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【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第2ステージ】疲れがない状態で試される最速勝負「自分のパターンをものにした」ベネットの勝利
サイクルロードレースレポート by 滝沢 佳奈子再びグランツールのステージ勝利を掴んだサム・ベネット
ただただ続く平坦に、よほど“山岳”とは言えないおまけのような4級山岳を付け足した175.1kmで争われたブエルタ・ア・エスパーニャ2日目のスプリントステージ。テクニカルなコーナーが続くラスト数kmで次々に先頭が入れ替わり、残り1.5kmでは混沌に飲み込まれ、単騎の者はスプリント隊列から弾かれた。そして、枚数を残したトレック・セガフレードとボーラ・ハンスグローエがせめぎ合う中でフィニッシュを迎えた。
ラスト500mで先頭を走ったアレックス・キルシュの後ろから最初にスプリントをかけたのはマッズ・ピーダスンだった。
「最後はかなりテクニカルだったが、アレックスは僕をトラブルに巻き込まないように、本当によく頑張ってくれた。基本的には彼の後輪についていき、タイミングを見計らってスプリントをかけるだけだった」(マッズ・ピーダスン)
ブエルタではこれまで合計3勝を挙げていたボーラのスプリンター、サム・ベネットだったが、グランツールでの最後の勝利を挙げてから2年が経とうとしていた。ベネットは今回のスプリントステージを前にこう語っていた。
「今日のスプリントは楽しみだ。ここには強いスプリンターが何人かいるから、可能な限り最高の結果を出せるように頑張るよ。この週末に優勝して良いスタートを切り、残りのレースに向けて士気を高められれば本当に嬉しい。ローマ、シャンゼリゼを勝ったけど、まだマドリードが残っている。マドリードでは2位を2回獲得しているから優勝できれば最高なんだけど。まずはそこに到達しなければ」(サム・ベネット)
誰もが初日、チームTTのたった23.3kmを走っただけのまだフレッシュな状態。
フィニッシュのわずか16.8km前に設定されたスプリントポイントを取りに行ったピーダスンに対して、ベネットはフィニッシュに集中した。そしてピーダスンよりも後に、チームメイトの背中から発射したベネットのスプリント力は、発射台となったダニー・ファンホッペルに「これまでに見てきたような力が十分にある」と感じさせるに値するものだった。
ベネットは再びグランツールの勝者へと舞い戻った。
オランダ・ユトレヒトでのチームTTから開幕した2022年のブエルタ。8月20日、オランダでの2日目はスヘルトーヘンボスからユトレヒトへと向かう“ド”のつくほどの平坦ステージが設定された。
初日を終え、母国オランダでのマイヨ・ロホ獲得をチームメイトと喜んだロベルト・ヘーシンクだったが、現地時間でおよそ20時半と遅い時間にレースを走り終えてからセレモニーなどに追われていると、楽しい夜は束の間の時間となってしまっていた。
それでも、第2ステージのスタート地点では熱狂的にヘーシンクの名を呼ぶファンは多く、母国での初めてのリーダージャージ着用に「まるで夢が実現したようだった」とヘーシンクは言った。だがしかし、チームの目的はあくまでプリモシュ・ログリッチの総合優勝であると割り切りもした。
なお、チームTTでマイヨ・ロホを獲得してから第2ステージ以降も赤いジャージをキープし続けることができたのは2012年のヨナタン・カストロビエホまで遡る。また、これまでに三度、第2ステージで同一チーム内での総合リーダージャージの移動が起こっている。
スタート地点となったスヘルトーヘンボスは、女子選手のマリアンヌ・フォスの生まれ故郷としても知られており、スタートの時間が近づくと各賞リーダージャージと過去のブエルタ総合優勝者であるアレハンドロ・バルベルデらが先頭に並び、パレードスタートを切った。
ロードレース初日のフレッシュな集団からの逃げは、なんと1アタックですんなりと決まった。
