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サイクル ロードレース コラム 2022年9月2日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第12ステージ】東京五輪金メダリストのリチャル・カラパスが歓喜のブエルタ区間初勝利「僕には勝てるはずだと分かっていた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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初のブエルタ区間勝利のカラパス

初のブエルタ区間勝利のカラパス

名アシストを失った翌日の、マイヨ・ロホの落車。幸いにも立場は揺るがなかった。レムコ・エヴェネプールは、ただひたすら、あらゆる敵に威厳ある背中を見せつけた。1年前の夏に東京で金色の栄光に輝いたリチャル・カラパスが、秋のスペインで、雪辱のステージ勝利を掴み取った。

「幸せを感じている。大志を抱いて大会に乗り込んできたけれど、状況に恵まれず、僕は総合での目標を叶えられなかった。だから今日はステージ優勝を狙いに行ったし、やり遂げることが出来て本当に嬉しい」(カラパス)

平地ステージなのに難関山頂フィニッシュ。いかにもブエルタらしい奇妙なコース設定は、大きな集団の逃げ切りを演出した。新型コロナウイルス陽性2人を含む3人が不出走となったこの日、スタート直後から無数のアタックが巻き起こった。走行距離も40kmを過ぎた頃、ついに大量32人が前方へと躍り出た。

すでに今大会ステージを制したジェイ・ヴァインにマルク・ソレル、さらには2019年ジロ総合覇者カラパスや2020年ジロ総合3位ウィルコ・ケルデルマンという、数々の強豪が肩を並べた逃げ集団には、全23チーム中、たったの3チームだけが乗り損ねた。中でもグルパマ・エフデジがなんとか逃げを回収しようと、必死の高速チェイスを挑んだ。

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しかし、むなしく差は広がっていくばかり。いつしかフランスチームは匙を投げた。自然とエヴェネプール擁するクイックステップ・アルファヴィニルが、制御権を引き継いだ。レミ・カヴァニャが黙々と先頭を引き、逃げには最大11分40秒もの大差を与えた。

「チームみんなが力強い仕事をしてくれた。特にレミは半分、いや、4分の3近くもプロトン最前列で働いた。彼には脱帽だ」(エヴェネプール)

かといってレムコは、完璧に安泰な1日を過ごせたわけではなかった。残り50km前後の下りカーブで、前から数人目を走っていたマイヨ・ロホは、単独で滑って転んだ。手袋をしていなかった右のてのひらからアスファルトに落ち、ジャージの太もも部分は大きく破れた。

「ちょっと脚を打っただけで、問題はない。僕よりむしろ自転車のほうが被害は大きかった。コーナーはすごく滑りやすかった上に、オートバイが滑って、減速した。だから僕はコーナーを内側に切り込もうと思ったら……ちょっとやりすぎた」(エヴェネプール)

急いでバイク交換したエヴェネプールは、難なく集団復帰を果たした。総合ライバルたちは、極めて紳士的に振る舞い、決して総合首位の不運につけ込むこともなかった。また32人の逃げに滑り込んでいたルイス・フェルヴァーケは、落車の報を受け、すぐにプロトンへと舞い戻った。平坦な道の終わりの、全長19kmの山道に差し掛かるまで、再びメイン集団はウルフパックの静かなる統制下に置かれた。

厳しい山岳をよじ登る選手たち

厳しい山岳をよじ登る選手たち

一方の逃げ集団は、かなり早い段階から、勝利への駆け引きを始めた。繰り広げられたのは個人戦ではなく、むしろチーム戦。なにしろ計10チームが、前線に複数選手を送り出していた。

一番に動いたのはアスタナ・プレミアテックだ。残り66km、同僚アレクセイ・ルツェンコを逃げに残し、サムエーレ・バティステッラが飛び出していった。囮役は約20kmも前方で突っ走った。ヴァインを含む3人が揃ったアルペシン・ドゥクーニンクが、吸収に向けせっせと働く羽目になった。

最終峠に入ると、2人で逃げたボーラ・ハンスグローエが仕事を開始する番だった。先頭集団内で総合最上位につけるケルデルマン(14分04秒遅れ)のために、マッテオ・ファッブロが凄まじい牽引を引き受けた。実に14km近くに渡って、懸命な作業は続けられた。ラスト5kmでファッブロが仕事を終えた時、先頭集団はすでに9人にまで小さくなっていた。

ここで真っ先にアタックを打ったのは、やはり2人で滑り込んだアルケア・サムシックのエリー・ジェベールだ。3人も前に送り込んだUAEチームエミレーツからは、ヤン・ポランツがカウンターを仕掛けた。さらに畳み掛けるポランツに、再度加速を切るジェベール。そして、残り3.2km、まさかのヴァインの脚が止まる。

「なにが起こったのかわからない。1日中良いワット数が出せていたのに、最後にそれが出せなかった。もしもコンピュータゲームだったら、ラスト5kmまではすべてがパーフェクトに進んだ。だけど、これは、コンピュータゲームではなかったんだ」(ヴァイン)

