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サイクル ロードレース コラム 2022年8月25日

【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第5ステージ】マルク・ソレルが2年ぶりのブエルタ区間勝利!マイヨ・ロホは凄まじい駆け引きの果てにルディ・モラールの肩へ「いつだって信じることを止めてはならないんだ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ルディ・モラール

マイヨ・ロホをまとったルディ・モラール

5日目にして今大会初めての逃げ切り勝利が決まり、5日目にして今大会5回目のマイヨ・ロホ交代劇が行われた。秒単位の追い上げをぎりぎりで振り払い、マルク・ソレルが2年ぶりのブエルタ区間勝利を手に入れ、凄まじい駆け引きを切り抜け、ルディ・モラールが4年ぶりにブエルタ総合リーダーの座を射止めた。

「ツール・ド・フランスを途中リタイアした後、自分の真のレベルを証明したかった。だからこそ今日の勝利に心から興奮している」(ソレル)

スタートから70km走っても、いまだ逃げは許されなかった。大小いくつものアタックは、ことごとくハイスピードで回収された。気温30度を超える灼熱の中で、時速50kmを超えるすさまじい駆け引きは、1時間半も続けられた。

9選手のアタックがきっかけとなり、74km地点で、ようやく扉がこじ開けられた。そこに数人が追いついた。さらに数選手がブリッジを試みた。じわり、じわりと距離は開いていく。とうとう17人の逃げ集団ができあがった。朝のミーティングで「僕がマイヨ・ロホを取る可能性がある」とチームメートに宣言していた58秒遅れのモラールが、いつしか暫定マイヨ・ロホに立ち、「むしろ区間勝利を考えていた」という総合1分02秒遅れのフレッド・ライトも、前線で勢力的な走りを見せた。

急速に減速していくメイン集団内で、ただ1人だけ、諦めの悪い男がいた。マルク・ソレルだ。

「逃げたかった。逃げ集団が遠ざかっていき、僕はそこに入れなかったんだけど……どうしても行きたかったんだ。監督から登りでトライするよう声をかけられた」(ソレル)

前方との差はすでに2分近かった。それでも……3級山岳への上りを利用して、残り95km、思い切って飛び出した。上って下って上って。長年モビスターで「次代のエース」と期待されてきた28歳は、10kmほどの孤独な追走の果てに、無事に先頭グループへの合流を成功させた。

つまりソレルを加えて18人になった逃げ集団は、その後しばらくは、ヴィクトル・ランゲロッティの山岳ポイント収集で活気づいた。

チームメイトのコロナ陽性の影響で、開幕ギリギリに生まれて初めてのグランツールに招集された27歳は、まずは序盤3つの3級山岳できっちり首位通過を果たす。その後も脚を緩めなかった。約10日前にポルトガルで手に入れたプロ初勝利の勢いに乗って、強力な粘りを発揮。残す2つの2級峠でも、それぞれ2位通過と3位通過をさらい取り、大量13ポイントを積み重ねた。

ところでプロトン内にモナコ在住選手は数多く存在するけれど、正真正銘モナコで生まれ育ったプロ選手は、現役ではランゲロッティただ1人。それどころかモナコにとってはなんと約100年ぶりのプロ選手だそうでーーツール・ド・フランス参加は史上2人で、最後の出走選手は1926年ーー、このモナコ自転車連盟会長の息子は、母国の自転車界にとって記録的快挙を成し遂げたことになる。

「信じられない。開幕2日前までブエルタを走る予定じゃなかったのに、今日は逃げに乗って、1日中楽しんで、今はこうして山岳ジャージを着ている」(ランゲロッティ)

ステージ終盤に2回組み込まれた2級山岳ビベロに入ると、焦点は、いよいよステージ優勝とマイヨ・ロホ争いへと切り替わる。

どうやらユンボ・ヴィスマは、4日間着回してきた赤いジャージを、一旦手放すことに決めたようだった。逃げ集団にはあっさり5分半近いタイム差を与えた。ただ2級峠の接近と共に、他の総合系チームたちは、こぞって前線で隊列を走らせた。自ずと走行スピードは上がっていき……差が3分半ほどにまで縮んだ時点で、ユンボ・ヴィスマが主導権を奪還。プロトンに秩序を強いた。最終的にステージ勝者から5分09秒遅れで、総合本命たちは静かに1日を終えている。

おかげで前方の逃げ選手たちは、後方を気にすることなく、ラスト50kmに渡って壮大なる駆け引きを繰り広げることになる。1回目のビベロ登坂で、真っ先に加速を切ったのはソレルであり、真っ先に抜け出したのはローソン・クラドックだった。熱狂しきったバスクファンに埋め尽くされた道を、単独で山頂まで上り詰めた。

