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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第18ステージ】《同盟》で掴んだ勝利!ドリース・デボントが人生初の区間制覇「今日の逃げの仲間たちを、心から尊敬する」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかレース直後にカメラに笑顔を見せるドリース・デボント
たった4人で、プロトンに最後まで抵抗し続けた。作戦を立て、同盟を組み、決して裏切らず、最後まで全力を注いだ。2022年ジロ最後のスプリンターステージの終わりには、4人の小さなスプリントが繰り広げられた。ドリース・デボントが幸せな勝者となった。
「自転車を始めた頃から、いつも夢があった。その夢はいつしか目標となった。その目標を達成すると、僕はさらに大きな夢を見た。こうして僕はベルギーチャンピオンになり、去年はベルギーチャンピオンジャージで初めてのジロを戦い、そして今日、ついにジロ区間勝利を手に入れた」(デボント)
前日1分54秒差の総合4位には後退したものの、新人賞ジャージをしっかりと着込んでいたジョアン・アルメイダの大会リタイアの一報から、ステージは始まった。夜間に喉の痛みを訴え、朝に検査を受けたところ、新型コロナウイルス陽性と判明。だからこそUAEチームエミレーツの同僚たちは、これまで以上に、フェルナンド・ガビリアのために勢力的に仕事をしたはずだった。
スタートフラッグが振り下ろされると、5キロの小さな抵抗の後に、マグナス・コルトとドリース・デボントが飛び出した。直後にエドアルド・アッフィニとダヴィデ・ガッブロが後を追うと、4人の逃げが出来上がった。
数日前からジロに乗り込んでいたアルベルト・コンタドールが、この日のフィニッシュ地でメディア懇親会を開いていたこともあり、エオーロ・コメタ サイクリングチームだってどうしても逃げに選手を送り込みたかった。数人の選手が、繰り返し、がむしゃらな加速を試みた。しかしアルノー・デマール率いるグルパマ・エフデジと、マーク・カヴェンディッシュ擁するクイックステップ・アルファヴィニル、さらにはアルベルト・ダイネーゼのチームDSMとが、執拗にエオーロの逃げを潰して回った。最後は道幅いっぱいにスプリンターチームが並び……力づくでプロトンに鍵をかけた。
その後メイン集団は決してのんびりしていたわけではない。昨ブエルタで区間3勝のコルトに、第11ステージにはたった1人でラスト1.2kmまで逃げ続けたデボント、タイムトライアルスペシャリストのアッフィニに、大会8日目にはトーマス・デヘントと最後まで逃げ続け2位に泣いたガッブロと、前方には強脚が揃っていた。上記スプリント4チームがすぐに集団最前列に人員を1人ずつ配置。タイム差コントロールに乗り出した。
スタートから25kmほどの4級峠で、タイム差は2分15秒にまで広がったものの、その後は1分半程度で差を保ち続けた。元世界チャンピオンのルイ・コスタが珍しく集団制御に乗り出したときなどは、あっという間に差が1分を切ってしまい……慌てて脚を緩める場面さえ見られた。
「たったの4人だから、制御は簡単に違いないとスプリンターチームは考えたはずなんだ。だから、僕らは、あえてゆっくりと走った。タイム差が1分差を切っても、絶対に彼らはすぐには吸収には動かないはずだ、と。僕らの読みは正しかった。おかげで前半の僕らは体力をほとんど使わずに済んだ」(デボント)
スプリンターたちだって十分に警戒していたはずだし、体力も無駄遣いしなかった。残り約80km地点の第1中間ポイントでは、スプリントさえ争わなかった。大会5日目以降マリア・チクラミーノを守り続けているデマールと、ここまで連日中間ポイント収集に励んできたカヴェンディッシュは、争わず笑い合いながら揃ってラインを越えた。
ところが残り70kmでは1分半だったタイム差が、60kmでは2分半に広がっていた。そしてこのタイム差を保ったまま、前の4選手は、この日2つ目の4級峠へと突入する。そう、全長1.1km、平均勾配12.3%の「ムーロ=壁」だ!