たった2kmでEFエデュケーション・イージーポストのジュリアス・ファンデンベルフ、ブルゴスBHのイェツセ・ボル、エウスカルテル・エウスカディのシャビエル・アスパレン、チームアルケア・サムシックのティボー・ゲルナレックの4名にこの日が22歳の誕生日だったエキポ・ケルンファルマのパウ・ミケルが合流し、5名の逃げが許容されると、集団は一気にスピードを緩めた。
タイム差が5分に広がり、10kmほど進んだところでアルペシン・ドゥクーニンクがティム・メルリールのスプリントのために集団牽引にメンバーを送った。
ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスとグランツール全てでのステージ勝利まで王手をかけ、このステージでの優勝候補にも挙げられたメルリールは自信に満ちていた。
「全てのグランツールでステージ優勝するためには、やはりここで勝つ必要がある。プレッシャーは感じないけど、優勝候補の一人だと言われるのは嬉しいね。たくさんのスプリンターがいて、いつものように慌ただしくなると思うよ。スプリントを思い通りに走れることを願うばかりだ」(ティム・メルリール)
マイケル・ウッズで総合を狙うイスラエル・プレミアテックもまた、アルペシン・ドゥクーニンクほどは積極的ではないものの、集団前方にて存在を見せつけていた。
イスラエルチャンピオンのイタマル・アインホルンは、ステージでの勝利にも意欲を見せる。
「2回目のブエルタで、自分がどこに向かっているのか、結果を残せるのか、ステージ優勝できるのか、分かっているつもりだ。今年はマイケル・ウッズのGCでの目標もあるので、自分自身でどうにかする必要がある。最後は自分自身を頼りにし、トレインを使うか、スプリントを狙うか、正しい判断をしなければならない」(イタマル・アインホルン)
アルペシン・ドゥクーニンクが本格的に集団を牽引し始めるとタイム差は2分台まで一気に縮まった。
町を抜けた先では強風も事前に予測されていたが、集団を破壊するほどの威力は持たず、結果だけ見れば逃げと集団とのタイム差を少し動かす程度だった。
残り100kmを過ぎたあたりで集団は、逃げグループを目視できる範囲に入れたもののスピードが緩み、またタイム差を開いていく。
いつでも捕まえられる状況に置かれた5名のアタッカーたちは、逃げ切るのが難しい展開の中、残り72.1kmから始まる地点に設定された距離2.1km、平均勾配2.4%の唯一の4級山岳でせめて翌日に着る山岳賞ジャージに狙いを定めた。
ゲルナレックが残り74.5km地点で逃げ集団からアタック。余裕を持って追いついたのはファンデンベルフのみだった。しかし、4級山岳に突入した段階で逃げ集団は再び5名に。それでもポイント前での争いはやはり脚のあるゲルナレックとファンデンベルフに絞られ、ファンデンベルフがわずか先着し、翌日の山岳ジャージ着用を決めた。
山岳ポイント通過後もそのまま5名で先行し続けたが、ラスト58.5kmを残して、逃げは集団に吸収された。
残り46km地点では、エウスカルテル・エウスカディのベテラン選手ルイス・マテが単騎で飛び出し、脅威ではないとみなされたか数kmでタイム差は40秒ほどまで開いた。
集団は相変わらずアルペシン・ドゥクーニンクが引き、その後ろにはリーダージャージ、山岳ジャージ、スプリントジャージの全てを持つユンボ・ヴィスマが隊列を組む。
ラスト27kmを過ぎ、集団を引き続けたアルペシン・ドゥクーニンクのフロリス・デティエが仕事を終えると、先頭には、ユンボ・ヴィスマ、イスラエル・プレミアテックやボーラ・ハンスグローエが位置取りを始めた。気づけばマテとのタイム差も10秒台に縮まり、ラスト21kmで集団はまた一つとなった。
集団ではバーレーン・ヴィクトリアスなども先頭で位置取りを行い、途中、バーレーンやロット・スーダルの選手の落車も発生。
