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【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第4ステージ】ディフェンディングチャンピオンのログリッチがブエルタ4連覇に向けて強さを証明「ブエルタはまだ始まったばかり」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかブエルタのステージ10勝目を掴んだログリッチ
ユンボ・ヴィスマ内で着回してきた総合リーダージャージが、ついにエースの肩にまとわれた。今大会初の上り坂フィニッシュで、プリモシュ・ログリッチが軽々と区間勝利をさらい取り、マイヨ・ロホを手に入れた。開幕直前には出場さえ不安視されていたディフェンディングチャンピオンは、空前絶後のブエルタ4連覇へ向け、早くも好調さの証明を済ませた。
「計画では今日は僕がジャージを着る番だった。最後はステージ勝利を争いに行くチャンスさえ舞い込んだ。幸運にも、僕は、成功を引き寄せた」(ログリッチ)
起伏とレペッチョ(激坂)が待ち遠しかった。オランダでの平坦な3日間を終え、スタートリストから3人少ない180選手が、大会の母国スペインで暑くて熱い戦いへと勇んで走り出した。いよいよ本物のブエルタが始まった。
凄まじく「速い」戦いでもあった。スタート直後に実力者揃いの6選手が逃げ出したせいであり、メイン集団が猛烈に追い上げたせいでもあった。後のステージ勝者が「1日中猛スピードだった」と語り、ステージ大本命と謳われていたジュリアン・アラフィリップが「これほど速いステージは滅多に戦ったことがない」と振り返ったほどに。
前方ではアレクセイ・ルツェンコがすぐさま「暫定」マイヨ・ロホの座に立った。来季のワールドツアー残留に黄信号が灯るロット・スーダルとイスラエル・プレミアテックからは、ジャラッド・ドリズナーズとアレッサンドロ・デマルキが飛び出した。チーム内に山岳ジャージを留めおきたいジェームズ・ショーに、第3ステージに続いて逃げたアンデル・オカミカ。なによりバレンシア生まれながら、地元バスクチームのエウスカルテル・エウスカディを輝かせるために、ジョアン・ボウも前方で奮闘を続けた。
そのボウが、ステージ中盤の2級峠で、先頭通過のスプリントを制した。一気に5ポイントを収集し、オランダで2日間逃げたジュリアス・ファンデンベルフの3ポイントを逆転。NIPPO・ヴィーニファンティーニ所属時代の2019年にはツール・ド・北海道で山岳賞を持ち帰ったボウが、区間終了後に青玉ジャージを身にまとった。
残念ながら6人の先頭集団は、最大3分程度の余裕しか許されなかったし、逃げ切り勝利を争うこともなかった。「責任を回避するために、もしかしたら逃げにジャージを譲るかも……」とパヴェル・シヴァコフが思い描いたような展開とは、つまり程遠かった。
たしかにロベルト・ヘーシンク、マイク・テウニッセンに続いて、3人目のエドアルド・アッフィニが赤ジャージを着ていたユンボ・ヴィスマは、常に集団前線で隊列を組んでいた。ただし、高速化のきっかけをつくったのは、むしろボーラ・ハンスグローエのほうだ。2日連続で大集団スプリントを制し、緑ジャージをしっかり着込んだサム・ベネット擁する同チームは、序盤から勢力的な牽引作業に乗り出した。目的は残り34.2kmの中間ポイントで、ベネットにポイントを収集させること。2級峠を過ぎ、道が起伏を増すと、さらに作業人員を増加。追走スピードも上げた。
ボーラの健闘むなしく、肝心の中間ポイントの前に、残り3人になっていた逃げをすべて回収することは不可能だった。わずか数百メートル足りなかった。しかもマッズ・ピーダスンに、メイン集団先頭通過=4位通過さえ横取りされた。直後にスローパンクで後退を余儀なくされるベネットはーーおそらく中間前から悩まされていたーー、5位通過10ポイント収集で満足するしかなかった。それでも車輪交換を終え、そのままアシストたちと揃って静かに後方で1日を終えたベネットは、無事にマイヨ・ベルデを守っている。
もちろんライバルのピーダスンも、やはりこの日の目標は、「グリーンジャージ用のポイントを最大限に取りに行くこと」だったという。ただベネットと違ったのは、中間収集だけでなく、むしろフィニッシュで「ポイント圏内(15位以内)」を狙っていたこと。最終的には総合系クライマーたちと堂々渡り合った上に、区間2位の25ポイントを収集してしまった上に、通算でベネットを9ポイント差にまで追い詰めることになる。だからこそ、フィニッシュへ向けた下準備として、残り14.5kmの3級山岳へ向けトレック・セガフレードは先頭でテンポを刻んだ。すべては序盤の激勾配ゾーンを「生き残る」ためだった。