4人の逃げ
登りに入ると、デボントが先頭でテンポを刻んだ。決して逃げの仲間が脱落してしまわぬよう、常に背後に目を配ることも忘れなかった。後方のメイン集団では、スプリンターチームのクライマーたちが、やはり控えめに先頭を引いた。そして残り54km、壁をよじ登り終えた時点でも、差はいまだ2分半あった。
「作戦は、あの激坂のてっぺんで、2〜3分差を保っていること。そして上り終えたら、あとはフィニッシュラインまでなにも考えずにひたすら全力疾走すること。4人で話し合ってそう決めたんだ」(デボント)
そして一気に戦いは加速した。前の4人はいわゆるチームタイムトライアル体制へと切り替えた。「エドアルドには心から感謝している」とデボントが語ったように、ムーロでは最後尾でしがみついたアッフィニが、ひときわ長い先頭牽引を引き受けた。もちろん「誰も1度たりとも先頭交代を拒否しなかった」との言葉通り、それぞれの力量に合わせて、4人全員が持てる力をすべて尽くした。
後方のメイン集団も、登り終えると同時に、本気の追走作業に乗り出した。恐ろしい追走劇を繰り広げた挙げ句に、残り500mでようやく逃げを吸収した第13ステージと同じミスを繰り返すまいと、グルパマは「すぐにエンジンを全開にした」。クイックステップ、DSM、UAEもそれぞれ複数のアシストを前線に配置した。数日前はアルメイダを山で引いたダヴィデ・フォルモロも、平地での牽引作業に加わった。
残り22.2km、市街地周回コースに入った時点で、差は1分20秒にまで縮まっていた。しかしトレヴィーゾの市街地をめぐるサーキットは、観客の安全対策のため少し変更され、距離は約4.5km延び、厄介なことに鋭角コーナーが2つ増えた。
しかも猛スピードでの追走中に、メイン集団は大きく真っ二つに割れていた。10日間マリア・ローザを身にまとい、アルメイダ棄権でこの日の朝からマリア・ビアンカを再び着用していたフアン・ロペスが分断にはまり、トレック・セガフレードが文字通り全員で穴を埋める作業に従事した。なによりスプリンターチームにとっては、ステージ前半に時折作業を分担してくれたイスラエル・プレミアテックのスプリンター、リック・ツァベルが後方に吹っ飛んだのは痛かった。
残り13kmで、フィニッシュラインで「残り1周」の鐘の音が鳴り響いた時、いまだ差は1分10秒も残っていた。自転車界で昔からよく言われる「10km=1分」どころか、約10kmでわずか10秒しか縮まなかった。
グルパマが、第13ステージの「救世主」イグナタス・コノヴァロヴァスを投入しなかったのは、前の4人にとっては幸いだった。列車の最後から2番目ラモン・シンケルダムは分断にはまり、3番目マイルズ・スコットソンはメカトラではるか前に後退していた。つまり4番目のコノは、エースの側に留め置かれた。前回は残り16kmから猛烈に追い上げた強脚が、今ステージでその能力を披露することはなかった。
さらに周回に入ると、決して純粋なるスプリンターチームではないUAEやDSMのアシストたちは、枚数が不足気味になってきた。代わりにシモーネ・コンソンニとダヴィデ・チモライという2人のスプリンターを有するコフィディスが、時には作業に加わった。そして、どんな時も、ウルフパックの面々が無我夢中で前を引き続けた。
残り5kmで差は55秒。前の4人の連携は決して乱れなかった。一瞬でも顔を見合わせれば、すべてが台無しになることは、きっと経験から誰もが分かっていた。
「作戦開始前に話し合って決めた約束を、4人全員が守った。ひたすら全力で踏み続けた。誰も力を抜かなかったし、誰も抜け駆けしなかった。今日の逃げの仲間たちを、心から尊敬する」(デボント)
残り3kmで37秒。ぎりぎりの吸収を成功させた第13ステージは、この時点で25秒差にまで詰めていた。残り1kmで21秒。もはや逃げ切りは間違いなかった。
ジロの3週目には、しばし平地で、予想外の勝者が生まれる。2015年大会は最終日に2人きりの逃げが9秒差で逃げ切り、2019年第18ステージには3人の逃げがライン上ぎりぎりで競り勝った。そして2022年のこの日は、プロトンを4人で跳ね除けた。
4人で争われたスプリントフィニッシュ
「顔を見合わせる時間が少しはあったはずなのに、それさえほとんどしなかった。ただ一番速いコルトに誰もがプレッシャーをかけ、そしてアッフィニが早いタイミングで加速を切った。僕らはフェアであり続けた。真正面からスプリントを争ったんだ」(デボント)
まるで永遠のように感じられたというスプリントを制して、デボントが人生2度目のグランツールで、人生初めての区間勝利をもぎ取った。アルペシン・フェニックスにとっては今大会区間3勝目。グルパマがデマールで3勝なのに対して、「2部チーム」のアルペシンは、異なる3人で3勝を手に入れた。
14秒後にメイン集団はラインへとなだれ込んだ。第11ステージを制した際に、「第18ステージのほうが地元に近い」と語っていたダイネーゼは、5位で甘んじた。デマールは半分流しつつ6位。カヴェンディッシュは8位で、ガビリアは9位で、今大会最後のスプリントを終えた。
デマールがポイントを254点に伸ばし、2位カヴとの差を122点へと開いたことで、数字の上ではポイント賞首位を確定させた。残り3日間を生き残り、最終フィニッシュ地にたどり着けば(もしくは制限時間アウトを救済される代わりにポイント削減処分を受けなければ)、ヴァレーゼの円形闘技場で人生2度目のマリア・チクラミーノ最終表彰式を楽しむことができる。
レース前に健闘を誓い合うデマールとカラパス
決して「休息日」にはならなかった平坦ステージを、総合上位3名は無事に切り抜けた。残り2.5km地点で総合2位ジャイ・ヒンドレーがメカトラの犠牲となるも、3km以内のタイム救済ルールが適応され、メイン集団と同タイムが与えられた。つまりマリア・ローザのリチャル・カラパスとの差も3秒のまま変わらず。
またアルメイダの棄権により、前日までの総合5位ヴィンチェンツォ・ニバリ以降、4選手が自動的に1つずつ順位を上げた。ただし総合3位・1分05秒差ミケル・ランダと新4位ニバリとは、4分43秒もの大きな隔たりがある。2分57秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いたロペスは、総合9位の座と新人賞首位の座は守り通した。
「今は来たるべき3日間に目を向けている。今大会を決める3日間になるだろう。どれくらい自信があるかって?もちろん100%さ」(カラパス)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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