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サイクル ロードレース コラム 2022年5月21日

【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第13ステージ】凄まじい追走撃の果てにアルノ・デマールが今大会3勝目「僕は力切れ寸前の状態でスプリントを打った。そして勝利をむしり取ったんだ」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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レース後に倒れ込むデマール

レース後に倒れ込むデマール

フィニッシュラインで荒々しく拳を振り上げた。チーム全員で挑んだ凄まじい追走撃の果てに、ラスト500mでぎりぎり逃げの最後の1人を飲み込むと、アルノ・デマールが今大会3勝目へと突進した。総合4位としてステージを走り出したロマン・バルデは区間半ばに自転車を降り、フアン・ロペスはばら色の日々を問題なく更新した。

「信じられない。前方はすごい粘りを見せたし、僕はほぼ死にかけだった。でも、みんなが、まるで怪物じみた仕事をしてくれて、僕は力切れ寸前の状態でスプリントを打った。そして勝利をむしり取ったんだ」(デマール)

連日の暑さと、2日連続の高速レースが、身体に堪えていたのかもしれない。150kmの短距離走だからこそ、たしかに逃げ切りを大いに警戒すべきだった。連日スプリントに参戦したビニヤム・ギルマイが10日目を最後にジロを離れ、ついに1度も両手を挙げられなかったカレブ・ユアンが12日目に未出走を選び、制御に加わるチームも大会1週目より2つ少なかった。

それでもスタート直後に、デマール擁するグルパマ・エフデジは、6人以上の逃げの形成をきっちり阻んだ。8kmほど走った先で5選手が逃げ出した後には、すぐさまエフデジと並んで、クイックステップ・アルファヴィニル、イスラエル・プレミアテック、UAEチームエミレーツも1人ずつ先頭牽引役を配置した。しばらくは3分半程度で差を保ち、上手くコントロールしていたはずだった。

第1中間ポイントでは、今大会5度目の逃げ乗ったフィリッポ・タリアーニが、争わずして先頭通過を果たしたし、後方メイン集団ではデマールがやはり争わずして集団内トップを確保した。それぞれ中間ポイント賞とポイント賞の首位の座をさらに堅固なものとし、すべては予定調和のうちに進んでいるように思えた。

ところがタリアーニ以外の逃げの4人、つまりニコラ・プロドム、ジュリアス・ファンデンベルフ、ミルコ・マエストリ、パスカル・エーンコーンが、中間ポイント直後から登り始めたこの日唯一の山岳で、突如として速いリズムを刻んだ!

これは作戦だったのだ。序盤控えめに、山で猛加速、その後はフィニッシュまで全力疾走……と朝のチームミーティングで指示されていたことを、後にファンデンベルフは打ち明けている。登りが苦手なタリアーニは、力なく逃げ集団から千切れていった。約10kmの山道を登り終えた時点で、逃げる4人とメインプロトンとの差は6分40秒にまで広がっていた。

山頂からフィニッシュまでは95.9km。すぐに異変を察知したスプリンター集団は、下りでも気を抜かずにペダルを踏み続けた。各チームは先頭牽引役を1人から、一気に2〜3人へと増やした。こうして約10選手が、プロトン最前列で勢力的に先頭交代を繰り返した。

それでもタイム差は思うようには縮まない。残り50kmを切っても、いまだ先頭集団は4分半のリードを有していた。UAEが先頭交代から次第に手を引いていった一方で、コフィディスやチームDSMが牽引に力を貸した。

統制の取れなくなった集団内で、UAEが、追走参加よりも総合3位ジョアン・アルメイダ保護を優先したのは当然の選択だった。クレイジーなほどにスピードを上げていくプロトン内では、残り30kmで大きな分断が発生している。また普段よりも早い段階で、DSMが前方へと人員を派遣したことで、デマールはバルデの途中リタイアを知ったのだという。

バルデは前夜から胃の痛みを訴えていたと言い、本スタート直後すぐに遅れ始め、ついにはリタイアを余儀なくされた。第12ステージ終了時点では14秒差の総合4位につけていた。2017年ツール以来3度目のグランツール総合表彰台へと突き進んでいる最中での、突然の幕切れだった。

逃げの4選手

逃げの4選手

フィニッシュまで20kmで、タイム差は2分半。自転車界で昔から言われてきたような「10km=1分」(1分を縮めるのに10km要する)の法則に従えば、前方の4人が明らかに優勢だった。