熱烈なファンに後押しされながら坂を上っていく
この3級山岳で、総合を巡る争いも本格化する。第2、3ステージは中間ポイントにボーナスタイムが設定されていたが、この4日目は3級山岳の山頂に、3秒、2秒、1秒のご褒美がかけられていたせいでもあった。山頂間際でアラフィリップがアタックを打つと、すかさずログリッチ本人が動いた。仲間たちが大切に引き継いできた総合リーダージャージを、チーム内に確実に留め置くために、エース自らがカウンターを仕掛けた。おかげで首位通過=3秒をまんまと成功させると、暫定マイヨ・ロホにあっさり躍り出た。
クレイジーな加速合戦はますます加熱していく。「今日はアラフィリップでステージを勝ちに行く」と決めていたレムコ・エヴェネプールが、ヘアピンカーブがいくつも待ち受ける下りを、弾丸のように駆け下りた。下り切った先ではアスタナ・カザクスタンチームが波状攻撃を仕掛けた。イネオス・グレナディアーズが激しく最前列を争い、残り1kmのアーチは、モビスター隊列が3人先頭でくぐり抜けた。
あらゆる総合エースたちが前へ前へと押し寄せ、小さな加速が続発し、目まぐるしく先頭の顔ぶれは変わった。ひたすらトレックだけが、状況を最後まで制御しようと試みた。かつて魔の山アングリルを制した「ピュアクライマー」ケニー・エリッソンドが、勾配が急激に上がるラスト500m、満を持して最前列に立つと、先頭集団に残る唯一の「スプリンター」ピーダスンを後輪に従えスピード上げた。
ひどいカオスの中、ログリッチは決してポジションを失わなかった。ラスト1kmからは、たった1人で、果敢に前方へと競り上がった。線の細いエンリク・マスが、たくましいピーダスンに当たり負けした一方で、そのピーダスンの後輪でじっと動向を見守っていたログリッチは、ラスト200m、最終コーナーの内側を大胆に突いた。そして、そのまますべてを後方へと振り払うと、フィニッシュラインをいの一番にさらい取った。
ツール・ド・フランス第5ステージで落車し、椎骨骨折の痛みに耐え続け、ついには第17ステージの朝に帰宅を余儀なくされたログリッチは、スタート前は「一番の目標は落車しないこと」と繰り返していた。望み通り無傷で抜け出した1日の終わりに、嬉しい自身10回目のブエルタステージ優勝が手に入った。予定通りに通算37枚目のマイヨ・ロホも身にまとったし、なにより山頂ボーナス3秒にフィニッシュボーナス10秒も付け加えた。
総合2位には同タイムフィニッシュのチームメート、セップ・クスが13秒差につける。初日チームタイムトライアル2位につけたイネオスの面々に対するリードは、自動的に13秒から26秒に広がった。エヴェネプールは総合順位こそ14位から6位へと浮上したが、やはり遅れは14秒から27秒に開いている。
「ボーナスタイムの差は気にしていない。もちろん僕だってボーナスがほしかったけれど、むしろタイム損失を最小限に留められたことが重要だ。だって僕のすぐ背後で分断が起こった。今日のようなスピードの速いフィニッシュではこういった危険が潜んでいる。それを避けられたことだけでも、今日の作戦は成功さ」(エヴェネプール)
そう、区間13位以下は、集団の分断があったとして7秒差が記録された。つまり区間3位マス、5位シヴァコフ、6位ベン・オコナー、8位エヴェネプール、9位ウィルコ・ケルデルマン、10位ジャイ・ヒンドレー、11位タオ・ゲイガンハートを除くあらゆる総合エースたちが、ログリッチに対して13秒+7秒=20秒を失ったことになる。
レース後にクールダウンするログリッチ
「ブエルタはまだ始まったばかり。そりゃあ10秒遅れより10秒リードのほうがいいに決まってるけどね。最終目標はあくまでもマドリードで表彰台の最上段に立つことなんだ」(ログリッチ)
ユンボ・ヴィスマの意図的なジャージ交代劇だったとは言え、大会序盤4日間で総合首位が毎日入れ替わったのは、2016年大会以来6年ぶり。この先は腰を落ち着けて、第21ステージまで同じ人物でマイヨ・ロホを守るのか。それとも5日目以降も新たな赤ジャージの持ち主が誕生するのか。たとえば昨2021年大会のログリッチは、自らの意思で、ジャージを2度手放している。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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