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【ジロ・デ・イタリア2022 レースレポート:第6ステージ】フランス人としての大会史上最多勝利を更新したデマール「本当にギリギリだったね。今日は僕に勝利が微笑んだ」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかチームメイトと笑顔で勝利を喜ぶデマール(左)
とてつもなく長く、ほとんどなにも起こらず、時には退屈すぎるほどの1日の終わりに、ミリ単位のバトルが繰り広げられた。アルノー・デマールが2日連続のスプリント勝利をもぎ取り、フアン・ロペスは、5時間たっぷりとマリア・ローザを満喫することができた。
「フィニッシュラインを越えた瞬間、自分が前だと感じたけど、写真判定が出ない限り勝利は確定しないから……。本当にギリギリだったね。こういった戦いを左右するのは、単にちょっとした違いでしかなく、今日は僕に勝利が微笑んだ」(デマール)
誰も動こうとはしなかった。警戒のために最前列に集結していたロット・スーダルは、きっと拍子抜けしたに違いない。本スタートのアーチをくぐり抜け、スタートフラッグが振り下ろされても、逃げ出す選手は現れなかった。
たしかにマグナス・コルトが一瞬加速した。パスカル・エーンコーンとバウケ・モレマが、連れ立って、矢のように飛び出した。ただし、あくまでも、ちょっとしたジョークに過ぎなかった。誰もが笑いながらすぐに集団内へと帰っていった。
ハンガリーからシチリア経由で、この日ようやくイタリア本土へとたどり着いたプロトンは、自主的に休息日を設けた。太陽と、海と、平坦な道。リラックスした雰囲気の中で、淡々とした時間が流れた。3つのスプリンターチーム、すなわちカレブ・ユアンのロット、マーク・カヴェンディッシュのクイックステップ・アルファヴィニル、そしてデマールのグルパマ・エフデジが先頭に並びはしたけれど、焦らず急がず、集団先頭でのんびりとリズムを刻んだ。
スタートから22km、待ちに待った本物のアタックが生まれた。ディエゴ・ローザが突如として加速を切ると、集団から飛び出したのだ。ただ、かつてヴィンチェンツォ・ニバリやクリス・フルームの山岳アシストを務め、自らもイル・ロンバルディア2位の実力者が遠ざかっていく姿を、やはり他の選手たちはなにもせずに見送った。プロトン内の静けさがかき乱されることはなかった。
「ポイントを取ろうと山岳の前に飛び出した。でも、もちろん、1人で行くことになるとは予想さえしていなかった。他にも僕らのようなチームが出てくると考えていたんだ」(ローザ)
つまりローザの目的は、34.5km地点に構える4級峠。たしかに大会2日目の個人タイムトライアルでは、山岳ポイントを稼いだリック・ツァベルと、まったく同じ作戦を敢行している。つまり前半の平地は超低速で176人中173番目のタイム、後半の上りは前から4番目……。ぎりぎりでポイントが手に入らなかったクライマーは、改めて得点収集に乗り出したというわけだ。
もちろんローザは、望み通りに、山頂で1位通過=3ポイント収集を成功させた。それどころか2つの中間ポイントさえも、ひとり先頭で、悠々と駆け抜けることになる。
後方のプロトン内でも、この3つのポイントだけは、ちょっとした盛り上がりを見せた。まず4級山岳では、山岳ジャージ姿のレナード・ケムナが、きっちり2位通過。2ポイントを積み重ねた。続く第1中間ポイントでは、さすがに今日は逃げなかったフィリッポ・タリアーニが、ドローンホッパー・アンドローニジョカトリの仲間たち2人と早めに飛び出した。問題なく2位のポイントを収集し、中間ポイント賞首位の座をしっかりと固めた。
そして第2中間ポイントでは……なんとケムナとタリアーニが一騎打ち。タリアーニが先行で6ポイント、ケムナが3位通過でボーナスポイント1秒、とそれぞれに欲しいものを手に入れた。
ビニヤム・ギルマイ
一応、第1中間では、ピュアスプリンターたちもマリア・チクラミーノ用のポイントを争っている。ビニヤム・ギルマイがハンドルを投げ、デマールをぎりぎりで蹴散らすというエース同士の熾烈な対決が見られた。直後には世界一の発射台ミケル・モルコフが、マーク・カヴェンディッシュの代理として7位通過のポイントを潰した。ジャコモ・ニッツォーロは、最低の1ポイントで満足するしかなかった。
ちなみに偶然か必然か、トーマス・デヘントが山岳で3位通過を果たしている。初日の第2中間ポイントでも、たまたま先頭にいて同じように3位通過、また前日の第1中間でも、最後の1枠にするりと滑り込んでいる。
