いスプリントを余儀なくされた。330mのスプリントだ」(ピーダスン)

ピーダスンのシャンパンファイト

ピーダスンのシャンパンファイト

追い抜かれたアッカーマンは、もはやトップスピードを維持することが出来ず、出遅れたコカールは、無我夢中でピーダスンを追いかけるも、「センチメートル単位」でしか距離を埋められなかった。キング・オブ・スプリンターを意味するジャージをまとう26歳が、とうとうフィニッシュラインを先頭で駆け抜けたーー。

23歳の秋に、大雨の英国で、世界チャンピオンに上り詰めてから3年。7月のツール第13ステージを、大逃げの果てに、力づくでもぎ取ったピーダスンが、続くブエルタでも第13ステージで初めてのブエルタ区間勝利を手に入れた。また中間13pt+フィニッシュ50ptを積み重ね、ポイント賞では2位マルク・ソレルに151ptもの大差を押し付けた。

「今大会には区間勝利を手にするために来た。そして今日ひとつ勝った。この先はもうひとつ勝ちに行く。ポイントジャージ争いで快適なリードを保っているのは素敵なことだけど、でもサム(ベネット)がここにいて、ジャージ争いを続けていられたらもっと素敵だったのにと思う。とにかく僕らはこの先も戦い続けていく」(ピーダスン)

ピーダスンが7回の区間トップ10入りを経てツール区間勝利を手にし、3回の区間トップ2に泣いた後にブエルタ区間勝利を手にしたのだとしたら、人生で22回もグランツール区間トップ10を繰り返してきたコカールは……悔しい2位に終わった。

「後悔しないためにフィニッシュラインまで全力で走った。でも……ちょっと後悔してる。だってピーダスンの後輪を見失ってはならないことはあらかじめ分かっていたんだから。こんなもんさ。また2位さ」(コカール)

ちなみに発射台ダヴィデ・チモライは、母国イタリアのメディアに、「ワールドツアー残留に向けたポイント収集」に向けコカールが 今区間限りでリタイアする可能性を示唆していた。ただしフィニッシュ直後の本人は、これを否定。第16ステージで再び勝利を目指すと宣言している。

依然2位以下に大きな差をつけて総合争い首位に立つレムコ・エヴェネプール

依然2位以下に大きな差をつけて総合争い首位に立つレムコ・エヴェネプール

上れるスプリンターたちのバトルに飛び込んだログリッチは、最終的には区間9位で終えた。総合上位15選手は、全員先頭集団でフィニッシュへたどり着き、順位もタイムも一切変動はなかった。総合首位エヴェネプールも、前日の落車の影響を一切感じさせることなく、笑顔で8回目のマイヨ・ロホ表彰台に臨んだ。

「ラスト1kmは好位置で上手く上ることが出来た。チームがラスト3kmまで僕を連れて行ってくれたから、その後は自分でポジション取りを行った。シーズン序盤にファビオ(ヤコブセン)のために列車を引きつつ、やり方を学んだんだよ。おかげで集団内で、自分の通り道を、簡単に見つけることができた」(エヴェネプール)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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