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サイクル ロードレース コラム 2022年8月29日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第9ステージ】この世の春を謳歌する23歳エヴェネプール!総合2位以下に1分以上の差をこじあけ「ぼくは人生ですでにたくさんのことを乗り越えてきた」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ポディウムで笑顔を見せるレムコ・エヴェネプール

ポディウムで笑顔を見せるレムコ・エヴェネプール

ライバル全員を振り払った。凄まじい激坂でレムコ・エヴェネプールが高速走行に切り替えると、もはや誰ひとりとして追随は不可能だった。総合2位以下との差を1分12秒にこじ開け、マイヨ・ロホ姿で得意の個人タイムトライアルへを走る特権を守った。逃げ切りを許された前方集団では、ルイス・メインチェスが生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。

「ワールドツアー大会では、チーム総合を除いて、表彰台にさえ入ったことがないんだ。だから、キャリアを終える前にワールドツアー大会の表彰台に上るのは、僕にとっての大きな目標だった」(メインチェス)

プリモシュ・ログリッチのブエルタ3連覇+2度のグランツール総合表彰台をすべて補佐してきたセップ・クスが、発熱で大会を退き、レムコ・エヴェネプールのベテランアシスト、ピーター・セリーは新型コロナウイルス陽性で帰宅を余儀なくされた。182人で走り出した2022年ブエルタは、大会1週目の終わりに、すでに164人へと数を減らした。

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それでも熾烈な戦いは続く。この日もスタートから、激しい飛び出し合戦が延々と繰り広げられた。一旦はトーマス・デヘントを含む数人の逃げが決まりそうに思われたが……総合6分46秒遅れのリチャル・カラパスや6分33秒遅れのジェイ・ヴァインがブリッジを幾度も仕掛けると、クイックステップ・アルファヴィニルが猛スピードで回収に向かった。

山岳ジャージ姿のヴァインは、世界王者ジュリアン・アラフィリップが潰しに動いたことで、どうやら逃がしてはもらえないことは理解した。一方で山岳賞2位につけるマルク・ソレルは、執拗な飛び出しを止めなかった。だから今度はヴァインを支えるアルペシン・ドゥクーニンク勢が、前方で厳しい警戒態勢を敷く番だった。

約40kmの打ち合いの果てに、とうとう10選手が飛び出していった後でさえ、ヴァインとソレルの睨み合いは終わらなかった。集団は一列棒状に長く長く延びた。混沌を最終的に収めたのは、アレハンドロ・バルベルデだった。スタートから52km、ソレルが何度目かの飛び出しを企てると、42歳の長老は後輪にすかさず飛び乗った。自らが長年尽くしてきた元エースの、この象徴的な行動に、28歳ソレルはついに観念した。スタートから1時間以上たって、ようやくメイン集団に平穏な時間が訪れた。

「これまで2回の山頂フィニッシュでは、僕は総合エースたちについていけるだけの速さがなかった。だから、この方法で成績が出せないなら、最善策は逃げに乗ることだと考えた。今日は完璧に上手く行った。かなり幸運でもあった。チームはスタート直後から制御に動き、僕自身はたった1度のトライで、良い逃げに乗ることができた」(メインチェス)

ちなみにヴァインは前方の逃げ集団に、チームメート2人をきっちり送り込んだ。つまり前方ではロバート・スタナードとジミー・ヤンセンスが、コース上に5つ点在する山岳のうち序盤4つで、着実に山頂ワンツー通過を成し遂げた。おかげでソレルにポイントを取らせなかっただけでなく、アルペシン・ドゥクーニンクが山岳賞の1位から3位までを独占した。またヴァインは今ステージで大きくタイムを失い、総合では19分46秒遅れに後退したから……この先クイックステップに追いかけられる心配はないかもしれない。

「イージー」な逃げを先に行かせて、後方でレースを運ぶのが理想的。そうスタート前に語っていたエヴェネプールにとって、パーフェクトな状況が出来上がった。総合3分18秒遅れのテイメン・アレンスマンはたしかに要注意人物だったが……、飛び出した直後にチームの指示で後退した。また8分28秒遅れのメインチェスは、レムコ親衛隊にとって直近の危険ではなかった。9人の逃げには最大5分半のリードを与え、ウルフパックはただ黙々と集団制御に務めた。

「チームは完璧な仕事をしてくれた。真の紳士として、またしても責任を果たしてくれた。本当にチームの仕事に感銘を受けている。みんなが僕のために心を尽くして仕事をしてくれる姿に、ちょっと感動させられたほどだ」(エヴェネプール)

道の果てには3.9kmの壁が待ち構えていた。いまだ3分半の余裕を残していた逃げ集団からは、ヤンセンスとサムエーレ・バティステッラが真っ先に飛び込んだ。しかし、平均13%弱というひどい激勾配で、両者の勢いはあっという間に減退した。しかも後方からはメインチェスが、じわじわと距離を縮めてきた。