ところどころで小さな争いが見られた以外は、プロトンは相変わらず優雅な午後を過ごし続けた。タイム差は最大5分15秒しか許さなかったものの、その後は延々と3分半から4分半ほどでつかず離れず。それでもフィニッシュまで50kmを切ると、ほんの少しずつ速度を上げていった。
「眠り込んでしまいそうになるくらい、静かなステージだった。フィニッシュに向けてちゃんと気持ちを上げられるのかな、と逆にストレスも感じたほど。でも残り距離を示すパネルを目にすると、自然にアドレナリンが湧き上がっていった。50km、40km……と徐々に集団内の緊迫感は増した」(デマール)
こうして残り29km、実に141kmにも渡って孤独な旅を続けたローザを、ようやく回収した。ほとんどエネルギーを使わずに済んだプロトンは、とてつもなくフレッシュなまま、最終スプリントへと突き進んだ。
残り3.5kmで大きなロータリーをこなした後、道はひたすら真っ直ぐだった。複数のスプリンターチームが、入れ替わり先頭を争った。なによりラスト1kmのアーチを抜けると、道路の左端で、グルパマ列車が猛烈な伸びを見せた。あらゆるライバルが、まるで吸い寄せられるように左に流れ、デマールの後輪を奪い合った。
「500mまでは最高の状況で列車を走らせていた」と、デマール本人も後に振り返った。「でも、その直後、自分がワンタイミング遅れを取ったことに気がついた」とも語る。前日は最終発射台を務めたラモン・シンケルダムが500mで脇に逸れ、本来の最終発射台であるジャコポ・グアルニエーリが加速を始めたその時、モルコフがカヴェンディッシュを引き連れて猛烈に駆け上がっていったのだ。しかも、カヴは、そのまま残り250mからロングスプリントを打った!
「あの時点ではまだ僕は自分のスピードに乗り切れていなかった。だから瞬間的にヤコポの後輪から出ようとしたけれど、改めてほんの少し仕切り直した。カヴが左側を閉ざしてくるのを感じたから、右側に出た。そしたらユワンも同じく右に出たから、僕はさらに右へと出なきゃならなかった」(デマール)
いわゆるトレインを使って徐々にトップスピードへと上げていくタイプであり、普段なら発射台の背後からラスト200mで飛び出すと、まっすぐにフィニッシュラインを目指すデマールが、この日ばかりは左から右へと器用に回り込んだ。しかもユアンの後輪に接触しそうになりつつ、「初日のユアンのようなミスを犯してはならない」と、寸前で交わす明晰さとハンドル捌きも見せつけた。
僅差でデマールが勝利した
「ラスト100mでぶっ放つために体力を振り絞らなきゃならなかった。僕にとっては距離が短すぎるから、限界ラインぎりぎりだと分かっていたんだ。飛び出した瞬間、自分がすごく強いスプリントを切れていると感じた。最終的には、ハンドル投げが、違いを生んだね」(デマール)
カヴは残り50mで失速し、自分の思い通りのタイミングでスプリントが切れたと言うユアンは、「ライン上で負けた」。フォトフィニッシュの結果、とてつもない僅差での敗北だった。
ギルマイは今大会6日間で4度目のトップ5入り(4位)。いまだ勝てないながらも、初出場グランツールで凄まじいポテンシャルを改めて示した。またフェルナンド・ガビリアは、走行中にケース・ボルと危険な接触を起こしたとして、集団の最下位(152位)への降格処分を下された。
絶好調時はまとめて連勝するタイプのデマールにとって、ジロ全体ではステージ通算7勝目。偉大なるジャック・アンクティルとベルナール・イノーを抜き、フランス人としては大会史上最多勝利を更新した。当然ながらポイント賞では2位ギルマイに53ポイント差をつけ、マイヨ・チクラミーノをしっかりと着込んだ。
奇妙なほどにゆったりとした1日の、最終的な平均時速は38.076kmだった。つまり192kmのステージを、プロトンは約5時間かけて走り切った。開催委員会が前もって予測していた最も遅いフィニッシュタイムよりも、さらに30分も遅かった。
当然ながら、山岳賞首位&総合2位ケムナがボーナスタイム1秒収集で38秒差に詰め寄った以外、総合上位に大きな変化はなかった。おかげでフアン・ロペスはマリア・ローザ姿を心ゆくまで楽しめたし、この先に向けて体力も温存できたはずだ。
「明日はまるで違う1日になるだろう。でもマリア・ローザを守るために200%の力を尽くす。絶対に諦めない」(ロペス)
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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