「鬱になるような状況だった。追いつけるのか、それとも追いつけないのか。そんなことを延々と考えてストレスが高まった。文字通り全員を前に配置した。クレモンもアッティラもよく働いてれた。予定通りに行かなかったから、トビアスやコノも、早めに使わなきゃならなかった」(デマール)

スタート直後から働いていたクレモン・ダヴィや、登りでテンポを刻んだアッティラ・ヴァルテルは、とうの昔に力尽き、トビアス・ルドヴィグソンは残り17km前後で脚の痙攣を起こした。だから普段ならラスト5〜3kmで作業に取り掛かるイグナタス・コノヴァロヴァスが、残り16kmで作業に取り掛かった。そして、過去7度リトアニア個人タイムトライアル王者に輝き、2009年ジロでは最終日の個人タイムトライアル15.3kmを勝ち取った大ベテランのおかげで、デマールはスプリントへの希望を取り戻す。残り10kmで1分05秒差。

この日のスタート前インタビューで、「逃げ切りを許したほうがマリア・チクラミーノ保守に有利なのでは?」と意地悪な質問をされていたデマール。しかし「ジャージは3週間かけて獲るもの。だけどスプリントチャンスは今日を逃せばあと1度しかないんだよ」と語ったとおりに、脇目も振らず追いかけ続けた。

残り2kmでもいまだに差は24秒も残っていた。2日連続で逃げたエーンコーンは「成し遂げられると信じ続けた」し、昨夏ツール・ド・ポローニュ最終日に同じく平坦ステージでぎりぎりの逃げ切り勝利をさらったファンデンベルフは、「計画はパーフェクトに遂行されている」と感じていたという。

この日最後のカーブを抜け出した直後、残り1.5kmで、ところが前の4人は顔を見合わせてしまった。一瞬でタイム差は縮んだ。なにしろマイルズ・スコットソンが先頭を引き継いでいたグルパマ列車は、このカーブ直前から、集団からの「ロングアタックを許さぬよう」完全なる全力疾走に入っていたからだ。ファンデンベルフが慌てて単独アタックを試みたが、3人が追いついてきて、またしても顔を見合わせた。万事休す。

区間1勝目では臨時の最終発射台を務めたラモン・シンケルダムが、ラスト1kmを示すアーチをフルスピードでくぐり抜けると、最後まで粘り続けたマエストリの息の根を止めた。ラスト500mからは、いつも通りに、ヤコポ・グアルニエーリが加速を続けた。

パニックとカオスの最中でも、デマールは2日前の失敗を繰り返さなかった。フェルナンド・ガビリア発射台マキシミリアーノ・リケーゼが凄まじい勢いで横を上がっていっても、決して惑わされず、ヤコポの後輪に座り続けた。そして、自分が一番好きなやり方を貫き……つまり自らの発射台の後ろから、自分が誰よりも1番にスプリントを打った。残り200mで最後の加速を切った。

コノヴァロヴァスと抱き合って喜び合うデマール

コノヴァロヴァスと抱き合って喜び合うデマール

「本当に空っぽだった。僕としては珍しいことに、フィニッシュ後に倒れ込んでしまった。最後の石畳も全速力で、ひどく体が痛かった。でも勝てると分かっていた」(デマール)

まさしく団結力の勝利。最終発射台とはぐれたガビリアは4位に沈み、最終発射台がすでに帰宅済みのマーク・カヴェンディッシュは、3位で満足するしかなかった。そもそも「今大会は発射台がいないから自分でなんとかするしかない」フィル・バウハウスは、驚異的な伸びを見せ、グランツール区間自己最高の2位で滑り込んだ。

デマールにとっては、第5、6ステージに続く今大会3度目の区間勝利。第18ステージにあと1度スプリントチャンスが残っているから、自己最多記録の2020年大会4勝に並べるかもしれない。また攻撃的に勝ちに行った行ったおかげで、マリア・チクラミーノ用のポイントは総計238に伸ばした。2位カヴェンディッシュとの差は117点。たとえば第18ステージ優勝+ほぼ毎日中間ポイント首位ならば逆転可能……ということは、つまりほぼ逆転不可能得点差ではある。もちろんデマールはツールで2回の「制限タイムアウト」を食らった経験があるだけに、決して最後までジャージの行方は分からない。

2日前の平均時速47.015km、前日の45.880kmに続いて、この第13ステージも走行平均時速は45.393kmに達した。3日間連続で時速が45kmを超えたのは、大会側の発表によると、全105回の歴史を誇るジロ史上初めてだった。バルデを除く大部分の総合上位勢は、こんなクレイジーな3日間を上手く抜け出し、フアン・ロペスの「夢のような日々」もいよいよ10日目に突入する。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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