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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第17ステージ】サンティアゴ・ブイトラゴが人生初のグランツール区間勝利「これはチームの勝利だし、僕ら家族の勝利だ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかサンティアゴ・ブイトラゴ
ハゲタカが、大きな翼を広げて、自ら獲物を射止めた。「エル・ブイトレ」サンティアゴ・ブイトラゴが人生初めてのグランツール区間勝利を手に入れ、その背後では、所属チームのバーレーン・ヴィクトリアスが作戦を成功させた。総合上位2選手とも一時的に共闘体制を組み、エースのミケル・ランダがついに総合3位へと浮上した。
「とてつもなく嬉しい。初めてのジロで、初めての区間勝利。僕にとっては大きな意味を持つ。チームは僕を信じてくれたし、コロンビアの家族も、この17日間、僕を応援し続けてくれた。これはチームの勝利だし、僕ら家族の勝利だ」(ブイトラゴ)
気温はひと桁台に下がっても、どれだけ冷たい雨が降り注いでも、ジロの道の上だけは熱かった。スタートと同時に山道へと解き放たれたプロトンは、いつもと変わらぬ激しいアタック合戦を繰り返した。
中でも前区間の逃げを勝利に結び付けられなかったヒュー・カーシーが、スタート直後に毅然として加速を切ると、真っ先に逃げを作り上げた。少しずつ前へと合流する数は増えていき……スタートから33km、ついには25人の大きな逃げ集団が出来上がった。
18チームが揃った先頭集団で、最初に加熱したのが、山岳ポイント収集合戦だ。なにしろマリア・アッズーラ姿のクーン・ボウマンと山岳賞2位ジュリオ・チッコーネ、さらには6日間に渡って山岳賞ジャージを着ていたディエゴ・ローザと、山岳賞上位3選手が揃って飛び込んでいたのだ。
3人の優劣は、この日最初の3級峠で、あっさり明らかになる。逃げに3人も送り込んだユンボ・ヴィスマが前を引き、しかも山頂へ向けて青ジャージが超絶本気のスプリント。チッコーネは途中で踏み止め、ローザはほとんど動けなかった。
また残す2つの1級峠でも、ボウマンは着実にポイントを重ねた(1位通過と7位通過)。区間終了後には総計を218点に伸ばし、2位との得点差を115ポイントに開いた。もちろんいまだ最大213ポイント収集可能な上に、たった1日で130ポイントを回収できる第20ステージが待ち構えている。
「たしかにまだ決まってはいないけれど、徐々にいい感じにはなってきたよね。可能であれば、また木曜日(第18ステージ)に逃げるつもり」(ボウマン)
最初の3級峠からの下りで、残り82km、そのユンボが猛烈なスピードアップを敢行すると、大きかった逃げ集団が分裂する。細道と、濡れた路面と、集団を襲ったパニックとで、後の勝者ブイトラゴが地面に転がり落ちてしまったことさえあった。
やはり前区間に逃げた果てに逆に総合トップ10からはじき出され、チームに「信頼と犠牲に応えられず申し訳ない」と謝罪したギヨーム・マルタンは、先頭へのブリッジを成功させた。前日は7秒差の2位に泣いたアレンスマンも、必死の牽引を続けた。おかげで残り70km、逃げ集団は、再びボリュームを取り戻した。後方のマリア・ローザ集団に最大6分40秒差をつけ、つまり前日の区間勝者で、やっぱり今区間も逃げたヤン・ヒルトが暫定総合3位につけたこともあった。
マチュー・ファンデルプール
前日も逃げていたのは、マチュー・ファンデルプールだって同じだ。いや、そもそも、初日ステージ覇者にして今大会初代マリア・ローザは、今大会の大集団スプリントフィニッシュ「以外」のすべてのステージでなにかしら仕出かしてきたし、4区間連続で長短の逃げを披露している。人生初めての「3週目」に突入しても(昨ツールは8日目を最後にリタイア)、まるで勢いは衰えない。それどころかこのジロは、まるでマチューの壮大なる実験室であるかのようだ。こんなファンデルプールは、残り65km、逃げ集団からさらに前へと飛び出した。
来る2つの1級峠を睨んだ、いわば先回り作戦だった。マルタン、フェリックス・ガルとアレッサンドロ・コーヴィの3人が同行し、置き去りにしてきた仲間たちには、1つ目の1級の麓で1分半差をつけた。しかし全長11kmの山道の、残り3kmで、ファンデルプール集団はクライマー集団にとらえられてしまう。カーシーが熱心に追走作業に励み、ボウマン、ヒルト、ブイトラゴ、ハイス・リームライゼと共に追いついてきたのだ。
マチューの実験は終わらなかった。霧の山頂をボウマンが先頭通過し、下りに入ると……再びファンデルプールは加速した。10km以上の長いダウンヒルの途中で、ただリームライゼだけが追いついてきた。やはり続く1級峠の麓で、後続には約1分半差をつけた。対して山道は全長8km。1つ前の登りと比べて、3km短かった。だから山に登り始めると、いきなり加速し、独走へと持ち込んだ!
