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【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第3ステージ】サム・ベネットが2日連続のスプリント勝利 ここからはNo.1スプリンターであることを証明する戦いへ「プントスを目指すべきか本気で検討しようと思う」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介早くも今大会2勝目をあげたサム・ベネット
すっかり自信を取り戻した。昨年の膝の故障に起因し、なかなかスプリントの感覚が戻らないままシーズンを送ってきたが、もう大丈夫だ。ブエルタ・ア・エスパーニャ第3ステージも前日に続いて集団スプリントでの優勝争いになり、サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)が連勝。ダニー・ファンポッペルとのホットラインも機能し、自分たちでさえも驚くほど快調にレースを進めている。
「ダニーはいつだって最高の位置へ引き上げてくれるから、僕は最後の仕上げをするだけで十分なんだ。失敗するときはたいてい僕がミスしたとき。でも昨日も今日も、仕事はうまくいったよ」(サム・ベネット)
開幕地オランダでの最終日。第2ステージと同様に、平坦ステージが用意された。ここを逃してしまうと、この先しばらくはスプリンターの出番はない。まだ2ステージしか終えていないし、百戦錬磨の選手たちにとっては脚の状態は問題ないはず。前日同様、フィニッシュ前でのハイレベルな戦いが期待された。
レースは、7人の逃げをメイン集団が常時射程圏内に捉えながら進んだ。逃げグループには、“ブレイクアウェイ・マエストロ”のトーマス・デヘント(ロット・スーダル)が乗り込んだが、レースをかき乱すには集団とのタイム差が足りない。残り50kmを前にその差が1分を切ると、集団がキャッチするのは時間の問題に。それこそデヘントの判断は早く、他選手に前を任せて集団へと戻ってしまった。
ただ、他の逃げメンバーの中にはただただ泳がされて終わるのを嫌う選手も存在した。ジュリアス・ファンデンベルフ(EFエデュケーション・イージーポスト)は前日ゲットしたモンターニャをキープしたかったし、UCIプロチーム勢も限られた状況下でアピールに力を注ぐ。結局集団に飲み込まれてしまったが、それでも残り11kmまでは粘った。
最後の10kmは、いつもの平坦ステージの光景。各チームが隊列を編成してのポジション争い。リーダーチームのユンボ・ヴィスマは、マイヨ・ロホを着るマイク・テウニッセン自ら牽引。前日のステージではスプリントにトライしてチーム最上位となったことから、レースリーダーの座を引き継いだが、その席はまた別のメンバーに譲るということか。そんな見方をしているうちに、アルペシン・ドゥクーニンク、バーレーン・ヴィクトリアス、チーム バイクエクスチェンジ・ジェイコと、スプリントを狙うチームが続々と前線を固め始めた。
迎えた最終局面。残り850mでやってきた最後のコーナーは、「このコーナーを良い位置でクリアできれば勝てる」とスタート前に話していたパスカル・アッカーマン(UAEチームエミレーツ)が、フアン・モラノの引きで狙い通り絶好のポジションで通過。そこまでは良かったが、肝心のアッカーマン自身の加速が足りない。それをよそに、逆サイドから上がってきたのは、ファンポッペルとベネットのボーラ・ハンスグローエコンビ。フィニッシュ前150mまで辛抱したプントスは、スプリントラインを確保すると猛スパート。横からはマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)とダニエル・マクレー(チーム アルケア・サムシック)が迫ったが、半車身差をつけて2連勝のフィニッシュへと飛び込んだ。
仲間と抱き合って喜ぶベネット
「いやぁ、もう脚がいっぱいで...。コーナーのたびに加速するような状況が続いたから、最後は脚の感覚がなくなっていたんだ。正直、スプリントができるかは半信半疑だった。もう最後の直線は必死さ。何とか勝てて良かったよ」(ベネット)
2年前のツール・ド・フランスでポイント賞を獲得し、昨年は“2連覇”を目指すと公言しながら、膝の故障がきっかけで本番には臨めなかった。挙句、当時所属していたドゥクーニンク・クイックステップ(現クイックステップ・アルファヴィニル)の首脳陣との確執までささやかれた。望んで古巣であるボーラ・ハンスグローへに戻った今季、本人にはどこか「もう大丈夫」という意識があったようだが、シーズン前半は1勝にとどまった。なかなかチーム内での信頼を勝ち取れず、ブエルタ出場もギリギリでようやく決まったほど。そんな苦難を乗り越えて、アイリッシュスプリンターの健在を、そして完全復活をアピールする2連勝を演じてみせた。
きっと、今度こそ「もう大丈夫」。それを決定づける要素を、ベネット本人が見つけた。
「スプリントジャージ(プントス)がほしい。まだまだ道のりは長いし、この先何が起こるか分からない。でも、狙うべきか本気で検討しようと思っているんだ」(ベネット)
ここから先のステージは上りが厳しいものばかりだが、中間スプリントにフォーカスすれば何とかなりそうなところがいくつもある。ポイント収集の効率的な方法は、2年前のツールで心得た。プントス争いはいまのところ、ベネットと2位のピーダスンとは37点差。3位以下とは80点以上の開きがあるから、当面は慌てずとも、ジャージキープの方法を模索していけそうだ。
さて、リーダーチームのユンボ・ヴィスマでは、“マイヨ・ロホ・リレー”が進行中。第1走者ロベルト・ヘーシンク、第2走者テウニッセンに続き、第3走者はエドアルド・アッフィニが務めることになった。
エドアルド・アッフィニ
「オランダのチームが自分たちの国でグランツールのリーダージャージを着るんだからね。これほど特別なことはないよ。僕がマイヨ・ロホを着ることについては、ロベルト(ヘーシンク)とマイク(テウニッセン)が決めてくれたんだ。本当にありがたい。すべては第1ステージのチームTTで勝ったからなんだよね」(エドアルド・アッフィニ)
スペインへと渡れば、スーパーエースのプリモシュ・ログリッチのために従事する日々が待ち受ける。その前に、これ以上ないモチベーションをアシスト陣で共有し合う。強いチームの、強い結束力たる所以は、こんなところからも垣間見られるのである。
いよいよ、第4ステージからは本来の舞台であるスペインへ移る。そこからは、ブエルタらしい起伏に富むコースが次々とやってくる。数日も走れば、マイヨ・ロホ争いの形勢が見えていることだろう。
とその前に、オランダからスペインへの大移動。第3ステージ終了後には、バイクや機材がメカニックら一部スタッフの手によって一足先に情熱の国へと出発した。それを追うように、選手たちも8月22日のうちに移動を完了させる。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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