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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第19ステージ】2勝目のボウマンがオランダ人初のジロ山岳賞獲得「山岳ジャージを着て勝利をつかむことができたなんて、最高だよね」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか表彰台に上るクーン・ボウマン
最高の山岳賞の射止め方。ステージ上に点在する4つの山岳ポイントをすべて先頭で収集したクーン・ボウマンが、2022年ジロの山岳賞を確定させ、しかも今大会2つ目の区間勝利を青ジャージ姿でもぎ取った。総合上位2人はまたしても共にフィニッシュし、ヴェローナ到着を2日後に控え、いまだマリア・ローザの行方は分からないまま。
「区間1勝目の後、もう1つ勝てたら最高だなぁなんて夢見ていたけれど、現実的で居続けるよう自分に言い聞かせていたんだ。でも、こうして今、2勝目を手に入れた。純粋に幸せだ。言葉にならない」(ボウマン)
真のクライマーとタイムトライアルスペシャリストを除けば、おそらく区間勝利を望める今大会最後のステージだった。序盤60kmがほぼ平坦だったのも、多くの選手を勇気付けた。マチュー・ファンデルプールはいつもどおり加速を切ったし、前区間に思いっきりスプリントできなかったアルノー・デマールやマーク・カヴェンディッシュも、競うようにスピードを上げた。
スタートから12km前後で、12選手が貴重な逃げへの切符をもぎ取った。前日に衝撃の逃げ切りを演出したエドアルド・アッフィニとマグナス・コルトが、またしても前にいた。ユンボ・ヴィスマとクイックステップ・アルファヴィニル、グルパマ・エフデジからは、それぞれ2人ずつ飛び乗った。
逃げ遅れたチームが、その後も熾烈な揉み合いを続けたが、10kmほど先でついには諦めた。あとは総合首位リチャル・カラパス擁するイネオス・グレナディアーズが隊列を組み上げると、のんびりと、静かに集団を率いた。スタートから50km、タイム差は11分にまで開いた。
結局のところ、デマールやカヴは逃げなかったが、フェルナンド・ガビリアは前集団に潜り込んでいた。もちろん平地部分に待ち受けた第1中間ポイントでは、早めに加速を切り、きっちり先頭通過。ポイント賞争いで132点のカヴを逆転し、2位・136点へと浮上した。残念ながら数字の上では、もはや首位デマールを逆転することは不可能だ。ただ、もしも……の事態が起こった場合、ガビリアがチクラミーノに躍り出ることになる。
ガビリアが「もしも」のためにスプリントしたのだとしたら、ボウマンは「後悔しないため」に、ここまで山頂スプリントを繰り返してきた。今大会5度目の逃げに乗ったこの日も、決して例外ではなかった。ステージ半ばに組み込まれた2つの3級峠では、他の逃げ選手たちに最大限の警戒を払いつつ、確実に先頭通過を取りに行った。
「すでに山岳ジャージを獲得したことがあるけれど、ほんの数ポイント差で逃したこともある。だから確実に取れるところでは、確実に取っておきたかった」(ボウマン)
この時点では、数字の上では、いまだ逆転される可能性も残っていた。しかも、もしかしたら、逃げ切れないかもしれなかった。ゆっくりとペダルを回していたイネオスから、残り127km、総合2位ジャイ・ヒンドレー擁するボーラ・ハンスグローエが主導権をむしり取ると、突如としてスピードを上げたからだ。
主導権を握るボーラ・ハンスグローエ
第14ステージの恐怖が蘇る。あの日は凄まじい行軍で一気にイネオス勢を蹴散らし、カラパスを孤立無援状態に追い込んだ。この日もすぐに山岳補佐リッチー・ポートが、後方へと脱落していった。しかし体調不良のせいで、37歳大ベテランがそのままステージ半ばで「人生最後のジロ」を去って行った代わりに、他のアシストたちはエースの側から決して離れなかった。
また1週間前のボーラは、逃げ集団の望みをもあっさり握りつぶしたが、この日はタイム差がまるで縮まらない。逃げ集団に2人ずつ送り込んだチームが、素晴らしい牽引作業を行ったせいだった。
TT巧者アッフィニはボウマンのために。普段はデマールのための集団制御役を務めるクレモン・ダヴィは、昨大会マリア・ローザ3日間のアッティラ・ヴァルテルのために。そして自らも名フィニッシャーでもあるダヴィデ・バッレリーニは、昨ジロの「白い道」区間覇者マウロ・シュミットのために。3人はチームメートのために骨身を惜しまず働いた。一旦は8分にまで詰められた差を、例の「最後から2番目の山」、つまり隣国スロベニアにそびえる1級峠で再び9分半にまでこじ開けた。
「1級峠に向けてボーラが加速しているのは、無線で把握していた。でもグルパマとクイックステップの選手、そしてエドアルド(アッフィニ)が、力を合わせて懸命に引っ張った。本当にファンタスティックな仕事をしてくれた」(ボウマン)
チームメイトの献身に背中を押され、1級峠の中腹でボウマン、シュミット、ヴァルテルの3人はついに先頭に立つ。ところが勾配9〜10%が延々と続く激坂では、シュミット曰く「しがみついていくしかなかった」。またボウマンが考えたように、「いまだフィニッシュから遠すぎた」。誰も決定的な動きは見せなかった。それどころか山の終盤で、一旦蹴落としたはずのアレッサンドロ・トネッリに、再び合流されてしまう。
残り42.4kmの山頂で、1級40ポイントをボウマンが確実に懐に入れ、とうとう最終的な山岳賞を確定させた後、先頭集団はイタリアへの帰途についた。曲がりくねったダウンヒルの途中で、抜け駆けをする選手もいなかった。むしろ山頂まで7km以上の地点で蹴落としたはずのアンドレア・ヴェンドラーメに、下りであっさり追いつかれた。先頭集団は5人になった。
後方のメイン集団でも、このスロベニアでの激坂では、上りでも、下りでも、攻撃は見られなかった。ボーラはひたすら引き続けたが、集団の後方から徐々に弱者を切り落としていっただけに過ぎない。結局は下りきった先の平地で、いまだ3人のアシストを残すイネオスに再び主導権を引き渡した。
全長7.1kmの最終2級峠に、先頭集団は、約8分20秒差で上り始めた。逃げ切りを確信した5人は、ここで果敢なアタック合戦……には入らなかった。むしろ馬鹿馬鹿しいほどに壮大な警戒合戦へと突入してしまった!
