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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第11ステージ】急遽エースを務めた24歳アルベルト・ダイネーゼが母国で歓喜!「なにが起こったのかいまだに理解できないし、信じられない」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかロマン・バルデと勝利を喜ぶダイネーゼ
予定外の人物が、予想外の飛び出しを成功させた。残り数キロで急遽「本日のエース」の座を引き受けたアルベルト・ダイネーゼが、残り50mで突如として最前列へ駆け上がると、そのまま初めてのジロ区間勝利をさらいとった。集団は風で神経質になり、僅差で並ぶ総合上位勢はボーナスタイム収集合戦に燃え、2022年ジロで最も平坦だったステージの終わりに、総合2位から4位までの順位がシャッフルされた。
「ジロで区間を勝てたことだけでもすごいことなのに、地元からそれほど遠くない土地で勝てたというのは、さらに素敵な気分だ。なにが起こったのかいまだに理解できないし、信じられない。最高に幸せだ」(ダイネーゼ)
スタートフラッグが振り下ろされた瞬間、逃げは決まった。フィリッポ・タリアーニとルカ・ラステッリが駆け出していった。アルペシン・フェニックスの1名だけはほんの少しためらったがーーエースのマチュー・ファンデルプールは「集団スプリントには加わらない」と宣言していたーー、すぐに足を止めた。これ以上は誰も動かず、メイン集団は2人に最大5分程度のリードを許した。
おかげで大会4度目のエスケープに乗り出したタリアーニは、望み通りに、第1中間ポイントを悠々と先頭通過。中間ポイント賞で順調に首位を邁進する。
ただしプロトンは、決してのんびりと、リラックスした時間を過ごしていたわけではない。常に集団内はストレスで満ち溢れていた。多くの総合系チームが前方へと位置取りし、道幅いっぱいに隊列を走らせたせいだ。かろうじて第1中間ポイント直前だけは、スプリンターチームに主導権が渡った。3位争いはマーク・カヴェンディッシュがさらい取り、ジャコモ・ニッツォーロとアルノー・デマールが続いた。そして、小さなスプリントが終了すると、またしてもあらゆるチームが最前列に詰めかけた。
誰もが風を恐れていた。まっすぐの一本道を延々走ってきた集団は、美味しいボローニャを駆け抜けた直後に、進行方向を北西に変える。しかもイネオス・グレナディアーズが、総合4位リチャル・カラパスを連れて、どんどん前方でスピードを上げていく。ライバルチームたちも負けじと隊列を組む。逃げ集団との距離はまたたく間に縮まっていき、いまだフィニッシュまで92kmも残っているというのに、無情にも2人は集団へと引きずり降ろされた。
残り90km。すでに恐ろしいほどに上がっていたスピードが、イネオスの牽引で、さらに一段上がった。沿道にはたくさんのチームスタッフが、サコッシュを手にプロトン通過を待っていたが、選手たちに手を伸ばしている暇なんてなかった。ひたすら集団は長く伸び、そして、後方でプチンと切れた!
罠にはまった選手は、幸いにも多くはなかった。この日の優勝候補に挙げられていたカレブ・ユアンが千切れたが、牽引力抜群のトーマス・デヘントのおかげですぐにメイン集団へと復帰を果たした。また、恐れていたほどには、風は強くなかった。誰もが警戒していたせいもあり、これ以上の被害は生まれなかった。
それでもイネオスは加速を止めなかった。英国チャンピオンのベン・スウィフトが牽引を続けた。猛烈な努力は残り76.3kmの第2中間地点まで続けられた。そこではカラパスがまんまと首位通過を果たし、ボーナスタイム3秒を回収。しかも同僚ジョナタン・ナルバエスが2位通過で、ライバルたちのチャンスを握りつぶした。おかげでステージの終わりに、カラパスは総合4位から2位へとジャンプアップを果たすことになる。
その後もぎゅうぎゅう詰めには変わりはなかったけれど、集団内に蔓延していたストレスは、一旦は弱まった。こんなタイミングで、残り58km、ドリース・デボントはするするっと前に上がった。
「集団のスピードが急激に下がったんだ。だけど目の前にカーブが見えた。そのカーブを越えたら再び戦いが勃発する可能性があると考えた。……だから少し早めに動いたんだ。だってカーブの先にはスタッフが待っていたから、ボトルを取りたかった。喉が渇いていたから!」(デボント)
結局カーブの先ではなにも起こらなかった。ひどい暑さの中で、ほかの選手たちも、30km前に取りそこねたボトルを受け取る必要があったのかもしれない。そのままタイム差はあっさりと1分ほどにまで広がった。
思わぬ独走態勢に入ってしまった後、2021年大会のスーパー敢闘賞デボントは、できる限り体力を使わぬように心がけたという。プロトンに前を泳がされているのは分かっていた。それでも残り10kmまで我慢して、「サプライズを演出するために」、パワー全開に切り替えた。