ただ平均勾配8%の急坂は、上り距離は4.6kmとそれほど長くはなく、むしろ下りとその先の平坦が長いのだ。いつしか、後方から、逃げのライバルたちが次々と追いついてきた。先頭グループは再び12人までに膨れ上がった。「100%ルディのため」と心に決め、献身的に牽引役を務めてきたモラールの同僚ジェイク・スチュワートが、改めて最前列で熱心な作業に乗り出した。

このスチュワートは、一時は先行作戦さえ敢行した。残り23kmで単独アタックを打つと、後続に最大50秒近いリードをつけ、そのまま2回目のビベロ登坂へと突入した。すべては後続のモラールが「体力温存」しつつ「単に周りの動きに反応すれば良い」状況を創り出すため。「できる限り先頭集団で山を越える」ためでもあった。というのも、もしもスプリントにもつれ込んだ場合には、同じ年(1999年)に同じ国(イギリス)に生まれ、ジュニアでもアンダーでも何度も代表チームで共に責任を分け合ってきたライト相手に、スプリント勝負を挑む責任さえ託されていたからだ。

アタックを仕掛けるソレル

アタックを仕掛けたソレル

残り16.5km。山の中腹で、ソレルが勝利へのアタックを決めた。必死で先行するスチュワートはあっさり追い抜かれた。かといって残りのライバルたちは、大きく突き放されたわけではなかった。後輪にモラールがぴたり張り付いているのも構わず、ライトが毅然と前を引いたからであり、山岳ポイントのためにランゲロッティが熱心に追走を続けたからでもあった。残り14.2kmの山頂で、ソレルのリードはわずか12秒程度に過ぎなかった。

ちなみに2回目のビベロ山頂には、ボーナスタイムが設置されていた。ここで「平地では劣るが、登りなら優れる」モラールがまんまと2位2秒を収集。ライトとの総合タイム差を4秒から6秒へと開いた。

山頂を越えてからも、ソレルと後続による、秒単位の追いかけっこは続いた。2018年パリ〜ニースは最終日の下りを利用して逆転総合優勝をさらい、2年前のブエルタ初区間勝利もまた下りフィニッシュだったというソレルだが、ゆるやかなこの日のダウンヒルでは、逆にじりじりと差をつめられていく。残り10kmで10秒、5kmで7秒。

ソレルにとって幸いなことに……モラールにとっても幸いなことに、追いかける側の、足並みは揃わなかった。残り8kmでスチュワートが両脚痙攣で脱落していくと、モラールは「ソレルに追いつかないことこそが最善策」と、完全に腹をくくっている。また追走集団はいつしか10人にまで人数を回復したが、そこにスプリント巧者のダリル・インピーとニキアス・アルントが紛れ込んでいたものだから、もはや誰も前を引きたがらなかったし、モラールは「スプリントでライトを潰してくれたら好都合」と考えた。

「ひたすらライトに張り付いていった。でもライトがスプリントに強いことは知っていたから、最終盤は少し怖かった。最後までストレスでいっぱいだった」(モラール)

フィニッシュラインまで赤ジャージ争いのサスペンスが続いたのだとしたら、残り500m、ソレルは「最後のロータリー」でついに勝利を確信する。歓喜の瞬間が訪れた。ツール第16ステージを体調不良で制限時間内にフィニッシュできなかった屈辱を、地元スペインで、最高の形で払拭することができた。なにより2020年ブエルタ第6ステージ以来、グランツールのステージ優勝から遠ざかってきたスペイン自転車界に、2年ぶりの栄光をもたらした。

おしゃぶりポーズのマルク・ソレル

おしゃぶりポーズのマルク・ソレル

ソレルの「おしゃぶり」ジェスチャーのわずか4秒後に、後続の10選手がフィニッシュラインへとなだれ込んだ。モラールの望み通りインピーが2位(=ボーナスタイム6秒)に入り、ライトは3位に飛び込んだものの、ボーナスタイム4秒収集に留まった。つまりスタート時点で4秒あった両者の差は、山頂で6秒に広がり、フィニッシュ後にはいまだ2秒残っていた。チームワークと執念とで、モラールがマイヨ・ロホ着用権利を勝ち取った。

「1年前の僕は、ひどい落車事故で、途中棄権を余儀なくされた。本来の調子を取り戻せるかどうかすら分からなかった。昨冬は苦しかった。9週間以上も運動できなかった。しかも1月にコロナに罹患し、症状はかなり重かった。レースにようやく出られたのは3月末。そして、今、こうしてグランツールの総合リーダーに立っている……。いつだって信じることを止めてはならないんだ」(モラール)

2018年大会もまた第5ステージで総合首位に立ったモラールは、その後4日間に渡って赤い日々を満喫している。今年は果たして何日守り通せるだろうか。マイヨ・ロホこそ逃したものの、代わりに純白の新人ジャージを与えられたライトは、2秒差でぴたりとつけている。また首位から5位に後退したプリモシュ・ログリッチに対するリードは4分09秒。今大会最初の難関山頂フィニッシュは、早くも翌日に迫っている。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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