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サイクル ロードレース コラム 2022年8月28日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第8ステージ】エヴェネプールがライバルをねじ伏せてマイヨ・ロホ堅守!2度目の難関山岳を制したジェイ・ヴァイン「今日はひたすら楽しんだんだ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ステージ2勝目のジェイ・ヴァイン

ステージ2勝目を掴んだジェイ・ヴァイン

今度こそ霧は晴れた。世界中がしっかりと瞳に焼き付けた。その軽やかで安定した登坂力も、山頂で突き上げられたガッツポーズも。ジェイ・ヴァインが2勝目を手に入れた背後では、レムコ・エヴェネプールが、頼もしいチーム力と強靭な脚とを改めて見せつけた。マイヨ・ロホの座は揺るがなかった。

「信じられない。1勝目のおかげで自分にすごく自信がついたし、逃げ集団内でも泰然としていられた。つまり、今日は、ひたすら楽しんだんだ」(ヴァイン)

クラシックとスプリントにおける統率力では、ウルフパックの右に出る者はいない。しかし、総合リーダーチームとしてのクイックステップ・アルファヴィニルに、果たして集団コントロール能力はあるのか。スタート直後にいきなり2級峠が立ちはだかるこの日、多くの関係者が、レースの動向を興味深く見守った。

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だからこそライバルチームは大胆な揺さぶりをかけた。数々のアタックに紛れて……総合6位から8位を占めるイネオス・グレナディアーズはリチャル・カラパスで、総合3位エンリク・マスを擁するモビスターはアレハンドロ・バルベルデで、飛び出しを仕掛けたのだ!

両者ともすでに3分近くタイムを失っているとはいえ、元グランツール覇者の危険人物を逃してはならない。レムコ親衛隊は猛スピードで引きずり下ろしに向かった。おかげで20人ほどの逃げができかけていたが、ただ2人……第5ステージ覇者マルク・ソレルと第7ステージ覇者ヴァインを除いて、一旦はすべてが回収された。

「かなり激しい追走が仕掛けられていたから、最初の山で、逃げ切れるかどうか分からないぞ、と考えた。だから最初の2つの山岳でポイントを狙おうと決めたんだ」(ヴァイン)

すでに2日前に11ポイントを手にしていたヴァインは、今ステージ全部で6つ組み込まれた山岳の、最初の1つ目を先頭で通過した。5ポイントを加算し、望み通り山岳賞首位に躍り出た。ちなみにこの時点で青玉ジャージを着ていたヴィクトル・ランゲロッティは、直後のテクニカルな下りで落車し……鎖骨骨折で大会を去ることになった。

その後ソレルの合流を経るも、たった2人きりになってしまった先頭グループは、続く谷間で再び10人にまで膨れ上がる。

まずは6選手が抜け出した。レイン・タラマエ、ルーカス・ハミルトン、アレクセイ・ルツェンコ、マッズ・ピーダスン、ブルーノ・アルミライルと共に、ミケル・ランダが紛れ込んでいたせいか、すぐにゴーサインは出なかった。ただし今ジロ総合3位はすでに総合で6分33秒遅れ。最終的には見逃された。

8人になった先頭集団との差が、1分に開いた頃、慌てたのがグルパマ・エフデジだ。すでにアルミライルが逃げていたにも関わらず、ティボー・ピノとセバスティアン・レイシェンバックがタンデムで追いかけ始めた。フランス個人TT王者アルミライルは、わざわざ後退して、クライマー2人を引っ張り上げねばならなかった。幸いにも追走は約13kmで実を結んだ。残り114km、2つ目の山に上り始める前に、無事に10人の逃げ集団が完成した。

カオスで始まったレースに、こうして秩序が戻ってきた。メイン集団の先頭では、クイックステップ8人全員が静かに隊列を組み上げた。逃げに決して4分半以上与えることもなかったが、かといって急速にタイム差を詰めることもなかった。

「谷間ですごく良い集団が出来上がった。グルパマが3人も入ったし、クイックステップはコントロールに終始していた。だから、この時点で、決めたんだ。よし、それほど苦労せずに山岳ポイントが取れそうなら、取りに行こう、とね」(ヴァイン)

決意通りに、ヴァインは着々と山岳ポイントを積み上げた。ピノやソレルも興味がないわけではなさそうだったが、かといって山頂スプリントを挑むこともなかった。結局ヴァインが6つすべての山岳を首位通過し、このステージだけで計29ポイントを収集。通算40ポイントで堂々たるキング・オブ・マウンテンの座に立つ。

こんな山だらけの1日に、ピーダスンだけはキング・オブ・スプリンターのジャージを追い求めた。前日チーム一丸となり猛烈に働いたのに、逃げを吸収することも、メイン集団内のスプリントを制することも出来なかった。ならば、逃げに乗って、念願を果たすまでだ。7月のツール第13ステージでは逃げて勝ったが、この日は、逃げて中間ポイントを取りに行った。5つの峠を先頭集団で耐えしのぎ……残り26kmの中間スプリントで、晴れて先頭20ポイント獲得。2日目からポイント賞を堅守してきたサム・ベネットを、5ポイント逆転し、147ポイントでマイヨ・ベルデをもぎ取った。

ポイント賞ジャージを着たピーダスン

ポイント賞ジャージを着たピーダスン

「あまり体力を使わずに1日を終える……というのが当初の予定だったんだけど、逃げが行き始めた時に、僕も行かない理由はないんじゃないかと考えた。だって20ポイント手に入れる最高の方法だったから」(ピーダスン)