残り10kmですでに14秒に縮まっていたタイム差は、残り7kmで、逆に22秒差に広がった。フィニッシュまで3kmを切り、1日中先頭に居座ったイネオスがようやく脇に逸れた時点でも、いまだ差は12秒残っていた。
ただし前日に貴重なスプリント機会を奪われた俊足たちは、この日は絶対にチャンスを逃すわけにはいかなかった。グルパマ・エフデジやクイックステップ・アルファヴィニルは恐ろしいスピードで前進し、チームDSMも隊列を組んだ。ついには残り1.2km、デボントを飲み込み、大集団スプリントへと突進していった。
今大会唯一の2勝を誇るデマールを乗せた列車が、猛スピードでラスト1kmへと切り込んだ。しかし残り300mの最終コーナーで、カヴェンディッシュのために、クイックステップが競り上がってくる。UAEチーム・エミレーツもフェルナンド・ガビリアと共に、最前線へと割り込んできた。そんなライバルチームの勢いに呑まれて、コーナーを抜け出した直後に、マイヨ・チクラミーノは加速を切った。後に「あれはミスだった」と語るように、いまだフィニッシュまで遠かったにも関わらず。
白熱のスプリントフィニッシュ
デマールとガビリアが猛烈に先頭を競り合った。一気にできた穴を、最終発射台がすでに大会を去ってしまったカヴェンディッシュやユアンが、必死に埋めにかかった。シモーネ・コンソンニも今大会かつてないほど好位置につけていた。
ところがダイネーゼが突如として姿を表した。残り100mでスピードを全開に振り切り、並み居るライバルたちをごぼう抜きにすると、ライン手前50mでデマールとガビリアに並んだ。凄まじい低姿勢で突進し、そのままフィニッシュを先頭でさらい取った!
「デマールが最高のポジションにつけているように見えたし、たしかに僕は後方にいて、少し遅れを取っていた。でも残り100mに来た時、今日は自分こそが集団内で最速だと感じた。少し周りを塞がれたけれど、左側に抜け道を見つけた。そして残り20mで追い越せた」(ダイネーゼ)
2022年イタリア一周で、ついにイタリア人選手が両手を挙げた。24歳ダイネーゼにとっては待望のプロ3勝目。初めてのグランツール区間勝利であり、初めてのワールドツアー勝利であり、プロとして初めて母国イタリアで手にした勝利だった。なにより「世界最強の1人」として尊敬するカヴェンディッシュや、「憧れのスプリンターの1人」であるデマールをついに破ったのだ!
ちなみにこの第11ステージはダイネーゼがスプリントを切る予定ではなかった。実はDMSは開幕前に、チーム所属の2人のスプリンターの役割分担を、明確に発表していた。それが「スプリントチャンスの最初の3回はダイネーゼがエースで、次の3回はケース・ボルがエース、ただしダイネーゼが1勝したら3回に達する前にボルにエース交代」というもの。だから今回はボルがスプリントの予定だったのだ。
アルベルト・ダイネーゼがステージ11を制した
「今日は僕の担当日ではなかったんだ。でも最終盤にケースから『調子が良くない』と言われたから、役割を入れ替えた。僕だって昨夜はよく眠れずに、寝起きは最悪だった。だけど今日のような日だって自分を信じ続ければならないと分かっていた。エースを任されてからは、できる限りリラックスするよう心がけた。そして最後にはすべてが上手く行った」(ダイネーゼ)
自分を強く信じ続けられたのはロマン・バルデのおかげでもあるという。ステージ後には総合3位から4位に一歩後退することになるフレンチクライマーが、最後のコーナーまで発射台役を務めてくれた。
「ロマンはいつだって僕を信じてくれた。たとえ僕自身が、自分を信じられない時でさえも、彼は『トライしてみよう』って声をかけてくれた。だから本当にスペシャルな気分なんだ」(ダイネーゼ)
そのバルデはたしかに総合順位はひとつ下がったけれど、総合首位とのタイム差14秒自体は変わっていない。また2位から3位に落ちたジョアン・アルメイダも、マリア・ローザまでの距離は12秒のまま。もちろんすべてはカラパスがボーナスタイム3秒を取った影響だ。またカラパスとアルメイダは同じ12秒差ながら、第2ステージの個人タイムトライアル時の「コンマ以下」のタイムを比較し、「コンマ34」のカラパスが、「54」のアルメイダを上回り総合2位につけている。
203kmのコースを、平均時速47.015kmで駆け抜けた日の終わりに、フアン・ロペスはマリア・ローザ着用日数を8日間に伸ばした。また他の3色のジャージにも変更はなかった。ただ前日の歴史的な勝利で、ポイント賞首位まで3ポイント差に迫ったビニヤム・ギルマイが、表彰式の事故で左目を痛めたせいで大会を去った。2位にはカヴェンディッシュが浮上したが、首位デマールとの差は77ポイントと極めて大きい。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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