「逃げ集団内で僕はたくさん働く羽目になった。だから他の選手よりもエネルギーを消費していたし、十分な脚が残っているかどうか定かじゃなかった。でも最後の上りは本当に厳しいから、フィニッシュまでは単にタイムトライアル走になることは分かっていたんだ」(メインチェス)

淡々とペダルを回し続けたメインチェスは、残り2.6km、つまり勾配が23%に跳ね上がったゾーンの前後で、ついに前を行く2人をとらえ、追い抜いた。その後もひたすら激坂を孤独に耐え忍んだ。16分前後の壮絶な努力の終わりには、大きな栄光が待っていた。

ルイス・メインチェス

両手を広げてフィニッシュするルイス・メインチェス

この6月に実に7年ぶりの勝利を味わったメインチェスが、8月最後の日曜日、初めてのワールドツアー勝利を手に入れた。母国の南アフリカにとっては、ロバート・ハンター(1999年と2001年にそれぞれ区間1勝ずつ)に次ぐ、史上2人目のブエルタ区間覇者でもあった。ところで優勝インタビューでは「ワールドツアー大会の表彰台経験はない」と語っていたメインチェスだが、クリテリウム・デュ・ドーフィネの山頂フィニッシュで2度、区間3位の経験はある。

繰り返される上りも、トリッキーな下りも6人のアシストに手厚く守られ、最後は世界王者ジュリアン・アラフィリップの高速牽引に導かれ、エヴェネプールは最後の激坂に完璧なポジションで飛び込んだ。

「逃げを最後まで行かせる作戦だった。もしも自分が遅れた場合でも、ボーナスタイムを取られる心配がないから。つまり逃げはステージを争い、僕はタイムを争った」(エヴェネプール)

すなわち安全策を採用したレムコだが、実際のところ、心配などまるで無用だった。アラフィリップが15人ほどに小さくしたメイン集団は、難勾配であっという間に数人に減り、さらにはエヴェネプールがいつものように加速に転じると……いつものようにエンリク・マスとプリモシュ・ログリッチ、そしてフアン・アユソだけがしばらくもがいた。もちろん、いつものように、マスだけが最後まで粘った。しかし、抵抗は長くは続かなかった。残り3km、レムコは独走態勢に入った。

「今日のような上りは、とにかくパワーが求められる。ドラフティングはまったく効かない。だってあまりにも勾配がきつすぎるから」(エヴェネプール)

20%近い激勾配ゾーンでは、珍しくダンシングスタイルも披露した。しかし大部分の時間は、サドルの上にしっかりと座り、山岳タイムトライアルの要領で一定ペースを刻んだ。調子の良い時にできる限りタイムを稼ごう……マイヨ・ジョーヌ14日間の経験をアラフィリップからの助言に背中を押されるように、23歳エヴェネプールは脚に力を込めた。

凄まじい勢いで激坂を上るレムコ・エヴェネプール

凄まじい勢いで激坂を上るレムコ・エヴェネプール

「想像もできないと思うけど、ぼくは人生ですでにたくさんのことを乗り越えてきた。だからこそ僕は戦い続けられるし、苦しむこともできるんだ。この2年間で僕が経験してきたすべてが、僕を新しい人間へと生まれ変わらせてくれた」(エヴェネプール)

ボーナスタイムを潰すために逃げ切りを許したレムコは、自身もボーナスタイムは取れなかった。メインチェスから1分34秒遅れの区間4位で、山頂にたどり着いた。ただしすべてのライバルたちから、たっぷりタイムを頂いた。大会の祖国を興奮させたスペイントリオ、アユソを34秒(区間6位)、マスを44秒(8位)、カルロス・ロドリゲスを46秒(9位)突き放した。ディフェンディングチャンピオンのログリッチは、改めて52秒引き離した。

今大会も1週目を終えたばかりだと言うのに、もはやレムコまで総合1分以内の選手はいなくなった。総合2位マスは28秒差から1分12秒差に後退し、3位ログリッチの遅れも1分53秒に開いた。21歳ロドリゲスは4位2分33秒差、19歳アユソは5位2分36秒差にかろうじて踏みとどまっている。ちなみに第8ステージ終了時点で、エヴェネプールと総合10位との差は2分59秒だったが、この第9ステージ後に総合10位パヴェル・シヴァコフとの差は5分39秒にまで広がった。

「すべての選手からアドバンテージを奪えたことは本当に大きい。ブエルタはまだまだ終わりまで程遠い。だから今後も集中していかなきゃならないし、注意深く走らなければならない。でも、好ましい状況であることは、間違いない。なによりレッドジャージで休息日明けのタイムトライアルを走ることができる。夢みたいだ」(エヴェネプール)

自身4度目のマイヨ・ロホ表彰式を楽しんだエヴェネプールは、グランツール総合リーダーとしての初めての休息日を迎える。第10ステージの30.9km個人タイムトライアルを応援するために、ベルギーから家族も飛んでくる。現時点では向かうところ敵なし。この世の春を謳歌する。もちろん2022年ブエルタは、いまだ12ステージ残っている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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