しかし昨季「U23版ツール・ド・フランス」ツール・ド・ラヴニールで総合4位に食い込み、さらには「山岳系ステージレース」ロンド・ド・リザールで総合を制した本格派山男は、マウンテンバイカーを逃さなかった。着実なテンポで追い上げると、残り3.3km=フィニッシュまで11.2km、リームライゼはついに単独で先頭に立った。
ちなみに人生初の難関山岳ステージ優勝はお預けとなってしまったけれど、ファンデルプールはその後も大きく崩れなかった。フィニッシュ手前で小さなマリア・ローザ集団に追い抜かれつつ、区間勝者から3分06秒差の12位で1日を終えた。
リームライゼのプロ1勝目も、残念ながらお預けとなる。2日連続逃げのカーシーとヒルトを振り払い、むしろ前日はランダのために最終盤まで働いたブイトラゴが、敢然と追走を始めたせいだ。第15ステージの逃げでは2位で悔し涙を流した22歳は、山頂直前、残り8.4kmで同い年のオランダ人をとらえた。
人生初のグランツール区間勝利を掴んだブイトラゴ
「今日の勝利の鍵は、『忍耐力』だった。2人が前に行ってしまった後も、最後の上りまで、じっとその時を待ったんだ」(ブイトラゴ)
そして、ほんの1か月だけ早く生まれたブイトラゴが、山頂に向かって爆発的な加速を切った。「頭の先から爪先まで乳酸で満ちていた」リームライゼは、それ以上は粘れなかった。勝負は決まった。
幸いにも道は広く、路面も乾いていた。約80km前に濡れた下りで落車したブイトラゴも、安全に、フィニッシュまで下り切った。プロ人生2度目の、そしてグランツールでは初めての勝利を、若き雄叫びと共につかみとった。
「総合でもいい場所につけているけれど(14位)、今日の僕は、自分の総合順位よりも区間勝利のことだけを考えて走った。でもこの結果は、将来的に総合系選手を目指していく上で、間違いなく、精神的な励みになる」(ブイトラゴ)
ブイトラゴの35秒後に、リームライゼは悔しさを噛み締めた。ヒルトとカーシーは、背後からものすごい勢いで迫ってくるマリア・ローザ集団をぎりぎりで交わし、2分28秒遅れで2日連続の逃げを締めくくった。
そのマリア・ローザ集団は、残り約40km、1つ目の1級峠の上りで動き始めた。淡々とペダルを回していたイネオス・グレナディアーズから、バーレーンが主導権をむしり取ると、勢力的な牽引に乗り出したのだ。
この猛攻の成果は、しかし2つ目の1級峠で、ようやく形となって現れる。総合3位ジョアン・アルメイダが、残り14km前後で、じりじりと遅れ始めたのだ!
激しく競り合うランダ、カラパス、ヒンドレーの3人
ここぞとばかりにバーレーンは加速を畳み掛けた。総合15秒遅れで総合4位につけるランダの、逆転を成功させるために、残るアシストたちは全力を注いた。もちろんランダ当人は、表彰台だけで満足するつもりはなかったはずだ。残り10km、総合首位リチャル・カラパスや2位ジェイ・ヒンドレーを振り切るために、自ら力強いアタックを切った。
前日もさんざんやりあった末に、終わってみれば差はボーナスタイムだけ……という3者は、この日も差がつかなかった。なにより最終日の個人タイムトライアルを安心して迎えたいにカラパスやヒンドレーにとっても、TT巧者アルメイダの脱落は朗報だった。だからフィニッシュの接近と共に、カラパス、ヒンドレー、ランダは、むしろ共闘体制を強めていった。
「ランダはすごく強く、ヒンドレーもやはり強かった」(カラパス)、「他の2人も強い脚があった」(ランダ)、「3人のレベルはほぼ拮抗してる」(ヒンドレー)とそれぞれに振り返った3者を、最終的に分けたのは、やはりスプリントだった。ボーナスタイムはもはや残っていなかったが、フィニッシュラインでぎりぎりで、カラパスとヒンドレーが分断をしかけた。ランダに6秒差をつけて、総合上位2人はラインを越えた。
「タフな1日だったけれど、終わってみれば、またしても良い1日になった。僕自身はすごく調子が良い。だけど、問題は……他の選手や他のチームも、同じように調子が良いこと」(カラパス)
カラパス&ヒンドレーの1分10秒後に、つまりランダの1分04秒後に、アルメイダが長く孤独な追走を終えた。これまで秒単位の遅れにとどめてきた23歳にとっては、少々手痛い損失だった。
総合タイム差はマリア・ローザのカラパスと2位ヒンドレーは3秒のままで変わらず。ランダはフィニッシュでの分断でタイム差は1分05秒に広がったが、総合順位は3位に昇格、アルメイダは1分54秒差の4位へと一歩下がった。
またドメニコ・ポッツォヴィーヴォが2日連続で順位を落とし、総合10位に後退。代わりにチームメートのヒルトが、前日の大逃げ勝利に続き、この日も逃げ切り総合7位へと浮上した。第2中間ポイントでもフィニッシュラインでも、3位通過のボーナスタイム収集を忘れなかった。
区間を2つ制したサイモン・イェーツは、第4ステージに痛めた膝の状態がいまだ思わしくないことから、今ステージ半ばに大会を去った。一方で帰宅せずに山で日々奮闘を続けるスプリンターたちは、みなグルペットで17日目も生き残った。翌日の第18ステージが、とうとう2022年ジロ最後のスプリントチャンスとなる。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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