フィニッシュまで残り16.8kmのスプリントポイントに向けて広い道幅を走る一塊の集団先頭はローハン・デニスやアドアルド・アッフィニなどTT巧者たちで固められたが、その二人の隊列に競る形でマッズ・ピーダスンが先頭に出て、スプリントポイントを1位通過した。
マッズ・ピーダスンは惜しくもベネットに競り負けた
フィニッシュに向けてのレイアウトはコーナーが続いた。
「スプリンターがいないけど、集中しなければならないことに変わりはない」と世界王者のジュリアン・アラフィリップら、クイックステップ・アルファヴィニル チームが一列棒状となる集団先頭を率いた。
再び道が広くなると、バーレーン・ヴィクトリアス、モビスター、クイックステップ・アルファヴィニル チームが集団前方を固める。
ラスト6kmを過ぎたラウンドアバウトを前に位置取り争いはさらに激化した。道幅が広がるとまた道いっぱいに広がって各チームが先頭に出ようと自分たちの居場所を確保しにかかる。
ラスト3kmからは、総合狙いのイネオス・グレナディアズが先頭を引く。後方ではスプリントに備えたいチームが隊列を組み始める。
アルペシン・ドゥクーニンクが再び先頭に躍り出たが、一人が仕事を終えるとまたイネオスに先頭を譲る形となった。
先頭をイネオスが抜けてからのラスト1.5kmはまさに混沌を極めた。
UAEチームエミレーツ、そしてチームDSMが先頭を争い、最終コーナーをトレック・セガフレードがいい形で抜け、ラスト500mでピーダスンを引き連れて先頭に躍り出る。
最終スプリントに向けて先にもがき始めた先頭のピーダスンにボーラ・ハンスグローエからダニー・ファンホッペルが一気に並ぶと、そのままサム・ベネットを発射。後ろから一気に駆け抜けたベネットがピーダスンを捕らえ、ボーラ・ハンスグローエに今季3勝目を運んだ。そして自身としてもエシュボルン~フランクフルト以来の今季2勝目を掴んだ。
ベネットは強力なチームメイトのサポートやリードアウトがありつつ、自分自身の脚が足りなかったと感じることが多かったという。しかし今回は違った。この勝利はどれだけ大きいことか、ベネットはこう表現した。
「チームメイトが僕を連れて行ってくれたんだ。フィニッシュに脚を残しておくために、スプリントポイントで1位を狙うことはしなかった。そして彼らは僕を素晴らしい脚でフィニッシュラインまで連れてきてくれた。その瞬間は、ただレースをしているだけ。追い抜くことよりも、しがみつくことに神経を使ったよ。いい感じだ。ただ、”正しい脚”を手に入れることができただけなんだ。本当に嬉しいのは、2018年以降の各グランツールで自分のパターンを続けていること。それぞれで少なくとも1ステージは勝っている。だからそれを継続できることが嬉しい」(サム・ベネット)
マイヨ・ロホは、ヘーシンクのもとからスプリントで4着に入った同国でチームメイトのマイク・テウニッセンへと移動したが、決してその予定ではなかったとテウニッセンは話す。
マイヨ・ロホに袖を通すテウニッセン
「実は計画はしてなかったんだ。もう何日も前から、僕たちはプリモシュをサポートするためにここにいて、今日もそのつもりだったんだけど、今朝、もし計画通りに進んで、プリモシュが残り3kmを安全に走ったならば、僕が最初にゴールすることができるか様子を見てみようとチームのみんなに言われてちょっと驚かされたよ。母国で多くの人が応援してくれて、自分にとってもみんなにとっても本当に素晴らしいことだ」
オランダでの最終日、第3ステージも平坦ステージとなる。その後は移動日を挟んで、スペインでの山岳連戦が続く。オランダでのステージを終えたらスプリンターたちの活躍回はしばらくお預けだ。
文:滝沢佳奈子
滝沢 佳奈子
2014年に自転車にハマり、初めてのレース観戦は単身ロードバイクを持って行ったツール・ド・フランス。その経験から自転車雑誌サイクルスポーツの編集者となる。現在は国内を中心にロードレースやトラック競技などの取材を行う。
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