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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第20ステージ】ヒンドレーが遂にバラ色の衣を纏い、アレッサンドロ・コーヴィがチーマ・コッピの王に「凄まじいステージだった」(ヒンドレー)
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマリア・ローザを奪ったジャイ・ヒンドレー
2022年ジロの最難関山岳ステージは、54kmの独走で決し、3週間の終わりのマリア・ローザ争いは、最終3kmで動いた。アレッサンドロ・コーヴィがチーマ・コッピの王となり、数日前から3秒差で睨み合ってきた上位2選手は、ついに明暗が分かれた。力強く難勾配を駆け上がったジャイ・ヒンドレーが、リチャル・カラパスを1分25秒差に突き放し、マリア・ローザ姿で最終タイムトライアルに挑む。
「決定的なステージになることは分かっていたし、厳しいフィニッシュが待ち構えていることも分かっていた。だから僕は忍耐強くその時を待ち、あとは全力を尽くした。凄まじいステージだった」(ヒンドレー)
スタートから20km前後の上りで、ジュリオ・チッコーネがようやくこじ開けた小さな差を、今大会最後の逃げへと結びつけたのはUAEチームエミレイツの2選手だった。エースのジョアン・アルメイダが総合4位のまま第18ステージの朝に帰宅した後、目標の変更を余儀なくされたアシストたちは、最後のチャンスに全力をぶつけた。コーヴィとダヴィデ・フォルモロが流れに飛び乗ると、猛烈に加速。まんまと逃げ集団を作り上げた。
逃げは最終的に15人にまで数を増やした。ほぼ出来上がりかけていた集団に、最後から2番目に、単独で追いついてきたのがレナード・ケムナだった。第4ステージ覇者であり、なにより総合2位ヒンドレーの同僚だが、後のマリア・ローザによれば「逃げに誰かを入れるという計画はなかった」のだという。
バーレーン・ヴィクトリアスも「前待ち要員」としてドメン・ノヴァクを前方へ送り込んだ。メイン集団内では他のチームメートが、逃げの形成とほぼ同時に集団最前列に集結。総合3位ミケル・ランダのために隊列を組み上げ、最後の山まで熱心に集団制御を続けた。
先頭集団で最も働いたのは、間違いなく、クイックステップ・アルファヴィニルのダヴィデ・バッレリーニだ。前ステージでは共に逃げたマウロ・シュミットのために勢力的に牽引したが、この日はマウリ・ファンセヴェナントのために一心不乱に仕事に打ち込んだ。ステージ前半に路面を濡らした冷たい雨も、山岳巧者チッコーネやフォルモロの睨み合いも、やはり2人前に送り込んだユンボ・ヴィスマの存在も、まるで構わなかった。ひたすら先頭で黙々と作業に従事し、後方との差を延々5〜6分に保ち続けた。
今ジロの屋根、標高2239mの高みを目指して、ポルドイ峠の山道を上り始めた直後だった。この3週間、文字通り連日プロトンを引っ掻き回し、たくさんのワクワクを届けてくれたマチュー・ファンデルプールが、今大会6度目の……そして最後の逃げから静かに脱落していった。
なによりこのポルドイの序盤で、大胆に飛び出していったのがコーヴィだった。山頂まではいまだ9kmと遠く、フィニシュまでは53.7kmも残っていた。
1人で逃げるアレッサンドロ・コーヴィ
「僕はクライマーじゃないから早めに飛び出したんだ。最後の山を待っていたら、絶対に勝てないことは分かっていた。30秒でもいいから差をつけたい。下りを全力で飛ばしてさらに1分に開けば、僕にとっては悪くない。そう考えていた」(コーヴィ)
そんなコーヴィの読みは完全に外れた。なにしろ今大会最高標高地点では、30秒どころか、なんと逃げの友たちに1分25秒差もつけてしまった!
