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【Cycle*2022 ブエルタ・ア・エスパーニャ レースレポート:第1ステージ】3年ぶり採用のチームTTはユンボ・ヴィスマ快勝! マイヨロホは失意乗り越えたベテランのヘーシンクへ「感動で体の震えが止まらないよ」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介マイヨ・ロホを着たロベルト・ヘーシンク
灼熱の3週間が幕を開けた。2022年シーズン最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャ。情熱と美しさ。ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアとはまた違った魅力に包まれる全21ステージの戦いがスタートを切った。
オープニングステージは、3年ぶり採用となったチームタイムトライアル。23.3kmのコースを24分40秒で走破したユンボ・ヴィスマが一番時計を記録。チーム内で真っ先にフィニッシュラインを通過した36歳のベテラン、ロベルト・ヘーシンクがマイヨ・ロホの栄誉にあずかった。
「生まれ育ったオランダでグランツールのリーダージャージを着られるなんて...感動で体の震えが止まらないよ。こんな機会をくれたチームに本当に、本当に感謝している」(ロベルト・ヘーシンク)
今年のブエルタ開幕地はオランダ・ユトレヒト。この大会がスペイン国外で開幕するのは5年ぶりで、オランダがその地になるのは2009年以来13年ぶり。もっとも、ユトレヒトは2020年大会の開幕地として準備を進めていたが、折りしも新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がその手を阻んだ。このときはオランダで予定されていた3ステージを丸々カットする形で大会そのものが短縮開催となったが、さすがにオランダステージをそのままフェードアウトさせるわけにはいかない。2年越しのステージ実施として、今年晴れてブエルタが同地へとやってきた。
その皮切りとなったのが、ユトレヒト市街地を駆け抜けるチームタイムトライアル。3年ぶりにブエルタで採用されたとはいえ、過去20年では15回目。昨今のサイクルロードレースシーンではめっきり機会が減ったが、ブエルタでは健在といったところである。何より、大会初日に設定されることで、各チームフルメンバーがそろった状態でそれぞれの力を見ていくのには絶好の機会となるのだ。
とりわけ今年はグランツールにおけるチームTTでは長めの距離設定。ほぼ全行程フラットで、極度にテクニカルな箇所もない。そうなってくると、チーム力がダイレクトに反映されやすく、そのままタイム差に表れてくることが想定される。個人総合成績での上位進出を狙うエースを抱えるチームにとっては、1秒でも取りこぼしたくないところである。
現地時間8月19日18時30分、ブルゴスBHが一番手として出発し、華やかに大会がスタート。各チーム4分おきに出発し、レースタイムはチーム内5番手の選手の記録が採用される。
レースが始まってしばらくは出走順にトップタイムが塗り替えられていく状況が続いたが、9番出走のチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコが記録した25分11秒が基準タイムとなった。4年ぶりの頂点を目指すサイモン・イェーツもしっかりと隊列を率いて、状態の良さを示している。
しばしオージーチームがホットシートをキープしたが、16番目にコースへ飛び出したボーラ・ハンスグローエがその流れを変えた。ジロ・デ・イタリアに続くグランツール制覇を目指すジャイ・ヒンドレーを擁する今大会の目玉チームは、11km地点に設けられた中間計測ポイントでトップタイムを2秒更新。後半にペースを落として結果的にチーム バイクエクスチェンジ・ジェイコから10秒遅れに終わったが、このあたりから高い戦力を有するチームが次々と好記録をマークしていく。
ジョアン・アルメイダで上位進出を図るUAEチームエミレーツは、中間計測こそ遅れていたが、後半盛り返して2秒遅れでのフィニッシュ。トレック・セガフレードも11秒遅れにとどめて、上が見える位置でステージを終えている。
イネオス・グレナディアーズ
いつ好記録が出ても不思議ではない空気感の中、全体20番目にスタートしたイネオス・グレナディアーズが期待通りの走りを披露。前半から快調に飛ばすと、中間計測を5秒更新。最終盤までメンバーを切り離すことなく隊列を維持し続けると、最後は地元ライダーのディラン・ファンバーレの牽引で猛スパート。フィニッシュタイムは24分53秒。ついに、25分の壁を突破するチームが現れた。この日は総合エースのリチャル・カラパスとファンバーレの移籍が発表されたが、ブエルタでの活躍を置き土産とするべく、両者とも3週間を戦い抜く覚悟を見せた。