とりわけボウマン、シュミット、ヴァルテルの山岳強者3人が、互いを警戒しすぎた。時には道路の両脇に分かれ、時には軽く加速しては、すぐに減速した。トネッリは常に目ざとく後輪に飛び乗り、ヴァンドラーメは常に遅れながらも、必ず追いついてきた。平均勾配7.8%の山道は、まるで自転車競技場のバンクと化した。
「僕に向いている上りだった。お互いが睨み合ったせいで、より戦術的な戦いに変わった。でも僕はスプリントで速いと分かっていたんだ」(シュミット)
「みなが同じようなレベルで、差をつけるのが難しかった。だからこそああして監視を続けたわけだけど、少しやりすぎてしまったね。でもスプリントには自信があった」(ヴァルテル)
「勾配が急になったかと思うと緩み、また急になったかと思うと緩んだ。だからスプリントを待った。今日みたいな厳しい1日の終わりなら、僕はスプリントで最速だと分かっていた」(ボウマン)
つまり各々が「スプリントなら……」という勝算があった。もちろん「上れるスプリンター」ヴァンドラーメにとっては、最高の展開だったはずだ。、5人のうちでスプリントを本気で嫌ったのは、トネッリだけだった。
「スプリントになったら負けるとあらかじめ悟っていた。だから飛び出そうと試みたけど、周りが逃してくれなかった」(トネッリ)
お見合い状態は、ラスト300mまで続けられた。しかも約7kmにも渡って続けられた駆け引きは、意外な結末を迎えた。4番目の位置からボウマンが加速を切り、すかさず先手を取ると、残り50mの左カーブの内側を上手く突いた。
今大会2勝目を掴んだクーン・ボウマン
「勝つための秘訣は、あのカーブに最初に突入することだと分かっていた。だからこそ最初にスプリントを打ったんだ。でもあれほど鋭角だとは思ってもいなかったけど」(ボウマン)
その通り、公式に配布されているロードブックに書かれているよりも、はるかに鋭角なカーブだった。内側を走っていたはずのシュミットは、外側へと大きく膨らみすぎてしまった。その隣にいたヴァンドラーメは、カーブの外へと押し出され、後輪についていたヴァルテルもそのまま後に続いた。幸いにも2人が突っ込んだ部分にはフェンスがなく、衝突は避けられた。
カーブ攻略が、勝敗を分けた。ボウマンが両手を広げて、青い山岳ジャージを美しく輝かせながら、先頭でフィニッシュラインを越えた。
「僕のプロ初勝利は、ドーフィネで、山岳ジャージ姿で手にしたもの。またこうして、山岳ジャージを着て勝利をつかむことができたなんて、最高だよね。だからチームのプレス担当に、フィニッシュの写真をもらえるようメッセージを入れたんだ」(ボウマン)
今ジロで複数ステージを制したのは、デマール3勝、サイモン・イェーツ2勝に続く3人目。また最終山岳ステージを待たずに山岳賞首位を確定させせたボウマンだが、オランダ人がジロの山岳賞を持ち帰るのは、史上初めての快挙となる。
ちなみに「ポイント賞」は前日デマールで確定し、「中間ポイント賞」も今区間晴れてフィリッポ・タリアーニに決まった。いまだ逆転の可能性を秘めているのはフーガ賞と、新人賞マリア・ビアンカと……もちろんマリア・ローザ。
マリア・ローザを守ったカラパス
メイン集団はさすがにスプリントを待たなかった。しかも残り2kmを示すアーチの手前で、総合首位カラパスが真っ先に攻撃に転じた。ただ総合2位ヒンドレーが一瞬たりとも離されなかったし、総合3位ミケル・ランダも素早く穴を埋めた。ランダも自らアタックを打ったし、ヒンドレーも加速を切った。しかし、大した差をつけられないと見るや……逃げ集団と同じく、やはり互いに睨み合いに入ってしまったことも。
逃げを驚かせた最終コーナーが、3人の走りに影響を与えることはなかった。総合トップ3は、区間勝者から3分56秒遅れの同タイムで、揃って1日を終えた。カラパスとヒンドレーが3秒差で並ぶ構図は4日前から変わらず、ランダは1分05秒差を1秒も縮めることはできなかった。
2022年ジロの、山の戦いも、残すはわずか1日。今大会の最高標高地点「チーマコッピ」2239mーー「僕のホームだ」と、標高2800m以上の地で生まれたカラパスは笑ったーーが待ち受ける、今大会最難関ステージが、今大会最後の「直接対決」の舞台となる。
「明日のシナリオは完全に異なる。ラスト5kmがおそらく決定的となるし、僕らが一緒にフィニッシュへたどり着くことはないはずだ」(カラパス)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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