8人に小さくなった集団は、まるで連携が取れなかった。コーヴィと同僚のフォルモロを、誰もが警戒した。チッコーネやテイメン・アレンスマンは相互監視でがんじがらめだった。ケムナやノヴァクはもちろん、追走以上に大切な使命を抱えていた。つまりコーヴィのアタック時にあっさり千切れたはずのバッレリーニが、山頂から30kmも続いた長いダウンヒルの果てに8人をとらえてしまったほど、追走スピードは上がらなかった。
その長い下りで、コーヴィはさらに1分を付け足した。全長14kmの最終峠マルモラーダに上り始めた時点で、追走集団に約2分半のリードを有していた。
メインプロトンに対しても、いまだに6分も差を保っていた。ポルドイの上りでも、下りでも、総合勢は一切の動きを見せなかった。カラパスは前日そもそも「ラスト5kmが勝負」と口にしていたし、ヒンドレーも「最終峠を忍耐強く待った」。バーレーンが延々と先頭を引いてはいたものの、実はスタート時から体調が思わしくなかったというランダは、「チームメートにスピードアップを命じなかった」という。
だからこそ、逃げ集団内のノヴァクに、ゴーサインが出た。最終峠に入る時点で、チームカーから、「お前がステージを取りに行け」との指示が届いた。
そのマルモラーダの山道では、チッコーネとアレンスマンが交互にアタックを仕掛けた。残り8kmほどでケムナが後退し、さらに7kmでフォルモロも振り払われた。そしてノヴァクは、残り5.5kmで、大きな加速を断行する。平均勾配がそこまでの6%台から、11%後半へと一気に上がるタイミングを突いた。いまだ2分先を走るコーヴィを、単独で追いかけ始めた。
たしかに残り2kmでノヴァクは30秒差にまで詰め寄った。しかし、もはやこれ以上、タイムは縮まらなかった。
54kmもの独走を成功させ、コーヴィが32秒差で逃げ切った。アルメイダ途中棄権、フェルナンド・ガビリアは2位×2回止まり……と決して思い通りのジロにならなかったUAEに、大きな成果をもたらした。なによりコーヴィ個人にとって、生まれて初めてのワールドツアー勝利であり、もちろん初めてのグランツール区間勝利。
アレッサンドロ・コーヴィ
「とにかく全力で上り続けた。脚がすごく痛かったし、時には痙攣を起こした。だけどなんとかペダルを回し続けて、やり遂げたんだ。プロとして望み得る最高の成績を手に入れた」(コーヴィ)
ちなみに、ここマルモラーダは、コーヴィにとって、これまでは2019年U23版ジロで総合表彰台から転がり落ちたいわくつきの場所。この日からは、一生忘れられない喜びの山になるに違いない。
ジロの総合を巡る争いも、残り5.5kmでいよいよ動きはじめた。つまりノヴァクが追走を開始したのとほぼ同じ地点で、バーレーンを押しのけ、イネオス・グレナディアーズがプロトン最前列に競り上がった。いまだ集団内に残っていた3人のアシストが、カラパスのために、強烈なテンポを刻んだ。
そして残り約3.5km、マリア・ローザが、誰よりも先にアタックを打った。今大会ここまで何度となく繰り返してきたように、ヒンドレーは、ほぼ瞬時に後輪に飛び乗った。ただ、ここまでと違ったのは、ランダがついて来なかったこと。そしてヒンドレーとカラパスのすぐ眼の前に、ケムナが待っていたこと!
「予定外の逃げに乗った後、ケムナには最終峠まで前に留まるよう指示が出ていた。それにしても1日中逃げた上に、好タイミングで前集団から脱落し、さらにはレースの極めて重要な場面で物凄くハードに僕を引っ張ってくれたんだからね。本当にすごい仕事を成し遂げてくれた」(ヒンドレー)
勢い良く山を駆け上がってきたエースを後輪に従えると、ケムナは勇敢に牽引を開始した。勾配の厳しいマルモラーダの中でも、1kmに渡り平均13%近い勾配が続く最も厳しいパートだった。残り3kmのアーチをくぐり抜けると、最大18%ゾーンも待っていた。まさに、その場所で、カラパスがわずかに遅れ始めた。
ヒンドレーは異変を見逃さなかった。ケムナの後輪から飛び出すと、ためらわずに加速を畳み掛けた。マリア・ローザを置き去りにして、山頂へとひとり飛び立った。
「カラパスが脱落し始めていると知って、モチベーションが高まった。ラインまでとにかく全力で走った」(ヒンドレー)
後に残されたカラパスには、もはや体制を立て直すための体力も気力も残っていなかった。しばらく後輪に張り付いていたケムナに、ついには打ち捨てられ、一度は置き去りにしたはずのランダにさえ、途中で追い抜かれてしまった。フィニッシュラインギリギリまで踏み抜いたヒンドレーから、1分28秒遅れで、苦悩の3kmを終えた。
これまで19日間走り続けてきて、この日の朝までわずか3秒差で競り合ってきた2人の立場が、大会最終日前夜に入れ替わった。カラパスは6日間のピンク色の日々を閉じ、2位に後退。ヒンドレーは今大会初めてカラパスの順位を上回り、すなわち自身にとって2枚目のマリア・ローザを身にまとった。
ただし1回目はわずか15.7kmの間しか着ることができなかった。2020年ジロでも、第20ステージの終わりに、このばら色の衣を手に入れている。総合2位とのタイム差は「0」で、翌日の最終タイムトライアルの終わりには、39秒差の2位に後退していた。
最終ステージを前にマリア・ローザを失ったカラパス
2回目の今年も、同じ第20ステージの終わりにジャージを獲得し、やはり17.4kmしか着て走ることはできない。ただし今回は、永遠に、2022年マリア・ローザを自分のものにできるかもしれない。総合2位カラパスとの差は、1分25秒ある。
「2年前と同じように、最終日の前日にピンクジャージが手に入るなんて、最高に感動的だね。うん、本当に、本当に、スペシャルだ。ここに戻ってくるまでの道はひどくデコボコで、去年はすごく厳しいシーズンを過ごした。もう1度このジャージを取り戻せるかどうかさえ分からなかった」(ヒンドレー)
総合3位ランダは、首位との差は前日までの1分05秒から1分51秒へと広がったが、総合2位までの距離は36秒に縮まった。また4位ヴィンチェンツォ・ニバリとは6分06秒という大差を確保しているため、とうとう人生2度目のグランツール表彰台に乗ることができそうだ。10日間のマリア・ローザ生活を満喫したフアン・ロペスも、マリア・ビアンカ争いで2位に5分56秒差をつけ、新人賞ジャージをほぼ確定させた。
149選手が制限時間内で20日目のジロを走り終えた。あらゆる難関峠を乗り越えてきた勇者たちは、5月最後の日曜日、ヴェローナの円形闘技場へ向けて最後の全力疾走を行う。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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