続いてコースへと出たクイックステップ・アルファヴィニルも、イネオス・グレナディアーズに負けていない。こちらも中間計測をほぼ同タイムで通過すると、後半にかけてさらにペースアップ。注目の若武者、レムコ・エヴェネプールはそれまで力を余していたようで、残り1kmで猛然とスピードアップ。ジュリアン・アラフィリップらチームメートを置き去りにしてしまうかのような加速でフィニッシュへ急いだ。タイムはイネオス・グレナディアーズから1秒差。わずかにトップには届かずも、十分に存在感は見せつけた。
そして、出場23チームで最後に姿を現したのがユンボ・ヴィスマ。チームの地元だけあってひときわ大きな声援を受けながらの走りは、中間計測からトップタイムを14秒更新。8選手だれひとり脱落することなくコース後半も突き進むと、フィニッシュでは24分40秒を記録。イネオス・グレナディアーズのタイムを13秒上回って、文句なしのステージ優勝だ。
こうなってくると、誰にマイヨ・ロホが渡るのかが焦点に、この日のユンボ・ヴィスマで一番にフィニッシュしたのは、今メンバー最年長36歳のヘーシンク。これまで数多くの経験・実績を積み重ねてきたベテランが、第2ステージからレースリーダーを務めることに決まった。
「誰が最初にフィニッシュラインを通過するかは特に決めていなかったよ。本当にタフなチームタイムトライアルだったけど、マイヨ・ロホが手に入るなんて最高のご褒美だね。これまで長く走ってきているけど、その中でも最高の瞬間だと思う。このチームにいたからこそ成し得たものだし、ユンボ・ヴィスマの強さを証明できたんじゃないかな。このチームは本当に強いんだ!」(ヘーシンク)
シーズン当初はツール・ド・フランスで山岳アシストを務める予定になっていた。しかし、チーム事情の変化や、自身が前哨戦のツール・ド・スイスで体調を崩したこともあり、ツールで大躍進を遂げたチームの一員になることはかなわなかった。
「みんなの活躍はとてもうれしかったよ。でも僕はそこにいなかったからね。やっぱり悔しかったよ」(ヘーシンク)
落ち込む彼を元気づけたのは家族の存在だった。妻は改めて長いキャリアを誇ってくれ、子供たちはパパと家で過ごすことを純粋に喜んでくれた。思いがけずやってきたバカンスシーズンは、カナダ旅行に出かけた。これまでの競技人生で何度も困難な局面を経験しているから、それを乗り越えるためのメンタルコントロールは心得ている。フォーカスすべきはブエルタであると、心に決めて本番を迎えた。
思えば、ロベルト・ヘーシンクの名が轟いたのは、2009年のこの大会だった。あのときも開幕はオランダ。大会終盤までマイヨ・オロ(当時の個人総合首位は金色のジャージだった)争いを繰り広げ、最終的に個人総合6位で終えた。あれから13年経ち、チームの屋台骨を支える側に回ったが、そんな献身的な姿をサイクルロードレースの神様は見放さなかった。自身も、チームも、近いうちにマイヨ・ロホをログリッチにバトンタッチするつもりではいるけれど、オランダ国内を走る第3ステージまではリーダーでいられそうだ。3年前のチームTTでは派手にクラッシュしてしまったが、そんなことはジャーナリストに聞かれるまですっかり忘れていた。明るい気持ちで、この先数日を過ごせそうだ。
また、チームメートであり、スーパーエースのログリッチも最高のスタートを切った。ツールで負った大けがは、チームTTの走りを見る限り大丈夫そうだ。
表彰台に上るユンボ・ヴィスマの選手たち
「ブエルタの出場は僕にとって当たり前のこと。これだけ強いチームメートに恵まれ、コース脇を埋め尽くした大観衆に背中を押してもらって、本当に良い走りができた。ロベルトは僕がプロキャリアを歩むうえでのお手本なんだ。だから、彼はマイヨ・ロホを着るにふさわしい人物だと心から思っているよ。地元でリーダージャージを着るんだから、みんな大喜びだよね」(プリモシュ・ログリッチ)
ユンボ・ヴィスマの強さが際立ったチームTTだったが、総合系ライダーを抱えるチームの多くがまずまずの結果で、これからのステージで追い上げるチャンスは十分にありそうだ。当面のターゲットはログリッチ。スペインでの戦いを知り尽くす絶対王者“ブエルタ・マエストロ”の牙城を崩すことはできるだろうか。
「今日の結果には満足しているよ。ユンボ・ヴィスマが強いことは分かっていたからね。ブエルタを目標にすることは、昨年のツールが終わってから決まっていたんだ。長いスパンで準備を進めてきたし、ジロで負けた悔しさもある。このブエルタにぶつけたい思いは誰よりも強いのではないかと思っているよ」(リチャル・カラパス)
チームTTを経て、誰もが戦闘態勢に突入した。この先の20ステージ、何かすごいことが待っているような気がする。
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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