Eスポーツ世界チャンピオンにして、大会1週目に山頂フィニッシュを軽々と2度制したオージーは、最終的に区間7位に沈んだ。つまりトップ5に与えられる山頂ポイントさえ、手に入らなかった。山岳ジャージ自体はヴァインがいまだしっかり着込んでいるが、要危険人物ソレルに区間3位の4ポイントを収集されてしまった。ちなみにソレルは山岳賞3位に浮上しただけでなく、ポイント賞さえ2位に前進。当然ソレル&ポランツの逃げ切りで、UAEはチーム総合首位にも再浮上している。

ケルデルマン、ジェベール、ポランツ、やはり2人で逃げたDSMのマルコ・ブレンナーという4チームの4人を敵に回して、残り2km、しかし勝利へのアタックを決めたのはカラパスだった。32人の逃げ集団に、イネオス・グラナディアーズからたった1人で潜り込んだチャンピオンは、ただ一撃を正確にぶっぱなした。必死に後輪に張り付くも、ジェベールはすぐに力尽き、あっさり蹴落とされたケルデルマンには、自らのテンポで追いかける以外の選択肢はなかった。

ダンシングで山を登るカラパス

ダンシングで山を登るカラパス

「最後の瞬間を待ち続けた。残り2kmの段階で、ラスト1.8kmは、厳しい勾配が延々続くことを分かっていた。僕に残されたのは一手だけで、それを最大限に活かした」(カラパス)

鬼神のような表情で、何度も後ろを振り返った。トレードマークのがむしゃらなダンシングスタイルで、山道を突き進んだ。勝利を確信すると、力いっぱい拳を振り下ろした。3大ツールすべてで総合表彰台に乗り、ブエルタでもすでに5日間マイヨ・ロホ着用経験のあるカラパスにとって……意外にも、初めてのブエルタ区間勝利だった。

「本当に嬉しい。なにより、開幕時からずっと待ち望んできた好感触を取り戻せたことが、嬉しくてたまらない。今大会にはベストの体調で乗り込めなかったし、少々難しい時を過ごしてきた。だからステージ勝利に目標を切り替えた。僕には勝てるはずだと分かっていた」(カラパス)

逃げから遅れること10分。ようやく山へ登り始めたメイン集団では、総合上位勢もチーム単位でエヴェネプールを揺さぶりにかかった。総合2位プリモシュ・ログリッチは、ローハン・デニスやクリス・ハーパーに高速牽引を命じた。山道の中盤では、総合3位エンリク・マスが、カルロス・ヴェローナや、逃げていた2人の「前待ち組」に前を引かせた。

これまで最終峠を先導してきたジュリアン・アラフィリップは、たしかに前日の落車で帰宅を余儀なくされた。ただしウルフパックに死角はなかった。「ドリス・デヴェナインスが完璧なポジションで山に導いてくれた」し、フェルヴァーケは山で護衛を続けた。さらにはエースたちによる激戦が勃発するその瞬間まで、イラン・ファンウィルデルがレムコの側についていた。

そう、これまで3度の山頂フィニッシュはエヴェネプールの加速一発であっさり戦いは終了してきたけれど、この日のライバルたちは先制攻撃さえ試みた。残り6km前後ではマスが加速を切った。2日前の個人タイムトライアルで好調さを証明した総合7位ミゲルアンヘル・ロペスも、時に先頭を突っ走り、「地元っ子」の総合4位カルロス・ロドリゲスもアタックを打った。

マイヨ・ロホはまるで動じなかった。むしろ総合ライバルたちのあらゆる加速に、誰よりも早く反応した。落車の影響など一切感じさせなかった。

そして残り1.5km。とうとうライバルたちの攻撃の脚が止まると……エヴェネプールは毅然と先頭を引き始めた。2位ログリッチ、3位マス、4位ロドリゲス、5位フアン・アユソ、7位ロペスを後方に従えて、まさに真の王者として、山頂へとたどり着いた。

「最後の山は単についていくだけでいいのだと分かっていた。そしてラスト100mで全力を出した。まだ余力が残っていたからなんだ。調子の良さを感じられたことが、一番大切なこと」(エヴェネプール)

第6、8、9ステージに続き、4度目の難関山頂フィニッシュでも、エヴェネプールより先にラインを越えた直接的ライバルは存在しなかった。最後に爆発的なスプリントを仕掛けたレムコの背後で、マス、ログリッチ、アユソはかろうじて同タイムフィニッシュを成功させたが、ロペスは6秒、ロドリゲスは11秒を失った。

7枚目のマイヨ・ロホを手にしたレムコはもちろん、2位ログリッチ2分41秒差、3位マス3分03秒差は順位もタイム差も一切変動はなかった。また最後までエヴェネプールについていった4位ロドリゲス、5位アユソ、7位ロペスも、総合順位自体に変わりはない。ただ前日までの6位ジョアン・アルメイダが8位へと陥落し、代わりに大逃げ区間2位のケルデルマンが一気に6分28秒差の総合6位へと割り込んでいる。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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