もちろん先頭グループの大多数にとって、目標はその向こうにあった。ピーダスンは残り18kmで脚を緩めたが、残す9人は先を急いだ。特にアルミライルは最後まで献身的に働いた。「無線で指示された」通りチームメイト2人を逃げに導いた後は、集団が逃げ切れるよう、ピノができる限り体力を温存できるよう、「他の選手よりほんの少し多めに前を引いた」。残り14kmでついに力尽きるまで……。

ヴァインにとっても同じこと。たとえ2日前にプロ初勝利を手にしていたとはいえ、胸の中で、勝利への意欲はいまだに強く燃えていた。

「あくまでメインゴールは区間勝利だった。いわば僕には2つの目標があったんだ。しかも、たとえ1つは叶わなくとも、いつだって山岳ジャージのための走りに切り替えられることも分かっていた」(ヴァイン)

だからこそ余裕があったし、大胆にもなれた。残り10kmで最後の山に突入し、残り6.5kmでルツェンコが加速を切った時、ヴァインはためらわず後輪に飛び乗った。

「ついていこうと考えた。でも彼は加速を止めて、その後も他のアタックが起こる様子はなかった。だから決めたんだ。あそこからは25分程度の努力で、2日前にやったのとほぼ同じだったから、そのまま強度を保ち続けることにした」(ヴァイン)

すかさずピノは張り付いた。マイペースで上るのではなく、無理してでもついていこうと考えた。「さもなければ2度と追いつくのは不可能だと分かっていたから」。タラマエも後に続いた。しかし勾配10%を超える難ゾーンで、長くは抵抗しきれなかった。

「1分半の努力の後、後ろを振り返ったら、後輪には誰もいなかった。だから次のヘアピンカーブまで自分を追い込んだ。そのヘアピンで後ろを振り返ったら、やっぱり誰もいなかった」(ヴァイン)

ラスト6kmを、ヴァインは単独で駆け上がった。現Eスポーツ世界チャンピオンにとって、孤独な努力は慣れたものだ。かつてはMTB選手でもあったから、最終盤の悪路もへっちゃらだった。山頂に近づくにつれて辺りが真っ白になり(一時映像も途切れた)、またしても素敵なフィニッシュ写真が手に入らない恐れもあったけれど……、幸いにも山の上ではきれいに霧が晴れた。

今ブエルタ2度の難関山頂フィニッシュは、こうして2度ともヴァインの手に落ちた。しかも第6ステージの初登場ピノ・ハコに続いて、やはり初登場コリャウ・ファンクアヤの、記念すべきブエルタ史上最初の勝者となった。

ソレルが43秒差の2位に食い込み、必死で追い上げたタラマエが同タイム3位。チームメートたちの奮闘むなしく、ピノは47秒の4位で終えた。

クイックステップのチームメイト7人に大切に保護され、制御され、牽引されてきたエヴェネプールは、最後は自らがエースとしてライバルたちを引き剥がした。やはり2日前と同じように、23歳のマイヨ・ロホは、一切駆け引きなどしなかった。ただペダルを踏む脚に力を込めただけ。ただ先頭を毅然として突き進んだだけ。

フィニッシュにたどり着く頃には、もはやマスとプリモシュ・ログリッチしか後輪に残っていなかった。山頂直前でマスがアタックを試みると、王者は力づくで抜き返し、ライバルをねじ伏せた。

マイヨ・ロホを守ったレムコ・エヴェネプール

マイヨ・ロホを守ったレムコ・エヴェネプール

「スタート前の目標はタイムを失わないこと。チャンスがあればタイムを稼ぐこと。2人の主要ライバル以外からは、つまりタイムを稼ぐことができた。パーフェクトな1日だった」(エヴェネプール)

ヴァインの1分20秒後にフィニッシュしたレムコ・マス・ログラの3人は、そのまま総合上位3位の座を占める。第7ステージでもレムコに同伴したマスが28秒差の総合2位に浮上し、2日前は苦しんだが、この日は「強いプリモシュ」に返り咲いたログリッチは、1分01秒差の総合3位につける。

一方でカラパス作戦に失敗したイネオスは、前日まで総合6位につけていたパヴェル・シヴァコフが失速。エヴェネプールに対し2分以上のタイムを失い、総合12位に後退した。カルロス・ロドリゲスとテイオ・ゲイガンハートは、総合順位こそ4位と5位に繰り上がったものの、タイムはそれぞれ13秒と27秒を失っている。

2018年大会覇者サイモン・イェーツも何もできぬまま13秒後退し、19歳のフアン・アユソは2日前の好走を繰り返せぬまま、UAEエース格のジョアン・アルメイダと揃って50秒落とした。

これまでステージレースで総合9勝を手にしてきたが、最長レースは7日間……というエヴェネプールは、2022年ブエルタを8日目まで順調に終えた。すでに総合3位を1分以上突き放し、2分以内は5人、3分以内はもはや10人しか残っていない。ただし、1週間前の開幕時に、レムコが強く願っていたことは、いまだに叶えられていない。

「今日の調子にすごく満足している。しっかり回復できるよう願ってる。だって明日は再び最高にフレッシュな脚が必要だから。再びジャージを守りに行く。そして……ステージ優勝にだってトライするつもり」(エヴェネプール)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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